髪が描かれていなくても、かわいい顔か? イラストレーター・らんぐがこだわる“ときめく女の子“
インタビュー/阿部裕華
イラストレーターらんぐさんの個展「君と私の世界(ストーリー)」が、東京・表参道にある「pixiv WAEN GALLERY」にて2023年8月23日(水)まで開催中です。可憐な少女たちの日常と青春が描かれたイラストが多数展示されます。
韓国出身でありながら、日本のカルチャーに多大な影響を受け、日本を拠点とするらんぐさん。イラストレーターとして活躍するまでの道のりを辿ります。また、“シチュエーション”を大切にイラストを描くらんぐさんが考える「いい作品」の定義をお聞きしました。
らんぐさんのイラストメイキングとインタビューが見られる「DrawTube」も公開中です!

- らんぐ
- 韓国出身のイラストレーター。Twitterを中心に女の子の日常とときめくシチュエーションを描く。シリーズ「日常系少女」のイラストを中心に収録した初の画集『内緒だよ!らんぐ画集』(KADOKAWA 刊)発売中。日本に引越して一番のお気に入りは電車で秋葉原に行けること。
昔からかわいい女の子キャラが好きだった
── 絵を描き始めたのはいつ頃ですか?

子どもの頃からですね。好きなアニメやマンガのキャラクターの絵を描きたくて始めたのだと思います。当時からかわいい女の子が好きだったので、女の子ばかり描いていました。
── 当時はどんなアニメやマンガがお好きだったのでしょう。

一番好きだったのは『しゅごキャラ!』です。登場人物がしゅごキャラと合体して変身する“キャラなり”のデザインがすごく好きでした。『魔法少女まどか☆マギカ』や『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』なども見ていました。魔法少女は女の子の憧れですよね。
ほかには、『耳をすませば』『ゆるゆり』『妖狐 x 僕 SS』『デンキ街の本屋さん』『花咲くいろは』『ご注文はうさぎですか?』なども影響を受けていると思います。
── かわいい女の子が登場する作品が並んでいますね(笑)。アニメ、マンガに限らず、影響を受けたクリエイターの方はいますか?

たくさんいるので絞ってお伝えすると、日本だとカントク先生、森倉円先生、よむ先生、比村奇石先生、うみぼうず先生、荻pote先生、Mika Pikazo先生、トマリ先生など。海外だとDSマイル先生、Anmi先生、Nagu先生、坛九先生などに影響を受けていますね。
かわいい女の子を描かれる方は好きになってしまいます。よむ先生と比村奇石先生は、絵自体が好きなのはもちろん、1枚のイラストでストーリーが感じられるところが好きです。坛九先生は中国の方で、女の子のキャラデザがおしゃれでかわいいんです。お名前を挙げた方は背景を細かく描かれている方が多いのですが、自分も背景を頑張って描いているのですごく勉強になります。
合格していた大学の入学をやめ、イラストレーターの道へ
── 今のようにデジタルでイラストを描き始めたのはいつ頃からですか?

高校1年生の時だと思います。美術系の高校に通っていて、周りにはデジタルでマンガを描く子ばかり。自分だけデジタルの経験がないことに焦って、それで始めました(笑)。
── 美術系の高校ということは、当時から絵を仕事にしていきたいと考えていたのでしょうか?

── らんぐさんの画集『内緒だよ!』に「大学に進学したくなくて、Twitterのフォロワー10万人達成を親に約束して、3日に1枚のペースでイラストの投稿を始めた」とあり驚きました。大学に行きたくなかったのはどうしてでしょうか?

高校に進学して絵を描くことは楽しかったのですが、課題が面倒だったり人間関係に飽きたりして、自分の中で学校生活は“退屈なもの”になっていました。だから大学にも行きたくないと思ったんです。とはいえ、そんな中でも行きたいと思えた大学、京都芸術大学のキャラクターデザイン学科を受けて合格しました。だけど、学校生活を過ごすことを考えると不安になってしまって……。
その頃からTwitterでイラストを更新するようになり、フォロワーも増え始めていて。「Twitterでフォロワーを伸ばしたらイラストレーターになれるのでは?」と考え、大学進学をやめてイラストレーターを目指すことを親に相談しました。
── 相談した時、親御さんはどんな反応でしたか?

案の定「ダメだ」と言われました(笑)。親に相談をしたのが2020年1月頃だと思うのですが、何もせずに諦めるのはいやだったので、「もしイラストがダメでも、来年また大学に合格できるように勉強も頑張るから」と言ったんですね。そうしたら「2020年6月までにTwitterでフォロワー10万人を集められなかったら進学しなさい」と妥協してくれて。
そこから、3日に1枚のペースでイラストの投稿を始めたんです。いいイラストが描けてもSNSの更新頻度が月1回くらいでは目立たないだろうと考え、とにかく目立つためにいっぱい投稿しようと頑張りました。ちょうどコロナ禍で多くの人がSNSを見るようになったので、運よくフォロワーが伸び、今に至ります。高校の時の自分が今の自分を見たら驚くと思います(笑)。
日本の活動で重要なのは、やっぱり“言語”
── イラストレーターの仕事は韓国でもできると思うのですが、日本をメインの活動拠点にしているのはなぜですか?

昔から日本のアニメが好きで、日本に憧れていて、日本で活動をしたいと思っていました。また、昔よりは韓国でも仕事を受けられるようになっていますが、美少女イラストの案件は少ないというのもあります。
── 今年は、韓国から日本にお引越しをされたそうですね。

── らんぐさんのように海外の方でありながら、日本でイラストの仕事をしたいと考えている方にアドバイスをするとしたら?

当たり前のことかもしれないですが、大切なのは日本語の勉強です。言葉が通じない人へ仕事の依頼をするのってハードルが高いと思うんですよね。日本語が話せることで「この人になら頼みやすい」と安心感を与えられるので、言語の勉強はすごく大切です。最近は翻訳機能の精度が高くなっているから「日本語ができなくても仕事ができる」と思う人もいるかもしれませんが、ビジネスで使う言葉は覚えておいた方がいいんじゃないかなと。自分も完璧ではないので偉そうなことは言えませんが……。
── らんぐさんは日本語をどんな風に覚えましたか?

日本のアニメが好きだったので、小学校を卒業する頃にはひらがな、カタカナぐらいは覚えていて、中学生くらいになると、Discordで日本のお絵かきフリーサーバーに入って会話もしていました。ただ「お嬢様みたいな喋り方ですね」と言われて恥ずかしくて(笑)。その後、日本の大学を受験するために単語を勉強したり、日本のバラエティ番組を見て自然な話し方を勉強したりしました。そうしたら今度は「少年みたいな喋り方ですね」って言われることが多くなっちゃいましたね(笑)。本だけで勉強するとどうしてもかたい日本語になってしまうので、日本人の友達をつくったり、バラエティ番組やYouTubeを見たりして、日常的なやりとりで使う言葉を勉強するのがいいかなと思います。
最初に考えるのは、“ときめくシチュエーション”
── らんぐさんは現在どんな作業環境で絵を描いているのでしょうか。

ソフトは「CLIP STUDIO EX」、板タブは「Wacom pth-660」、液タブは「Wacom Cintiq 13HD」を使っています。線画は液タブで、それ以外のラフや塗り、加工は全部板タブで作業しています。
── 板タブと液タブを使い分けているんですね。

実は腱鞘炎を患っていまして……。もともとは板タブですべての作業を行っていましたが、線画を描くのに時間がかかってしまうんです。液タブなら見えるところに一発で線を描けるので、作業スピードを上げるために線画だけ液タブを使っています。線画以外の作業は、液タブだとどうしても慣れないので板タブで作業しています。
── どんなプロセスで絵を描いていますか?

「女の子がこういうことをしていたらドキッとする」とときめくシチュエーションを考え、それを基にカラーラフを描きます。そのあとは、線画、塗り、加工、仕上げの流れですね。
── イラストを描いている途中で「このシチュエーション、ときめかないな……」と思うことはないのでしょうか?

最初から最後までストーリーを考えてからイラストを描くので、そういうことはあまりないですね。イラストに添えている言葉は女の子のセリフなのですが、「こっちのセリフの方がもっとキュンとするかも!」と、セリフを変更することはありますね。
── pixiv投稿作ですとタイトルの部分ですね。最後に考えるのではなく、最初から考えているんですね。

そうなんです。セリフも含めてシチュエーションを考えてから描きます。だから、途中で大きく路線変更しないのだと思います。ただ、描き進めていく中で「直球で伝えるよりも、ちょっと遠回しの方がかわいい!」「遠回しよりもここは直球の方がときめくな……」と感じることがあるので、それを変更する感じですね。
── それによって表情やポーズが変化することはありそうですね。背景を描くうえで意識していることはありますか?

キャラクターたちが実際に生きている感じを出したいので、駅のホームや街中、学校、ゲームセンターなど、実在する場所をリアルに描くことにこだわっています。シチュエーションは自分の理想、背景は現実に寄せているので、見る人に理想と現実の狭間に没入してほしいですね。
キャラクターは“髪が描かれていなくてもかわいいか”が大切
── らんぐさんは先にキャラクター設定を考えたうえでイラストを描くのか、描いたあとや描きながらキャラクター設定が出来上がっていくのか、どちらでしょうか?


剣道部の部長さんは設定を少しだけ決めてイラストを描いていて、アイドルちゃんはキャラデザを先に考えてから設定を少し決めました。一番新しいキャラクターの風紀委員長ちゃんはストーリーまで考えてキャラデザをつくりました。最近は、設定やストーリーを先に考えてから描くようになっているかもしれません。
── 他にも昔と比べて変化したことはありますか?

2020年頃のイラストを見ると、幼い印象の女の子のイラストが多いですね。技術的に描ける絵が限られていて、理想通りにならない部分も多かったのですが、最近は自分の理想に近い絵柄に変化した気がします。周りの人たちからも「頭身が高くなったよね」「キャラクターの年齢が変わったよね」と感想をいただくようになって、より変化を感じています。
── 髪色や服装なども“イマドキの女の子”という印象です。キャラクターのファッションで参考にしているものはありますか?

基本的にファッションはPinterestを見ています。アイドルちゃんは、Instagramで実際のアイドルの私服をいろいろ見て参考にしましたね。部長さんのようにちょっと地味なキャラクターには、自分の持っている服を着せています。
── 美少女イラストを描く時に「ここだけは外せない」というポイントはありますか?

やっぱり顔が一番大事だと思っています。みんな最初に描く人体のラフって坊主頭の状態だと思うのですが、それでも「顔がかわいい!」と納得できたら髪を描き足していきます。本当に美人な人って髪型に関係なくキレイだと思うんですよ。それはイラストでも同じことかなと。
キャラクターのバックボーンや先の展開が気になるイラストが好き
── ずはり、らんぐさんにとって「いい作品」とは?

1枚の中でストーリーを感じられる、想像力が掻き立てられる作品ですね。例えば、キャラクターのバックボーンが分かるような演出が入っていたり、先の展開が気になったり、1枚でいろんなことを考えさせられるようなイラストが好きです。
── ご自身の作品で、特にうまくいったなと思うものをご紹介いただけますか?

一つ目は「バレンタイン、普段より早く登校してみた」。普段より早い時間に登校したら、自分の下駄箱に部長さんがチョコを入れようとしているイラストです。バレないようにチョコを渡そうとする部長さんの性格が分かったり、このあとの展開が気になったりするのがときめくシチュエーションだなと思います。

もう一つは、「…クリスマス暇?」。夜コンビニの前で話していて、もう少し一緒にいたいアイドルちゃんが男の子の服を掴むのだけど、直球で「まだ行かないで」とは言えないから、「クリスマス暇?」と話題を出すようなシチュエーションです。自分的にもめちゃくちゃ最高なシチュエーションだと思っています(笑)。このイラストも「この先、どうなるんだろう?」と想像力が掻き立てられるのではないかなと。
── 自分で「いいイラストが描けたな」と思えるのは、どのタイミングですか?

自分の描いた絵については、「この絵めっちゃいいわ」という自信作を投稿して、皆さんからたくさん反応がもらえて、「自分とみんなの理想が一致したんだ!」と思えた時ですね。「らんぐの理想のシチュエーションいいわ」と認めてもらえると、「いいイラストが描けたな」と思います。
── 「らんぐさんのようになりたい」と思っている人や、これからイラストレーターになりたい人に伝えたいことはありますか?

ブルーアーカイブの音楽クリエイターに個展BGMを依頼
── ここからは個展「君と私の世界(ストーリー)」についてお聞きします。個展開催までの経緯を教えてください。

2年前に日本で初の個展を開催したのですが、コロナ禍で会場にも行けなくて、「ぴえ〜ん」って感じでして(苦笑)。それとは別に、憧れの作家さんたちが個展を開いてきたWAEN GALLERYさんで、自分の個展をすることが夢で憧れだったんです。だから個展のご提案をいただいたとき、とても嬉しかったです。ちょうど日本に引っ越す計画をしていて、「準備もめちゃめちゃしやすいし、これは頑張るしかない!」と思い、今回の開催となりました。
── メインビジュアルはどのようなイメージで制作したのでしょうか?

開催時期が8月で、日本の夏はすごく暑いイメージがあったから、涼しげな爽やかさを意識したイラストを描きました。

WAEN GALLERYには何回か行ったことがあるのですが、表参道は若い人が多い印象を受けました。5月に森倉円さんの個展にお邪魔したとき、若いカップルがWAENの前を歩いていて、彼氏さんが「この人のイラストめっちゃいいよ! 見に行こうよ!」と彼女さんを連れて会場に入っていくのを見たんです。なので、今回のメインビジュアルを描く際には、Instagramで若い女の子たちの写真を資料にしました。その中でも特に、“ギャルピース”のポーズがイマドキの女の子っぽくていいなと思って取り入れています。
── 夏を感じる素敵なイラストです! 今回の個展で特に注目してほしいポイントはありますか?

会場に流れているBGMですね。自分がハマっているゲーム『ブルーアーカイブ-Blue Archive-』の音楽を担当しているミツキヨさんとNorさんに、楽曲制作をお願いしました。せっかく自分の個展をやるなら自分が好きな曲を流したいなと。勇気を出してお願いしてみたら、まさかのご快諾をいただいて……! ミツキヨさんからは1曲、Norさんからは2曲ご提供いただきました。「成功したオタクじゃん!」と思っています(笑)。
── BGMはらんぐさんが細かく要望を出したのでしょうか? それともおまかせですか?

おまかせで自由につくっていただきました。お二人とも自分のことは知らないだろうから曲を書いていただけるだけでありがたいと思っていたのですが、ありがたいことに二人とも自分のイラストを見てくださっていて……! 「pixivに投稿されているイラストにインスピレーションをもらって曲をつくってみました。どうですか?」とデモを送ってくださったんですね。デモから自分のイラストをしっかり見てくださっていると伝わる、日常感あふれる楽曲で、すごく感動しました。お二人の個性もしっかり反映されていて、完成版もめちゃめちゃいい曲だったので、会場に足を運んでくださった皆さんにもぜひ聴いてほしいです。
── 展示物に関してはいかがですか?

イラストはもちろん、イラストに登場するぬいぐるみやアクセサリーなどを実物大で再現して展示しているので、そこも注目してほしいです。「らんぐの描いたキャラクターたちが日本のどこかに存在しているんだ!」と感じてもらいたいですね。写真をいっぱい撮ってください!
── 楽しみにしているグッズはありますか?

── それは楽しみですね。最後に、今後どんなお仕事に挑戦していきたいか教えてください。

最近はゲームやアニメの原案、それにVTuberやMVをはじめとした音楽系のイラストのお仕事に興味があります。あとは、アメリカで開催されている「Anime Expo」でライブビューイングのお仕事もやってみたいですね。最近はキャラデザを考えることが楽しいので、自分がキャラデザしたギャルゲーなどキャラデザのお仕事も……挑戦してみたいことはいっぱいあります!(笑)
8月23日(水)まで開催中!らんぐ個展「君と私の世界(ストーリー)」
pixivとツインプラネットが共同運営するギャラリー「pixiv WAEN GALLERY by TWINPLANET × pixiv」にて、 らんぐさん個展「君と私の世界(ストーリー)」が7月26日(水)まで開催中です。
ときめくシチュエーション × かわいい女の子、というらんぐさんのこだわりのイラストをご堪能いただけます。会場BGMはらんぐさん直々のオファーで、人気ゲーム「ブルーアーカイブ -Blue Archive-」のBGMを手掛ける作曲家のNor氏、ミツキヨ氏が担当します。
開催期間:2023年8月4日(金)〜8月23日(水)
定休日:なし
入場無料
所在地:東京都渋谷区神宮前5-46-1 TWIN PLANET South BLDG. 1F
営業時間:12:00~19:00
一部グッズはWEB販売も!
BOOTHにて個展販売グッズの一部をご購入いただけます。アクリルキーホルダーやチェキ風カード、アクリルジオラマなど、らんぐさんの描く美少女イラストにぴったりなグッズが揃っていますので、ぜひ覗いてみてください。