自分のラフを公式が圧倒的画力でイラストにしてくれる!アニメ情報誌のお仕事/月刊ニュータイプ

構成/原田イチボ@HEW
“アニメ”を仕事にしたい人に朗報! 絵が描けなくてもアニメに関わることのできる仕事はいろいろ存在するんです。この連載ではアニメの仕事に関わる様々な人にインタビューしていきます。
第2回は、1985年に創刊された老舗アニメ情報誌『月刊ニュータイプ』(KADOKAWA)編集部の金内さんと澁野さんにお話を伺いました。
表紙に起用する作品は、編集長のジャッジで決まる

澁野さん(手前)と金内さん(奥)
── 編集部の方々は、どんなお仕事をされているんですか?
澁野:毎クール、編集スタッフごとに担当作品が割り振られています。その取材企画や描き下ろしイラストの発注を担当しつつ、読み物ページなどの連載企画を動かすほか、「WebNewtype」などの関連メディアや書籍の作業もする感じですね。
── 表紙はどのように決めるのでしょうか?
── 「どの作品の人気が出るか?」を予想しないといけないので、クール始まりの表紙を決めるのは難しそうですね。
金内:そこはギャンブルみたいな感じです(笑)。
── あの、ここ1年ほどで、一番“売れた”号をお聞きしてもいいでしょうか……?
澁野:『冴えない彼女の育てかた Fine』号(2019年12月号)と『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』号(2020年6月号)ですかね。
描き下ろしイラストの発注は、構図や小物まで指定する
── とくに大変な作業は何ですか?
金内:公式のアニメーターさんに描き下ろしていただくイラストの発注です。この描き下ろしイラストによって売り上げが変わる部分もあるので、雑誌にとっては大変重要な存在です。ただ、「そのキャラはそういうことをしません」とか「スケジュール的にその背景は難しいです」とか「それはゲームの設定なので、アニメとはまた違います」などNGをいただくことも多いのですが……(笑)。
── キャラクターの組み合わせやシチュエーションだけではなく、もっと細かく希望を伝えて発注するものなんでしょうか?
澁野:僕は衣装とか構図とか背景とか小物とか、かなり細かく指定して発注しますよ。記事に掲載はできないんですが、特別にイラストを発注するときのラフをお見せしますね。
── ありがとうございます! そもそもラフの時点で上手い! キャラクターのポーズや構図はもちろん、「髪は広がる感じ」とか「目線は正面」など細かいところまで指定が書き込まれていますね。
澁野:僕の場合、もともと自分でもマンガを描いていたので、ついこだわって盛り込んでしまうんですよ。担当するアニメーターさんによっては、指定しすぎないほうがちょうどいい場合もあるんですけどね。
── 7月10日発売のニュータイプ最新号の表紙は、澁野さんが担当されたそうですね。どんなイメージで発注したのでしょうか?
8月号は本日7月10日発売!
澁野:新アニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』のヒロインふたりを描いたもので、総作画監督の鈴木豪さんが作画を担当してくださいました。タイトルに“ソード”と冠するくらいなので、まず剣を見せたい。でも剣をかっこよく見せられる構図に悩みまして……。考えた末に、剣を振りかぶるよりもバシッと止めたポーズのほうがいいんじゃないかなと。そのぶん、剣は止まっているけど体は動いているイメージで、髪とか衣装で動きをつけました。アスナの前髪が上がっているのは、鈴木さんからのご提案です。この号では鈴木さんに直接、表紙の作画についてインタビューしていますので、ぜひご覧ください。アイデアを打ち返していただけるのは、ありがたいですよね。
── やっぱり自分も絵が描けないと、イラストの発注は大変なのかな……。金内さんのラフは……、失礼ですが、ちょっと勇気が出ますね(笑)。
金内:ラフが残念すぎるので、絵の教室に通おうか本気で悩みました(笑)。絵心はないんですが、そのぶん意図が伝わるように言葉で説明します。
澁野:どういう形であれ、こちらの意図が相手に伝わればいいわけですからね。なので編集者は絵心があってもいいし、なくてもいいという感じです。
SNS上の妄想が公式でイラスト化される可能性も!?

── これだけ細かく指定してイラストを発注するとなると、担当作品へのかなりの理解度が求められますね。
金内:公式で出ている情報を把握するのはもちろん、ファンの皆さんが今何を求めているか知る必要がありますね。『ポケットモンスター』特集はまさにダンデとキバナのペアがファンの間で人気ということでイラストを発注しました。
── 「このキャラとこのキャラの組み合わせが人気」だけではなく、「このキャラがこういうことをして、それに対してこのキャラがこう絡むのが人気」レベルまで知っておく必要があると思うのですが、そのニーズはどのようにチェックするものなんでしょうか?
澁野:SNSに加え、それこそpixivさんもチェックしていますよ。「ピクシブ百科事典」だと、ユーザーさんが面白おかしくキャラクターの紹介をしていたりするじゃないですか。「ファンの間では、このキャラはこういうポジションなんだ」や「あのキャラとのこういう掛け合いが人気なんだ」と参考にしています。
金内:pixivさんでは、どのキャラクターの組み合わせの件数が多いかもチェックしています。
── 極端なことを言えば、大勢のファンが「このキャラと、このキャラの、こんな感じのイラストが見たい」とツイートすれば、実現する可能性もゼロではない……?
金内:参考にさせていただくかもしれません(笑)。なので、皆さんの希望をぜひ文字やイラストで表現し、発信してください! 編集の仕事のなかで、自分の残念なラフが素晴らしいイラストになって返ってくるのは、とくにうれしい瞬間です。こちらの指定と多少違っていたとしても、「絶対そのほうがいい!」と感じられる、想像を超えてくるものが届くんです。
WEB媒体が台頭している今、雑誌は“特集”が武器になる?

── 1日のスケジュールはどんなものでしょうか? 雑誌編集って大変そうなイメージがありますが……。
金内:働き方改革で、出版・編集業界も変わりましたよね。「もう平成は終わったのだ! 令和だ!」って感じ(笑)。
── WEB版の「WebNewtype」は、ニュータイプ本誌とどのように区別をつけているのでしょうか?
金内:たとえば『波よ聞いてくれ』という作品では、キャストさんやスタッフさんにインタビューする特集を本誌で組みました。その中で、たまたま原作者さんのお家でお話を伺える機会が得られたんです。ただ、原作者さんのインタビューは本誌の特集コンセプトから少し離れていたので、WEBに掲載することにしました。
澁野:僕は『旗揚!けものみち』というプロレスをテーマにした異世界系アニメ作品で、実況アナウンサーの村田晴郎さんに各話を実況していただく「実況!けものみち」という企画をWEBで連載していました。アニメの放送に合わせて毎週1話更新となると、やはり本誌では不可能なスピード感ですよね。
── 本誌からこぼれた企画、本誌ではできない企画をWEBで実現させるんですね。WEB媒体も含めると、アニメの情報を扱うメディア自体の数は増えました。その中で、アニメ雑誌の役割も少し変化していくのでしょうか?
澁野:編集長とは、「今のアニメ誌は何をコアにして作るべきか?」という話をよくします。あくまで個人的な意見ですが、WEB媒体だと、「特定の共通項を持った作品を並べて紹介する」といったキュレーション的な見せ方をするのは難しいんじゃないかと考えています。また、「その時期に放送されたアニメがまとめられている」という時代性のあるグッズとしてアニメ雑誌を捉えることもできますよね。あとは描き下ろしイラストを発注するのも、現時点ではWEB媒体だと難しいかと思います。
── 最新号では、どんな特集を組んでいるのでしょうか?
澁野:巻頭特集で、『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』を総覧的に深堀りしています。ほぼ全てのキャストにインタビューして、網羅的な特集を目指しました。読者の皆さんが「このキャラクターはこんなことがあったよね」と今までの物語を振り返って懐かしめるような特集になったと思っています。
── たしかに、そこまでのボリュームで“網羅的に見せる”というのは、WEBより紙媒体のほうが向いていますね……!
編集者たるもの、知らないものでも詳しくならなきゃいけない
── おふたりは、どのようなキャリアを歩んできたのでしょうか?
澁野:僕も金内も去年4月配属で、ニュータイプ編集部では同期なんですが、キャリアは全然違います。僕は株式会社アスキー・メディアワークス(2013年にKADOKAWAに吸収合併)に入社して、パソコン誌やビジネス誌を作っていました。だから、もともと情報誌畑の人間ではあるんです。それからコミックスの部数決定や書店店頭の販促施策などを担う営業企画職を4~5年担当し、ニュータイプで編集職に戻ってきました。
── 昔から編集者志望だったのでしょうか?
金内:学生時代からマンガの編集希望でした。高校生のとき、私の通っている学校にマンガ家さんが新連載のための取材に来たんですよ。そのマンガ家さんと一緒にお話を考えたりするのが楽しくて、これをお仕事にしたいと思うようになりました。
── 取材を受けただけではなく、ストーリーまで一緒に考えたんですか?
金内:はい。取材のあと仲良くなって、一緒にご飯を食べに行ったり、映画を観たり、自宅に泊まりに行ったり……。そこから「次号の展開どうしよう?」みたいな相談もされるようになりました。
── コミュ力おばけすぎませんか!?
金内:いや~(笑)。
── 澁野さんも編集者志望だったのでしょうか?
澁野:マンガ家にあこがれた時期もありましたが、自分のスキルでは難しいと気づき、それでも本に関われる仕事ということで編集者を志望するようになりました。マンガ編集をするつもりが、最初はパソコン雑誌を作ることになってしまったんですけどね(笑)。ただ、そこで思い出したのが、同じく編集者だった父のエピソードです。父が編集者として最初に作ったのは、イカの図鑑でした。当然イカになんて全然詳しくなかったのですが、その本を作るために1ヵ月でイカにとても詳しくなったそうです。そんな父に「編集者たるもの、知らないものでもすぐに詳しくならなきゃいけない」と叱られて、素直に「はい」と(笑)。
ニュータイプ編集部は、アニメ・声優好きはウェルカム

── ニュータイプ編集部は、何名くらい在籍しているのでしょうか?
── 編集部は全員アニメに詳しいんでしょうか?
金内:アニメはもちろん、それ以外のジャンルにも詳しいです。みんな得意な領域がバラバラだからこそ、いろいろな切り口が出てくるんだと思います。
澁野:自分の詳しくないジャンルは、他のスタッフに質問できるのが助かりますよね。僕も女性向けは詳しくないので、金内に教えてもらって、「タイBL? 何それ知らない!」みたいに学んでいます(笑)。「これは負けない!」というジャンルを何か持っている人はありがたいですね。
── その「これは負けない!」というジャンルは、アニメに直接関係するものではないといけませんか?
澁野:直接関係しなくてもいいんじゃないでしょうか。たとえば、僕はガンダムに詳しいんですが、正直なところ、プラモとかフィギュアとかアニメ以外の部分のほうが詳しいんですよ。でも、いろんなことを知っていたほうが世界観は広がります。
── 公私混同を避けるために“オタク”を採用しない業界もあると噂に聞きますが、ニュータイプ編集部はそんなことはないのでしょうか……?
金内:ニュータイプ編集部に関しては、アニメ・声優好きはウェルカムです! 「次の号どうする?」みたいな話ができるスタッフがいた方が絶対いい。もちろん「好きなことだけやっていたい」という態度では困りますが、“好きなもの”があった上で、他の分野にも興味を持てる方であれば大歓迎です。