アニメを好きすぎても知らなすぎてもダメ?商品企画のお仕事/ムービック

インタビュー/直江あき 撮影/カズヤ
アニメが好きだけど、絵が上手くないからアニメの仕事には関われない…と思っている人はいませんか?
実はアニメ制作以外にもアニメに関わる仕事はたくさんあるんです。この連載ではアニメの仕事に関わる様々な人にインタビューをしていきます。
記念すべき連載第1回は、数々のアニメグッズを制作している会社「ムービック」にて、商品企画の仕事をしている星野さんにお話を伺いました。
担当は『名探偵コナン』『文豪ストレイドッグス』のグッズ

── お仕事内容をお聞かせください。
アニメのグッズを考え、版権元(権利保持者)さまから許諾を得た上で制作するのが仕事です。グッズが作品の世界観に合っているか、そのグッズを作ることでどのように作品を盛り上げていくのかを考えています。
── ひとつのグッズについて、企画から世に出るまでの流れを教えてください。
あるアニメのグッズを作るということが決まったら、ターゲット層を踏まえてアイテムの種類や使用するイラストなどをデザイナーさんと一緒に検討します。そのアイデアを元に版権元さまへ申請し、グッズ化の許諾を得ます。その後、版権元さまの許諾がおりたら、工場で試作品を作成。試作品を版権元さまにチェック(監修)していただき、発売の許可が下りるということになります。
その他にも同時進行で、グッズの告知や宣伝などでお客さまにどれくらい興味を持ってもらえるかということも考えていく必要があります。納品に合わせてアニメイトなどの店頭でフェアを行うなど、グッズ制作だけでなく、売り方も考えます。
── グッズ制作で一番大変なのはどの工程ですか?
一番大変なのは企画ですかね。このアニメでこういうグッズを作ろう、ということを考える段階です。一度企画が定まれば、あとは決まった工程で仕事を進められるのでそんなに大変には思いませんが、決まるまでが大変です。
── 企画を考えてからグッズが店頭に並ぶまでには、どれくらいの期間がかかるんですか?
作品にもよりますが、早くて2ヶ月以内のものもあります。大掛かりなグッズでフェアを組むときには、半年ぐらいかけて考えるものもありますね。
例えば、私は『名探偵コナン』の担当をしています。公開が延期になってしまいましたが、前年の秋頃から企画を進行しています。
── 『コナン』の担当をされているんですね。ファンの多い作品なので、プレッシャーを感じるのではないですか?
『コナン』は人気のある作品なので、やはり責任は感じますね。他社さまもグッズを出される中で、いかに魅力的なグッズを作ることができるか、真剣に考えています。
グッズを発表した後は、SNSでエゴサして反響を確認します。「これかわいい」とか「絶対予約する」とお客さんがつぶやいているのを見ると、うれしくなりますね。
── ファン層によって作るグッズの種類は変わるんですか?
ファミリー向けの作品だと、生活雑貨のようなものを入れてみたりもします。また、キャラクターが好きな方からは、アクリルキーホルダーやアクリルスタンドの需要が高いです。コレクションとして揃えられるものが人気ですね。
『文豪ストレイドッグス』のようにキャラクター人気の高い作品のときは、缶バッジなどをよくつくります。

▲『文豪ストレイドッグス』の缶バッチ。
── 最近作ったもので、SNSでの反応が大きかった物は何ですか?
2020年2月に発売した『文豪ストレイドッグス』のぬいぐるみです。月下獣と羅生門をモチーフにしたものなのですが、このぬいぐるみを持っているイラストがアプリゲーム『文豪ストレイドッグス 迷ヰ犬怪奇譚』にすでにあって、それを再現したものになります。イラストでは幼稚園児が手にしていたので、それくらいの大きさを再現しました。この大きさなら、イベントにも抱えて持っていけるし、カバンから少し顔が出てかわいいかなと考えました。
公式Twitterでも取り上げてくださって、お客さまからの反響もすごく大きかったです。

▲『文豪ストレイドッグス』のぬいぐるみ。
── たくさんのグッズを出されているのですごく忙しそうですね。
タイトルにもよりますが、新しいアニメが始まったタイミングで20種類ほどのグッズを発売します。『名探偵コナン』や『文豪ストレイドッグス』の場合は、アニメを放送していない時期でも、1〜2ヶ月に1回は新たに10種類ほどのグッズを発売しています。
私はいまライセンスMD事業部という部署に所属しています。作品や取引会社ごとに担当を分担しているため、個人の裁量で仕事を行えるので、私に合っていると考えています。担当は、基本的には各自の得意分野が考慮されます。例えば、男性向けアニメがもともと好きで、そのアイデアを持っている人は、そうした作品を多く担当していますね。
── では、星野さんの得意分野は何ですか?
実は、私はもともとアニメをあまり見ていませんでした。ただ、『名探偵コナン』や『文豪ストレイドッグス』はもちろん知っていたので、担当させて頂いています。
グッズのデザインについては、『コナン』担当のデザイナーさんがすごい『コナン』好きで、そのデザインがお客さまにもハマっていつも好評なので、とても助けてもらってます。
アイドルのオタ活経験からムービックへ

── アニメをあまり見ていないということですが、どうしてムービックに入ろうと思ったんですか?
グッズを企画したり、作ったりする仕事に興味があったんです。就職活動では、アニメグッズの会社だけでなく、音楽や映画などのグッズを作っている会社も受けていました。ムービックは、映画館でグッズを見ていたとき、裏に書いてあった会社名を見て存在を知りました。
実は、私は大学生のときにアイドルの追っかけをしていて、自分用にステッカーなどグッズを作っていました。それが楽しかったので、グッズを作る仕事が向いているのかなと思ったんです。なので、ジャンルは違いますけど、趣味を仕事にしたという感覚はあります。また、商学部でマーケティングや物流の流れを勉強したことも活きています。
── 仕事を始めてから、アニメの見方は変わりましたか?
考えが偏りすぎないようにフラットな視点からアニメを見ることを心がけています。
グッズを企画するにあたって「こういう部分にこだわっています」ということをアニメ制作関係者からお伺いすることもあり、ただアニメを見ているだけでは分からないような想いも感じるようになりました。
そもそもこれまではあまりアニメを見たことがなかったし、グッズを買ったこともありませんでした。なので、この仕事を始めるにあたっては、お客様にウケるグッズはどのようなものかという嗜好を知るところから勉強しましたね。
ただ、アイドルグッズはたくさん見てきたので、その視点は役に立っています。今はアニメでもアイドル系の作品が増えていて、ファンの方もキャラクターのことをアイドルと同じように見ていると感じます。なので、アニメグッズを作るときに、アイドル文化で流行ったものを取り入れることもあります。
── アニメグッズに取り入れたアイドルグッズとは、たとえばどんなものですか?
アニメグッズでインスタ風のカードやクリアカードが流行りましたが、これらは当初K-POPアイドルのファンの方たちが作っていたカードがもとになっているような印象を受けます。
アイドルのグッズに元々あったチェキも、アニメグッズに入ってきています。ムービックでも「ぱしゃこれ」という、チェキ風のブロマイドやトレーディングカードが今すごく売れているんですよね。最近は他社さまからもポラロイド風のグッズなどが出ています。
── アニメファンが欲しがるグッズで、驚いたものはありましたか?
私が入社した頃はラバーストラップがよく売れていて、「ミニキャラのグッズも人気なんだ」と驚きました。アイドルファンとしては、等身のグッズがいいものと思っていたんです。
皆さん、ミニキャラが大好きですよね。この「ゆるパレット」というムービックのイラストシリーズも大人気です。

▲『文豪ストレイドッグス』の「ゆるパレット」シリーズ。
── 趣味と仕事の両立はできていますか?
それは第一に考えています(笑)。どうしても忙しい時期はありますが、管理をすれば時間を作ることはできますね。
── アニメの版権元さまは忙しそうで、それに合わせるグッズ会社も忙しいのではないかと思っていました。星野さんの1日のタイムテーブルを教えてください。
9時半に出社して、18時半に退社します。打ち合わせで外出することもあるのでまちまちですが、私は定時退社を心がけています。遅くなったとしても19時ですね。夜から会食に行く人もいるので、人によるとは思います。
取引相手である工場は17時半くらいに閉まるので、そこに合わせて定時の間に仕事が終わりますね。定時を過ぎてから電話をしたら「もう帰ってます」って言われることも多いです。ちゃんと休みも取れて、私は今の働き方がすごく合っています 。
商品企画に向いている人
── HPを見ると 「意外に体育会系」と書いてありましたが、社内の雰囲気はどのような感じですか?
体育会……? 確かにそういう面も少しはあるのかもしれませんが、今は変わってきている印象です。最近、先輩から「あなたたちの代からニュートラルになったよね」と言われました。たぶん熱血感がないんだと思います(笑)。もちろん、仕事には一生懸命取り組んでいますが、仕事中に感情の変動は見せません。「さとり世代」とも言われていますし、世の中的にも変わってきているんだと思います。
── 商品企画の仕事に向いているのはどのような人ですか?
昔から社内では、アニメを好きすぎても、知らなすぎてもよくないと言われていたそうです。 以前は入社試験のときにアニメの問題があったらしいんですが、0点でも満点でもダメで、ちょうどよい人を採用していたみたいです。
アニメを好きすぎると、グッズも自分の好きなように作れると思ってしまいがちですが、そうではありません。アニメ作品はあくまで版権元さまのもので、版権元さまによる監修があります。「私の中ではこのキャラはこの色なので」というように固執してしまう人はよくないですね。
もちろん、アニメを大好きなことがだめなわけじゃありません。知識が豊富な点は素晴らしいことだと思います。インプットが多い人だとアウトプットもしやすいし、いろいろなところから引用ができます。知識はとても役立ちますね。
でも、アニメに詳しくなくても、逆に私のようにその視点を活かすこともできます。
商品企画の仕事にどんな人が向いているかというより、その人が入社後に気持ちを切り替えられるかどうかが大事だと思います。
── ムービックを志望する学生さんは、商品企画志望の人が多いんですか?
やはり、グッズメーカーなので、アニメが好きでアニメイトに通っていて、自分でもグッズを作ってみたいという人が多いですね。
実は、私は当初は営業を希望していました。本当は制作に応募したかったんですが、当時は営業職と制作職で部署が分かれていて、制作職のエントリーシートではデザイン画を描く必要がありました。それはキツいなと思って、営業職として入ったんです。今は部署が一緒になって、制作にも関われてよかったです(笑)。
でも、後から聞いた話だと、エントリーシートでは別に絵の上手さを競っていたわけじゃなくて、丁寧に描いてあればそれで十分だったそうです。実際に、商品企画の仕事でイラストを描くことはほぼありません。グッズのイメージを伝えるためにラフを描くことはありますが、丸にチョンぐらいですね。
今はアニメグッズが大人気なので、いろいろな会社がグッズ制作に手掛けるようになりました。ですからグッズ制作者は各社取り合いの状態で、グッズ制作をしてみたい人にとっては大きなチャンスだと思います。
── その中でムービックさんの強みは何でしょうか?
ものづくりだけでなく、いろいろなことが出来ることです。イベントやストアの運営などもやっていますし、アニメだけでなく映画専門の部署もあるので、映画館で取り扱うグッズやパンフレットの制作から物流まで担当できます。自分で一から考えた企画を販売まで一貫してできるのも魅力です。
カバンの中身は?

── 星野さんが持ち歩いているもので、商品企画ならではというものはありますか?
特にないですね。外出も多いので、持ち物はあんまり多くならないようにしています。ノートパソコンは会社から支給されたもので、いつも持ち歩いています。
── 会社から支給されているパソコンにシールを貼ってもいいんですね。
多分ダメなんでしょうけど、貼っちゃってます(笑)
── 自分が作ったグッズを持ち歩いたりはしますか?
ボールペンは使っています。これは『文豪ストレイドッグス』のグッズで、「スタイルフィット」にしようというところから決めました。ブランドじゃないボールペンにしたりすることもありますけど。
── 飴をたくさん持たれてるんですね。
── スマホカバーは何ですか?
スマホカバーは透明なものを使って、好きなアイドルのCDに入っていたトレカを挟んでいます。
── 既存のデザインのスマホカバーを使うのではなく、自分でアレンジするところがさすが商品企画者ですね。ありがとうございました!