制作するためではなく広げるためにお金を使う仕事/宣伝プロデューサー「KADOKAWA」

インタビュー/直江あき
アニメが大好き! でも絵が描けないからアニメに関わる仕事は出来ない……と思っている人はいませんか? 実は、絵が描けなくてもできるアニメの仕事はたくさんあるんです。
今回は、数々のアニメ作品を世に届けるKADOKAWAの宣伝プロデューサー・別府さんにお話をうかがいました。宣伝の仕事内容から楽しさ、この業界に入る秘訣まで⁉︎どしどし聞いちゃいました!
作品コピーから情報コントロールまで

── 「宣伝」とは、どういうお仕事をされるのでしょうか?
作品を1人でも多くの人に見てもらうために、様々な宣伝活動を通じて作品を知ってもらうことが仕事です。
例えば、大々的に打ち出すメインビジュアルを決め、公式サイトやPV(プロモーションビデオ)を作り、紙媒体やwebに記事や広告を出し、キャストが出演する特番をセッティングし……。作品と企業などとのコラボやタイアップを調整したり、舞台挨拶などのイベント運営の手配をしたりするのも仕事です。
製作委員会(※)で弊社が幹事をつとめる作品については宣伝窓口として、担当のプロデューサーが作品の宣伝の方向性を決めて、プランニングをします。
※製作委員会…映画やアニメの製作にあたり、出資する複数の企業が構成する委員会。
── お仕事の内容はかなり幅広いんですね。
かなり多岐にわたりますね。情報コントロールも重要で、キャストを解禁するタイミングを決めたり、オリジナル作品の場合はネタバレを回避するよう解禁情報をコントロールしたりします。
── 別府さんが宣伝のお仕事を担当されるようになったのは、いつからなのですか?
私は新卒で入社して3年目になりますが、1年目は「企画」に配属されました。企画は、作品をゼロから立ち上げて納品するまでが仕事の部署です。私はアシスタントとして、先輩について本読みやアフレコの制作現場を回っていました。そのあと宣伝に異動になって、2年が経ちます。
企画は原作編集部やスタジオと密になって作品を作っていくのですが、宣伝では逆に、ユーザーを意識しながら作品に関わっていきます。作品への関わり方の違いもあり、制作側とは少し距離がある人が考えたほうが、いいキャッチコピーやメインビジュアルのアイデアが生まれることがあります。
そういった立場で作品に関わることで、「このキャッチコピーは伝わりづらい」や「このビジュアルの方がかっこよくない?」といった、自分の率直な感覚を活かせることもあります。
── メインビジュアルやキャッチコピーを考えるのも宣伝の仕事なんですね。
宣伝が考える場合もありますし、企画プロデューサー自身でメインビジュアルやキャッチコピーを考えることもあります。また、制作スタジオとプロデューサーでPVまで作る場合もあります。
でも私は用意されたものを宣伝するだけでなく、企画の方と一緒に意見を交わしながら、良い宣材を作りたいと思っています。
意見を出し合って良い仕事を生み出す
── 作り手側と宣伝側とで、意見が対立することもあるのでしょうか。
ありますね。その場合は、企画の方々に自分の宣伝の方針や施策の理由をきちんと説明したうえで納得していただき、成果を出したいです。企画の方々からも「あの人に宣伝をやってほしい」と言われるようになるのが目標です!
── 企画にもアイデアがあると思うので、交渉は大変そうですね。
そういうときは「宣伝」だからこそ、宣伝目線で「市場分析」を混じえ、企画と話し合いを重ねます。
例えば、「今はこういうものが流行っている」というのもそうですし、「この分野なら今はこの人を起用したほうがいい」という意見やアイディアがすぐ出てくることも大事だと思います。他にも、「この施策は他の作品ではやっていなくて、この作品のこんな点を活かせるからこそ、狙い目だ」と他作品と比較して差別化を図ったりもします。
といっても、こちら側の意見ばかりを言うのではなく、企画の意図を汲み取ることも不可欠な仕事です。「こういう思いがあるからネタバレは絶対にしてほしくない」とか「このキャラクターのこのビジュアルを使いたい」といった意思のある話をし合った上で、お互いに納得すると良いものができあがります。
── さきほど、「制作スタジオがPVまで作る場合もある」というお話がありましたが、通常は宣伝がPVを作るのでしょうか?
宣伝プロデューサーの中には、絵コンテを自分で書いて、欲しいカットや台詞、音楽などをスタジオに発注して……という人もいます。
もしくは、PV制作会社に発注し一緒に制作していくこともあります。「このセリフきっかけでアップテンポに」というように全体の構成や流れを最初に考えて、台詞やテロップを入れる箇所や「このタイミングでキャラのカットを5秒ずつ入れたい」など、細かい工程をディレクターと相談して作ります。
子ども向け番組『宇宙なんちゃら こてつくん』がスタート
── お仕事内容はとても幅広いですが、担当されている作品の数はどのくらいなのでしょうか。
今は1月から2クール連続で放送中の『蜘蛛ですが、なにか?』を担当しています。4月からは『宇宙なんちゃら こてつくん』という子ども向け番組がNHKで始まりました。
劇場作品では、2021年夏公開予定の『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ Licht 名前の無い少女』の担当をしています。
── 今までで、ちょっと変わった宣伝の施策を行ったことありますか?
自分が宣伝を担当する際には、毎回その作品でしかできない施策に取り組むよう心掛けています。
最近だと、『蜘蛛ですが、なにか?』の放送前の宣伝として、同じ異世界作品の『転生したらスライムだった件』とコラボ企画をしました。コラボTwitterキャンペーンや主人公が並んだイラストの制作、合同特番のYoutube生配信を行いました。
特番はメインのキャスト同士で、お互いの作品をそれぞれ紹介し合う内容にしました。特番の台本は、番組制作を依頼したディレクターさんや構成作家さんとチームを組んで作っていきます。イベントや舞台挨拶では、自分で台本を書く宣伝マンも多いです。
他にも、宣伝目的で稼働してもらうときにキャストが身に着けるグッズを考えて制作しました。
宣伝は作品を知ってもらうためにお金を使う仕事
── テレビアニメと劇場作品のお仕事では、違いもあるのでしょうか?
やることも関わる人も劇場作品の方が多いですね。劇場作品のほうが予算が多い作品もあり、使える金額が多ければ多いほど、やることも多くなっていきます。
劇場作品は、例えば興行収入●億円と設定した金額に応じて、宣伝プロデューサーに任される宣伝予算が変わっていきます。TVシリーズよりもかなり多い予算を使って、できる限り作品を広めていきます。
── そんな大金、使い切れるものなんでしょうか。
そう思いますよね。私も最初は、「そんな使えるんですか!」と浮かれていましたが、予算配分はもちろんのこと、やりくりをしないと結構すぐになくなるものだな……と今では痛感しています(笑)。
劇場作品で宣伝が使える予算は、P&A(プリント&アドバタイジング)といって、これは劇場で公開するための上映素材の費用と広告・宣伝費を指します。
公開館数が多くなるとたくさん上映素材を用意する必要があり、その費用だけでもかなりの金額になります。さらに入場者特典にも費用がかかるので、そもそも入場者特典を配布するか、配布するとしたらいつ何をどのくらいの数量でやるかも、最初に決める必要があります。
「どんどんお金を使っていたらいつのまにか予算を超えてしまった」とならないよう、管理しながら使えるときに使う。もしもの時の為に予算を確保しておくけど、使わずに全然宣伝できないのも本末転倒なので、こまめに確認して、あとどのくらい使えるかを常に頭にとどめておく必要があります。
── 宣伝費をどのように使うか、だいたいの割合などは決まっているんですか?
宣伝費をどう使うかは、作品の宣伝方針によって全然違います。
PVの予算だけでも大きな幅がありますし、広告もTVスポットや交通広告、Web広告と様々あるなかで、何に一番を注力するかは一概には言えないですね。
── その判断は宣伝プロデューサーに委ねられているんですね。
はい、だから他の作品がどうしているのかは研究します。他タイトルの公式サイトやTwitter、特番などは可能な限り見て、自分の知見にしたいですね。
自分が考えた施策が届いた充実感
── 宣伝の仕事のどのようなところが楽しいと感じますか?
宣伝はとにかく業務内容の種類が多いところが楽しいです。キャストやスタッフへの取材、毎日のTwitter更新やビジュアルを考えるというふうに、いろんな施策を試すことができます。広く短いスパンで色々なこと、いろんな人に関われるのも刺激がありますね。
ただ、正直に言うと、最初のうちはしんどかったです。私は実写映画のプロデューサーになりたいと思って入社したので、実はアニメのことは何も知らなかったです。でも、アニメの企画アシスタントとして1年間働いたら楽しくて。自分も企画を通したいと思っていた矢先に、次は宣伝に異動になったので、戸惑いはしましたが(笑)。
── 思い出深いお仕事はありますか?
初めて1人で、メインで宣伝を担当した『デカダンス』です!
『デカダンス』は2話でどんでん返しがある作品だったんです。企画や制作会社など側とも話し合って、2話の放送までは1話のネタだけで宣伝を乗り切ることになりました。
「視聴者はどういう反応をするんだろう」と、ワクワクでした。無事に2話が放送されたときは、「ここまで何とか情報を守り切ったぞ……」という安心感もありました。
2話のタイミングで、新しいビジュアルを出しましたが、そのときの大きな反響を見て、宣伝は本当に面白い仕事なんだと感じました。
でも、『デカダンス』を担当していたときは自分なりに精一杯でしたが、「あの時の自分よりも今の自分のほうがもっと宣伝できるのに」と悔しい気持ちもずっとあります。だから、いまは全力で頑張って、ここぞというときに120%、500%の力で宣伝できるようになっていたい。それをモチベーションに日々の仕事に取り組んでいます。
4月から放送の『宇宙なんちゃら こてつくん』では、初めて子ども向けアニメを担当します。原作のにしむらゆうじ先生は20代の女性ファンも多い方なので、そこをいかに繋げるかを考えているところです。
── 仕事をしていくうえで気をつけていることはありますか?
宣伝の目線を常に持つことを意識しています。
例えば、特番の収録の際には、いつ放送なのか、そのときにアニメの本編はどんな内容なのか、それら全てが頭に入っている必要があります。そうでないと、キャストから「これは言っていいんでしょうか」といった質問があったときに、即答できずに曖昧なままで進めてしまいます。結果として、編集の際に大幅にカットする羽目になったり、中身がないものになったりしてしまう。
そのような事態を未然に防ぐために、現場ではすぐ「このネタバレはしてもいいけど、この言葉は言わないでください」といったお願い、共有をする必要があります。そういう気遣いが宣伝では大事な目線だと思います。
大学と並行して夜間専門学校に

── 就職活動のときの話も聞かせてください。まず、映画の仕事につきたいと思ったのはいつごろなのでしょうか?
高校生の頃から、映画の仕事に携わりたいと思っていました。美大の映像学科に進む道もあったのですが、他の大学に進みました。美大に行っておけばよかったな……と思うときもありますが、今の仕事につけたので結果的にはよかったです。
── この業界に就職するために、どんなことを行っていましたか?
大学と並行して、3年生の時に1年間「ニューシネマワークショップ」という映画宣伝専門の夜間学校に通いました。映画業界について学べる夜間学校で、週に1回2時間半ほど、ワークショップ等を行うところです。映画の宣伝の組み立て方やノウハウを学び、実際にチラシやメインビジュアル、パンフレットを作りました。
知らない人とワークショップで話すので、「このビジュアルはこういう見方もあるんだ」とか「こっちのキャッチコピーの方がかっこいいと思う人がいるんだ」と、他の人の見方に触れることができたことは良い経験でした。
就職活動の履歴書には、専門学校での経験を書いたので、面接ではほとんど志望動機などは聞かれませんでした。そのぶん人柄や自分が好きなものの話などをして、何とか受かった印象です。
── KADOKAWAに入社しようと思った理由はなんでしょうか?
直接的にエンタメの仕事ができる可能性が高い、と思い入社しました。大手の映画配給会社でも、新卒は人事や総務などの配属になりエンタメ業務には関われないところも多いと聞いていたので、KADOKAWAに入れてよかったです。
全体的には“総合エンタメ企業”に絞って就活していました。最初はテレビ局も受けましたが、全部落ちました!
── 新卒で大手企業に入る以外に、宣伝の仕事につく方法はあるのでしょうか?
作品の宣伝の仕事をしたいのであれば、扉はたくさんあります。
Webや紙、映画やイベント専門の宣伝会社など色々あるので、作品の宣伝の仕事はできると思います。弊社の宣伝の先輩も、キャリア採用の方はそういった業務をされていた方もいます。
── 宣伝は新卒入社の人が多いんですか?
── フリーの人もいらっしゃるんでしょうか。
フリーランスでもできる仕事だと思います。というのも結局、製作委員会から預けてもらった予算をどう使って宣伝するかは、会社頼りではなくその人頼りになっていく仕事なんです。
私はまだ経験が全然ないので、会社の力を借りて作品を担当させてもらっていますが、5年後10年後には自分の力で宣伝できる状態になっていないとまずいと思います。
── 宣伝の仕事に興味がある若者へ、アドバイスをお願いします。
就職活動のときに、なぜこの業界を志望したか聞かれると思います。その際「この作品のこういう施策が好き」という具体的なエピソードを答えられると、真剣さをアピールできると思います。
自分の好きな作品を見つけるだけで満足するのではなく、他の人にも勧めたいと思うパッションがあるかどうかが重要です。「この作品は流行ってなかったけど、自分が勧めたおかげで周りの人がハマりました」といった、周囲の人を巻き込む力がある人だと感じられるエピソードを持っていればいいかもしれません。
好きな作品について「自分だったらこういうふうに宣伝するな」と、日頃から考えることも大事だと思います。
── ありがとうございました!