WEBTOONとは? 日本からヒットは生まれる? WEBTOON有識者に全部聞いてみた!【ウェブトゥーン入門】
今話題のWEBTOONの情報をお届けする連載企画「ウェブトゥーン入門」。第一弾記事では、有識者にWEBTOONの歴史や未来について聞きます。

インタビュー/原田イチボ
『梨泰院クラス』、『Sweet Home』、『今、私たちの学校は…』など、WEBTOON発の作品が次々と実写ドラマ化され、世界中でヒットを飛ばしています。WEBTOONとは、韓国発のデジタルマンガの一種で、スマホ閲覧に適した縦長形式とフルカラーであることが特徴。2028年にはWEBTOONの市場規模は262億1,359万米ドル(約3.3兆円)に達するとの市場予測もあります(グローバルインフォメーション調べ)。近年は国内でも制作スタジオが立ち上がるなど、日本産WEBTOONを生み出そうとする動きが活発化しています。
盛り上がりを見せるWEBTOONについて、WEBTOON情報サイト「WEBTOON INSIGHT」日本版の編集長を務める福井美行さんにお話を伺いました。

WEBTOONが縦長なのは、スマホに合わせた訳ではなかった⁉︎
── まずは福井さんの経歴を教えてください。
福井:日韓の文化交流ビジネスに長年携わり、韓国に住んでいた時期もあります。その中で韓国発のカルチャーであるWEBTOONに関心を持つようになり、2015年に「WEBTOON INSIGHT」日本版を立ち上げました。今年3月にはWEBTOON原作分析とコンテ制作を行う「ARC STUDIO JAPAN」を発足するなど、日本でもWEBTOONを盛り上げるためにいろいろ仕掛けています。

福井さんが制作に携わったマンガ作品。韓国の作家を起用したものが多い。
── WEBTOONはどのように生まれたのでしょうか?
福井:それを説明するには、韓国のインターネットやマンガの歴史が絡んできます。韓国は1997年に通貨危機を経験しまして、IMFというところから融資を受け、そのお金をブロードバンド推進に使いました。そのためインターネット環境が日本に先駆けて普及してデジタルコミックの普及基盤もできたのですが、マンガの不法流通も起きました。ウェブハードにマンガのデータが勝手に共有されるようになり、作家や出版社に収益が入らなくなってしまいます。そこで救いの神となったのがポータルサイトのDaum(現在のKakao)であり、NAVERです。ポータルは無料でマンガが読めるので、不法流通する必要がなかったんです。
── インターネット普及とそこから起こったことが、WEBTOONが生まれた背景にあるのですね。
福井:WEBTOONが縦長なのは、ポータルを閲覧するウェブブラウザでスクロールして読むものだったからです。作家たちは爪楊枝のような細長いデータをページに貼り付けていました。そうするうちに2010年代、スマホがどんどん普及していきます。スマホの縦長の画面は、WEBTOONを読むのにぴったりです。そうした偶然が重なり、WEBTOONが一気に盛り上がっていきました。
── なるほど。もしもスマホが横長の画面だったらWEBTOONが今ほど注目されなかったと想像すると、おもしろいですね。「紙でマンガを出版し、その売上を得る」以外のビジネスモデルを採用しているということは、WEBTOONの収益は広告がメインなのでしょうか?
福井:はい。ポータルではページビューに応じた原稿料が作家に支払われます。億単位稼ぐ作家も現れました。しかし作家は、自分の作品が無料で配布されることには抵抗がありました。そこで課金モデルのレジンコミックスが登場して定着し、現在はNAVERやKakaoも課金モデルに移行しています。
ただ縦型なだけじゃない! 紙のマンガとWEBTOONは全然違う
── ほかにWEBTOONの特徴として、多くの場合、分業制で制作されていることも挙げられますよね。
福井:韓国では脚本、キャラデザ、ネーム、着色と各工程に専門クリエイターがいて、作画もキャラクターと背景で分かれています。マンガよりもアニメの現場に近いですね。実際、ほとんどのWEBTOONがアニメのようにスタジオ形式で制作されています。
企画の立て方も日本のマンガと全く異なり、WEBマーケティング的な視点が重視されています。タイトルのつけ方やサムネの作り方はもちろん、1話あたりのコマ数や全体の話数、「初回の何コマ目で主人公が転生するのか」など、あらゆる角度からヒット作を分析し、そこから導き出された方程式に従って作品を製作していきます。
── 縦スクロール型である以外にも、紙のマンガとWEBTOONは違いがいろいろありますね。
福井:全くの別物と捉えてもいいかもしれません。今までの日本のマンガとWEBTOONは読者層が大きく異なります。
── WEBTOONは、どんな人々に支持されているのでしょうか?
福井:マンガ好きというより、10代、20代の「スマホ好き」です。普段マンガを読まないスマホ好きな若者には、横に読んでいくマンガのコマ割やストーリーは複雑に感じられます。その点、WEBTOONは縦にスクロールするだけですし、ストーリーもシンプルで読みやすい。「スマホで気軽に無料で読める」という点で、WEBTOONは読者を増やしてきました。「そこまで熱心にマンガを読まない人」という世の中の大多数をターゲットとしているからこそ、WEBTOONはこれだけ人気を集めています。WEBTOON業界で活躍するには、従来のマンガの知見にとらわれすぎないことも必要になりそうです。
世界市場で勝負するために日本人に必要な感覚とは?
── WEBTOONで人気のジャンルとは、どんなものですか?
福井:女性向けだと、ファンタジー的な世界観の恋愛もの。男性向けだと、アクションファンタジーものが人気です。こうしたジャンルは韓国では「転憑回」というキーワードで呼ばれます。「転生・憑依・回帰」の略語です。ギャグや日常ものは苦戦しがちです。
pixivコミックにて掲載中の『婚約を破棄された悪役令嬢は荒野に生きる。』(©吉井あん/SORAJIMA Studio)
comicoにて掲載中の『異世界帰りの俺、ジャンル違いな超常バトルに巻き込まれたけれどワンパンで片付けて無事青春をおくりたい。』(©SowaKa/comico、©真代屋秀晃/KADOKAWA)
── WEBTOONの人気作品を見てみると、登場人物がいきなり強大な力を授かる「チート系」の作品も多いですよね。そう考えると、日本のマンガやラノベ編集者が活躍する余地はあるように感じますが……。
福井:そうかもしれませんが、気になる点もあります。WEBTOONはアプリで世界中に配信するため、かなり厳しく表現がチェックされます。たとえば喫煙、ボディラインを強調した絵柄、物語上必須ではない性的描写などですね。日本向けコンテンツと同じ感覚で制作してしまうと、海外では受け入れられにくい部分があります。日本のライトノベルを原作にWEBTOONを制作しようとしても、同じ理由で簡単ではありません。特に性的描写に関しては、日本はかなり緩いですから。
── WEBTOON業界で活躍するためには感覚の切り替えが必要なのですね。逆に「こういう人はWEBTOON業界に向いている」というのはありますか?
福井:僕が携わる「ARC STUDIO JAPAN」では、放送作家を集めています。彼らは与えられたテーマに沿って〆切までに脚本を仕上げることが得意ですから。「手が早くて、トレンドに敏感」というのはWEBTOON向きの資質ですね。その条件を満たすのであれば、マンガとは異なるジャンルからWEBTOON業界に飛び込む人が現れてもおもしろそうです。たとえばYouTuberとか。かつてPlayStationがブームになった時、ゲームメーカーはミュージシャンやダンサーなど全く畑違いのアーティストの協力を仰ぎ、斬新なソフトを次々と生み出しました。そういったことがWEBTOON業界でも起こる気がします。
── 現在、WEBTOONで活躍しているクリエイターはどんな方々が多いのでしょうか?
福井:初期はユン・テホやカン・プルなど新聞マンガからWEBTOONに転向したクリエイターが多くいました。次に鶴山文化出版やデウォンCI、ソウル文化社といった出版社でマンガを描いていた作家が参入してきて、今はもう多種多様ですね。みんな食えなかったので貪欲に新しいことをせざるを得なかったんです。
過熱するPV至上主義への懸念
── WEBTOONの本場・韓国における最新の動向を教えてください。
福井:5つに分けてお話をしますね。
まずは映像化。Netflixを始め、WEBTOONを原作とした映画やドラマがたくさん作られています。WEBTOON作品のクオリティが上がり、1作品にかける制作費もどんどん高くなり、映像化権を先出しして制作費を確保した大型作品が増えると思います。
次が、原作小説の争奪戦です。NAVERとKakaoがWEB小説関連企業をどんどん買収して原作確保を進めています。
3つ目は、公募展です。分業制が進んだ結果、完成したマンガ作品を募集するのではなく、絵コンテや原作に限定した公募が行われています。
4つ目は技術革新です。作品のクオリティUPと作家の作業負荷を軽減するため、背景の自動生成、自動彩色、ストーリージェネレーター等、あらゆる技術分野がWEBTOONに参画しています。
そして5つ目がビジネスモデルです。現在のWEBTOON業界は、「待てば続きを無料で読める。待てない場合は課金」という仕組みが主流ですが、今後NetflixやSpotifyのようなサブスク型のビジネスをWEBTOONで行うサイトが出てくると予想されます。となると、短編や作家性の強い作品も増えてきて、作品の多様性も広がるのではないでしょうか。現在のPV至上主義では、いずれ市場が荒れそうです。
── 市場が荒れる?
福井:今は人気作品分析によって導かれた「ヒットの方程式」から外れるような作品の企画は通りにくい。結果、同じようなジャンルの同じようなストーリー作品が跋扈します。そうした作品はある程度売上が上がりますが、長い目で見れば、作り手は疲弊し、読み手は飽きてしまうリスクがあります。最近の韓国の新作は、その傾向から脱しようという意欲作も増えています。
── pixivでは今後個人クリエイターがpixivにWEBTOONを投稿しやすくなるように、プラットフォームの整備や、WEBTOON初心者向けのコンテンツを増やしたいと思っています。そういうふうに個人がWEBTOONを投稿できる場が増えたら、大勢のクリエイターが分業して制作する巨大資本の作品と、作家性の強い作品とで多様化が進むのかもしれませんね。
福井:たしかに、その流れは期待したいですね。

pixivとWEBTOON制作会社のLOCKER ROOMが共同で制作を行うプロジェクトが動き出しています。
── ところで、WEBTOONにおける「ローカライズ」をどのように捉えていますか? 韓国発の作品が日本で配信されるとき、作中の名詞が日本向けに置き換えられる場合が多くあります。もちろん日本人読者が作品に没入しやすくなる効果はあると思いますが、「セリフでは『サバの味噌煮』となっているけど絵が明らかに違うよな……」のように逆に引っかかることも多いです。
福井:どこまでローカライズするか、というのは難しい問題なんですよね。大量に作品を配信する中で翻訳スタッフにも限界がありますが、「自国色を薄めたほうが受け入れてもらえるんじゃないか」という風潮もあります。ただ、『梨泰院クラス』を日本向けにローカライズした『六本木クラス』に対して、日本人から「『梨泰院クラス』のままでいいんじゃないか」という声が寄せられる時代です。ローカライズの必要性そのものがだんだん見直されていくかもしれません。
「日本のWEBTOON、おもしろいだろ?」と言いたい
── ずばり、これから日本産WEBTOONがヒットする見込みはあるでしょうか?
福井:韓国におけるWEBTOONブームは頂点に達しており、各企業は膨大な資金力をもとにグローバル進出を果たし、現地での作家発掘に励んでいます。正直なところ、それに比べて少ない資金で今から業界で成功するには大変な努力が必要だと思います。ですが、韓国製WEBTOONとは全く異なる、日本ならではのヒット作が生まれる可能性もゼロではありません。なんといってもWEBTOONは成長産業。まだアジア以外でブームを作っているとは言えない状況で、業界の未来は未知数です。ちなみにNAVERは北米、Kakaoはフランスといった異文化の巨大市場でのマーケット開拓に力を注いでいます。
── 日本だと、WEBTOONはまだ「よくわからないもの」扱いされている部分もありますよね。
福井:「あのときにこうだったら、日本のWEBTOON産業もまた違っただろう」というチャンスはいくつもありましたが、やはり一番の問題は人々の意識ですよね。かなり早い段階でWEBTOONに興味を示す大物マンガ家もいましたが、編集者に「そんなもの上手くいくわけがない」と反対されてしまったそうです。
── 日本は自国のマンガ文化が盛んな分、WEBTOONに積極的になる理由が持ちづらかったのかもしれないですね。
福井:ええ、でも今は日本も変わってきていると感じています。1996年に東京ゲームショウが初めて開催されたとき、僕は企画プロデューサーを担当していました。当時は任天堂がゲーム業界の王者に長らく君臨していた中、PlayStationやセガサターンといった次世代機がどんどん力をつけて、下剋上を狙うような状況でした。その時期と共通する熱気を今のWEBTOON業界に感じています。日本のWEBTOON産業はまだ小さなものですが、そのぶん業界が一丸となって盛り上げようとする空気があり、90年代中頃のゲーム業界のおもしろさを思い出します。
── 福井さんのWEBTOON業界における目標を教えてください。
福井:それはやっぱり「日本のWEBTOON、おもしろいだろ?」と言えるようになること。WEBTOONに対する偏見をひっくり返し、これまで紙のマンガを読んできた人たちを振り向かせたいですね。
── 福井さん、どうもありがとうございました!

── WEBTOON情報をお届けする「ウェブトゥーン入門」。今後も更新予定ですので、第2段記事をお待ちください!
投票で人気だった作品は連載化!? THE NEXT WEBTOON PROJECT Vol. 1 結果発表
2022年7月の「THE NEXT WEBTOON PROJECT Vol. 1 」では、ピクシブと株式会社LOCKER ROOMが共同制作した9作品のオリジナルWEBTOONをpixivコミック上で公開し、「続きが気になる」作品へ投票をしていただきました。
集計の結果、上位3作品は以下の結果となりました。
1位『欺きの王』
見事に1位を獲得した「欺きの王」は、pixivコミックにてフルカラー3話掲載予定です! たくさんのご投票ありがとうございました。
※投票は終了していますが、作品は引き続き読めますので、ぜひサイトをご覧ください。
pixivコミックでもWEBTOONが読める!
pixivコミックではWEBTOONのようなタテヨミフルカラーの作品を「タテヨミ」作品と総称し、2022年3月より「タテヨミ」作品の連載を開始しています。