ある作家さんの才能に嫉妬してしまったこともある「嫉妬心との折り合いの付け方」/いそふらぼん肘樹の場合

第三回のテーマは、「嫉妬心との折り合いの付け方」である。
私の元にもたびたび相談が寄せられるテーマであり、ネットでも何度も話題になりそのたびにオタクが歯ぎしりするテーマである。嫉妬と言っても様々だが、やはり創作における嫉妬といえば「なんで私より、アイツの方が評価されて……」というヤツであろう。
他の作家の方を自分より上に位置付けている
実は私自身はほとんど他の作家の方に嫉妬するということはない。
いや、そう言い切ってしまうと「随分……あなた……自信がおありなのね~え!?」と思わなくもないのだが、私はそもそも自己評価が低いというか、他の作家の方を自分より上に位置付けているので、嫉妬、という感情自体はあまり起こらないのだ。
かつて、よぉ~し、初めて商業マンガを描くぞ! というときに、改めて自分が今まで読んできたマンガを「実はこれらを描いた人間がいるらしい」という視点で読み返してみたら(マンガをロクに描いたことがなかったので、マンガを描くというイメージが湧いていなかった)、読めば読むほど全ての作家にそれぞれの魅力があり、強みがあり、己には描けないものばかりであった。枠線の引きっぷりやコマ割りひとつ取っても己の脳みそからは出力できないものばかりで、私はそれ以来「この世の全ての漫画家は……自分よりマンガがうまい……!」と唱えながら生きているのである。
むろん商業作家に限らずアマチュアであろうとも、自分の脳みそからは出力できないであろう作品を生み出した作者に対して「なんでアイツの方が……!」と思ったところで仕方ないのである。自分の脳みそから出力できないのだから……。
一時期ある作家さんの才能に嫉妬してしまった
しかしながら上記のようにお利口なことを述べている私ではあるが、一時期ある作家さんの才能に嫉妬してしまい気が滅入っていたことがあった。
いち読者として楽しんでいたときには何も感じなかったというのに、いざ自分も作品を作る側になってしまうと「なんで私の脳みそからはこんなスゲーものが出てこないんだあ……!?」という理不尽な嫉妬心にかられ、町の書店で見かけてもインターネットで話題に上がるのを見かけてもイライラするといった有様であった。
面白い作品であるがゆえに私の周囲でも友人知人が口々に褒めたたたえ、ファンアートを生み出し……。それらを目にするたびに私はぐげげ……と歯ぎしりするばかり。
何度も言うが、面白い作品が自分の頭から勝手に出てこないことと、面白い作品が称賛されることは当たり前なのである。
じゃあなぜぐげげ……となってしまうかというと、己の現状に納得していないため、それが叶っている(ように見える)他者への憧れや羨望がねじ曲がった形で攻撃的な感情として噴出しているのであろう。要するに、私も面白いものが生み出したいし、評価されたいのだ。
自分の嫉妬心に冷静に向き合う
とはいえ、それをそのまま「そ~んなに面白い漫画ですかねえ!?」「ちょっと過大評価されすぎなように思うナ……!?」などとストレートに表明してしまうのは普通に人として情けないし、嫉妬している自分としてもただ単に辛いばかりである。ではどうするか。
まず私は、徹底的にその作者・作品に関するワードをミュートし、接触を断った。要するに自分の感情を揺さぶる事態そのものを起こさないようにしたのである。たちまちSNSから活発な発信が(私の視界から)ごっそりと消失し、一時期はゴーストタウンと化してしまったが、これによってかなり心の平穏が保たれた。理不尽な怒りというものは「この作品が気に入らない→これを支持してるやつらも気に食わない」とどんどんスケールアップしていくものなので、むやみに人を嫌わずに済むのも大きい。
そして、万一書店やネットで視界に入ってしまった場合は瞬時に心を閉ざすように心がけていた。
心を……閉ざす……? いや、そんな悟りを開いた人みたいな……という感じだが、細かく言うなら「あ! 私が見ないようにしてるヤツだッ!」と意識し、心のシャッターをぉ!! 閉じます!! と強く念じるのがコツだ。
え!? それって閉ざしてないじゃん! と思わなくもないが、「いや? 別に嫌いでもないし嫉妬してもないですけどね~?」などと自分ではフラットに接することができていると思うと、むしろ心というのは捻じ曲がるフシがある。
私はこれを拒絶しているんだぞと意識することで、むしろ自分の心が可視化されていき、「ああ~、私はこの作品に力いっぱい嫉妬してるんだなあ……」と冷静に向き合うことができるようになったのである。
今となっては「そりゃ面白い作品だし爆売れるのは当然だろ……」と穏やかな気持ちで眺め、尊敬の念を抱くことができている。
創作を続ける中で、「私が頑張って完成させたシリアス長編よりコメディの方が評価されている……」「ジャンルに長くいた人より大手のほうが持て囃される……」などどうしようもない感情にぶち当たることは多々あるが、思い切って万事をミュートし、その上でわざわざアカウントや作品をコソコソ覗きに行ってしまったりする己の心を俯瞰して眺めてみよう。
なんか人間の心って、かわいいわね……と己の嫉妬心と向き合えることもあるだろう。
ああ、面白いマンガを描いて爆売れてチヤホヤされたいなあ…。(正直者)
