小説公募を勝ち抜く秘訣は?審査員への見せ方から話づくりまで『ごめあそ』原作者に全部聞いた!
構成/原田イチボ@HEW
pixivも含め、多数の創作プラットフォームが小説コンテストを実施しています。現代において小説家デビューを目指すなら、いかにインターネットを活用するかもひとつの鍵なのかもしれません。では、たくさんの作品が集まるコンテストを勝ち抜くために大切なこととは何でしょうか?
2020年に行われたpixiv小説10周年×pixivコミックによるマンガ原作コンテスト「コミカライズ・パーティ」でcomic POOL賞を受賞し、『ごめんあそばせ、殿方様! ~100人のイケメンとのフラグはすべて折らせていただきます~』が見事コミカライズ化したマキムラKさんに、これまで小説を応募してきた経験の中で掴んだテクニックを教えてもらいました。
いいねやブクマの数は受賞には関係ない?
── もともと小説を書くのが趣味だったんでしょうか?

いえ、小説を書き始めたのは2019年夏頃で、執筆歴としてはまだ全然です。子どもの授乳期間が終わり、少し自分の時間ができたので、パソコン1台で始められる趣味ということで小説を書き始めました。どうせだったら目標があったほうがいいだろうと、最初は富士見ファンタジア文庫さんのコンテストに応募しました。そこで結果が出なければ素直に諦めるつもりだったんですが、一次通過はして、「書き続けたら、もっといい結果が出るのかもしれない」と感じて今に至ります。
── 小説を書き始めて数年でデビューなんてすごい……! 「コミカライズ・パーティ」は、それぞれテーマが異なる部門に分かれて作品を募っていました。なぜcomic POOL部門を選んだのでしょうか?

── 受賞を知らせたときの周囲の反応はどんなものでしたか?

小説を書いていることは夫にはずっと内緒にしていたので、『ごめあそ』で受賞したときに初めて伝えました。ただ夫はあまり本を読まないのもあって、「へー」くらいの反応でした(笑)。
── ご自身で手応えは感じていましたか?

いえ。ほかの応募作と比べて「いいね」の数が少ないので、これはダメだと思っていました。いいねの数で足切りするWEBコンテストも多いので……。


アイデアを出すのに便利な「無印良品の4コマノート」
── どれくらいの執筆ペースですか?

家事や育児があるので、どうしても作業時間は限られてしまうんですが、1か月に10~12万字は書いていました。『ごめあそ』を毎日更新していたときは1日約3000字でしょうか。
── 速い!

いえいえ。『小説家になろう』はもっと速いペースで連載している人がたくさんいますし、私なんてまだまだです……!
── 毎日更新という形式で小説を連載する上で、「毎回見せ場を作る」など意識していたことはありますか?

あとWEBでは情景描写を重たくせず、早めに展開を動かしていくことも意識しています。ほとんどの読者さんはスマホで気楽な感じで読んでいるので、読みにくさや間延びした印象を与えてしまうとブラウザバックされるんじゃないでしょうか。キャラの攻略などは2、3話で終わらせて、サクサク物語を進めていくようにしていました。
── 毎日更新だと、先の展開をどれくらい决めた上で連載しているんでしょうか?

ストーリー全体の大まかな流れはあるのですが、「このキャラを攻略するにしても、具体的にどうやるの?」のような細かい部分はそのつど考えていました。私は『ごめあそ』が初めての毎日更新だったので、普通は予めストックを用意しておくということを知らず、自転車操業のようなギリギリ連載でした(笑)。その日の更新が終わってから次の内容を考えて、翌日書いてアップして……の繰り返しですね。
── どうしてもアイデアが思い浮かばない日はありませんでしたか?

アイデアを出すときは、無印良品の「週刊誌4コマノート・ミニ」を活用しています。1ページに8コマ、見開きで16コマの枠があるだけのシンプルなノートなんですが、右側の4コマにその回で出てくるキャラの設定をまとめて、左側の4コマにはストーリーの流れをまとめていました。「あまり詰め込みすぎるとゴチャつくから、8コマで起承転結を収めよう」ということですね。ほかにも矢印を書き込んでフローチャートみたいにして、「こっちの展開を選べば、こういう流れでこういう結末になる。そっちの展開を選べば、そういう流れでそういう結末になる」みたいに流れを整理する使い方もしています。頭の中がぐちゃぐちゃのまま考えてもいい結果にならないので、とにかく手を動かして情報をいったんまとめると、アイデアが降りてくる気がします。

── 応募段階で、コミカライズ向けに変更した箇所はありますか?

叫び声をより大げさにしてコミカルな雰囲気に寄せました。「えっ!」を「えええええええええええええええ!」にするような感じですね。よりマンガ映えするものになるんじゃないかと考えました。
── 審査員の目に留まるように意識したポイントはなんですか?

『ごめんあそばせ、殿方様! ~100人のイケメンとのフラグはすべて折らせていただきます~』のように、長い文言はサブタイトルに回して、タイトル自体は短くしました。審査をする中で、あまり長いタイトルだと審査員の方も「何だっけ?」となりそうですし、ほかの審査員の方とのやり取りもしづらいんじゃないでしょうか。
また、たくさんの作品がある中でまず目を引く要素が必要だとも考えました。そのため絵師さんに依頼して、表紙イラストを描いていただきました。キャラクターのイメージが持てたほうが、きっと作品にも没入しやすくなりますよね。でもまずは応募要項を読み込むことが本当に大事です!
── 応募要項ですか?

はい。応募要項は絶対読みましょう。本文やあらすじの文字数はもちろん、作品は完結していないとダメなのか、未完でもいいのか。確認すべきポイントはたくさんあります。また、出版社やレーベルの「色」を確認しておくことも大切です。どんなに素晴らしい異世界ファンタジーを書いても、純文学の賞に出したら絶対落選します。歴代の受賞作をチェックすれば、そこの色は大体つかめますし、編集者の方が「こういう作品を求めている」としっかり説明してくれている場合もあります。舞台作りなど大元のところはレーベルに合わせて、その中に自分の好きなテイストを散りばめるバランスがちょうどいいんじゃないでしょうか。

── 正攻法で行くのが一番ですね! ほとんどのコンテストでは作品にあらすじを添えて応募する必要がありますが、あらすじはどう書くのがいいでしょうか?

私も初めは「この後どうなる!?」のような書き方をしていましたが、あらすじは結末までしっかり書いたほうがいいです。誰か犯人がいるような作品でも、犯人までしっかり書きましょう。審査を担当する方にとっては、「こういうストーリーなんだ」と頭に入れて読み始めたほうがスムーズに作品をチェックできると思います。作品に期待を持たせるのは読者相手にすることで、審査員の方に対しては、余計な負担をかけてしまわないように注意しています。
『ことば選び辞典』、「Nola」と便利なものは活用する
── 小説を書き始めたばかりの頃、どんなふうに練習していましたか?

とにかく書いてみることが大事です。そして、書くにあたっては「物語の中心線」を決めなければいけません。主人公がどのような成長を遂げるかなどのビフォーアフター。つまり物語の大筋ですね。私の場合は紙に殴り書きしながら考えていました。「こんなイベントが起きる」とか「こんなものが鍵になる」とか思いつくままにアイデアを書き連ねて、矢印を飛ばして繋げていきます。どうしてもパソコンだと、気ままに書き足しづらいんですよね。汚くてもいいから紙に書くと、頭の中がいったん整理されます。
── ざっくりした質問になってしまいますが、文章が上手くなるためにはどうしたらいいでしょうか……!?

── 『ことば選び辞典』?


── 無印の4コマノートといい、『ことば選び辞典』といい、マキムラさんはいろんなツールを活用しながら小説を書いているんですね。ほかに便利なものはありますか?

小説を書く人向けの「Nola(ノラ)」という無料のメモアプリをネタ帳代わりに使っています。登場人物や世界観を整理する機能や、プロットを作成・管理する機能、相関図を作成する機能などがあって、これひとつでいろんなことができます。
── 公募はたくさんあるので、つい怠けてしまいませんか? 「〆切に間に合わないから次のコンテストに出せばいいや」と先延ばしにしているうちに、気づけば1年何も応募していないという「公募の怖いあるある」を聞いたことがあります。

そういう悪魔はいます(笑)。ただ、やっぱり出版社やレーベルが変わると、求められる作品の色も違うから、「次のコンテストに出せばいい」は成立しないんですよ。これに出すと决めたら、その〆切に向かって突き進むしかないんです。私は3週間で14万字書いたこともあります。死にものぐるいになれば、意外とできるものです(笑)。
夏発売の小説は「スフィアがさらにヤバくなっている」
── コミカライズにおいて、原作者はどのように作品に関わっているのでしょうか?

編集さんから毎話ネームをいただいて、原作者としてイメージの齟齬がないかを確認します。あまり細々と説明しすぎても読者さんを混乱させてしまうので、原作では「森」とだけ描写した場面でも、マンガは目に見えるもの全部を描き込まないといけないので、鬱蒼とした森なのか、木漏れ日が差すような森なのか、そこに生えているのは針葉樹なのか広葉樹なのか……などの情報が必要になってきます。そういった部分をお伝えしていますが、実際そこまで修正を出すことはありません。
── コミカライズにあたって、何か希望は出しましたか?

マキムラ先生も驚いた大鎌を振りかざすシーン。
── 夏には『ごめあそ』の小説も出版されるそうですね。

こちらは「コミカライズ・パーティ」で受賞したものに、さらに加筆修正しています。ストーリー自体は基本的に一緒ですが、スピード感が増して、よりハイテンションになっています。あとはジークハルトが主人公のスピンオフ『ごめんあそばせ、お姫様方!』も収録予定です。すでに原作を読んでくださった方にも新たに楽しんでもらえる内容なのではないでしょうか。とりあえずスフィアがさらにヤバくなっています!(笑)