キャラを愛しているからアイデアがひらめく!『恋する(おとめ)の作り方』著者による“かわいい”の作り方

構成/原田イチボ@HEW
誰もが恋に落ちそうなキラキラのヒロインの正体は、実は陰キャの男子高校生!? コスメ大好き男子と、彼のために変身する男の娘のじれったい恋模様を描いたマンガ『恋する(おとめ)の作り方』(通称『おとつく』)がpixivコミックにて連載中です。
コミックス2巻の発売を記念して、pixivコミックでは、ヒロイン・日浦に着てほしい衣装の投票企画を実施しました。ただでさえキュートな日浦が、あんな衣装やこんな衣装でさらに可憐になるとは……! そしてなんとこの投票企画で決定した書き下ろしイラストがpixivisionで初公開!
作者の万丈梓先生、担当編集の鈴木さんに「『おとつく』の作り方」を教えてもらったので、初公開のイラストと一緒にお楽しみください。
奇跡のバランス? 読者はきれいに男女半々
── 『おとつく』は2019年末、ショートマンガ『幼馴染(♂)を女の子にしてしまった話』としてTwitterで発表されました。
万丈:当時はなかなか企画が連載につながらず悩んでいました。そこで試しにTwitterにマンガをアップしてみたところ、ありがたいことに大反響となり、鈴木さんからご連絡いただけました。
── 鈴木さんは、『幼馴染(♂)を女の子にしてしまった話』のどんなところに魅力を感じたんでしょうか?
万丈:BLは女性読者が多いですが、男の娘となると男性向けのイメージがありますよね。
鈴木:そう。だから「『おとつく』はどちらの読者に支えられているんだろう?」と思って、1巻が出た後にデータを取ってみたら、「結局どっちに寄せたらいいんだ?」と困ってしまった(笑)。男女両方から支持される作品は多いですが、ここまできれいに半々となると珍しいので、そこは『おとつく』の武器なのかなと考えています。
万丈:自分で言うのもなんですが、奇跡のバランスがたまたま成立しているんだと思います。『おとつく』は設定的には高校生同士のBLとも捉えられますが、日浦はかなり女性の姿に寄せた描き方をしたキャラなので、男性読者もすんなり読むことができる。これが男の娘ではなく、いわゆる「女装男子」の描き方にもう少し近ければ、読者の性別比もまた変わったんじゃないでしょうか。
作者の理想を詰め込んだ男の娘ヒロイン・日浦
── 日浦は外見も内面も、誰もが素直に「かわいい!」と感じる魅力があります。
鈴木:「女の子の格好をする男子」と一口に言っても、幅広い描き方がありますよね。完全に男性向けだったら、たぶんもっとエロい感じになるし、完全に女性向けだと、もう少し尖った感じのキャラになったかもしれない。でも日浦は王道ヒロイン感がある上で、既存のキャラから少しズラシた部分もある。そこが読者の方々に新鮮に感じてもらえたんじゃないでしょうか。僕もあらためて万丈先生に聞いてみたいんですが、日浦ってどんなふうに生まれたキャラなんですか?
万丈:当時、男の娘といえば、ポジティブでグイグイくるキャラが多い印象でした。ただ個人的に、少しシャイで素直じゃないキャラが好きというのがあって、その要素と男の娘を組み合わせて生まれたのが日浦です。だから私の理想を日浦に詰め込んでいる(笑)。「ちょっとムッとした感じの男の娘」というイメージが思い浮かんだとき、じゃあ自発的に女装を始めたのではなく、相手のために女装を始めたことにすればいいんじゃないかと考え、コスメ大好き男子の御堂が生まれました。
── 日浦が女装を始めたのは、御堂に振り向いてもらうためですもんね。
万丈:「好きでこの格好をしているんだ!」という男の娘キャラが多い中で、日浦が受け入れてもらえるのか心配なところもありました。でも「好きな人に振り向いてもらうため」という動機づけは、読者さんが応援したくなるポイントとして上手く働いてくれたようです。
── 万丈先生は、そもそも属性として男の娘が好きなんですか?
万丈:大好きです! それこそ『美少女戦士セーラームーン』とか『カードキャプターさくら』とか、昔の少女漫画って性別の境界がけっこう自由だったじゃないですか。同性同士が当たり前に恋愛していたり、変身したら性別が変わったり、そういった作品を読んで育ったことが原点にあるのかもしれません。
── 日浦のルックスは完全に美少女ですが、よく見ると体つきはそれなりに男の子っぽいところに万丈先生のこだわりを感じます。
万丈:なかなかバランスが難しいんですよね。男の子すぎてNGが出たこともある(笑)。
鈴木:「ちょっと男の子すぎて硬そうなんで……」と(笑)。
キャラへの愛を原動力に、アイデアがひらめく
日浦がかわいいコマは毎話登場!
── もちろん日浦は常にかわいいですが、毎回必ずハイライト的に日浦がかわいいコマがありますよね。
万丈:あれはもう自分の中でノルマみたいな感じです(笑)。
── まずストーリーを考えてから、「今回はここをハイライトにしよう」と決めるのでしょうか?
万丈:まずハイライトのコマから考えることが多いかもしれません。「今回はこういう表情にしよう!」と決めて、そこからストーリーを組み立てていきます。
── 『おとつく』は、キャラクターたちの表情がすごく印象的です。どうすれば魅力的な表情が描けるようになりますか?
万丈:自分としては、そんなに表情を描くのが得意なほうだとは思っていないんですが、いろんな日浦を描きたい気持ちがベースにあるので、「まだ描ける! まだアイデアある!」という感じで描き続けています。他の作品を見て、「この表情いいな」と感心することはありますが、普段から意識して何かを参考にしているわけではありません。ネームを描いているときに「こういう表情いいんじゃないかな」と自然に思い浮かぶことが多く、だからけっこう無鉄砲というか、日浦への愛が原動力かも(笑)。
鈴木:万丈先生があまりに毎回フルスロットルなので、担当編集としては、燃え尽きてしまわないか少し心配だったのですが(笑)、そう言っていただけると心強いです!
万丈:まだまだ描きたいこと、たくさんあります!
── 万丈先生が考える日浦のかわいいポイントとは、どこでしょうか?
万丈:作者が言うのもなんですけど、存在がかわいくないですか? もともと自分は、素直じゃない子が照れる姿が好きなので、日浦の照れているところがかわいい……でもやっぱり全部かわいいですね(笑)。「男性読者さんが応援したくなるキャラクター」というのは意識して描いています。もちろん女性の方にも応援してもらいたいですが、女性読者さんは、男性同士の恋愛描写を好んで読む方が多いかと思います。一方で、男性読者さんはまだそういった物語を読んだことがない方がほとんど。となると、男性読者さんに『おとつく』というラブコメをスムーズに楽しんでもらうためには、まずキャラを好きになってもらわないといけません。
── 自分が生み出したキャラクターを心の底から愛せるというは、クリエイターにとって幸福なことだと思います。自分のキャラを愛するには、どんなことが大事でしょうか?
万丈:キャラクターひとりひとりに必ず「この子は、ここが描いていて楽しい」というポイントを作るといいかもしれません。そうすると自然と楽しんで描けますから。でも今回は運がいいと思うんですよ。自分の「好き!」を詰め込んだキャラを世に出して、それが認めていただけることで、もっと愛着が湧いていくというか……。
── 理想的なサイクルですね。
鈴木:「この作家さん、本当にこのキャラのことが大好きなんだろうな」というのは読者にも自然と伝わりますよね。
現実ではオシャレでも、絵にして映えるとは限らない
── 『おとつく』はコスメやファッションをテーマにした作品です。万丈先生はもともとコスメがお好きなのでしょうか?
万丈:非常に言いにくいのですが、もちろんコスメ好きではあるのですが、特別詳しい自信はないんですよね……! いかんせんマンガ家って外に出ない職業ですし(笑)。だから、『おとつく』を描きながら、自分もあらためて勉強しなおしているところです。今はオンラインも含めて、いろんな場所でメイク講座が行われているので、そういったものをチェックしています。でも、この作品はあくまで「日浦に使う」が前提なので、「日浦に似合うかな?」という視点は忘れないようにしています。
── たしかにファッションも良い意味で流行に沿いすぎないというか、日浦にとってベストなアイテムを選んでいる印象を受けます。
万丈:流行のサイクルは速いので、あまり現在の流行そのままだと、将来、読者さんが違和感を覚えかねません。あと最近はシンプルなファッションが流行っていますが、あれをマンガにかわいく落とし込むのは難しいんですよね……。なので、流行りを丸ごと取り入れるというよりは、「ちょい入れ」のバランスを意識しています。いくら流行のアイテムでも、日浦に似合わなかったら意味がありません。「このアイテムには普通こういうアイテムを合わせるんだろうけど、日浦が着るならこうだよね」とアレンジするようにしています。
── キャラクターにどういう服を着せるかで悩んでいる描き手は多いと思います。
万丈:私も未だに悩んでいる部分ですが、現実ではオシャレでも、絵にして映えるとは限らないんですよね。オーバーサイズのTシャツとかは現実だとかわいいけど、マンガ的にはなんか地味……。なので、ファッション誌などで見たものをそのまま全部描き起こすのは危険かもしれません。いろいろ参考にした上で、最後に「キャラクターに合わせてアレンジする」工程が必要なんだと思います。
鈴木:アパレルブランドとのコラボ版権イラストなどを見て、「このキャラはこの系統の服を着るかな?」と違和感を覚えた経験ってあったりしますよね。キャラを軸にしてファッションを考えることってすごく大事なのかもしれません。流行に囚われるのではなく、「このキャラなら何を着るか? 何が似合うか?」という視点を忘れないようにしたいですね。
── ファッション描写はどんなものを参考にしていますか?
万丈:基本的にはインフルエンサーの方々やファッション誌を参考にしています。
難しい用語とかはわからないけど自分なりに○○系とカテゴリを作って、その上で探すようにしています。そうすると、今回はどんなコーディネートを着せるかってとき、「じゃあ○○系でいこう」と全体の方向性が決まる。○○系というのが決まったら、「じゃあ○○系のコーディネートのときは、どんなアイテムがいいんだろう?」とまた調べる。けっこう地味な作業です。クラスメイトも日浦のファッションに注目!
── ○○系のような分類が掴めたら、「たしかにオシャレではあるけど、このキャラはこういう系統の服を着るだろうか?」のような違和感も避けられそうですね。
万丈:そうなんです。とはいえ、自分自身、鈴木さんに「御堂は日浦にこの服を着せますかね?」と指摘されたことがあるんですけどね。
鈴木:バチバチにカッコいいコーディネートに仕上げると、近寄りがたさを感じる読者さんもいるかもしれません。なので、「親しみやすさを残したオシャレ」というバランスには気を使っています。
作業の遅れを持ち越さないように、細かく自分を追い込む
── 記事末でもご紹介する単行本2巻の発売記念キャンペーンとして、「日浦にどちらの衣装を着てほしいか」という読者投票が行われていました。ついに結果が出ましたが、感想を教えてください。
万丈:キョンシーの得票数が予想よりはるかに低かった(笑)。若い方はキョンシーを知らない方が多いのかも。あとストリート系ファッションは、過去に個人で行ったリクエスト企画でも人気だったので鉄板みたいです。若い読者さんにとって、ストリート系が一番「今っぽい」と感じるファッションなのかもしれませんね。
── 投票で選ばれた衣装を着た日浦の描き下ろしイラストが今後発表されます。特に描くのが楽しみな衣装はありますか?
万丈:いろいろアレンジも効かせられそうですし、アリスですね。あとは警察官も! 『おとつく』本編は現実に即したファッションが中心ですし、この貴重な機会にコスプレ系の衣装を日浦に着せておこうと(笑)。
── とはいえ、イラスト6枚を描き下ろすのは、なかなか大変な作業ですよね……! 作画スピードは速いほうですか?
万丈:それが全然速くないんですよ。
鈴木:いえいえ。担当編集としては、すごく優良進行な作家さんという印象ですよ! スケジュールの目処が立っているので、書店限定特典などの販促イラストについても相談しやすく、とてもありがたいです。
万丈:何かあったときに対応できる時間を残しておくことは意識しています。やっぱり〆切を守ることが一番大事だと思うので……。作品のクオリティとは別の部分で、作家としての評価が下がるのもイヤですし。
── 立派‥…! とはいえ、「〆切を守らなきゃ」とは理解していても、なかなか上手くいかずに悩んでいる人も多いかと思います。万丈先生の優良進行の秘訣とは何でしょうか?
万丈:毎回ページ数が決まった瞬間に「じゃあ○日までに下書きして、そこから○日でペン入れも済ませて……」とスケジュールを立てて、1日ぶんのノルマをきっちり設定するようにします。その日のノルマを達成するまでは寝ない(笑)! 作業の遅れを翌日以降に持ち越さないように、細かく自分を追い込んでいくイメージです。
幸せな出来事だけでもストーリーは動かせる
── 万丈先生がこれまで手がけた作品は、かなりシリアスなテイストでしたよね。『おとつく』のような優しいラブコメを描くのは大変ではありませんか?
万丈:実はけっこう悩んでいます。連載にあたって「シリアスなドラマを入れず、どうやってストーリーを転がしていけるんだろう……?」という不安もありましたが、実際に描いてみると、幸せな出来事だけでもストーリーは動かせることに気づきました。とはいえマンネリにならないよう、毎回悩みながらではありますが(笑)。
鈴木:ライバルキャラの早川先輩が登場するエピソードはすごく打ち合わせしましたよね。
万丈:どちらかが悪者に見えて、読者さんに嫌な気持ちが残ってはいけませんからね。自分自身はシリアス展開を描くのも読むのも好きなんですが、そうではない読者さんも多いと思うので……。気持ちよく読むことができるバランスを鈴木さんに相談させてもらいました。
── 『おとつく』は、基本的にこのまま優しい世界が展開されるのでしょうか?
万丈:鈴木さんと打ち合わせしていく中で、今のラブコメは優しいテイストのものが主流なんだと実感しました。「悪者がいます。それを排除して幸せになりました」ではなく、『おとつく』は、最初からある程度幸せというか、ポジティブに楽しめる作品を目指しています。
鈴木:「女の子の格好をする男の子」というテーマは、やろうと思えば、どこまでもシリアスに描くことができると思うんですが、『おとつく』に関しては違った方向を選ぼうかと話し合っています。
万丈:『おとつく』は、「かわいい格好をするようになったら、こんなに毎日が楽しくなりました!」でいきます(笑)!
── 差し支えのない範囲で、これから先の展開を教えてください。
万丈:今までかわいい日浦ばかりを描いてきましたが、男の子バージョンの日浦にもスポットライトを当てる予定です。あとは夏祭り回と水着回をやりたい! 特に水着回は、物語において大事なエピソードになるかも……? ぜひ楽しみにしていてください。
単行本2巻の発売記念Twitterキャンペーン結果発表!
6日間にわたり、日浦にどちらの衣装を着てもらうか投票を行ったこちらの企画。以下の12の衣装から選ばれた6つの衣装の描き下ろしイラストをご紹介いたします。
①アリス or 白雪姫
②キャビンアテンダント or 警察官
③アオザイ or サリー
④ミリタリー or ストリート
⑤美術館デート or キャンプ場デート
⑥キョンシー or 吸血鬼
①アリス

②警察官

③アオザイ

④ストリート

⑤美術館デート

⑥吸血鬼
