「美しさ」と「醜さ」の両極端を極めたい──。ホラー漫画家・伊藤潤二先生×"顔面漫画"のいくらさん
挑戦してみたいのは「血みどろのラブコメディ」

── 男女関係をホラーに昇華されている作品が多いと思うんですが。たとえば、男たちが富江を愛するがゆえに殺したくなる、といったように。ご自身の恋愛ももしかしてドロドロした感じなんですか……?

いえいえ(笑) 僕自身は若いころ仕事ばかりしていたので、そんなに経験が多いわけでもないんです。

作品に出てくるような怖い女性に会ったことはありますか?

それは……ありますね。

誰かのモデルになってるんですか?

うーん……、いや、それはちょっと言えないですね(笑)
── もしかしたらモデルがいるのかも……と探して読んでみるのもおもしろいかもしれませんね。

モデルといえば、『魔の断片』のなかに出てくる富夫とまどかのカップルが、もしかして伊藤先生と奥様なんじゃないかなと思ったんですが……。『伊藤潤二の猫日記 よん&むー』(以下『よんむー』)に出てくるお2人に少し雰囲気が似ていて。

▲ 伊藤潤二『伊藤潤二の猫日記 よん&むー』講談社(2009年)

意識したわけではないですが、、身の回りのことは無意識に反映されてしまっているかもしれないですね。ただ、うちの妻は『よんむー』のなかに凝縮されてるので。
── 絵のタッチはホラー漫画のそれですけど、読むとすごくなごみます。『よんむー』のようなエッセイ漫画、そして政治小説を漫画化した『憂国のラスプーチン』の作画など、ホラー漫画以外のお仕事もされていますが、今後なにか描きたいものはありますか?

ラブコメを描いてみたいですね!

え、読みたいです!

たぶん、どんどん人が死んでいくと思いますが(笑)
── 伊藤先生らしいですね(笑)

ホラー漫画以外というと、来春からビッグコミックオリジナルで太宰治の『人間失格』を漫画連載することになっています。

そうなんですね! すごく楽しみです。


原作が有名なので、そのまま漫画にするのではなく、すこしホラーの要素を入れようと思っています。昔、三遊亭圓朝という落語家が人間ドラマをベースにして、殺人事件やら幽霊やらで味付けした長編の怪談噺を高座で演じていたそうですが、それと同じイメージです。だからタイトルも『怪談・人間失格』にしたかったんですが、却下されてしまいました……。

きっと、服装が着物だったり、髪を結っていたりとこれまでの作品よりもっと再現するのは難しそうですが、『人間失格』の顔面漫画にも挑戦したいと思います!
── 伊藤先生もいくらさんも、新作を心待ちにしています! ありがとうございました。
自分の"おもしろい"が唯一無二の世界観につながる

伊藤潤二先生の作品がもつ、唯一無二の独特な世界観。それは、とにかく自分自身がおもしろいと思うものを臆せず形にしていくことでつくられていったようです。
そんな伊藤先生がご自身の作品のなかで一番怖いと思ったのは『悪魔の理論』という作品だそう。主人公が街をさまようシーンがあるのですが、思わずゾッとした経験があるとか。
どうしようもなく"怖いもの"に触れたくなる、残暑のこの時期。伊藤先生のホラー漫画を読んで、涼んでみるのもいいかもしれません。
そんな伊藤先生がご自身の作品のなかで一番怖いと思ったのは『悪魔の理論』という作品だそう。主人公が街をさまようシーンがあるのですが、思わずゾッとした経験があるとか。
どうしようもなく"怖いもの"に触れたくなる、残暑のこの時期。伊藤先生のホラー漫画を読んで、涼んでみるのもいいかもしれません。
香港と上海で伊藤潤二先生の個展が開催決定!

▲ 伊藤潤二先生のpixiv来社記念の絵馬。人気キャラクターの富江と双一を描いてくださいました!
伊藤先生の作品は、海外でも高い評価を受けています。先日、台湾で行われた個展は大盛況だったそう。次回は香港と上海での実施が決定しています。 詳細はこちらから。


- 伊藤潤二
- 1987年、ホラー漫画月刊誌『ハロウィン』の「楳図かずお賞」において、『富江』が佳作に入選し同作でデビュー。デビュー当初は、歯科技工士として働きながら創作を続けていた。代表作に『富江』『うずまき』『首吊り気球』などがある。

- いくら
- 伊藤潤二作品の大ファン。自身の顔にメイクや加工を施すことで、漫画のワンシーンを再現した"顔面漫画"をTwitter上で公開している。