ゆるオタクになっていくことを受け入れる「一生オタクでいるためには」/いそふらぼん肘樹の場合

文/いそふらぼん肘樹
第四回のテーマは、「一生オタクでいるためには」である。
みなさんもこんな悩みを抱いたことはないだろうか?
「今特にハマってるジャンルがなく、この先何かにハマれるのか不安」、
「一応ハマっているジャンルがあるが、段々全盛期の勢いが自分の中になくなってきている気がする」。これらはオタクがオタクである限り、己の背後に影のように付きまとう永遠の悩みと言ってもいいだろう。
いや、突き詰めてしまえばこれらは「自分がオタクでなくなった時、どうなってしまうのか?」という不安から来ているのである。
オタクでありながら、常にオタクというアイデンティティの儚さに恐怖し続ける哀しい生き物、オタク……。
常にどっぷりは不可能
私自身はどうかというと、やはりご多分に漏れず常にこの不安を抱えて生きているクチだ。
己の自我が「オタク」というアイデンティティのみで構成されている全身オタク人間であるため、そもそもオタクでなくなった自分の想像が全くつかないのであるが、言うほど近頃はアニメやマンガにドップリなわけでもなし、ゲームも不得意、同人活動に精を出すでも無し……。
新しいジャンルの履修もボチボチで、穏やかに窓の外の木々を眺めたり料理をしたりしながら「え!? オタクとしていいのか、こんなことで……!」と急激に謎の焦燥感を覚えたりしている。
そもそも、「ジャンルにどっぷりハマっている」というのは一種の特殊状態である、ということを認識しておくべきではないだろうか。
考えてもみて欲しい、多少インターネット的に過剰な表現になりがちではあるが、四六時中推しのことを考え、最新話の更新に長文で感想を書き連ね、原作で描写されていない部分の妄想を繰り広げては涙を流し、推しのイメージカラーやモチーフを市販の服に見出しては心を驚かす……。
常にMAXの力でこの状態を維持していくことは、冷静に考えるとかなり不可能ではないだろうか。「推しは心の栄養剤♪」などとよく言われがちであるが、何かにおかしくなっている時のオタクは栄養を補給しているというよりはエナジードリンクをがぶ飲みし続けているのに近いと思われる。
つまり、「この間まではあんなにこのジャンルで大暴れしていたのに……すっかり落ち着いちゃって、もう飽きたのかな……?」と不安に感じるよりは、「ようやく私も人間としての理性を取り戻してきたな……!」と前向きに考えるべきなのだ。
意気込みすぎず、満足しきらない
しかしながら、あの全速力でSNSとpixivのタグをギラギラの眼(まなこ)で駆け抜けていた輝かしい日々が己の中で過去のものとなってゆく寂しさを前向きに捉えろと言われても、なかなか厳しいものである。では、どうすればよいのか。
かねてより私は「オタクはもっと、自分や他人がゆるオタになってゆくことを受け入れていくべき」と思っている。
オタクはハマっているジャンルへの帰属意識を少なからず持つものではあるが、それゆえに本丸(ジャンル)への100%への情熱が誓えなくなったときに周囲のオタクたちとの温度差を気にしてしまうのかもしれない。「限りある忠義によって撤退いたす! しからば御免!」とアカウントを爆散させて失踪したりするのである。ジャンルにまだ現行でいるオタクからすれば切実に行かないでほしいが……。
実際、ピーク時ほど好きでなくなったとしても、ジャンルのオタクを自称しても良いはずなのだ。
他の作品に目移りしたとしても、10年程度離れたとしても、フラッと展開を覗きに戻ってきて「おー今こんなんなってんだね」と思うくらいの温度感でも堂々と『オタク』を自認して良いのではないか、と思うのである。
新しいジャンルに次々出会って、ハマっていくという必要はないのだ。ある程度新規開拓が見込めない場合は、思い切って自分の人生を遡って原点回帰し、読み直してみたりするのもいいんじゃないだろうか。
こんなことを言うのもなんだが、オタク人生の先細りを心配する年齢ともなると、正直オタクになり始めの頃ハマっていたジャンルについての記憶がだいぶ怪しくなってくる塩梅であろう。
私も先日久し振りに中高生の頃にハマっていた作品を読み返してイラストを描いてみたところ、しみじみと心身に行き渡る心地よさと「こんなんだっけ!?」という新鮮な驚きの両方を感じることができた。時が経つうちに、作品の中から自分にとってのハイライト部分だけをお手軽につまむクセがついていたとでも言おうか……。思ったよりも見落としていたり忘れていたことがあり、まだまだ俺はコイツで萌え(原始の感情)ていられるぜ、と再確認したのである。
次々ジャンルを渡り歩いていても、いや私は10年このジャンル一本でやらせていただいていますというオタクであっても、源流を遡りしみじみと己を見つめ直すのもオツなものだ。
オタクであり続けることに意気込み過ぎないこと、そしてもう満喫しきった!と思いこまずに新鮮な気持ちで接してみること。これが長年オタクでいるために大切なことではなかろうか。
