漫画家は人に見えるよう努力すべし!『幸せカナコの殺し屋生活』の戦略
さる2019年5月12日、pixivでも多くのファンを抱える『徒然チルドレン』(講談社)でおなじみの若林稔弥先生の新作『幸せカナコの殺し屋生活』(星海社)の単行本が発売されました。本作はTwitterに第1話が投稿されるや一気にバズった話題作ですが、単行本になるまでファンコミュニティ「pixivFANBOX」の運営を中心にさまざまな挑戦をされてきたとのこと。
後編となる今回は、若林先生のpixivFANBOX活用法、漫画家の生存戦略についておうかがいしました。2000人近い支援者を集めている若林先生のお話は、これから漫画家になりたいという方にとっても必見の内容です!

- 若林稔弥
- 漫画家。代表作に『徒然チルドレン』(講談社)『僕はお姫様になれない』(アスキー・メディアワークス)『恋するみちるお嬢様』(スクウェア・エニックス)等がある。現在『幸せカナコの殺し屋生活』(星海社)が大好評連載中!
努力は人に見えるようにしろ!

その頃には単行本の発売が決まって、それに向けた作業で超急いでました(笑)。単行本にはFANBOXで先行掲載した16話に加えて、描き下ろしのおまけ4話で、全部で20話くらいが入っています。売り方もいろいろ考えていかないといけない。
『徒然』のときは2年くらい経って単行本が出る頃にはだいぶ落ち着いていたんですが、その当時より読者の期待のサイクルが早いと思うので、『カナコ』がバズったとき、この熱が続くのは半年くらいかなって計算して。だから、まだ熱があるうちに出版社と組んで出そうと。そのほうが、単行本を見て、新しい支援者も増えるんじゃないかなと。

あと、自分的にひとつ問題があって。マンガアプリでは先読み課金ってだいぶメジャーになりましたけど、そこではエロ系が最強で、次が恋愛とかバイオレンスとか、引きが強くて次が読みたくなる系で、そういうのが売れるとなると、僕はもう何もできなくなるんじゃないかと(笑)。だから、今後そういうマンガアプリの時代が本格的に来るとしたら、人はどうしたら課金したくなるんだろうって試しているみたいなところはありますね。


ほかの方のFANBOXで、何か月か支援を継続すると特典がありますとか、支援額に応じて特典がありますとかを見て、自分もやろうかなとちょっと考えたこともあります。ただ、これをやりはじめると、準備のためにかかる手間も結構だし、特典で引き止めるというのも、自分は漫画家なのに本末転倒じゃないかなと。
もちろん、単純にお金がほしいなら、それでいいなと思います。でも、元々は100円でもいいからお金を払ってみてくれる人がたくさんいて、僕が本当に「お願い!」っていうときに何かアクションを起こしてくれるサポーターが集まるとうれしいなってことなんですよね。たとえば「カナコ」の単行本が出たときに、一斉にアマゾンに高評価のレビューを書いてくれるとか(笑)。



こういうパトロン系のサービスで支援が集まりやすいのって、アイドル系とエロ系だなと。アイドルは応援しやすいし、エロ系は欲望に忠実ってことで、それはわかる。ファンの応援したい気持ちをどうやったら盛り上げられるのか。作家にできるのは何なのか。
そこで最初に考えたのは、Twitterとかでもよく見かけますが「連載を続けるためにみんなお願いします!」という力を貸してくれという方向。これはこれで有効だけど、そのうち飽きられそうだし健康によくない。

ただ、ずっとがんばってるだけだと、それも飽きてしまう。そのうちに「カナコ」の単行本が出ますとか、みんなで成果を分かち合える祭があると、応援しやすいんじゃないか、とか。まあ、努力は人に見えるようにしたほうがいいなというのが、ここ最近にたどり着いた方針ですね(笑)。
──ファン視点なんですが、若林先生はものすごくポジティブで計画的で常に仕事をされている印象で、それはそれでいいんですが、逆に、たまにはやる気がない、ダメな姿を見せるのもアリなんじゃないかなって思ったりしました。

あ〜なるほど。あえてスキを見せるんですね(笑)。

──「きょうは遊ぶぞ!」みたいなのはないんでしょうか。


うーん、両面ありますね。新しいアイデアを思いついて、よし今度ネームにしようと思っていて、先にやらなきゃいけない仕事がある場合ってありますよね。そのアイデアを頭の中にとどめておくのがストレスなんですよ。すぐ形にしてスッキリしたい。だから「早く休日終わらないかな」ってことがあります(笑)。仕事をしている状態のほうが普通なので、ワーカホリック的なところはあるかもしれないですね。
子供が早く普通の映画を楽しめる年齢になってほしいですね。僕は映画を一本見て寝たいんです。映画を見ている間は、まあまあ頭を空っぽにして休める。けど、アイツは『アンパンマン』しか見たくないんです(笑)。同じ話を5〜6回見るし。
『カナコ』と若林先生の今後の展開は?
──現状のご自身としての手応えはどうなんでしょう?

スタンプもLINEさんの方から依頼が来て、結構売れてランキング1位も取って、これは来たぞと。でも調子が良いのはそのくらいまでで、Webの反響の数字も少しずつ減っていくし、単行本前の買い控えみたいなのも出てくるし、結局みんな単行本は買ってくれるのか(※インタビューは2019年4月末時点のものです)。
本当にめちゃくちゃナーバスですよ! なんなら昨日は占いに行きましたからね(笑)。「いい流れは来てます。でも本人の自信がとにかくないです」と。



女性に降りかかるいろんな酷いニュースとかを見ていると、うちの子も20年後もしかしたらブラック企業に就職してしまうかもしれない。そのときに、自分を大事にしてほしい、なりたい自分になってほしい、みたいな。



もし、あずまきよひこ先生(『あずまんが大王』『よつばと!』)がFANBOXを始めたら、自分なら、特に何も更新がなくても1万円払うだろうなって。更新してくれるとしても、身の回りの日常の写真とかで十分で、素晴らしい作品の方に力を注いでほしい。そういうのが王道かなって思うんですよね。
これから漫画家を目指すなら FANBOXでたくさん失敗しろ!

いま面倒を見ている新人さんに、まさに早くFANBOXをやったほうがいいって言ってるんです。年齢はそんなに若くなくて、働きながらマンガを描いている。伸びしろはあるし、描き続けていればそのうちイケると思ってる。
でも問題があって。ネームを週イチで見てるんですけど、同じネームをずっと1か月くらい直してるんです。ネームってどんなに直しても第二稿目以降はそんなに変わらないのに、締切がないとずっと直しちゃうタイプなんですね。



──ストリートミュージシャンみたいな。

FANBOXを見るのは基本的にファンなので、失敗してもみんなやさしい。そこでたくさんネームを描いて失敗して、とにかく手を動かす習慣をつけないと自滅しちゃいます。未熟かもしれないけれど、それはそれでファンが応援したくなる武器でもある。
プランは考えるのが大変なら、とりあえず同じ内容で500円と1万円だけ置いておけばいいんです(笑)。何かお返しをしなきゃというプレッシャーでFANBOXをやめてしまう気持ちもわかるんですけど、ファンにとっては本末転倒な話で。FANBOXはほかのパトロン系サービスと違って、あまり見返りを求められていない。一番の見返りは新しい作品を作ることであって、その前提がわかっていればクリアできる問題だと思います。
TwitterとかpixivとかのSNSには完成品しかアップしたくないならそれでいいけど、途中のものはFANBOXにどんどん出す。バズったこともない完全な新人なら、1人でも支援してくれたらいい方かもしれないですが、それはもうそういうものだと割り切って、がんばってみてほしいですね。

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