これが水彩ペンの底力! グラデーション×濡れで「やわらかカワイイ」塗りを作る3つのコツ

小さい時に憧れた「少女マンガの巻頭カラー」。カワイイ女の子を透明感がある塗りで描きたい! と思いつつ、自己流だからなのか、画材の効果的な使い方がわからない、イメージとは全然違う仕上がりになってしまった……なんてことはありませんか?
ペンや色鉛筆などをはじめ、身近ゆえにわかりづらいアナログ画材でのイラストの描き方を教えてくれるのは、instagramでも人気の作家・川名さん。海外のファンも多く、雑誌でのメイキングをはじめ、わかりやすい解説が反響を呼びイベントでの講師も務めています。
今回はトンボ鉛筆の水性グラフィックマーカー ABTを使い、グラデーションや濃淡の作り方、描写がにじまないコツ、質感をアップするハイライトなど、初心者がつまずきがちなテクニックを肌・髪・服を中心にたっぷりご紹介いただきます。
アナログ塗りをワンランクアップさせたい方はもちろん、画材の選び方がわからず迷っている方にもオススメです。
実は失敗してもやり直せる!? 川名流アナログ彩色のススメ

── マーカーやペンでイラストを塗る時、初心者の方がつまずくポイントはありますか?

講習会などで初めての方にもお教えする機会があるんですが、線画から色がはみ出さないように境界線をキッチリ塗り込みすぎる方が多いです。そうすると、境界線の近くだけ複数回塗ることになり、そこだけ濃くなってしまってイラストの全体のバランスが崩れてしまう、ということが多いです。
── わかります。ペン画は、鉛筆やデジタルのようにやり直せないかも……という怖さから、思い切ったことがしづらくなりますよね。

実は、マーカーでも水彩でもちょっとしたした失敗くらいなら、やり直すことができます。たとえば今回使うABTマーカーだと本来色を混ぜたりぼかしたりする00番カラーレスブレンダーというペンが、リムーバーとしても使えて、線画からはみ出た部分に塗り、色を浮かせることで多少のやり直しが可能なんです。なので、恐れずに挑戦してみてほしいですね。
── デジタルでなく、あえて自分の手で色を塗ることの楽しさは何でしょうか。

かわいい肌を塗るポイントは隅々まで塗る&単色グラデ!
基本の肌色はしっかり隅々まで塗る!

「色が濃く思えても、他の部分を塗っていけばちょうどよくなるので勇気をもって!(川名さん)」

肌の色は髪の上にはみ出るくらいに塗ってOK。「髪の毛を塗るときに、間から肌色が見えてちゃんと仕上がります。濃すぎた時は水筆で伸ばしておきましょう(川名さん)」
単色グラデーションで肌の柔らかさを表現

肌の下塗りが終わったら、しっかり乾かした後に濃淡を入れて、顔の凹凸をつけていきます。
「ほっぺと、鼻と口を結んだ十字の位置に下塗りと同じ色をもう一度塗っていきます。ABTはムラになりにくいので強気に進めます(川名さん)」

「チークは、頬骨のあたりに赤い色(772)を置いて水筆で伸ばし馴染ませればOKです! ここでは絵全体を見ながら、大きなブラシでポンと色味を置くイメージで。細部にこだわってバランスを崩さないよう、俯瞰で見ることが大事です(川名さん)」
影色に赤を使うことで、血色のよい仕上がりに。

肌に全体的な濃淡が入れたら、髪の毛で落ちる影や、あかりが直接当たらずに暗くなる部分に、濃い茶色などの赤味が入った色(817)でシャドーを描き込んでいきます。
「これは好みですが、作家さんや絵の雰囲気によっては紫の影にすることも。アニメ塗りのようなパキッとした影を入れたいので、にじまないように十分乾かしてから作業しましょう。水で伸ばすグラデーションと、パキッとした影の使い分けが肌を塗るときのコツです(川名さん)」
2種類のグラデーションの作り方をマスター
グラデーションの作り方その1:水筆で濡らし色を重ねる

シフォンなどの柔らかな素材の服の場合、直接光があたる場所だけあけておきながら、基本となる服の色(620)から塗っていきます。服のベースが塗れたら、残した部分を水筆で湿らせます。

水筆で湿らせた服の明るい部分に水色(491)を乗せ、にじみを使ってグラデーションを作ります。
「明るい色は髪の毛の一部にも使うことで、差し色として全体がまとまった印象になります。また滑らかなグラデーションは、水彩ならではの味にもつながりますね(川名さん)」
グラデーションの作り方その2:明度が似た色をペン先で重ねる

リボン部分は赤とオレンジ(817と933)、明るさが似た2色を使ってグラデーションを作ります。明度が近い色の場合は水筆を使わずに直接ABTマーカーでこすってグラデーションをかけるほうが奇麗に仕上がります。
ABTは色番号の下一桁が色調を表しています。0が薄い色、9が暗い色となりますので参考にしてください。
水筆とマーカー、2つのグラデーションを比較
水筆で馴染ませたグラデーション(各色の右)と、直接マーカーで作ったグラデーション(各色の左)はこんなに差がでます。
「水筆で伸ばす方法は色を薄めながら伸ばすので、リボンのような明度の近い色のときは、グラデーション部分だけ色が伸びて薄くなってしまいがち。直接マーカーで仕上げたほうがオススメですね。逆に服の紫〜青のように同じ系統の色でも明度が違う場合は水筆で濃い色のほうを伸ばすようにグラデーションを作ると自然に仕上がります(川名さん)」
重ね塗りは、下地の色がしっかり乾いてから

「アクセサリーや小物の塗りで、わざとにじませて味をだすこともありますが、基本的にグラデーションをかけたくない場所の重ね塗りはしっかり乾いてからが鉄則です! これを知っておくと、意図しないにじみを防止できますね(川名さん)」
服の仕上げ
影は大きいパーツから、形を取りながら進める

「最初から細かい影をつけるのは禁物。全体のバランス見ながらざっくりと影を入て細かなパーツへと進めます。色が濃い場合はクリアファイルなど、つやつやした素材のものをパレットにして、水筆で溶いて薄くしてから塗っていくといいですよ(川名さん)」

「濃い部分から薄い部分へ伸ばすように広げる。フレアなどの影が細かい部分はあとでベースが乾いてから塗りましょう(川名さん)」
細かな描写はマーカーがよく乾いてから!
大きな影を描く、しっかり乾かす、濃く細かい影をパッキリと描くというステップを守ります。
「しっかり乾いていたらにじみがなくなるので、細かい影だけでなくリボンの柄や、ステッチなどの細かい部分も安心して描写を重ねられます(川名さん)」
つややかな髪はこうやって作る! 毛束感を活かす3ポイント
全体に共通した差し色を、ベースの髪色の後に加える

髪の毛も肌と同様、塗りのこしができないように塗っていきます。統一感を出すため、髪の毛の外側に面した毛先は、服の明るいところで使った差し色・水色(491)を入れました。

「ベースの黄色が乾く前にすると、色が混ざって意図しない緑色になったりするので、どんな髪色にしたいのかを見極めて!(川名さん)」
パーツの形にそって影色に暗めの色を加える

つややかな髪を描くのに欠かせないハイライトは、ベースの髪色を残すことで表現します。ハイライト部分の下側にベースより濃い色(992)を塗って、ベースの髪色のマーカーで伸ばしてグラデーションにしていきます。

濃い髪色で毛束感をつくる

「毛束感をどう出すか悩む方が多いですが、基本的に線画の延長線上に濃い色を線のように入れることで、自然な形に仕上がりますよ。一番濃い影はポイントを絞ってできるだけシャープに入れると奇麗に仕上がるので、この作業の前は十分紙を乾かしましょう!(川名さん)」
仕上げは目にハイライトとステッチを
キャラの命、瞳の塗り方とハイライトは、ホワイト修正液を怖がらないのがコツ!

まずは、白目の部分の影から入れていきます。
「服や髪に使った差し色をここでも使うと雰囲気が統一されて効果的です(川名さん)」

「細かい部分なので、よく乾いてから滲まないようにしっかり塗っていきます。私の場合は、髪や肌は薄いところから濃い影へと塗り進めますが、瞳は濃い部分から塗り進めることが多いです(川名さん)」

「髪の色を残すより、修正液でハイライトを入れたほうが奇麗に入ります。そのまま、瞳の細かい部分にもハイライトを追加していってキラキラした瞳にしていきます(川名さん)」

「ホワイトは修正用と思ってる方もいますが、『もう一つの特別な色』として捉えて活用すれば、完成度があがります。線画の強調したいところのすぐそばにホワイトを入れたり(キワ表現と呼ばれる表現)、遊び毛の表現にホワイトを線として使ったり、どんどん工夫してみてください(川名さん)」

仕上げ段階で質感を出す応用テクニックとして、ミリペンで細かいディティールを描き込む技も有効です! ボタンの細部や、アイラインの補強などに線画と同じ色のミリペンで描き込んでいきます。
「細かいディティールは、最初に描いてしまわずに最後にすることで塗りも細部を避けて不自然になったりしにくいですし、万が一のにじみも防げますよ(川名さん)」
完成

特徴のある水筆・00カラーレスブレンダーは大胆な表現を可能に。
── 川名さんはマーカーで透明感のあるかわいいイラストを描かれます。アナログで色を塗り始めたきっかけはありますか?

── アナログの画材の中でマーカーを選ばれた理由は?

自分がものぐさだったから……でしょうか(笑)。透明水彩絵の具とかだと、水を筆洗に用意して、パレットに、絵の具の混色も絶対すぐ必要ですし。マーカーだと、そのまま塗ってもいいし、混色だって大丈夫。パッと出してすぐに作業できるのが性に合っていたんですね。即売会やイベントでも絵の具を広げなくても作業ができるメリットはすごく感じます。
── 今回、トンボ鉛筆のABTシリーズを使っていただきました。使ってみての感想はいかがですか?

── マーカーでの挑戦したい人へ、川名さんから色を購入するときのポイントやアドバイスはありますか?

まずは、肌の塗る色は全員買うと思うので1本。次に、水筆も用意してほしいですね! 水筆があるのとないのでは、表現の幅が全然違います。もし穂先に別の色がついてしまった時は、不要な紙に筆記するなど穂先をきれいにしてから保管すると長く使えます。
あとは、最初のうちは濃い色ではなく薄い色を中心に買っていくといいと思います。濃い色のほうがキャッチーに見えますが、キャラクターを塗る場合、薄い色を重ね塗りすることで濃いところ、薄いところのグラデーションが出て綺麗に仕上がります。なので、まずは薄めの色で自分の好きな紙だとこれくらいの明るさで描けるんだな、と「カン」を養って、色のバリエーションを増やすといいと思いますよ。
私だと、今回のミニ色紙くらいの作品で12色、大体は24色以内で制作するので、参考にしてみてください。

今回の作例でメインに使用したABTマーカーがこちら。想像より少ない色数でできているのが驚きですよね! 00番カラーレスブレンダー も、細かな修正作業にも役立つことが、今回の企画を通じてわかりました。
「最初はお気に入りの色を買うので大丈夫ですが、重ね塗りすれば濃くなる『薄い色のマーカー』を揃えていくのがオススメですよ。ABTは薄い色でも発色はキレイなので、重ね塗りしても濁りにくいので透明感がある仕上がりができますよ! 大胆に勇気を持って取り組んでみてください。あなたにしか描けない作品が、きっとあるはずです(川名さん)」
今回使用した色一覧
817、850、942、491、620、N49、N89、N60、933、N00、761、020、772、992
ABTの最大の特長はペン先とインクにあります。
ペン先はしなやかに太く細く、自在に描けるブラッシュ(筆)芯と、細かな部分も正確に表現できる細芯のツインタイプ。そしてインクは鮮やかな水性染料インク108色をバランスよく色構成しており、ドローイングには不可欠なグレー系も充実しています。 水性染料インクならではの豊かな発色と表現力、そして手軽に色をブレンドできるのもABTの魅力。色を掛け合わせることで描ける色がどこまでも無限に広がります。
はみ出してもあとでリカバリーできる!
色がはみ出て失敗した! というときもABTの00番カラーレスブレンダーがあれば大丈夫。はみ出た色のところにリムーブ用に塗り、にじみを追い出すように筆を動かすことで修正も可能に。「少々の失敗を恐れてアナログは怖い! と思う人は多いけれど、ちゃんとリカバリーできます(川名さん)」