バッドエンドなら見たくない!台湾アニメイト店員に聞く現地のオタク事情

現地のオタク活動を語ってくれるのは、アニメイト台北店に勤務中のお三方
・ロボットアニメを愛する店長 清水さん
・IT界隈出身の男性バイヤー 柯さん
・『犬夜叉』で目覚めた女性バイヤー 江さん
です!
日本のコンテンツがどんな風に受け入られているのか、現地のファン事情にたっぷり迫ります。


清水:アニメイト台北店で店長をしております、清水と申します。日本アニメイトに入社して20数年になります。岡山・高知などの日本国内の店舗を経て、秋葉原店を含めた数店舗の統括で7年ほど勤務してから台湾にきました。
柯:バイヤーの柯志隆と申します。私はもともとIT業界出身でアニメイトに入り、今は業界歴10年以上になりました。アニメイトに入ったのはもともとアニメやコミック関連の仕事をしたく、ちょうど求人サイトでこの求人情報を見かけたのがきっかけです。
江:こんにちは、江筱芸です。私もバイヤーをしています。好きな漫画は少年マンガやBL、と少女マンガです。アニメイトで働いたきっかけはアニメとコミックが好きだから。自身もかなりの本好きなので、いつか自分が台北店でもお客様にたくさんの作品を紹介できるようになりたいです。
3人:はい。
江:私はオタクで腐女子です。小学5年生のとき『犬夜叉』に出会ったのが全ての始まりですね。当時の私は友達少なく自分の感情もあまり出せないタイプでした。でも『犬夜叉』に出てくるキャラクター同士の絆に憧れてちょっと変わりました。その後、繁体字に翻訳されている少女マンガを読み、LGBTQ+に対してに議論への興味をへてBLにたどり着きました。
清水:私は『北斗の拳』、『キン肉マン』などが好きな古い世代ですね。オタクになった1番のきっかけは、中学生の時に大阪のアニメイトに行ったことでしょうか。
それまでも、アニメや漫画が好きでしたが、アナログのカセットからCDに変わる時代で、アニメイトに行ってキャラクターグッズやCDなどを買い始めて悪化しました(笑)
柯:私は『マジンガーZ』を初めて見た時に衝撃を受けました。Web版の『Newtype』は初めて好きになった雑誌です。

江:平日は仕入れや売り上げのチェックがメインに行っています。休みの日は家で小説や漫画や情報を読んだり、アニメを見たり、小説を書いたりしています。
柯:私も同じように仕事終わりはゲーム・アニメ・マンガを見てます。休日はイベントに行くくらいですね。
清水:午前は各種書類やメールの確認、店舗状況の確認を行います。午後からは取引先との商談や担当者との打ち合わせが多いです。台湾の作品の8割は発売日が明確でなく、いきなり新刊が入ったり・発売が延期されたりします。
台湾にいる3人から見たアニメの変遷
柯:いえ、昔は違いました。80年代の台湾はテレビは3チャンネルしかありませんでした。
江:ポケモンなどの人気作品は、その3チャンネル全てでちょっとずつ時間をずらして放映されてたりしてましたね。
柯:そうです! 放映作品も偏っていて、カートゥーンなどのアメリカ系のアニメが多かった。でも90年代から有料テレビチャンネルが増え、24時間アニメを放映しているチャンネルもできました。
清水:おそらくその頃から日本からアニメを輸入するようになったんだと思います。
柯:子供向けだけだったTV業界に、少しずつ大人向けの恋愛系ジャンルのアニメが増えていきました。
柯:『きまぐれオレンジ☆ロード』ですね! 台湾の作品は、ドラマに代表されるような女性目線の作品が多いイメージでしたが、アニメは男性目線の表現や描写が多く驚きました。音楽も覚えてるし「自分も超能力があればきっとモテるだろう」っていう想像までしちゃいました。
清水:私も『きまぐれオレンジ☆ロード』や『赤い光弾ジリオン』を見ていました。大学生になってレーザーディスクを買ったのも懐かしいです。
柯:その後は『新世紀エヴァンゲリオン』『魔法騎士レイアース』が流行り始めて、PCとネットの発展によって今ではファンがドッと増えました。
台湾でのトレンドは?
江:全年齢だと『名探偵コナン』ですね。

── 映画版コナンは日本では毎年4月に、台湾では夏休みにロードショーになるんですよね。

江:ちなみに私はソーシャルゲームも日本語版をプレイします。最新のストーリーやイベントを、日本とのタイムラグがなく1番早く楽しめるからですね!
清水:日本語のままプレイされる方は多く、日本のファンと同じ楽しみ方をする事がステータスになっています。ガチャも含めてですね。また、リリースされる前からチェックしていて先物買いをしてファンとしての愛の強さをアピールする人が多いのも特徴のひとつです。少しリッチな限定BOXも売れますよ。

柯:そうですね、『グランブルーファンタジー』『少女前線』『ラングリッサー(もともとSEGAだったが、モバイル版が中国で開発・台湾)』、『アズールレーン』。『アナザーエデン』も人気です。ハードは6割がPlayStation4、4割がNINTENDO Switch関係かな。
清水:台湾のお客様は日本の情報を集めているため、台湾アニメイトで扱う商品も90%以上が日本のコンテンツです。
余談ですが台湾の表現規制が日本に近いので原作と同じような感覚で楽しめると言えますね。

▲ 規制はゆるやかだが全年齢の作品が成人指定になっていることも。人が死ぬなどの暴力的な描写がある時は、自主的に場所が変更される時がある。
柯:アニメイトのお客さんは20代が多く、キャラクター愛がとてもが強いなと思います。30歳以上の方は『SLAM DUNK』『美少女戦士セーラームーン』などのレジェンド級の有名作品を好んで買うイメージがありますね。
清水:このようなお客様はコレクションとして原作を購入されるので、アニメイトでは台湾版だけでなく日本語版のコミックも扱っています。一昔前の作品は、繁体字名と日本の名前やイメージが一致しないような時代もありましたが、今は翻訳もデザインもレベルが上がって、原作のイメージ通りの台湾版が増えました
▲ 画像上:日本版、下:台湾版の『新世紀エヴァンゲリオン』もフォントから表現まで原作の雰囲気を再現。「原作のイメージを変えるとファンから怒られる」との意見も
バッドエンドなら見ない方が幸せ
柯:台湾のイベントは「FancyFrontier(通称:FF)」という日本のコミケのようなイベントと、「巴哈姆特情報站(通称:バハムート)」が主催する「巴哈姆特市集」があります。巴哈姆特市集は持ってる本をイベントで交換するようになって、中古販売がメインの公式イベントができました。

江:女性向けだと、ヒットの傾向にも台湾には特徴がありますね。BLだと人外・オメガバースなどのジャンルは、特に人気があります。
また好まれる作品のパターンは明確で、物語はある程度複雑で作風は美形であること。あとヒットの要因は「ハッピーエンドかどうか」です。前半がラブラブだけど後半が悲しい発展になると、視聴せずにエンディングを待つか、そのまま放置する人が多いです。
清水:せっかく楽しむためにマンガを読んでるのに!って思う人が多いからでしょうかね。
新たな市場を目指して
柯:今までの台湾は規模が小さく出版社からデビューすることが難しく、国から助成金をもらっても定着せずに海外に作家さんが移動してしまう問題もありました。現在は表現を取り巻く情勢の変化や方針転換によって、台湾に作家の多くが戻ってきました。
オリジナル作品が増えれば、もっとデビューするチャンスが増えそうで嬉しいですね。
江:今はまだ日本の作品のレベルが高くて、台湾の作品を読むことに抵抗を感じることもある人もいたようですが台湾の作家さんが日本デビューして戻ってくる事例もあるので、もっといろんな人が(台湾の作家さんの)作品を見てくれる日がくると思います!
清水:台湾アニメイトでも台湾発のマンガ『記憶の怪物』や、ゲーム『食用系少女』などヒットしている作品が増えてきたので注目しています。
日本コンテンツに影響を受けたクリエイターから台湾オリジナルコンテンツが生まれており、台湾らしさがこれからどうやって育っていくのかに期待しています。
