10歳の少年が世界規模のイラコンで入賞!父に聞いた「天才の育て方」とは?

先日COPIC AWARD2019(コピックアワード)の授賞式があり、受賞者が発表されました。
2017年から始まり、今回が第2回目となったCOPIC AWARD 2019。
参加者は日本に止まらず世界中から集まり、なんと2000点以上もの作品が応募されました。
審査員も世界的に著名なデザイナー・コシノ ジュンコさんや、手塚治虫氏の娘・手塚るみ子さん、人気マンガ家の種村有菜さんなど錚々たる面々が務めました。



「サンゴの海でかくれんぼ」柳生千裕
この作品、なんと10才の少年が描いたんです! 先入観を避けるために作者の年齢・国籍を伏せて審査を行ったため、受賞者が10歳の少年だと知り審査員の方々も驚いたと言います。
どのようにしてこの作品を描いたのか、また、10歳でこのような作品を描けるようになるにはどんな教育環境があったのか……作者である柳生 千裕(やぎゅう ちひろ)さんとお父様・尚央(なお)さんに、今回の受賞作品やこれまでの創作活動についてお話を伺いました。

COPIC AWARDを受賞して
── この度は、COPIC AWARD「次世代アーティスト賞グランプリ」受賞おめでとうございます! 受賞が決まったときはどういう気持ちでしたか?


入選の連絡はメールで来ていたんですけど、次世代アーティスト賞については事前連絡がなかったんです。
授賞式に来ませんかと連絡がきて、いい機会だから見に行こうと思って。
授賞式で名前を呼ばれるまでは、次世代アーティスト賞を受賞したことは知らなかったです。
見ているこちらにも、すごく喜びが伝わってきました。


僕とか学校の先生とか周りが喜ぶ方が大きくて、この子はマイペースなんです。
じゃあ次どんなの描こうかなみたいな。良い意味で引きずらないですね。
受賞作品について

イラスト系コンテストの情報サイトがあって、そこでたまたま見かけたんです。
千裕に合っているかなと思って、応募を薦めました。

確かに、最初に作品を拝見した時、小学生が描いたとは思えませんでした。
今回は海をテーマにされた作品ですが、こういうテーマにしたのはどうしてでしょうか?


── そしたら想像だけで描いていると。すごいですね!
緻密に描き込まれた線画になっていますが、下書きを描いてやっていくんでしょうか?


亀を主人公として描くことだけ決めてから描き始めました。
あとは色々思いつくままに描いています。


そういうことでもないんですが、海と言えば…ということで亀となりました。
あとは、絵の中に色々と文字が描いてあるのがこの子の絵の特徴になっていて。

よく見ると「プロテイン」などの文字が見えます。



── 色使いがすごく鮮やかですが、何色を塗るかは、どうやって決めているんでしょうか?
薄い色から塗る……などありますか?


色を塗る時は直感ですね。
色数が多くて、この絵もコピック30色くらいは使っていると思うんですが、正確に何色使っているかは千裕本人にもわからないくらいです。

そうです。線のペンもコピック用のマルチライナーを使っています。

コピックは元々僕が持っていたものを千裕に渡しました。
僕が芸大出身で、学生の頃にずっとコピックを使っていたんです。
この子が本格的に絵を始めるとなったんで、学生の時に使いやすかったコピックを「これどう?」みたいな感じで。


千裕さんのコピック。COPIC AWARDの賞品・コピックスケッチ全色(358本)が加わり、かなりのコレクションに。



コピックはペンを持ちかえればすぐに違う色、違う色…と塗っていける。
絵の具とかはすぐに色を変えるのが難しいので。
── 色を塗る時は、何色にしようか迷わないですか? 塗ってから「ちょっと違ったな……」と思うことはありませんか?

── 本当に直感なんですね!
この作品を作るにあたって参考にしたものはありますか?

ウミガメは形自体がわからないと言っていたので、図鑑とかを見て「こういう感じなんだ」と。まあ参考になってるかわからない原型になってるんですけど。
普段はなにも見ないですね。
テーマ自体も、普段はあんまり「これを描くぞ」というのは決めてなくて、描いてるうちに形になっていく感じです。
描き始める前に2人で「何をやろうか」って話し合ったりするんですけど、この絵を描いた時はたまたま暑かったんで、涼しい絵にしようかって感じで決まりました。
(創作については)2人でよくしゃべりますね。「どんなんでいこうか〜」みたいな。
── 千裕さんは、お父さんとそういう風に話すのは楽しいですか?

「教育や指導をしないこと」が一番の教育になる
── お父様から芸術的なアドバイスをされているんですか?

これが全然していないんですよ。
僕が(芸大の)イラスト科出身なんで、昔はイラストを描いていたんですけど、今は全く違う仕事をしているので、家で絵を描くこともないですし。
技術面に関しては何もやっていなくて、勝手に独学で描いてる感じなんです。
僕の絵を見たこともないんですよ。

残ってないんですよね。大学時代は20数年前のことなので……
今は自分でやるより、子供の絵を見ている方が楽しいんです。僕に描けない世界があるので、見ていてすごく楽しいですね。
── 普段の創作についての話し合いはどういう感じで行われるんですか?

この子が描きながらです。
みんなびっくりするんですけど、集中して描くんじゃなくて、僕の隣に座ってずっとおしゃべりしながら描いてます。クイズ出したりとか、しりとりしながら。
今だと英語のリスニングのCD聴きながら、勉強しながらやってますね。

それはないんですけど、基本的にはこの子の塗ったやつは全部褒めますね。
色とかは本当に千裕が直感で選んでます。

── そうやって、お父様が「自由に描いたらいいんじゃない?」って言ってるのが、一番の成長の糧なのかもしれないですね。教育をしないのが一番の教育というか。

── お父様から芸術的な影響を受けてはいないということですが、イラスト教室などに通ったことや、学校で芸術系のクラブに入っていたこともないんでしょうか?

教室はないですね。学校の漫画クラブはちょっとだけ入っていた記憶もあるんですが、活動内容が「漫画の真似をしてみよう」みたいなもので、あんまり合わなかったみたいです。真似は苦手ですね、この子は。






「すごいすごい」って言ってましたね。

あの街の……!

赤紫色の夜の街の絵ですかね。
── こちらですね。


いや〜すごいなぁやっぱり、いつ見ても。

この子自身がデッサンがすごく苦手なんですよ。
こういう写実的な作品を見るといつも「すごいすごい」って言ってます。
3歳から始めた絵。コピックとの出会いで作風が激変。
── 千裕さんは、今年で11歳(小学5年生)ということですが、何歳から絵を描いていましたか?



この子がちょっとアスペルガー症候群で、コミュニケーションがちょっと苦手で、絵だったら休み時間とかに一人でできるので、というのがあったのかな……?
そういうのが、ちょっと関係あるかもしれないです。
── いつ頃から絵を描くのが好きになったんですか?

いつかなあ……7歳くらいの時に。

ずーっと描いてましたね。自由帳に。ひたすらに。
小学校入ってからは休み時間にずっと描いているっていうのは先生からも聞きました。

正直そこまでではなくてですね。
小学3年生くらいまでは、棒人間ばっかり描いていたんですよ。色はまったくなくて、赤くらいで。
── ちなみに、その棒人間だった時代の絵を見せていただくことはできますか?





3年生くらいから徐々に作風が変わって、4年生でコピックをプレゼントしてから劇的に変わりました。
その時は本当にびっくりしました。

線画もそこからちょっと変わってきましたね。人間が人間らしくなったというか。
おっさんを描くのが好きなんですよ。


わからへん(笑)
── おっさんはモデルはいないんですか?


千裕は漫☆画太郎さんの漫画が好きで、それにおっさんが出てくるので、それの影響はあるかもしれないですね。

理由はわからないんですけど、コピックがきっかけだったことは間違いないですね。とにかく色がなかったのが、色を塗るようになったんで。
でもそれでなんで(線画も)そこまで変わるのかはわからないんですけど。
まあでも変わった絵を見て、才能が……もしかしたらあるのかなと思いました。
これからも「世界にいるひとを笑顔にする」ような絵を描いていきたい
── 今後こうなっていきたい、こういう絵を描いていきたいというのはありますか?

自分の描いた絵で世界にいるひとを笑顔にしたい。

嫁(千裕さんの母)が看護師で、病院にも絵を飾ってもらったりして、「元気が出た」とか色々なメッセージをもらっています。
過去に、千裕さんの絵をグッズ化・販売した収益で、クライマーの方を支援されていますが、そういった絵で直接的に支援していく活動を今後もやっていきたいという考えはありますか?


あれは本当にレアなケースで、この子がボルダリングが好きで、尊敬している人がたまたま南アフリカの方に遠征に行くのでチャリティをっていうのが始まりだったんで。
僕としてはそういうのもやっていきたいんですけど、本人次第なので……
支援した方もすごく喜んでいましたね。遠征先で日本人初というような岩も登って突破していて、絵が力になったのではと思います。


と言っていますが、わからないですね、まだ10歳なので。
これからどうなっていくか……まだまだ変わるかもしれないし、貫き通すのかもしれないし。僕も楽しみな部分です。


どうでしょうね。絵にたずさわる仕事が何かできたらいいなとは思いますね。
障害がちょっとやっぱりあるので、こういう特技というか、得意な部分を伸ばしていってほしいです。
── 今後が楽しみですね。千裕さん、尚央さん、ありがとうございました!
■COPIC AWARDとは