『リトルウィッチアカデミア』『キルラキル』を手がけた新鋭アニメクリエイター集団TRIGGERへ!#突撃会社訪問

取材・文/阿部栞
アニメ、漫画、イラスト、デザイン……世のクリエイティブを生み出す会社でリアルに働くヒト、職場などのとっておき情報をお届けする連載企画「#突撃!!会社訪問」がスタートします!
今回お話を伺ったのは、精鋭のクリエイティブ集団を抱える、業界大注目の若きアニメスタジオ・TRIGGER(トリガー)。設立からわずか5年に関わらず、TVアニメ『リトルウィッチアカデミア』や『キルラキル』などの話題作を生み出しています。
大きなテロップ文字を使った大胆で新しい表現やセル画時代のアニメを彷彿とさせるけれん味のある大胆なカット割など、古きを大事にしつつ新しさを追求していく──。作風から感じられる、作り手の探究心や作品への熱量も魅力の一つです。
玄関で迎えてくれたのは……?



リトルウィッチアカデミア・ダイアナのイラストが!
可愛い……そしてお上手です。 アニメーターさんが描いてくれたのかなと思いきや、事務職の方が描かれたとのこと。会社全体でキャラクターを愛していることが伝わりますね。
現役アニメーターたちの使用する生アイテム公開!
夕方、まだたくさんのアニメーターが机に向かい集中して作業している時間に(お邪魔してしまって本当にごめんなさい……)スタジオの中を案内してもらいました。
スタジオ内には所せましとアニメーターの作業デスクが並び、デスクには大量の作画資料からフィギュアまで、アニメーター各々の個性が出ています。
歩いていると、壁一面に置かれているカラフルな紙の山を発見。

あべし:このカラフルな紙の山はなんですか?
舛本:これは、話数ごとに使われた原画や動画に使用した紙を保存している箱です。1話につき大体3箱くらいですね。アクションが多い話数だと6箱くらいになるかな。あ、腰を痛めるので持たない方がいいかと……。
あべし:お、重いです!(泣) こんなに重いのに、1話分の1/3程度の重さなんですね。1話作るのに想像できない枚数を描かれていることがよく伝わります……。
スタジオ内には、他にもアニメーターが使用するグッズが大量に備えられています。



絵を書けないけどアニメに関わりたい。それを叶えるのが制作進行。
トリガー取締役で、アニメプロデューサーの舛本さんといえば、アニメがどのようにして作られているかを「制作進行」の視点からお伝えした自身の著書「アニメを仕事に! トリガー流アニメ制作進行読本」 (星海社新書)がアニメ専門学校生のバイブルになりつつあるとのこと。
「絵が描けないけどアニメには関わりたい」という若者の憧れの役職である制作進行やマネジメント職について、そしてその仕事内容について伺いました。

あべし:舛本さんは、どのような経緯を経てアニメプロデューサーのなったのでしょうか?
舛本:アニメ業界に就職したのが2000年だったんですが、そこから17年間、
制作進行 → 制作デスク → ラインプロデューサー → プロデューサー
と現在まで変遷してきました。
もともとアニメが大好きで、大学卒業後に代々木アニメーション学院へ行きました。アニメに携わりたかったんですが、残念なことに絵が下手だったので……。制作進行の世界へ進みました。
あべし:「制作進行」とは具体的にはどんなことをするのですか?
舛本:「アニメを作る」といえば、声を入れたり絵を描いたり……。そういうことをイメージしがちですが、それを管理するための仕事が制作進行です。例えば、アニメーターのスケジュール管理や人を集めてくるスタッフリング、制作費の管理や環境作りまでなんでもです。
環境づくりとは、スタジオの備品を絶やさないようにすることからスタッフの体調管理・ストレスの管理ケアまで色々ですね。
あべし:制作進行の次は、制作デスクに入られたとのことですが、制作進行と制作デスクの違いってなんですか?
舛本:制作進行は1話に1人ずつ担当者がいるんですが、全ての話数を統括するのは制作デスクです。雑誌の編集長のような存在ですね。
次にやった「ラインプロデューサー」っていうのは、つまりアニメの製造ラインを構築するプロデューサーです。背景を描く会社さん、音響の会社さんなど他社に多く仕事をお願いするんですが、その際のやりとりを円滑に進めることで製造ラインを作っているんです。
あべし:実際に絵を描く人以外にも、いろいろな人が動いているんですね!
舛本:そうですね〜、アニメができあがるまでに動く全ての人を100%とすると、絵を書く人はそのうち20−30%だけです。
あべし:ええっ。意外と少ないですね! それほど、多くの人が一つのアニメ制作に関わっているってことなんですね…。では次にプロデューサーになられるわけですが、ラインプロデューサーとプロデューサーの違いって何でしょう?
舛本:プロデューサーは、
の二つに分けれます。僕はクリエイティブプロデューサー。中身を作る方のプロデューサーですね。
あべし:もう一つのビジネスプロデューサーっていうのは何をする人ですか?
舛本:アニメをお金を変えるのがビジネスプロデューサーですね。アニメは投資に近いんです。放送した後、アニメをお金に変える必要がある。具体的にいうと、グッズを出したりCDを出したり、ブルーレイを出したり。最近はコラボカフェなんてのも多いですね。
あべし:『リトルウィッチアカデミア』もpixiv Zingaroで個展を開催したり、文房具カフェさんとコラボしていますもんね! この辺がビジネスプロデューサーのお仕事領域なんですね。では、今まで担当されたアニメが放送終了した現在はどんなお仕事をされていますか?

舛本さん:今は、現在公開に向けて動いている新作『グリッドマン』『PROMARE(プロメア)』に携わっていいます。
あべし:最近制作発表がありましたね! まだ1話も放送されていない中でやることってどんなことがありますか?
舛本:プリプロダクションという作業をやっています。
あべし:プリプロダクション……?
舛本:アニメを制作する中で、一度話数の制作に進んでしまったらもう後戻りできないんです。だから、物語の根幹をしっかりと決めておく必要がある。それを決めるのがプリプロダクションです。
具体的にいうと、アニメの中の世界観、文化、倫理観、キャラ設定などですね。監督が何をやりたいのか汲み取って物語の根幹を決定・共有することで物語がブレないようにする。そして初めて、それに即した脚本や絵コンテが書けるんです。
あべし:作品の表面に出てこない、倫理観まで決めているんですね! それを2作品平行で動かすなんて、頭の切り替えが大変そう…。
公開に向けて土台を整えているところかと思うのですが、アニメの企画が始まって世にでるまで、どのくらいかかるものなんでしょうか?
舛本:トリガーでは企画会議がはじまって、世にでるまで大体3年くらいかかりますね! 今回も同じくです。
あべし:3年! 普段観ているアニメが本当に製作者の手塩に揉まれていることがわかります…。長い間アニメに携わっている舛本さんにとって、ターニングポイントとなった出来事はありますか?
舛本:うーん、
・14歳のとき『ふしぎの海のナディア』を観たこと
・大学1年生のとき『新世紀エヴァンゲリオン』を観たこと
・ガイナックスに入社し、『天元突破グレンラガン』を担当したこと
です。
あべし:『グレンラガン』を担当されたことがどう影響したのでしょう?
舛本:僕は、もともと下請けの下請けでアニメ制作の仕事していて、一つの作品にずっと関わるというよりはいろんなアニメ制作に少しずつ関わる「つまみぐい」状態だったんです。一つの作品に大きく関わりたいと思って元請け会社のガイナックスに入社したんですが、そこの大きな違いは誰のためにアニメを作るかってこと。
下請けの下請け時代はどちらかというとクライアントのために仕事をしていたけれど、ガイナックスでは、作品を観てくれるお客さんにために作っているという雰囲気があった。そこは、仕事の転換期だったと思いますね。
あべし:自らを振り返って「職業病だな」と感じる時はどんな時ですか?
舛本:休みの概念がないってことですね(即答)。
休みたいという感情がない。この業界は、仕事自体が趣味とアイデンティティを兼ねている。それが楽しいし、全ての基準がアニメになるので、人生楽です(笑)。
あべし:アニメ漬けの日々も、それが趣味を兼ねているなら楽しそうに思えます!それでは最後に、トリガーの今後の展開について教えてください。
舛本:会社が潰れない限りはアニメは作っていきます。そしてもっともっと、観てくれるお客さんを増やしたい。
あべし:世界中の人に見てもらうために、どんなことをしているんですか?
舛本:年間7回くらい海外イベントに参加しているんです。Anime Expoとかに出ては、お客さんを楽しませるために新作映像を撮ったり監督コメントをとったり…。直接的にいうと、ファンサービスってことですね。
僕らはお客さんの直接の反応をとっても大事にしていて、わざわざイベントに来てくれて、期待してくれているお客さんたちに喜んでもらうためになんだってやろうと思っています。
あべし:ありがとうございました!
高校卒業→鳶職→未経験でアニメーターに!「とにかく絵を描く仕事がしたかった。」
続いてお話を伺ったのは、TVシリーズ『リトルウィッチアカデミア』でキャラクターデザインを務めた若手実力派アニメーターの半田修平さんです。多くのアニメーターが専門学校や美術大学を経てアニメ業界へ飛び込む中、少し変わった経歴を持っているそう……?

あべし:以前はアニメとは関係のないお仕事をされていると聞きました。どのような経緯で現在のお仕事になったのかを教えてください!
半田:高校卒業したあと、仕事をしながらお金を貯めて専門学校に通おうとしていたんです。でも、不思議ですよね。お金って溜まらないんです(笑)。じゃあもう直接行こうと思ってガイナックスを受けに行ったんです。もう落ちたなと思ったら受かってて。
あべし:未経験でガイナックスのアニメーターってことですか!? すごすぎる…。専門学校や美大、アニメ関連の職業などを経ないでアニメーターになる人って割合としてはどのくらいなんでしょう?
半田:1割くらいじゃないですかね?(笑)その1割の中で一番有名なのは宮崎駿さんの師匠・大塚康夫さん。前職は麻薬Gメンをされていたそうですね。前職の意外性では勝てない。
あべし:半田さんは、前職では何をされていましたか?
半田:鳶職やったり、塗装屋やったり、車の部品を組み立てたりしてましたね。
あべし:今と業界が全く違う!! その間、どうやって絵に関わっていましたか?
半田:うーん。仕事して、絵描いて、寝るという感じでしたね。

あべし:半田さんがキャラクターデザインとして携わっていたTVシリーズ『リトルウィッチアカデミア』も最終話を迎えた訳ですが、現在はどんなお仕事をされていますか?
半田:『リトルウィッチアカデミア』の版権イラストを描いています。例えばDVDのジャケットとか、ゲームのパッケージとか、それからムック本の表紙とかです。
あべし:なるほど、これが舛本さんがお話されていた「アニメをお金にする」ための仕事の一環なんですね。
キャラクターデザインなんて、想像できないくらい忙しそうだなあと勝手に思っているんですが、半田さんの1日のスケジュールを教えてほしいです。
半田:1日のスケジュールか〜。1日が24時間ってことなら…。
あべし:い、1日が24時間じゃない場合がある? 延長戦があるってことですか??
半田:(笑)。一番忙しいときでいうとTVシリーズ『リトルウィッチアカデミア』の最終話くらいですね。5日間泊まって、1回帰るってことをしてましたね。
あべし:ギャー! それは本当にお疲れ様です…。個人的に、朝何時に起きて、淹れたてのコーヒーを飲んで…みたいな1日を知りたかったんですがそういうのは……。
半田:うーん、すみません。人には言えない生活リズムです。(笑)。まあ、労働裁量制なんで許してください!
あべし:極論、締め切りさえきちんと守れば問題ないんですもんね! では、キャラクターデザインを務めた『リトルウィッチアカデミア』内で、一番時間のこだわりをかけたシーンはどこですか?
半田:時間がかかったのは第1話の制作で、6ヶ月かかりました。6ヶ月って、一昔前だとアニメ全話制作にかける時間と同じくらいらしいです。1話に1年以上かけるところもあるらしいですけどね。
『リトルウィッチアカデミア』は1話につき1〜1ヶ月半くらいかかっています。こだわりか…。個人的には、シャイニィロッドにうるさくて、シャイニィロッド警察って感じでした。とにかく、シャイニィロッドが崩れているのが許せない(笑)。
半田:アニメーターそれぞれこだわりがあって、アマンダにこだわりのあるアマンダ警察もいましたね。あとは、ロッテの持っているランタンにこだわりがありました。あのランタンも、僕の中でキャラなんです。『新世紀エヴァンゲリオン』でも、電信柱は背景の中にあるのではなくてセルできちんと描かれているんですよ。庵野監督も、電柱もキャラっておっしゃっていましたしね。

あべし:アニメ業界に入られてから、私生活の面で変わったことはありますか?
半田:趣味がなくなりましたね! 今は前まで趣味だった絵の仕事をしているから。あとは、映画を観るときは、ストーリーより動きを見てしまうようになりました。その後、絵コンテを見たときに「あの映画のシーン使えそうだな」って思うので覚えている範囲で活用します。
あべし:『リトルウィッチアカデミア』も落ち着いて次のステップに進まれるかと思うのですが、ご自身の今後の活動について教えてください。
半田:これからロボとかメカを書いてみたいです。あとは、『リトルウィッチアカデミア』をやっていて演出に興味が出てきたので挑戦したいなあと思っています。
あべし:ありがとうございました!
「作品作りはお客さんのために。」そんな雰囲気が伝わるオフィスでした。
写真は撮れませんでしたが、スタジオの共有スペースには学生からのファンレターが飾られていました。もらったファンレターや、コラボカフェに置かれているコミュニティノートなどファンからの声はスタッフ全員で観られるようにしているのだそうです。インタビューの中で舛本さんがおっしゃっていた「作品を観てくれるお客さんのために作品を作っている」思想がスタジオの中に濃く反映されています。
月並みな言い方ですが、スタジオ訪問を通じてトリガー作品をもっと好きになりました。新しく発表された新作も楽しみですね!
この連載では、クリエイティブを生み出す会社やそこで働くヒトに突撃していきます。第2回も楽しみにお待ちください。
・クリエイティブプロデューサー
・ビジネスプロデューサー