pixiv発の作品が連載&コミックス化! 『神のごときミケランジェロさん』 みのる先生インタビュー
pixivで発表された漫画が、商業連載!& コミックス化!
ルネッサンスの天才芸術家ミケランジェロを主人公にしたコメディ『神のごときミケランジェロさん』の作者みのる先生に、コミックス化の経緯・pixivとのかかわりをお聞きしました。
Q1.まずは自己紹介をお願いします。
はじめまして、みのると申します。pixivでは「mino」という名前で活動しています。縁あってpixivに投稿していたオリジナル漫画、『神のごときミケランジェロさん』を商業誌で1年近く描かせていただきました。普段は別の仕事をしながら連載をしていたので、いわゆる兼業漫画家でした。
Q2.会社員をしながら漫画の連載をしていたということですが、大変なことではないんですか?
日中働きながら平日の夜やおやすみの日に漫画を描くというサイクルで、締め切り前はやはり時間に追われることが多かったです。『神のごときミケランジェロさん』の連載はだいたい16ページなのですが、完成まで3週間ほどかかりました。ネームに2週間、作画に1週間といった感じです。ただ、同僚や上司の理解や応援があったおかげで、この度の単行本発売までなんとか続けることができました。
Q3.そもそもpixivに投稿するようになったきっかけを教えてください。
地方在住なので定期的にイベント参加が難しくて…。当時は手書きブログでよくイラストを描いていたんですが、そのときに仲良くなった方や上手いと思っていた方がpixivでも活動されていたので、自然に移動した感じです。手書きブログだと、ページ数の多い漫画を投稿することはどうしてもできませんし、たくさんの人に見てもらえるpixivは漫画を発表するのに絶好の場だと思いました。

Q4.pixivに投稿しはじめた頃はどんな漫画を描いていたんですか?
最初によく描いていたのは当時ハマっていた少年漫画の女体化ネタという、マイナーなジャンルの漫画でした。同じジャンルの漫画を描いている仲間が欲しい…と思ったのも、pixivに投稿したきっかけでした。
Q5.初めてpixivに漫画を投稿されたときの反響はいかがでしたか?
私が投稿した時はページを使った漫画が珍しかったこともあって、たくさんの方に見ていただけました。想像以上の数の評価やブックマークが付いて、ものすごく嬉しかった記憶があります。それにタグも付けていただけたんですが、漫画に対してのツッコミとかがあって楽しかったです。新しいタグがつくたびニヤニヤしてました(笑)

Q6.pixivで活動する中で印象的な出来事があれば教えてください。
気がついたらタグ巡りをするようになりました。「○○1000user入り」タグとか、ハマったカップリングのタグとかを見ているとあっという間に時間が経ちます…。(笑)それ以外では、ほかの作家さんから「アンソロジーを一緒に描きませんか」というお誘いが来たり、海外のユーザーから漫画の感想をいただけるようになりました。国を超えて楽しんで頂けているのはとても嬉しいです。あとは……漫画を読むときにページをクリックでスクロールしていて、勢いあまって低い評価をつけてしまったときの絶望感はすごいです。次の日ちゃんと、高評価をつけに行きます。(笑)
Q7.みのるさんのプロフィールに「おっさん」や「おっさんとおんなのこの図」が好きと書かれていますが、それらの魅力や好きの理由を教えてください。
おっさんの、若さにはない枯れ感やくたびれ感、経験からくる余裕、手の甲に浮き出る血管などに色気を感じます!カップリングについては、ギャップが大きければ大きいほど好きなので、身長差や体格差、年齢差、経験差のあるおんなのこがおっさんに振り回されたり、おっさんを振り回しているのが可愛いです。

Q8.pixivでほかのユーザーの作品を見るとき、どんなところに目が止まりますか?
第一印象では、配色が好みだと目が止まります。イラストを描く方ですごいなあと思うのは、「零」さん(id=74184)です。この方のイラストは本当に色から塗り方から美しくて、毎回見ていてため息が出ます。私自身、イラストが本当に苦手で、塗りも下手だから漫画を描いているというのもあるのですが、イラストが上手い方には「何でここをこの色で塗ろうと思ったの?」とか「どうしてこの素材使おうって思ったの?」って問い詰めたいです。漫画で注目して見るのは漫画力の高い人の作品です。間やセリフ回し、効果的なコマ割や背景、トーンの入れ方が上手い方の作品は時間をかけてじっくり読んでしまいます。
Q9.現在90点近くの漫画作品をpixivに投稿されていますが、ユーザーに見て欲しい作品3つとその理由をお聞かせください。

■ タイトル:『おっさん×ようじょ』
■ 投稿日:2011年7月6日
■ 元奴隷な壮年×魔王なようじょの、ほのぼの作品。
これは私の趣味が全開の作品なので(笑)。投稿している作品の中で初めてブックマークが10000ユーザーを超えたものなので、感慨深い作品でもあります。

■ タイトル:『バカ男子』
■ 投稿日:2012年4月30日
■ ちょいデヴで汚い金髪のもさい凄腕ドラマーと、喋れないタップダンサーの話。
自分の中で新しいキャラクターが描けたと思った作品。動画もご覧頂けると嬉しいです。

■ タイトル:『退魔師と妖魔の日常話』
■ 投稿日:2012年3月10日
■ 妖怪と退魔モノだけどバトルものではない学園コメディなオリジナル作品。
もっと色々キャラクターのやり取りを描きたいなあと思っている作品です。
Q10.それではみのるさんの連載作品、『神のごときミケランジェロさん』の内容について簡単にご説明いただけますか?
ルネサンス期の三大巨匠のひとり、ミケランジェロ・ブォナローティの生涯を追ったコメディ漫画です。ミケランジェロが残した偉大な作品と、まるで「漫画のキャラクターかよ!」と突っ込みたくなるユニークな性格をしていた彼自身のことをネタにしたお話になっています。

Q11.お気に入りのミケランジェロの変人エピソードはありますか?
ミケランジェロはとにかく偏屈な人で、パトロン相手にも喧嘩売るような困った人なんですよ(笑)。たとえば、完成した絵をパトロンに引き渡すとき、最初に提示されていたギャラの半額に値切られそうになるんですけれど、「最初に聞いたギャラの2倍出さないと売ってやらん」とゴネたり。はたまた教皇を相手に「私は彫刻家だから絵は描きたくない」と喧嘩腰で断ったりとか……。当時のキリスト教圏内というかお膝元で、教皇に逆らうなんてとんでもない蛮行なんですが、そうしたことができちゃう人でした。それでいて完成した絵は世界遺産ですから。(笑)

Q12.本当に漫画のキャラクターみたいな人ですね(笑)。ちなみに、漫画のネタはそうした性格から膨らませて描いているものなんですか?
それが、ほとんど史実に基づいて描いているんですよ。「まさか」と思うようなネタでも、ミケランジェロのことを少し調べたらすぐに出てくるようなエピソードです。ちなみに、三大巨匠のほかにはレオナルド・ダ・ヴィンチとラファエロがいるんですが、ダ・ヴィンチもなかなかいい性格をした人物でした。漫画に登場するダ・ヴィンチは、“決して穏やかなだけの良い人じゃない感じ”で描いています。(笑)

Q13. この『神のごときミケランジェロさん』を描くようになったきっかけを教えてください。
イタリアへツアー旅行に参加したとき、美術館のガイドさんが話すミケランジェロのエピソードがおもしろすぎて……。先ほどの絵を値切られたのを怒って2倍の値段で売りつけたエピソードを聞いて「何それおもしろい」って思ったのがきっかけでした。
Q14.そこからイメージを膨らませたのですか?
システィーナ礼拝堂の天井画をたったひとりで描いた、という逸話もかっこいいなと思いましたし、ミケランジェロはとにかく筋肉好きだそうで彼の絵は男女問わずムキムキの人ばかりと、とにかく興味を惹かれたんです。帰国してからミケランジェロの本を読んでいたところ、一緒にツアーに参加した妹が「ミケ先生の漫画描いてよ!」としつこく勧めてきたんです。確かにあのおもしろさはいろんな人に知ってもらわないともったいないなーと思って描いた次第です。

Q15.作品の誕生には妹さんの存在が大きく関わっていたんですね(笑)。
ちょっとしたイラストはよく描いてと言われるんですが、漫画を描いてと言われるのはそれまでほとんどなかったかもしれません。初めて見せたときは「なかなかおもしろいやん」という感想でした。何様なんですかね(笑)。
Q16.ご自身の作品の制作環境、制作手順についてお聞かせください。
下描きはコピー用紙、ペン入れはSAI、トーンはPhotoshopで作業しています。手順を順番に説明していくと次のような感じです。
<1. プロット >
プロットをテキストで書く。セリフと簡単なト書きの台本のようなものです。
<2. ネームを切る >
プロットを元にネームを切ります。見開きの状態でSAIで描きます。以前は紙に描いていたのですが、直しが楽なのでコマ割レイヤーとセリフひとつひとつを別レイヤーにして作っています。

<3. 下書き>

ネームを元にB5のコピー用紙に下描きします。
<4. ペン入れ>
取り込んでSAIでペン入れ。全部2値ペンで描いています。

<5. トーン貼り>
SAIでトーン箇所を塗ったあと、Photoshopで変換します。

<6. 完成>
実際に完成した原稿がこちらです。

『神のごときミケランジェロさん』は5話まではペンタブレットのIntuos3を使っていましたが、6話から液晶タブレットのcintiq13HDを使っています。
Q17.pixivで投稿していた『神のごときミケランジェロさん』の商業誌連載が決まったきっかけについて教えてください。
秋田書店の編集者さんから個人サイトとpixivそれぞれから熱意あるお誘いをいただきました。プロットが固まって連載がスタートという段階になっても、まるで商業誌デビューの実感は沸かなかったです。実感らしい実感が沸いたのは、1話目が掲載されたとき。読んだ方々から「おめでとう」と声をかけてもらったときで、本当にデビューできたんだなと思いました。
Q18.編集者さんとはどのような流れでやりとりをされるのでしょう?
全10回という連載回数は最初から決まっていたので、まずは連載用のプロットを提出しました。何話目でこのエピソードを入れる、みたいな感じで大まかな流れを決める感じです。私は地方在住なので、打ち合わせはメールか電話でしたね。プロットの段階で3回ぐらい直しが入るんですが、まるっと内容が変わることもあります。その後、そのプロットを元にネームを起こすんですが、コマ割やアングル、セリフなどの修正がまた3回くらい入ります。一番直しが少ないのが8話のショート漫画。これはほとんど直しがなかったです。逆に直しが多かったのが、5話のダ・ヴィンチとのエピソード。最初のプロットから内容が大きく変わったのは、7話の天井画の話でした。

≪編集担当者からのコメント≫
「1話から最終話までの全体構成プロット」は、通常連載開始前に必ず出すわけではありません。今回は歴史上の人物の漫画なので、出してもらってとても良かったです。
Q19.編集者さんとのやりとりで印象的なことはありますか?
最初のプロットを文章でまとめていたせいか、ネームを起こすときにセリフのボリュームが多すぎるというツッコミが多かったような気がします(笑)。

※左から順にネーム / 下書き / ペン入れ / 完成原稿
Q20.大変だったことはありますか?
自分で投稿していたときと違ってネタ出しして描いたら終わり……というものではないので、編集者さんにOKをいただくのは大変でした。でも、アドバイスをもらうたびに作品がわかりやすく、よくなっていくのが自分でも実感できたので、編集者さんの力って本当にすごいなと思っています。
≪編集担当者からのコメント≫
この作品で初めからみのる先生とお話して決めたのは、「美術をしらない人でも楽しめる」ような漫画になることです。ラファエロのエピソードは、電話雑談中に“腹上死疑惑”とかおもしろい逸話がみのる先生から出て来て……。予定よりページをとった1話になりました。
みのる先生はとってもたくさんのルネッサンス偉人の珍妙な(笑)逸話を知っていていつも感動しました。
会社員のお仕事が終わったあと夜電話で打ち合わせして、さらにその後コツコツと原稿の形にして、また朝出勤されてる……と、考えると本当に尊敬します。
Q21.読者に向けてメッセージをお願いします。
あまりにド新人過ぎて恐縮ですが、『神のごときミケランジェロさん』はキャラクターが魅力的か、それが読みやすく、伝わりやすいお話になっているか、そうしたことを意識しながら描いた作品です。
≪編集担当者からのコメント≫
美術品の絵がちょっとすごいクオリティなのでぜひ注目してほしいです。コメディ漫画なのに(笑)。

Q22.最後に単行本には描き下ろしやおまけもあるんですか?
今回発売されることになった単行本では、描き下ろしページも頑張って描きましたし、pixivで公開していた、漫画本編では語られなかったエピソードも入っております。pixivへの投稿がきっかけに自分の描いた漫画が一冊の本になって書店に並ぶ……あまりにラッキーな出来事に、嬉しいというよりただただありがたいという気持ちです。作品を投稿されているみなさん、体を大事にしてお互い頑張りましょう!
