好きなものに囲まれた趣味空間。極彩色の魔術師・藤ちょこさんの仕事場に密着 #DESKWATCH

インタビュー:伊藤桃香(ヴィ) 撮影:関口敬文(ヴィ)
イラスト、漫画、アニメ、動画、音楽……さまざまなジャンルで活躍するクリエイターたちの制作デスクにスポットを当てる連載企画『#DESKWATCH』。珠玉のクリエイティブがどのような環境で生まれるのか、プロのクリエイターはどんなツールを使っているのか、写真とインタビューでじっくり迫ります!
第3弾となる今回は、ライトノベル『賢者の弟子を名乗る賢者』や小林幸子さんの CD『さちへんげ』ジャケットなどの数々の美麗イラストを描かれる藤ちょこさんのお仕事環境を取材。好きなものに囲まれた空間のなかにある、最先端の実用的デスクに注目です!
第3弾となる今回は、ライトノベル『賢者の弟子を名乗る賢者』や小林幸子さんの CD『さちへんげ』ジャケットなどの数々の美麗イラストを描かれる藤ちょこさんのお仕事環境を取材。好きなものに囲まれた空間のなかにある、最先端の実用的デスクに注目です!
ショートカットキーは一切使わない。作業中は左手が"ニート"状態に

たくさんの資料や書籍のなかに、可愛らしいフィギュアやお気に入りアイテムが所狭しと飾られたコルクボードが並び、藤ちょこさんの仕事場はまさに趣味空間!

そんな場所で、どのようにあの繊細なイラストが生み出されているのか、インタビューと写真で迫っていきましょう。

──使用されているPCと、液晶タブレットのスペックを教えてください。
パソコンは Windows8(64bit)で、パーツを選んで注文したものを使っています。Corei5-3470 3.2GHz、メモリは 8GB、液晶タブレットは Cintiq24HD です。

▲パソコンはコンパクトなキューブタイプ。静音性の高いモデルで、バックアップの HDD が横付けされていました。
──ペイントツールは何を使用していますか。
メインで使っているのはopenCanvas と CLIP STUDIO PAINT(以下クリスタ)です。仕上げには Photoshop も使います。
openCanvas はレイヤーの種類が多いので、仕上げや色の補正に重宝しています。クリスタはデフォルトのブラシの種類が多いので、質感の描写などがすごく楽にできるんですよ。
openCanvas はレイヤーの種類が多いので、仕上げや色の補正に重宝しています。クリスタはデフォルトのブラシの種類が多いので、質感の描写などがすごく楽にできるんですよ。
──クリスタは有志の方が配布しているブラシも多様ですね。
実はあまり配布されているものは使っていなくて、ほぼデフォルトのまま使用しています。いろいろカスタマイズした方がいいとは思うんですが……初期のものに慣れてしまいました(笑)

▲本棚とラックには、資料やマンガがたくさん。
──イラストを描く際、左手デバイスなどのガジェットは使っていますか?
いえ、液晶タブレットだけですね。キーボードもショートカットには使ってないです……。
──……ええっ !?
というか、ショートカット自体を一切使ってないんです。ツールの切り替えなどもすべてペンで操作しています。だから作業中は左手がニートで(笑) 何もすることがないんです。
──ショートカットを使わないというのはとてもびっくりです。左手は……添えるだけ !? 不便ではありませんか?
以前は、ノートPCと板型タブレットで絵を描いていたのですが、実家の机がものすごく狭くて、PCと板型タブレットを並列に置けなかったんです。それで、ノートPCのキーボードの上に板型タブレットを置いて作業していたので、ショートカットを使うという習慣がなくて……。でも、時短のためにもやっぱりショートカットは覚えたいです!

▲ところどころにある小物に目を引かれます。
──なるほど……。ところで、制作中のマストアイテムはありますか?
音楽は常に聴いています。アニメソングや J-POPも聴きますが、最近はVOCALOID 楽曲が多いですね。ニコニコでマイリストを流したり、ランキングを見て気になった曲を聴いたりしています。
──描くイラストの雰囲気によって、聴く曲のジャンルを変えますか?
そうですね。描く絵の雰囲気とか、表現したいものによって、音楽のテイストを変えています。仕事によって絵柄を変えることが多いのですが、透明感のある水彩系のイラストを描くときは、澄んだ雰囲気の曲、重厚感のあるものや立体感のある絵だと重みや深みのある曲がとてもマッチします。あとはそれぞれの音楽から感じる色を絵に合わせることもあります。
パース感覚の訓練は、写真から消失点を見つけ出す練習がおすすめ
──pixivに投稿したイラストの中で一番印象に残っている作品を教えてください。
どれも思い入れのあるイラストなのですが、ひとつを挙げるとするとこれですね。
画集の表紙にもなったイラストで、ここ2年くらいの中では一番時間がかかりました。好きな要素を思い切り詰め込んで自由に描けたのでとてもお気に入りです。
──藤ちょこさんの作品は「極彩色の魔術師」タグの常連で、ピクシブ百科事典の同項でもトップ画像になっていますよね。その配色センスはどのように磨かれたのでしょうか? また、彩色の際に注意していることはありますか?
はじめは自分の色使いについて特徴的だと思ったことはなかったのですが、感想をいただいたとき、色合いについてのご質問が多くて、「もしかしてこの色使いは自分の強みにできるのではないか」と感じました。そこからいろいろと考え出したので、特別な勉強はしていません。
彩色の際には、メインカラーは一番最初に決めておき、色彩遠近法(※1)を意識しています。とはいえ、細かな差し色やちょっとした色の重なりについては、描きながら決めているんですけど。その場その場で、画面のなかのバランスを取りながら進めていくというか……。パズルを組み立てていくようなイメージで塗っています。
ただ全体の印象は、ラフのときの色設計からあまりズレないように気をつけていますね。
彩色の際には、メインカラーは一番最初に決めておき、色彩遠近法(※1)を意識しています。とはいえ、細かな差し色やちょっとした色の重なりについては、描きながら決めているんですけど。その場その場で、画面のなかのバランスを取りながら進めていくというか……。パズルを組み立てていくようなイメージで塗っています。
ただ全体の印象は、ラフのときの色設計からあまりズレないように気をつけていますね。
※1 色彩遠近法…暖色系の色は前方に迫り出してくるような圧迫感を与え、寒色系の色は後方に向かって吸収されていくように感じるという心理的作用や視覚的効果を利用した空間表現法のこと
──独特な背景、オブジェクト、衣装、生物等の発想の源について教えてください。参考にしている資料や影響を受けたものはありますか?
外出するときはデジカメを持って行って、気になった建物や景色を撮るんです。それをストックしておいて、眺めながら構図を考えます。特に海外で撮った写真からインスピレーションを受けることが多いですね。あと、好きな写真集や画集から影響を受けることもあります。
──今まで、どんな国に行ったんですか?
中国やニュージーランドへは、イベントに呼んでいただいたことで訪れました。それから、オランダにも。博物館に日本のアニメや漫画を展示するイベントで、私のイラストも展示させてほしいという依頼をいただいたんです。現地ではライブペイントやトークを行いました。
──ライブペイントは数多くされていますよね。
はい。でも、まだまだ緊張しますね。イベントのときは集中して黙々と描けるんですが……。たまに専門学校で、説明しながら描くことがあるんですけど、もともとしゃべる仕事ではないうえに、頭と手を使うので大変です(笑)
──藤ちょこさんのイラストは、背景の描き込みもすさまじいですよね。パースの勉強方法のコツがあれば教えてください。
最初は自分の好きな写真を模写するとか、写真から消失点(※2)を見つけ出す練習がいいんじゃないかと思います。

これは私が撮影した資料写真なのですが、床や壁の直接をたどって、奥行きの消失点を見つけたり、消失点が画面外にあるときは、キャンパスを引き延ばして線を引いたり……。
こうやって消失点を見つけ出すことに慣れていくと「こういう風景を描くときは、ここに消失点を置けばいい」といった感覚が養われると思います。
こうやって消失点を見つけ出すことに慣れていくと「こういう風景を描くときは、ここに消失点を置けばいい」といった感覚が養われると思います。

※2 消失点…遠近法において、本来平行である2つ以上の線を、平行ではなく表現する場合に、それらが交わる地点のこと
座りっぱなしを解消する最新デスクで集中力アップ!
──制作中についやってしまうクセはありますか?
集中力が切れると Twitter を見たり、pixiv を見たり、ニコニコで動画でVOCALOID ランキングを見たりと、ちょっとしたネットサーフィンをしてしまいます。意外とそれで時間を食われてしまうことも……。
──ちなみに、すぐに集中できる方ですか。
集中力は高くはないです。むしろすぐに気が散ってしまうタイプかも(笑)でも音楽をかけると絵のなかに入り込めるというか、いい導入になるので、曲をかけることで集中力を保っています。
時間帯的には……夜のはじめから日付が変わるくらいまでの時間が、一番集中できる気がします。でも時間帯というよりは、作業の種類によって集中度合いが変わってくるかもしれません。
色塗りが一番楽しいので、すっと集中することができます。あと仕上げはすごく気を使う作業なので、集中せざるを得ないです(笑)
時間帯的には……夜のはじめから日付が変わるくらいまでの時間が、一番集中できる気がします。でも時間帯というよりは、作業の種類によって集中度合いが変わってくるかもしれません。
色塗りが一番楽しいので、すっと集中することができます。あと仕上げはすごく気を使う作業なので、集中せざるを得ないです(笑)
──目や手足を休めるために意識していることはありますか。
液晶タブレットだと目が疲れるので、目薬を定期的に差すようにしているんです。それでも疲れがひどいときは、「蒸気でホットアイマスク」を使って、リラックスしています。
それと、ずっと座りっぱなしだと疲れてしまうので、岡村製作所の「Swift」 という、電動のスタンディングデスクを使っています。ときどき、立って作業するようにしているんです。
それと、ずっと座りっぱなしだと疲れてしまうので、岡村製作所の「Swift」 という、電動のスタンディングデスクを使っています。ときどき、立って作業するようにしているんです。
──何このデスク、カッコいいです!
海外ではちょっと流行っているみたいですよ! 私の場合、座っていると眠くなってしまうことが多いので、眠気覚ましに重宝しています。立って作業することで、強制的に体を起こすというか(笑)

▲電動式のデスクで高さを自由に調節できる優れもの。液晶タブレットと液晶を置いてもスムーズに可動します。
──現在の環境で困っていること、改善したいことはありますか。
そろそろ椅子を買い換えようかなと。今座っているのは 3,000 円くらいのものなんです。「Swift」を買う前にまず椅子を買え、という感じですよね(笑)
──これから制作環境を構築しようとする人が、まず最初に整えるべき、そろえるべきものは何でしょうか。
私は液晶タブレットかなと思っています。もともとアナログで描いていたのもあって、どうしても板型タブレットには慣れなかったんです。液晶タブレットだと、紙に描くのと近い感覚で描けるので、とても重宝しています。

▲デジタルでもペン先を見ながら描けるというのが液晶タブレットの強み。特にアナログに慣れている人ほどおすすめです!
──理想の制作環境について教えてください。
まずは椅子を新調するところからですね。それと、間接照明がほしいです。天井のライトだと、どうしても液晶タブレットに光が映り込んでしまうんですよ。もっと低い位置に照明をつけて、映り込みをなくしたいですね。
他の絵描きさんの制作現場写真を見ると、間接照明が写っていることが多いんですが、きっとインテリアとしてだけでなく、映り込み防止のために置いているんだと思います。
他の絵描きさんの制作現場写真を見ると、間接照明が写っていることが多いんですが、きっとインテリアとしてだけでなく、映り込み防止のために置いているんだと思います。
──なるほど…! 最後に、最近の活動について教えてください!
画集『極彩少女世界』の重版がかかります。去年の 5 月から品切れだったので、ようやくです。よろしくお願いします!

▲株式会社ビー・エヌ・エヌ新社から出版されている、藤ちょこさんの個人画集。品切れが続いていましたが、ついに再版決定!
──ありがとうございました!
制作デスクに垣間見るクリエイターの軌跡
藤ちょこさんの仕事場は好きなものに囲まれた楽しい部屋̶というだけでなく、まるで IT 企業のオフィスにありそうなスタンディングデスクが設置されており、実用面がばっちり考慮されていました。
プロのイラストレーターといってもやはり人間ですから、作業中に眠くなってしまったり、集中力が切れてしまったりすることも少なくありません。しかし、仕事をするうえで重要なのは、そういった問題をいかにして乗り越えるかということ。そんなクリエイターの創意工夫にも、それぞれの個性が見えてきます。
制作環境、デスクまわり、そして絵の描き方というものは、一朝一夕でつくられるものではありません。そこには、クリエイターのこれまでのさまざまな積み重ねがあるのです。それを垣間見ることで、彼らが辿ってきた軌跡に思いを馳せることができるのではないでしょうか。
この連載では、そんな興味深い"制作デスク"にスポットライトを当てつつ、クリエイターの素顔に迫っていきます。次回も引き続きお楽しみに!
プロのイラストレーターといってもやはり人間ですから、作業中に眠くなってしまったり、集中力が切れてしまったりすることも少なくありません。しかし、仕事をするうえで重要なのは、そういった問題をいかにして乗り越えるかということ。そんなクリエイターの創意工夫にも、それぞれの個性が見えてきます。
制作環境、デスクまわり、そして絵の描き方というものは、一朝一夕でつくられるものではありません。そこには、クリエイターのこれまでのさまざまな積み重ねがあるのです。それを垣間見ることで、彼らが辿ってきた軌跡に思いを馳せることができるのではないでしょうか。
この連載では、そんな興味深い"制作デスク"にスポットライトを当てつつ、クリエイターの素顔に迫っていきます。次回も引き続きお楽しみに!