生きていくために物語を作る。ピクシブ文芸大賞を受賞した、若き新人作家の素顔とは

取材・文/近藤世菜 写真・編集/佐久間仁美
「君に殺される僕は幸せだった」
廃墟で見つかった刺殺体。そのそばには一冊のノートが残されていた。タイトルは「Q&A」そこに書かれていたのは、犯人と被害者がともに問いかけあったと思われるやりとりだった……。
昨年「ピクシブ文芸大賞」で約3,600作品のなかから大賞に選ばれた『Q&A』。その巧みなストーリー構成はもちろん、世界の不条理や人間のありようを訴えるテーマが大絶賛されての受賞となりました。

そして、来たる3月24日(土)の深夜には、俳優・竹中直人さんをはじめ豪華なキャストを迎え、テレビ朝日のスペシャルドラマとして地上波で映像化されます。
そんな話題作『Q&A』の作者・小林大輝さんは、実は弱冠23歳、長編小説を執筆したのはこの作品がはじめてという新進気鋭の若手作家。
読めば必ず度肝を抜かれる、その才能の源泉はどこにあるのか。新人作家の素顔に迫ります。
書いている途中で100回は諦めそうになった

── 「ピクシブ文芸大賞」大賞受賞、そして作品の書籍化&映像化おめでとうございます! まずは大賞に選ばれたときの感想を教えてください。
小林大輝(以下、小林):
「そうなんだ」って思いました。
まず、最初に作品が書き上がった時点で、受賞するか否かの以前に今持てる自分の全力を出し切って、いいものが出来たと感じたので、もし賞が取れなかったとしても、僕はそれでもいいという気がしていました。でも逆に、そう思える位のものが出来たからこそ、もしかしたら受賞するかもしれない、とも思いました。そういう半分半分の気持ちだったから、大賞に決まったときは「そうなんだ」って感じでした。
── なるほど。「うれしい」とかではなく「腑に落ちた」っていう感覚だったのかもしれませんね。ちなみに、応募のきっかけは何だったんですか?
小林:
僕はもともとpixivのユーザーで、自分の記録用としてアイデアだったり、短編小説だったりを投稿してたんです。そうしたら「ピクシブ文芸に投稿しますか?」ってチェックボックスがあるじゃないですか。それで「ピクシブ文芸ってなんぞや?」と思って調べたら、どうやらコンテストをやってるらしいと。それでちょっと応募してみようかな、っていう経緯だったんです。
── それまで、他の小説コンテストに応募したことはあったんですか?
小林:
「ピクシブ文芸大賞」がはじめてです。そもそも、8万字も書いたのが、はじめてなんです。それまでは、せいぜい5千字とか、長くても1万字くらいで収まるものしか書いたことなかったので。書いてる途中で、100回くらいあきらめそうになりました。
── どうやってモチベーションを保ったんですか?
小林:
それはもう、這い上がるしかない。でもなんで這い上がれたのかっていうと、僕の方は力尽きそうでも、作品はまだ死んでないと感じていたからです。僕はいつも「自分は作品のエサだ」って思うんです。作者は完全に栄養になって、作品に喰われるための存在だっていう。
「作者は作品の奴隷だ」っていうのは聞いたことあるんですけど、僕からすると奴隷ってまだ意志があるだろうって思うんですよね。僕の場合はもっと意志がなくて、ただ純粋な栄養って考えるとやっぱりエサだなって。
『Q&A』は2週間“ぶっ通し”で書き上げた作品

── 今回大賞を受賞した『Q&A』は、どんなインスピレーションから生まれたものなんですか?
小林:
実は、元になっている物語があって。その物語は、すごくグロテスクな夢を見たときに、起きてその内容を書きとめていたら、勝手にイメージが浮かんでどんどんお話になっていったっていうものです。ちゃんとした小説には、ぜんぜんなってなかったんですけど。それで「ピクシブ文芸大賞」に応募するにあたって、その物語のアイデアを使うことにしたんです。
── その使ったアイデアというのは……?
小林:
絵を描く孤独な子供とそれを破る子供がいるというところ。でも、元の物語ではそのふたりは男の子と女の子です。書いていく途中で、結果的にまったく違う物語になりましたね。

── 使えそうなアイデアから構想を練っていった、と……?
小林:
基本的にはゼロから書いていきました。ただ、純粋に8万字って分量を書くにあたって「何か“仕掛け”を作らないと、(字数が)持たないな」っていうことを考えて、ノートで「Q&A」のやりとりをするっていう構成を取り入れました。マラソンでいう「あの電柱まで作戦」と一緒で、くじけそうになったら「とりあえず次のQまでは書こう」って。
── ちなみに、どんなときに執筆していたんですか?
小林:
『Q&A』は2週間で書き上げたんですけど、その期間は1日中ずっと書いてましたね。ほぼぶっ通しです。辛うじて、寝てましたけど(笑)。
── それは寝てもらわないと(笑)。
小林:
ふと「なんかしんどいな」って思ったら、気づいたら1日何も食べてなかったっていうのはありました。もし集中が途切れてしまったら、立て直す自信がなかったんですよね。だから止まるのが怖くて。それで書き上がったの、〆切の3日前です。
── 書き終えたとき、どんな気持ちでした?
小林:
はじめは「やっと終わった……」と。でも、やっぱり力不足を感じたというか。もっと書けただろうと。物語自体を疑ったことはないけれど、それをおもしろく書けるかどうかは、自信がなくて。自分にもっと力があれば、もっとおもしろく書いてあげられただろうになって。
小説家への道を拓いた200冊のノート

── 長編小説の執筆は今回がはじめてだったということですが、文章を書くようになったのはいつごろからなんですか?
小林:
高校1年生のあたりからですかね。文章っていうか日記なんですけどね。その日に起こったこととか、感じたこととか、あらゆることを書きためてるノートが家に200冊くらいあります。
── 200冊!? すごい……! その日記を書きはじめたきっかけは……?
小林:
中学生のとき、バスケをやってたんですけど、あるとき身体を壊してしまいまして。身体を動かすことで表現できていたことが、まったくできなくなってしまったんです。それで鬱屈したものが結局どこにいったかというと「言葉」だったんですよね。運動のほかに好きなことが読書と音楽くらいだったので。ひどいときは1日1冊書いたりしてましたね。ノート一面にびっしり。真っ黒。
── 具体的にどんな内容だったんですか?
小林:
それはね、わりと年相応ですよ(笑)。「なんで人間は死ぬのか」とかそういうやつです。実は文章だけじゃなくて、詩を書いたりもしていて。ただ今回、賞をいただいたじゃないですか。だから身体の『生理的なもの』として、自分は詩じゃなくて散文を重ねて書いていく人間なんだなっていうのを、あらためて実感しましたね。
小林:
1回、捨てようと思って読み返しましたね。かさばってるから純粋に整理しようって。そうすると50ページに1回くらい「あ、悪くないね」っていうのがあるんですよ。でも残りの49ページは「お前、意味がわからない」って感じなんですけど(笑)。
── ということは、結局捨てられず……?
小林:
それはね、母に止められたんですよ。絶対捨てないほうがいいって。今回賞をいただいたときも、母はぜんぜん驚かなかったんです。だから、その200冊のノートもすごく大切なものだって、わかっててくれたみたいですね。
物語を作ることが、生きていくために必要だった

── 3月24日には『Q&A』を原作にしたスペシャルドラマが放送されますが、普段ドラマや映画などの映像作品はご覧になりますか?
小林:
最近はもうなくなっちゃったんですけど、高校生の一時期、1日5本DVDを借りて、一気に見るっていうのをずっとやってました。そのとき、200作くらいは見たのかな? でも、映画通の人からすれば、きっと “にわか”ですよ。
── ちなみに、どんな映画が好きなんですか?
小林:
サイレントが好きですね。情報が凝縮されて“ぎゅっ”となってるのが好きです。
── 映画からインスピレーションを受けて、ノートに何かを書くということはなかったんですか?
小林:
感想くらいは書いてたかな……。最近はあんまり見てないですし。DVDのパッケージにあらすじが書いてあるじゃないですか。
そのあらすじに書かれてる断片的な情報から、自分だったらこういう物語を作るなっていうのを一瞬で想像するのが、もうおもしろくなっちゃったんですね。
もちろん、その映画や小説もおもしろいはずなんですけど、自分の好みが反映される分、想像したほうがより面白いというか。
── 小さいころから本の虫だったとか、そういうことではないんですか?
小林:
好きは好きだったけど、とくに異常さはなくて普通だったような。自分の中のもやっとしているものを表現する方法っていくらでもあるじゃないですか。結局、僕は生理的に小説になったっていうだけで。
元々は、音楽の方がカッコいいって思ってて、どっちかと言うと歌詞を書きたいと思っていたんです。でも書いたものを客観的に見ると、歌詞より小説のほうが全然良くて。趣味で作曲をしたりもするんですけど、とりあえず形になるだけでいいものができたっていうのとはちょっと違う。それっぽいんだけど“出てない”んですよ。自分の内側のものが“出てる感”を感じるのは、やっぱり小説の方です。
── これまでお話を伺ってきたうえでの勝手な推察なんですけど、高校1年生のときのケガが、大きな転機になったんでしょうね。
小林:
そもそも身体を壊さなかったら「文章を書く」っていう方向にいかなかったと思うんですね。身体を壊したときは、それこそもう絶望の淵にいて、すごく追い詰められてました。僕は人間ってみんな、物語のなかに生きてると思うんですね。生きていくためには物語が必要なんですよ、絶対に。
僕の場合は運動をして楽しい自分っていう物語の中に生きていたけれど、それが身体を壊してしまった。壊れた傷付いた自分を修復していくために、物語の力を借りるしかなかったんです。生きていくために、必要なことだったんだと思います。
これまで書いてきたものは必ず役に立つ

小林:
本の関連で、こういうところ(ピクシブ)に呼んでいただけてうれしいなって(笑)。
── (笑)。編集者さんがついたことはどうですか?
小林:
自分の作品に対して、こんなに熱心に話してくれる人がいるということにすごく感謝しています。編集者さんが、書籍化の作業が終わったときに「絶対に必要な人に届く話ですから」って言ってくれたんですね。その言葉はすごく響きましたね。
僕が生きるために物語を書くことは必要だし、自分自身は面白いと思ってるけど、読者の方にとってもそうなのかは分からないから、そこで「大丈夫」って言ってくれる人がいるとすごく助かります。書いてて良いんだって思える。
── 「小説家になりたい」というか「小説家になるしかない」って感じだったんですね。pixiv発、インターネット発の小説家や文芸作品というのは、まだまだめずらしいほうだと思うのですが、そのことについてはどうですか?
小林:
やっぱりね、いい意味での気軽さがあるのはすごく良いと思います。僕はそもそも「ピクシブ文芸大賞」がなかったら、8万字も書いてみようという気になりませんでした。『Q&A』はこの賞のおかげで誕生したんです。気軽さからきっかけが与えられて、何か新しいものが生まれることは絶対にあると思う。多くの人にクリエイターとしての芽が出る可能性が広がるっていうのは、とても素敵なことなんじゃないかなって思います。
── 小林さんの場合は「なるべくしてなった」という気もしますが、pixivへの投稿をきっかけに作家としてのプロデビューを目指す人たちに何かアドバイスはありますか?
小林:
アドバイスっていうと上からになっちゃうので、僕の体験を話すのでもいいですかね。僕は今回8万字を書くにあたって、100回くらいあきらめました。だから執筆しているときに心が折れそうになっても大丈夫っていうのがまずひとつ。それからもうひとつは、これまで書いてきたものはどんな形であれ、必ずあとで役に立つっていうこと。
僕はまだ小説を書き始めて1年ちょっとなので、たくさんの作品があるわけじゃないけど。やっぱり今まで書いてきたものが、今回の『Q&A』にも活きてるんですね。だからとにかく書いて欲しい。賞を貰うとか誰かに認められるとか、そんなこと関係なく、自分と物語の世界をただ信じて書いて欲しい、そう思います。
── 説得力がありすぎます……! 最後に読者に向けて『Q&A』の“読みどころ”を教えてください。
小林:
ここ大事ですね(笑)。
僕は人の持つ絶望的な気持ちと、そこから救われるっていうことにずっと興味があるんです。だからこの作品を読んで、どこか救われるようなところがあったら、僕はうれしい。……って、これ読みどころじゃないな(笑)。
23歳の若き才能が描く、法では裁けぬ哀しき物語
物語を作ることは「生きていくために必要だった。」──そんなお話を聞いていると、まさに、この人は小説家になるべくしてなったんだなということを痛切に感じました。
傑出した才能が生み出した渾身の作品。読まないと後悔すると言い切れます。スペシャルドラマも合わせて、『Q&A』の世界をぜひ存分に楽しんでください!
【映像化・書籍情報】
◆ドラマ:『Q&A』(テレビ朝日・3月24日深夜2時50分~)
出演:竹中直人、小日向星一、大平峻也ほか
◆書籍:『Q&A』(小林大輝/幻冬舎)
まずは『Q&A』を試し読み!pixivノベル限定表紙が目印!
今回、pixivノベルのために漫画家・橘オレコさんに『Q&A』のイメージイラストを描き下ろして頂きました。
小説、ドラマ、イラストと広がる『Q&A』の世界。
作品に興味を持った方は、ぜひこちらをご覧ください!
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