「界隈のルールが厳しくこわい」ルールは大事だが注意の仕方も大事/カレー沢薫の創作相談

文/カレー沢 薫
「界隈ルール」が厳しく、怒られたことがトラウマに
趣味の世界なんだからルールとか固いこと言わずに自由にやればいいじゃんと思わなくもないですが、野球だってルールがなければ「まず大谷の頭をフルスイング」というサインが三打者連続で飛んでゲームが成り立ちませんし、毎回死傷者が出て野球の試合自体禁止になってしまうかもしれません。
二次創作に寛容な公式とて、自分の界隈があまりにも地獄甲子園だと見て見ぬふりもできず、何らかの規制を出さざるを得ないこともあります。
お上に取り潰されることなく、楽しく、何より安全かつ平和にやっていくには、趣味の世界とてルールは不可欠と言えるでしょう。
しかし現実社会でも、意味のあるルールだけではなく、全く意味不明な上に、ただ物事を面倒にし、さらに場の空気までピりつかせるものが横行してしまうことがあります。
同じように二次界隈でも公式が出したガイドライン以外にもあなたのジャンルのように界隈独自のルールが厳しくなりすぎてギスギスしたり、無差別に「知らないんですか?」と書かれた火炎瓶をマシュマロに投げつける辻キャンプファイヤーが横行したりして、平和と安全を守るはずだったルールが却って治安を乱してしまうことが珍しくありません。
とはいえ、やはりルールは必要であり、ルールで取り締まる人も必要なのです。
全裸で外に出てはいけないという法律があっても、全裸の人を取り押さえる人が誰もいなければ、我々の社会は5人に1人は全裸の無法地帯になっていることでしょう。
注意してくれる人がいるおかげで、ルールが機能し治安が守られているという側面もあるので、ルールに厳しい人が全く不要というわけでもないのです。
しかし、どの程度ルールが必要なのかの難しい問題ですし、現実社会であれば警察という法を執行する職業の人がいますが、同人界隈にいるのは大体私人逮捕系なので、あまりにもそういう人が跋扈しすぎると、怖くて活動ができなくなってしまいます。
ルールとそれを注意する人は必要だが、それはどこまで必要なのかはどの世界でも難しい問題です。それに、そもそも個人で界隈の風潮を変えられるというわけでもありません。
お悩みも界隈を変えたいのではなく「そういう厳しい場でどうやって平和かつ安全にやっていくか」だと思います。怒られを回避するのが最善
ならばルール内容の是非やそれが蔓延する界隈の風潮の良しあしはこの際考えず、まずは「死んでも怒られたくない」という強い気持ちを持ちましょう。
公園を散歩してたら、突然知らない老人に「この公園は左回り不可なんだよ!」怒鳴られたとします。
明らかに意味のないルールですし、その老人にそんなことを強要する権限はないでしょう。
人並み以上のメンタルがあれば「厄介な奴に絡まれたぜ」で済ませられるでしょうし、強ければ「いつからここは中山レース場になったんだ?」と応戦も可能かもしれません
しかし気の弱いタイプだと、内容に関係なく「突然怒鳴られた」という現象に恐怖し萎縮してしまい、リカバリーもできず、自分が全く悪くなくてもその公園をセルフ出禁してしまったりするものです。
あなたが破ったルールがどの程度のものなのかわからないので、もしかしたら帝の命を狙うレベルの大罪を犯しているのかもしれませんが、1回の怒られがトラウマになっているあたり、そこまで大それたことはしてないでしょうし、そんなに神経が太い方でもないと思われます。
そういうタイプは結局「最初から怒られを徹底的に回避する」ことが最善だったりします。
逆に「ルールを守るだけで怒られないなら安いもの」と考え、範囲広いしどんどん増えるからわからん、ではなく界隈のルールにもっと敏感になり、極力守るように心がけてみてはどうでしょうか。
誰かの逆鱗に触れる可能性は常にある
ルールが厳しい上にどんどん増えるという現象は二次界隈だけではなく、我々商業界も同様です。コンプライアンス意識が急速に高まったことにより、描いてはならないことが各段に増えましたし、中には「それはさすがに気にしすぎだろ」みたいなことにストップがかかったりもします。
それに対して作家が反抗したり、炎上を恐れて日和った表現に描きなおしているかというと、私は「代替え案を考えるのすら放棄して全削除」したりしますが、多くの作家は現在のルールの中でさらに面白いものを描こうとしています。
面倒でもルールはルールとして受け入れ、その中でどう自分の描きたいものを描くか考えるのも創作者の腕の見せどころと考えてみてはどうでしょうか。
しかし、商業作家であれば担当とか校閲とか通すので世に出る前に「実在の歌詞の引用は危ないのでやめましょう、アゲハ蝶を知らない世代も増えてますし」という指摘が入り、それに対し「ポルノを推しカプのイメソンにしたことがないガキにガタガタ言われたくねえ、ヒラリヒラリと舞い遊ぶトビウオのアーチをくぐってここでキスしてやろうか!」と内心でキレて全削除という工程を経ることができます。
個人の趣味だとそれが難しく、どれだけ気を付けても「また知らない内にルールを破ってしまうのでは」という恐れは消えないでしょう。
しかし、何重にもチェックした上で燃えることだってありますし「空が青い」とつぶやいても「それはあなたの感想ですよね、緑と感じる人を否定するんですか」とつっかかられるかもしれません。
つまり「誰かの逆鱗に触れる可能性をゼロにして何かを世に発表する」というのはほぼ不可能であり、それでも怒られたくなくなければ「出さない」以外ありません。
「注意の仕方」にも常識とマナーがある
いっそ出さずにしばらく様子を見る、というのもありかもしれません。
あなたのジャンルが何かわからないのではっきりしたことは言えませんが、ルールが乱立し、それを取り締まる人間が活性化して界隈がギスギスするというのは、新しくて勢いのあるジャンルにありがちなことです。
数年前「C」というジャンルがまるでウイルスのように世界中に広がり瞬く間に最大手ジャンルとなりました。
そしてすぐに不要不急の外出を控えるなどCに関するガイドラインやルールが多々作られ、自粛警察と呼ばれる人たちが、ある意味Cよりも強い殺傷力でルールを守らない人を攻撃するという現象が起きたのです。
しかしある程度時間が経つと、ジャンルの人口が減ったわけでもないのに警察の数は大分減っていたように思います。
もしかしたら、あなたのジャンルも今が一番住民全員が血気盛んで警察もはりきっている時期かもしれず、そんなときはどんなに気を付けても些細なことで怒られたりするものです。
どんなクライムシティもいつかは落ち着くので、メンタルに自信がなければジャンルの雰囲気が落ち着くまでロムっておくのも良いかもしれません。
また、自ジャンルのルール緩和を願うなら「自分はルールに寛容になる」ことも大事です。
今警察をやっている人も「自分は怒られたのに同じルールを破っている奴がおとがめなしはおかしい」という理由で警察をやっているのかもしれません。
意味不明な細かいルールを破っている人がいても自分は目くじらを立てない、そしてもし新参の人が守った方が良いルールを知らずに破っているようなら、いきなり強い言葉で怒鳴りつけるのではなく「ご存じないかもしれませんが、外に出るときは服を着た方がいいですよ」と優しく丁寧に教えてあげましょう。
ジャンルのルールも大事ですが「注意の仕方」にも常識とマナーがあると思います。
それを無視していきなり殴りかかって来る時点で相手もルール違反なので「お互い様」と思ってあまり気にしないようにしましょう。

カレー沢さんこんにちは。私が今いるジャンルは、創作における「界隈ルール」的なものがかなり厳しいです。 元々あるルールはもちろん、知らないうちに新しいルールができていることもあります。決して狭くない界隈である上に、あまり交流しないタイプなので、新しいルールを中々把握しづらいのが現状です。 私自身、先日知らないうちに新しいルールを破ってしまっていたようで、界隈ルール警察のような方に「他の方の創作見ていないんですか?」「どうしてわからないんですか?」と高圧的な態度で注意を受けました。それ以来、「またルールを破っているのでは?」「ルールを破ってしまう危険があるならば、二次創作をアップしない方がいいのでは?」と、ちょっとしたトラウマのようになってしまっています。 界隈ルールや界隈ルール警察とは、どのように折り合いを付けるべきなのでしょうか。