オタクとしての消化器官が弱く流行り物にのれない。しかしそれも一興/いそふらぼん肘樹の場合

今回のテーマは「流行り物にのれない」だ。
私はものすごく、流行に乗るのが遅いタイプのオタクである。
大ヒット映画も公開時は見逃してしまって、リバイバル上映で見に行くだとか、今放映中のアニメは恐らく見るのが2年後になるだろうとか、そういうレベルで遅延している。基本的にものすごく腰が重いのだ。
人から「絶対に好きだと思います! おすすめです!」と勧められてから実際に作品を見るまでに時間がかかり、見てからもフーン……こんなもんですか…っと「いまいち刺さらなかったなあ」的トボケ顔で撤収して3年後に「待てよ……! あれってなんか、めちゃくちゃ好みだった気がする……!!」と慌てて引き返したりしている。エルフの時間感覚でオタクしてんのか。
当然ながら最初に勧めてくれた方はもう別の作品にハマっていたり、コンテンツとしての動きも最盛期ほどは活発ではなくなっていたりといいことは特にない。
我ながら素直に最初からハマっておけよと言いたい。このような経験をしたことがある読者の方も少なくはないであろう。
一応コンテンツを供給する側の漫画家の立場からすると、マンガは連載中にリアルタイムで追いかけて欲しいし、アニメも見て欲しいし、イベントも参加してほしい。数年後に「あの時ハマっておけばよかったです!」と悲しまれても、こっちこそあの時ハマっておいてくれー! と言いたくなる。
往々にしてコンテンツというものは経年により「当時の熱気」がぽろぽろ闇に消えていくものなのだ。「あの時イベントで主演の声優さんが○○と発言し、界隈のオタクは大盛り上がりでジャンル内の流行語になったもんじゃ……」みたいな口伝エピソードも、途絶えてしまえばそれきりである。
オタクとしての消化器官が弱い
にも関わらず、バリバリブッチギリで逆張りオタクってしまうのはなぜなのだろう。
思うに、まず「オタクとしての消化器官が弱い」ことがある。
つまり、コンテンツの一つ一つをかみ砕き消化するのにものすごく時間がかかるタイプか、時間をかけたいタイプが流行に乗り遅れて後からやってくる人には多いのではないだろうか。
旬ジャンルというものは、毎週毎月、はたまた毎日何かしらグッズが出たり放映されたり、入場特典プレゼントがあったりと供給フードファイト状態になることも珍しくない。
昨今のコンテンツの流行り廃りのスピード感も、この「盛り上がってる時に全部出しとけ!」的な勢いに押されているところもあるのではないだろうか。
どんな作品からオタクになったかにもよると思うが、「推しが喋ったのは一言だけだしこれから先もう新作が出る望みはないけど、このセリフだけで一生萌えてるんですよね……」というような低燃費の人間にとっては、この供給フードファイトはあまりにもギャップが大きく、それだけで疲れてしまうことも珍しくないだろう。重湯を主食とする人間はいきなり満漢全席には行けないのだ。
また、これは私個人の問題であるが、「コンテンツのことを出来る限り知りたい」という欲求がある。進行形で盛り上がり続ける作品よりも、いったん動きが落ち着いて「何を履修すればよいのか」という勉強範囲が明らかになっているコンテンツのほうが一気に履修することができて嬉しいぜ、ということだ。連載を追いかけながら、過去の動きも追いかけて、ができるキャパシティがないのである。
ただしこのテスト前の学生の悪あがき的一挙履修法は、初日に原作全巻を買って次の日にブルーレイを買って3日後に関連グッズを買って、というように短期間で恐ろしいほど金が吹っ飛ぶ上に、「もうアニメを見る方法がない」「もうコミックスは手に入らない」というケースが往々にして発生し、そのたび「だからリアルタイムで追ってないオタクって最悪なのよ~ッ!! 金を払わせてくれーッ!!」と自己嫌悪に陥る危険な行為である。
先はわからないが気ままにやっていく
それでもなお、周回遅れのオタクとなってしまう。それで散々苦い思いをしてきたのに、なぜ……。まあ要するに、それが己のオタクとして最も適したペースなのであろう。
流行に関係なく、己が好きと思えたタイミングでゆっくりとコンテンツを食み、反芻しながら消化して楽しんでゆくことが性に合っているのである。
二次創作が存在していることを願いながら彷徨い、ようやく見つけ、今このコンテンツに現役でハマっているのが自分だけだったとしても、そこにオタクが根差して同じ作品を見つめ愛していたことを知る喜び。それは遺跡巡りに似ているかもしれない。いやいや、供給が落ち着いただけで全然滅んでないんスけど!? という場合は、ピークが去って歩きやすくなった観光地とでも言おうか。
誰もが流行の大都会ジャンルで朝から晩まで踊り狂う必要はなく、一人でじっくりと道を踏みしめ、時折すれ違う人と会釈するようなオタク活動も良いものである。
得てして流行に乗れないタイプのオタクはそういった落ち着いた町(コンテンツ)から町へと渡り歩きがちだったり、ひとところに定住してずっと穏やかに暮らしていたりするものだが、その分何の因果か唐突に大流行ジャンルにハマってしまった時はもう大変だ。
今までのオタク・ライフスタイルが一変して激流にもまれるのもまた一興、そしてもみくちゃになって穏やかな町に帰り着くのもまた一興。
あまり己を流行に乗れないとか逆張りオタクとか思いすぎず、気ままな旅人として楽しくやっていきたいものだ。
