【文豪ストレイドッグス】キャラデザ裏話に迫る!朝霧カフカさん✕春河35さんによる対談インタビュー
インタビュー:ワダヒトミ
編集・撮影:関口敬文
KADOKAWAの「ヤングエース」で連載され、コミックスがシリーズ累計410万部を突破した「文豪ストレイドッグス」。テレビアニメも大人気で、先月末にはBlu-rayとDVDの第7巻が発売されたばかり。そして今話題の、無料で読めるコミック誌「ピクシブエース」でも好評連載中なのです! アニメや漫画の展開だけでなく、太宰治ゆかりの地、青森でのコラボキャンペーンや、横浜市教育委員会とのコラボレーション企画など、様々なメディアミックスも展開中。
そんな話題沸騰中の本作ですが、原作者・朝霧カフカさん、作画・春河35氏さんは、どのようにしてこの話題作を作り出したのか? 本作の魅力である文豪と同名のキャラクターたちはどのようにして生み出されたのか? そんな疑問の数々を直接ぶつけてみました!
化学反応によって新しいものが生まれる歓びがあります
──現時点では師走ですが、新年公開のインタビューということで、どうぞ、明けましてよろしくお願いいたします。
──まずは、朝霧カフカ先生への質問です。「文豪ストレイドッグス」のキャラクターデザインは、どのように出来上がっていったのでしょう?
朝霧 文豪をモチーフに作品を作ろう、春河35先生に作画していただこうという枠組みが決まった段階で、まず僕からキャラクターの設定案をお送りしました。といっても、各キャラにつき3行くらいの簡単なものだったんですけど、それをもとに春河先生にラフ画を上げていただいて、それを見ながらエピソードを膨らませていった、という感じです。
──ストーリーよりもキャラクターが先に膨らんだ?
朝霧 普通はお話を考えてから、そのお話に沿ったキャラクターを考えていくものなのかもしれないのですが、そうした場合、ストーリーの展開の制約に引っ張られて、キャラクターが痩せちゃう可能性もあるんですよね。対して今回は絵を見せていただいて、それからキャラクターの人生を考えていけたので、自分では思いもよらなかった豊かなキャラクター像に辿り着けたんです。
──ちなみに、その最初の設定というのは、具体的にはどんなものだったのですか?
朝霧 あ、メールの履歴を探れば、どこかにあるかもしれません。(しばし検索)ああ、ありました。わ、ホントにすっごい簡単だ。えーと「中島敦。24歳。素直で純朴なツッコミ役。能力は月ノ獣。虎に変身する」……敦くん最初は24歳だったんですねえ。それから「太宰治。美形でユーモアがあり、女にモテるがつき合う女に心中しようと持ちかけ嫌われる。いかにかっこよく自殺するかを模索中。「よし、死のう」となんの脈絡もなく言うのが口癖。能力は人間失格。身体に触れると他ほかの能力を無効化する」うーん、だいぶニュアンスが違いますね。あ、これも全然違う。「与謝野晶子。和系の美女。極度のブラコン。探偵社の内政担当だが、戦争が嫌いで福沢とよく喧嘩をする」だって。へえ〜!
春河 へえ〜!じゃないですよ。
朝霧 いや、読み返すのも面白いなあと思って(笑)。とまあ、こういった感じの設定をお送りしただけなんです、最初は。
──想像以上にシンプルでした。ご自身の原作が他ほかのクリエイターさんの手によってビジュアル化されることの醍醐味とは?
朝霧 ありきたりな言葉ですが、“科学化学反応が起こること”ですね。自分以外の方に手がけていただかなければ生まれなかったものに出会える歓びは大きいです。
キャラデザでは目やシルエットにこだわりました
──春河35先生は、この設定をどのように絵に落とし込んでいったのですか?
春河 この作品の特殊なところは、朝霧先生からの設定のほかに、文豪ご本人のイメージという要素もあると思うのですが、最初にイラストを起こすときには、まずは設定の方に寄せていこうと思いました。たとえば、敦くんだったら「虎に変身する」というところから、白虎を思わせる色合いにして、長く垂れたベルトに尻尾の面影を持たせたり、太宰さんだったら自殺マニアということで包帯をつけたり、アイテム使いでポイントを押さえつつ……。まずは設定から連想したものを素直に描いて、ダメなところ探しをしていただければいいかな、くらいの気持ちで提出した気がします。
朝霧 なんてサラッと言ってますけど、最初のラフからものすごい完成度のものが届いて驚かされましたけどね。その姿を見た瞬間、どういうヤツなのかって瞬時にわかるデザインになっていて。そういうキャラデザができる人というのはそうそういないと思います。
──たたずまいというか、本来人が人生を歩んで携える厚みのようなものを、すでにもっているイラストだったのですね。
朝霧 そうなんですよ! 頭の中では記号の集まりでしかなかったものが、人物としての深みを持って、目の前に突然現れたという感覚です。シルエットや背丈、目の表情に非常に訴えかけてくるものがあった。とくに目の印象が大きいかな? それを見て、自分の中のキャラクター像が一気に5倍くらい深まったという感触がありました。「この子にはどんなピンチをぶつけたらいい反応が返ってくるだろう?」とか、「こんな悩みがあるんじゃないか?」とか、そこではじめて浮かんできたんです。
──アニメ版を手がけられている五十嵐卓哉監督もシルエットの際立たせ方が素晴らしいとおっしゃっていました。
春河 うれしいです。pixivにイラストをアップしているみなさんは、基本カラーで描かれていると思うので、また作り方が違うと思うんですけど、漫画は基本モノトーンで描いていくので、シルエットを含め白黒のバランスが重要になってくるんですよね。このキャラとこのキャラはよく一緒にいるから、「じゃあ、片方のキャラの髪にはベタを入れないようにしよう」とか。
春河 パズルのように組み立てていきました。そんな感じで設定を作ったので、カラー設定は後付けだったりするんですよね。
朝霧 たしか、敦くんの髪を白髪にするか金髪にするかも当初は決まってなかった。でも、白虎だから「白で!」となり。
春河 私も内心、白がいいなって思っていました。主人公が白だと、どこの界隈に首つっこんでも絵的に喧嘩せずに描けるんです。最終的には、探偵社のみんながズラッと並んだときの雰囲気も地味ではあれどもハマっていて、対してポートマフィアは黒で、ギルドがとても華やかで……とチームごとの雰囲気にも統一感が出せたんじゃないかなあと思っています。
──ラフ画からかなり変わった設定はありますか?
朝霧 リテイクを重ねたのとすんなりいったものは分かれますね。そういえば、ラヴクラフトは一発目のキャラデザでは、ピッとしてました。裾もピッとしていて(笑)ピッとした執事風だった。
春河 あ、ラヴクラフトの場合は、最初は文豪さんご本人の雰囲気も加味していたかも。
朝霧 僕の中に特定のイメージがなかったら、そのままで進んでいたと思うんですけど、ラヴクラフトに関しては僕の中にイメージがあり……。
春河 朝霧先生のラヴクラフトへのこだわりはすごいですからね。
朝霧 (笑)。なので「もっとぼろぼろにしてください。何せコイツは深海から来たので」とリクエストして。
春河 あの首を横にしたまま木目を数えるポーズも実際にやって見せてくださいましたもんね〜。
原作者がイラストを描いてくれるから便利!?
──初期メンバーはキャラクターデザインありきだったとのことですが、以降にはストーリーに合わせて生まれて深まったキャラもいますか?
朝霧 います、います。たとえば、「Q」と呼ばれている夢野久作とジョン・スタインベックは、ふたりの能力を合わせてヨコハマが炎上するというプロットを元に能力を考えて、性格づけしていったキャラです。
春河 そして、Qの持っているあの人形は、ほとんど朝霧先生によるデザインなんですよ。
──ええ!?
朝霧 ああ、こんな感じかな? って描いて出した覚えはありますねえ。要するに中性的な子供が、ものすごい気持ち悪い人形を持っていたらいいなあっていうイメージで……。
春河 あとQの呪いがかかった状態の人の表情というのも何パターンかいただきましたね。Qと同じ目になるという案もありました。
朝霧 ありましたね〜。結果、顔に血の涙が浮かぶ、というのを使いました。
──朝霧先生もイラストを描かれるのですね!
春河 担当編集の加藤さんがよく言っています「原作の作家さんまでイラストが描けるなんて、なんて便利なんだ」と。ネームの修正にも朝霧先生から、こんな感じと図解で入っていることがあって、とてもわかりやすいんです。
朝霧 いやすべては、春河先生が素敵なキャラクターイラストにしてくださるという安心感あってのことですけどね。
中也のキャラ設定は一番時間がかかっているんです
──そのほかデザイン行程が印象的だったキャラは?
朝霧 あらためて振り返ると、中也の完成度が高いなあって思います。
春河 だって、めちゃめちゃ時間かかりましたもんね!
朝霧 じつは中也は一番時間がかかっているかも。ものすごいパターンを出してもらいましたね。
朝霧 太宰の元相棒っていうことは決まってたんだけど、実際の文豪のおふたりにも因縁のある関係性なので、そこにどんなキャラを充てようかって悩みました。ただ、背が低いということだけは決まってたけど(笑)。おかげさまで、今や中也はすごく人気のあるキャラクターに育ってくれたわけなんですけど、人気が出るんじゃないかな、というのは当時からうすうす感じていたんです。だからこそ手を抜けないと思ったんですよね。
朝霧 どんなものでも、あーでもないこーでもないと、なんだかんだ時間をかけて少しずつ積み上げて、ようやくできるのが作品だと思っていまして。エネルギーをかければかけただけ良いものができるという法則は、ここにもあてはまってくるのかなあ、とキャラクターデザインを振り返ってみても思うわけです。なので、「よいアイディアは、いつか突然降ってくる」みたいなことは、あんまり信じないほうがいいかもよ、というのが僕からのメッセージです。これからも「文豪ストレイドッグス」をよろしくお願いいたします!
産みの苦しみ・産みの楽しみをともに味わって出来上がった作品だということが、おふたりの言葉の端々から感じられました。魅力的なキャラクターを産みだしたおふたりに、インタビューのあと、無理を言ってキャラクターイラストを描いていただきました。
イラストを描きながら、朝霧さんが「文学界に関わる様々な団体や人たちが、非常に協力的なのが大変ありがたい。この作品をキッカケに、文学の世界をもっと知って欲しい」とおっしゃっていたのが印象的でした。
テレビアニメは2クール目が終了しひと段落となりましたが、漫画や小説については、これからもまだまだ目の離せない作品! 2017年も公式サイトの情報はもちろん、「ピクシブエース」の連載も要チェックですね!
「文豪ストレイドッグス」公式サイト
http://shoten.kadokawa.co.jp/sp/bungo/
アニメ「文豪ストレイドッグス」公式サイト
ピクシブエース
https://comic.pixiv.net/magazines/129
- 朝霧カフカ
- シナリオライター、小説家。ヤングエース2013年1月号スタートの「文豪ストレイドッグス」で漫画原作者として商業デビュー。「文豪ストレイドッグス 太宰治の入社試験」で小説家デビューを果たす。