出版業界に”台風”を巻き起こす。台湾の出版社が今ほしい「等身大のものがたり」
小説作品をもっとよくするために
編集者としてよく見かける問題とアドバイス
── 続いて、出版社から見た小説の書き方のコツについてお話を伺います。コンテストなどの作品の審査の際、受賞に繋がる作品とそれ以外を分けるものは何でしょうか。
Kiwi Studio 惜しい作品でよく見かけるパターンは、ストーリーの構造のゆるさですかね。好きな要素だけを積み上げても、物語をデザインして収束させないと、テーマが迷子になってしまうし、伝えたかったものの本質が伝えにくくなってしまいます。
Rusuban Studio あとストーリーの発展とキャラクターの感情を一貫する必要があります。ストーリーを展開させるために、キャラクターの性格に沿わない行動を取らせてはいけません。それをやってしまうと、キャラクターの性格に一貫性が失われ、物語が破綻しがちです。
── この問題はどう解決すればいいのでしょうか。
Rusuban Studio「物語を”デザイン”すること」を意識してほしいです。デザインとは問題を解決するための設計で、より良い結果をもたらすためのプロセスです。小説を書くとは、ストーリー、プロット、キャラクターを作りますよね。それぞれの要素をつなぐことで、読者を物語のテーマへ導くとができます。
Kiwi Studio よく「小説にはテーマが必要」といいますが、実はメインテーマの下に、複数小テーマを設置することもできます。小テーマは、その次の小テーマにつなげ、最終的にメインテーマに帰結すれば、構成がとてもきれいにまとまります。テーマ以外に追加したものは、物語にとってほぼいらないものになります。
Rusuban Studio また、執筆を始めたばかりの人は、欲張らずにキャラクターひとりだけの成長を描くことに集中してほしいです。一般的に、キャラクターは物語の最初に”何かしら”誤解されています。物語の展開につれて、その誤解が解かれていき、最終的にキャラクターの変化をもたらします。この変化こそ、物語の「テーマ」になりえます。
── 誤解を表現するのに、何かと対立する演出は必要ですか?
Kiwi Studio「誤解」や「対立」はとても使いやすい要素ですが、物語における「仕組みの対立や誤解」は明確に「文字で書く」必要はありません。
物語が明確に描かれる「対立だらけ」になると、それは「対立」の意義をなくし、「対立がない」のに等しいです。
一番力強い対立は、構造上の対立です。たとえば、キャラクターにとって世界一美しい風景があるとして、ある日その美しさはとても脆いと気づくとします。目に見えていたものと、その後ろに隠されている真実が、「対立」そのものであり、こういったデザインが読者にリアルさをもたらすことができます。
短編小説は「変化の始まり」を描くのがコツ
── 今回pixivと共催するコンテストは、pixivで短編小説を募集しています。短編小説の書き方についてコツはありますか?
Kiwi Studio 短編小説には文字数の制限があるので、短い話の中でテーマ、プロット、キャラクターをうまく調理する必要がありますね。短編はまさに電撃戦です。
Rusuban Studio 具体的には、長編は「キャラクターの変化」に焦点を当て、短編は「事件がもたらす影響」に焦点を当てると書きやすいですね。長編ではキャラクターをしっかり描く余裕がありますが、短編は少ない文字数で「ある事件」を引き金にして、テーマを引き出し、しっかりと伝えられれば勝ちです。
なので短編は長編よりも、対立や葛藤を表に出してもいいと思います。短編では、キャラクターの心理描写に使える文字数もないので、キャラクターの考えは行動で表現してみてください。そのアクション自体も、作品のテーマにつなげることができます。
Kiwi Studio 短編は、極短編と中編の間とも捉えられます。極短編はひとつのテーマ、ひとつの対立を描き、中編はその上に一人のキャラクターの変化が加わるイメージです。
短編ではキャラクター変化を描き切ることができない可能性があります。その変化を「きっかけ、または始まり」に限定すると、かなり書きやすくなるかと思います。
Rusuban Studio BL小説の作家さんにはもうひとつアドバイスがありまして、BLマンガを読んで欲しいです。というのは、マンガには少ないページでも世界観をうまく表現できる短編がたくさんあります。まずあなたが感動した短編マンガを元に、いいなと思ったポイントや表現の仕方を分析してみてその方法に沿った物語を作ってみてください。きっと作品がぐっと深くなりますよ。
アマチュアと何が違うの? 出版社との仕事
出版はプロジェクトである
── コンテストにより、おふたつの出版社から受賞者にはどのようなサポートがあるのでしょうか。
Kiwi Studio 受賞作品は完璧でなくでも、魅力的であることは間違いありません。多くの読者に読まれる、最高の作品になるようストーリー構成の補強ができればと思います。
── 作家さんが出版業界に関わる時、どんな心構えが必要でしょうか?

Rusuban Studio 出版とは、チームワークそのものです。
今は同人誌を出したり、ネットで自分の作品を公開するのが非常に簡単になりました。でも出版社と一緒に働くことは、趣味の範囲を超えて私たちと二人三脚で一つのプロジェクトを完遂することが求められます。
編集者は、最も厳しい一人目の読者です。作品をもっと良くするため、ぜひたくさん話し合ってほしいですね。
Kiwi Studio これは素敵なことですが、台湾の作家さんは自分の作品に対する自信がある方が多いと思います。純文学であれば作風すべてが作家さんに委ねられますが、大衆小説となると、出版社と読者、そして社会と深く関わる必要がありますので、ここは出版社の知見を大いに使って欲しいですね。我々は出版社として本を出すほか、出版に関するすべてのことや市場調査などもサポートできると思います。先行事例という名の授業料をたくさん払ってきたので(笑)
── コンテスト以外にも受賞者さんと出版社のコラボもありうるのでしょうか。
── 発掘した作家さんが、他の出版社に声かけられるって損しませんか?
Kiwi Studio それはもちろん損してますよ(笑)
Rusuban Studio 私たち出版社は「トス」をする選手だと思います。
もし作者さんがこのコンテストをきっかけに違うステージで活躍できたり、さらなる高みを目指せたりしますと、そっちのほうが楽しいじゃないですか。この楽しさが一番です。
作者さんが楽しさを感じて執筆を継続することで、いい作品が生まれます。一緒に作品を作りたい気持ちがあれば、私たちは作家さんにトスし続けます。いずれは強いスマッシュできるチャンスが訪れるかもしれません。
ついこの間も、黒白文化出版社との共催した「第一回 哈台味小説コンテスト」の受賞者さんへ、別のお仕事のご紹介につながったケースもあります。

遠くない未来に、台湾の小説を世界に届けたい
── ありがとうございます。最後に、未来の作家さんへ一言メッセージをいただけますでしょうか。
Rusuban Studio 「台湾らしさ」の議論が長かった(笑)このような議論自体が、皆さんが思う「台湾らしさ」を形作っているのだと思いますので、楽しかったです。
Kiwi Studio POPカルチャーはあらゆるものを符号化し、メディアで拡散しやすいものにしてくれます。しかし台湾はまだそれにあまり慣れていないと感じるため、このプロセスを続けていきたいです。
Rusuban Studio 私たちは文化の輸出者になりたいです。
このコンテストが続ければ、第5回には台湾のBL小説が10冊、Kiwi Studioの百合小説を加えて合計20冊になります。そしたらシリーズとして宣伝もできます。これが私たちの究極の目標です。台湾で新しいことが起こっているよ!とより多くの人々に知らせることができます。
今回のコンテストは、pixivとの協力で短編コンテストを開催し、「大慕影藝」というドラマ制作会社と協力し、長編小説にドラマ化のチャンスもあります。素敵な作品をたくさんお待ちしています!
── ピクシブとのコラボで、台湾の小説にもっとたくさんのチャンスが期待できますね。
Rusuban Studio ピクシブさんは日本を母体としているので、台湾と日本の創作の接点になると期待しています。
今回のコラボでは、参加者にpixivの機能をどんどん活用していただき、将来的には台湾の創作者にとっても自由に投稿・閲覧できるプラットフォームになれるとうれしいです。
コンテスト概要
台北の出版社二社、Rusuban StudioとKiwi Cultural and Creative Co., Ltd.と協同で、「タピオカミルクティー」をテーマにした、繁体字を対象とする短編小説コンテストを開催します。受賞作品は賞金の贈呈のほか、両社から短編小説集への収録が確約されます。
■開催期間
2020年11月9日(月)~2021年1月29日(金)23:59 ※GMT+8
■応募部門
Rusuban部門:BL小説
Kiwi部門:百合、またはファンタジーなどのジャンル小説
■参加方法
指定されたテーマ「タピオカミルクティー」をもとに、各部門指定の内容に沿った短編小説(5,000~8,000文字)を書き、部門ごとの指定のタグを設定して、pixiv小説に投稿してください。
※本コンテストについての詳細は、下記のコンテストページよりご確認ください。
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