イラストレーター同士で集まると、ひとりじゃ行けない場所に行ける。さくしゃ2、ときわた、はむねずこによるイラストレーターユニット「No longer Human」座談会【個展開催記念】
インタビュー/原田イチボ

さくしゃ2さん、ときわたさん、はむねずこさんという人気イラストレーター3名による合同展「No longer Human」が、東京・表参道にあるpixiv WAEN GALLERYにて2023年2月23日(木)まで開催中です。それぞれのオリジナルイラストはもちろん、今回の展示でしか見られないコラボレーション展示も用意されています。

ファッショナブルなキャラクターが若者から絶大な支持を集める3名。そのようなセンスを磨くために日頃どんなインプットを意識しているのでしょうか? また、クリエイター同士で交流する意義とは? 3人にお話を聞きました。
合同誌から始まった「No longer Human」
── この3名での活動として、過去に合同イラスト集を出しているんですね。
ときわた:2021年の冬コミで初めて合同誌「No longer Human」を出しました。
さくしゃ2:合同誌は「架空のアパレルブランドの本」というコンセプトだったんです。学生向けのブランドで、「でもクラスの中心的存在よりは日陰者が着るイメージだよね」という話になり(笑)、太宰治の『人間失格』がいいんじゃないかと。デザイナーさんから英訳の提案をもらって、最終的に「No longer Human」になりました。今はこの3人のユニット名みたいになっていて、今回の合同展のタイトルにも選びました。
── ユニット結成のいきさつは、2月23日(木)のトークショーで詳しくお話されるそうなので、このへんにしておきますね。ユニットでも活動する中で、お互いの「この人のここはすごい!」と思うところを教えていただけますか? はむねずこさんについて、ほかのおふたりから聞かせてください。
ときわた:かわいらしい絵柄はもちろん、マーケティング的な視点を持っているところがすごいですね。だからあれだけトレンドをおさえることができるのかと感心しました。そういった見方をするイラストレーターさんとお話するのは初めてで、とても刺激を受けています。
さくしゃ2:キャラの顔がかわいい絵はなぞって真似してみるんですが、はむねずこさんの描く女の子はパーツのバランスが素晴らしいんですよね。イラスト全体を見ても必要なところに必要なぶんだけの描き込みがあって、無駄のなさに驚かされます。
はむねずこ:これ、めっちゃ照れますね……!
── すごく照れると思いますが、順番に聞いていきます(笑)。では、ときわたさんのすごいところは?
はむねずこ:ときわたさんの描く小物のセンスと、エメラルドグリーンのような青色の使い方が大好きです。写実的なタッチからデフォルメまで、幅広くお得意ですよね。あとは、優しいお人柄です。この3人が繋がったのも、ときわたさんのお声がけがきっかけですし。
さくしゃ2:ときわたさんの行動力を見習って、私も最近はいろんな人と交流しようと頑張っています。あとは言わずもがな、絵がめちゃくちゃ上手い。よく練習で模写をされているそうなので、そこも見習わなきゃなと感じています。
── では、最後にさくしゃ2さんのすごいところを教えてください。
ときわた:はむねずこさんもそうですが、「グッズにして持ち歩いてもオシャレでかっこいいイラスト」というジャンルの第一人者だと思っています。あと、さくしゃ2さんはキャラの顔に対するこだわりがすごいんですよね。一緒にカフェに行ったとき、「キレイな顔は持ち歩いているんですよ」とフィギュアの頭部だけを出してきて、そこまでされるのか……と思いました(笑)。
はむねずこ:フィギュアの生首を持ち歩いているのは、私も衝撃を受けました(笑)。「それほどのこだわりが、あの完璧なバランスの美しい顔を生み出しているのか!」と度肝を抜かれました。
さくしゃ2:立体を把握する力が弱いんで、フィギュアを頼りに絵を描いていたんです(笑)。最近はもう持ち歩いていませんよ!
若者のトレンドをおさえるためのインプットとは
── 皆さんアパレルブランドともお仕事をされたりと、「若者を中心に人気」という共通点がありますよね。トレンド感のあるイラストを描くために、普段どのようにインプットをしていますか?
ときわた:はむねずこさんと一緒にいると、お店に並んでいるモノや道行く人のファッションなどに端からコメントしていくので、「目の前の風景からこれだけの情報を得るんだ!」と驚きました。それから私も周りを観察するようにしています。さくしゃ2さんも一緒に歩いているとき、「あの人のカバンと自転車の色が同じだ」と話していて、みんなよく見ているな~と思います。
さくしゃ2:田舎に住んでいるので、オシャレな人はつい見ちゃうんです(笑)。
はむねずこ:ネットを使うといろいろ出てきすぎて絞り込めないので、自分がそのとき好きなものや街でたまたま見かけたものを参考にして絵を描くことが多いかもしれません。
ときわた:Webサービスだと、「Pinterest(ピンタレスト)」はよく使っていますね。
さくしゃ2:私もPinterestにはお世話になっています。
── イラストレーターさんはよくPinterestを活用している印象ですが、同じ画像共有サービスでも、PinterestとInstagramで使い勝手がどう変わるのでしょうか?
さくしゃ2:Pinterestはレコメンド機能が優秀なので、良いものをたくさん吸収できる安定感があるんですよね。それに比べるとInstagramで得られる情報はどうしても玉石混交になってしまうんですが、代わりにスピード感に優れています。「まさに今、流行っているモノ」が知りたいときは、Instagramを選ぶことが多いですね。
ときわた:たしかにPinterestは「今」を知るツールとしては一歩遅れをとるかもしれません。中高生の女子ってワンシーズン超えると、もう前髪の厚さが変わっているんですよ。10代の今のトレンドを知りたいときは、InstagramとTikTokが役立っています。
── やっぱり10代のトレンドは意識されているんですね。
さくしゃ2:可能な限り、世の中の流行をしっかり追った上で創作していきたいとは思っています。
はむねずこ:現代の等身大の女の子を描くために、ある程度は流行を抑えておきたいですね。作品にトレンドを盛り込みたいというよりは、トレンドを頑張って追いかけている女の子を描きたいんです。
練習は10年後のための貯金
── 「ときわたさんは練習で模写をしている」という話が先ほど出ましたね。昔から続けられているんですか?
ときわた:子どもの頃は「その絵と同じ絵柄になっちゃう」と思い込んでいたので模写が嫌いだったんですけど、やっぱり模写したほうが上達するなということに気づいて(笑)。それからは模写の鬼になりました。今も練習は大好きで、最近は家の中にある植物や食器など目についたものを水彩絵の具でスケッチしています。何を描いても発見がありますよ。あとは技法書を読んだりして勉強するうちに、自分の絶対譲れないポイントも見えてくるので、「なぜ譲れないのか。何を描きたいのか」のように掘り下げて考えていくこともしています。
── さくしゃ2さん、はむねずこさんも練習で模写はされていますか?
さくしゃ2:そうですね。絵を描き始めた頃は顔だけ模写するので精一杯だったんですが、最近はキャラの全身を模写した上で、色塗りのことまで分析できるようになってきました。ちょっとずつ進化している気はするので、来年あたりはなんとか背景にも着手したいです(笑)。
はむねずこ:私は人物でも背景でも写真を撮りまくっています。立体のまま見て描くよりも、写真を模写したほうが描きやすいんですよね。ひとつのポーズでもいろんな角度から写真を撮っています。模写以外の練習だと、クロッキーっぽいことや、あらためて透視図法やパースの勉強をしています。
── これだけ活躍されているイラストレーターさんでも、ストイックに練習を続けているんですね……!
ときわた:仕事と練習を両立するバランスが難しいですよね。
さくしゃ2:もっとたくさん練習したいと思う反面、模写などの練習ばかりだとSNSに作品を投稿できなくなってしまいます。やっぱりSNSでの注目度がお仕事につながるわけですから、コンスタントに作品は投稿しておきたいんです。でも長期的にお仕事をいただける立場になるためには、今しっかり練習しておくことが大切だとも感じています。
ときわた:練習は10年後のための貯金ですよね。
使えるものは全部使う!現役作家のテクニック
── 「こうすると時短になる」とか「この作業が楽になる」とか、自己流の便利な創作テクニックのようなものはありますか?
さくしゃ2:自分で撮影した写真をトレス素材に使っています。時間がないときは、自分の手をパシャっと撮って、そのままトレスしたりしていますよ。ただ私は手が小さいので、「手がもっと大きければよかったのに……」と思うことはよくあります(笑)。
── 「スマホに資料用の自撮り写真が大量に入っている」というのは、絵描きあるあるですよね。
さくしゃ2:スマホを見られるのが怖すぎて、自撮りがSNSに流出する悪夢を見ました(笑)。
ときわた:私なんてグループLINEで自撮りを誤爆したことがありますよ! 幸い同業のグループだったので、全員察してくれましたが(笑)。著作権などの法律を守ることは前提ですが、トレスでも自撮りでも使えるものは全部使ったほうがいいと思っています。資料になるものが多くてダメってことはないですし、たくさん資料を用意するのは立派なことです。私自身は自撮りの活用のほかに、描くものの実物を買うこともあります。さくしゃ2さんも実物を買うことが多いと話していましたよね。
さくしゃ2:はい。最近は資料のために着物を買いました。リサイクルショップでですけどね。着物は写真だけだと構造がわかりにくいですから、現物をよく見ておきたくて。
── フォトバッシュ?
はむねずこ:複数の写真を組み合わせて加工し、1枚のイラストにする技法です。もちろん素材にする写真は全て自分で撮影したものです。ちょっとズルい方法に感じる人もいるかもしれませんが、構造の理解につながりますし、使えるやり方が多いほうが描けるものも広がると思うんです。
ときわた:ツールを使いこなせると、効率も上がるし、作品のクオリティも上がりますよね。
さくしゃ2:私は3D素材もガンガン使っています。余計なプライドは捨てて、まずはなんでも貪欲に試してみると良いと思います。
イラストレーター同士で交流する意義や楽しさ
── 絵を描く作業自体はひとりでもできてしまいますが、合同誌を出すなど、イラストレーター同士の交流の意義はどんなところにありますか。
ときわた:ひとりで絵を描いていると、ひとつの問題につまずいたまま、数年経っちゃったりするんですよ。でも絵を描く人間同士で会話していると、ただの雑談で急に「ああいうふうに塗れば良かったんだ!」と答えが見つかることがよくあります。
はむねずこ:普通に話しているだけでも、たくさん刺激を受けますよね。あと、シンプルに楽しい!
ときわた:私は別にコミュニケーション能力がすごく高いわけじゃなくて、できれば家から出たくないタイプの人間ではあるんです。それでも人と関わることで、安心感とかいろんなものが得られるなぁと感じています。
さくしゃ2:「クリエイターに仲間はいらない。馴れ合いは甘っちょろくなるだけだ」みたいな意見もありますが、私は違う考えを持っています。……と言っても、こうやっておふたりが仲良くしてくださらなかったら、自分も「馴れ合いはいらない」みたいに思っていたかもしれませんが……。でも「No longer Human」をはじめ、自分以外のイラストレーターと交流するようになって、「誰かと一緒なら、ひとりじゃ行けない場所に行けるんだな」と実感しています。昔から人間は集団で暮らしていたわけですし、やっぱり群れを作ったほうが生きやすい動物なんだなぁと(笑)。
合同展は「学生っぽさ」を意識
── 合同展「No longer Human」の見どころを教えてください。
はむねずこ:コンセプトとして「学生っぽさ」みたいなのを意識しましたよね。

さくしゃ2:「学園祭みたいな感じって良いよね」みたいな。
ときわた:だから会場にそれぞれで飾り付けしたロッカーが置いてあります。

さくしゃ2:あとはデジタルらしい硬質さを表現したくて、PVCを使った展示があります。

さくしゃ2:それと、ぜひガチャを回してほしいです。無理を言って8台も用意してもらいました(笑)。オリジナルグッズは、若い方でも気軽に手に取りやすい値段に収まるようにこだわりました。
ときわた:クリア素材のサコッシュとかアクリルキーホルダーとか、グッズ同士をコーディネートして楽しんでもらいたいです。

グッズ展示のまわり。レジに多くのお客さんが並ぶ場面も。
── イラストレーター集団「No longer Human」として、今後の展望を教えてください。
ときわた:この3人でまたいろいろやりたいです! おふたりが良ければ今後もぜひご一緒してください。
さくしゃ2:私は仕事のご依頼が来たとき、可能そうな場面であれば「この3人でどうでしょう?」みたいに相談してはいるんですよね。今回の展示もそうやって実現しました。
はむねずこ:本当にありがたい……! いずれまた何か「No longer Human」としてお知らせできたらうれしいですね。
2月23日(木)まで開催中!さくしゃ2・ときわた・はむねずこ合同展「No Longer Human」
pixivとツインプラネットが共同運営するギャラリー「pixiv WAEN GALLERY by TWINPLANET × pixiv」にて、さくしゃ2・ときわた・はむねずこ合同展「No Longer Human」が2月23日(木)まで開催中です。
合同展という新たな切り口で、3人のイラストレーターの個性を楽しめる展示となっています。展示に加えて、オリジナルグッズが引けるガチャガチャなど、気軽に楽しめるものも用意しております。ぜひ足を運んでみてください。
開催期間:2023年2月3日(金)〜2月23日(木)
定休日:なし
入場無料
所在地:東京都渋谷区神宮前5-46-1 TWIN PLANET South BLDG. 1F
営業時間:12:00~19:00
※混雑時は整理券対応をさせていただく可能性がございます。あらかじめご了承ください。
合同展開催記念 サイン会 in pixiv WAEN GALLERY
※サイン会への参加にはBOOTHにて販売中の「【数量限定_サイン会参加券つき】色紙」の事前購入が必須となります。
※サイン会参加券つき色紙は、数に限りがございます。売り切れの際にはご容赦ください。
参加の注意事項など、詳しくは、ギャラリー公式ページをご覧ください。
合同展開催記念 トークショー in pixiv WAEN GALLERY
さくしゃ2先生、ときわた先生、はむねずこ先生、3名が登壇するトークショーを開催予定です。
日程:2023年2月23日(木)14:00~15:00予定
会場:pixiv WAEN GALLERY
人数:50名
※トークショーへの参加にはBOOTHにて販売中の「【数量限定_通販のみ】トークショー参加券付きチケット風カード」の事前購入が必須となります。
※チケットは、数に限りがございます。売り切れの際にはご容赦ください。
参加の注意事項など、詳しくは、ギャラリー公式ページをご覧ください。
※新型コロナウイルスへの対策について
さくしゃ2・ときわた・はむねずこ合同展「No Longer Human」について、現時点では2月23日(木)までの開催を予定しております。今後も状況を注視しながら対応を進めてまいりますが、新型コロナウイルスの感染状況などにより、開催期間に変更が生じる場合がございます。販売商品や来店方法等を含め、運営状況については、随時pixiv WAEN GALLERY公式HP、公式Twitterにてお知らせさせていただきます。何卒ご理解賜りますよう、重ねてお願い申し上げます。