世界初(!?)デザイン哲学の学習漫画が登場! 作者・大林寛さん×コルシカさんインタビュー
文:近藤世菜
椅子は誰にとっても「座るもの」とは限らない。
そう言われてピンとくる人はなかなかいないかもしれませんが、これはデザインを学ぶうえで重要な概念「アフォーダンス」に関係しています。
一見ややこしいように感じる「アフォーダンス」について、子どもでもわかるようにかみくだいて説明しているのが『学習まんが アフォーダンス』。情報設計とエクスペリエンスデザインの専門家である大林寛さんが原作・監修を務め、イラストレーターで漫画家のコルシカさんが漫画を担当しています。
多くの書店で販売され、ネット上でも話題になった『学習まんが アフォーダンス』ですが、このたび第2弾となる『学習まんが 記号とアブダクション』が販売されるとのこと。
そこで、制作の裏話や新作の見どころについて、大林さんとコルシカさんにお話を伺ってきました!
- 大林寛
「ユーザーとの関係を観察し、経験の質を考え、メディアをデザインする」設計事務所、株式会社OVERKAST代表。「ÉKRITS(エクリ)」発行人。東洋美術学校クリエイティブデザイン科UXデザイン講師。
- コルシカ
漫画家。1983年東京生まれ東京育ち。日本デザイナー学院グラフィックデザイン科卒。美学校「絵と美と画と術」第七期生。商業イラストレーターとしても活動しており、さまざまな媒体のイラストを手がけている。
視点をちょっと変えるだけで世界はガラリと変わって見える
── 今日はよろしくお願いします! まず『学習まんが アフォーダンス』を制作したきっかけを教えてください。
コルシカさんに「学習漫画を一緒に作りませんか」と誘われたのがきっかけですね。実はそれまで、コルシカさんが描いてた同人誌をずっと「つまんない」ってダメ出ししていて、「もっと自己を晒せ」とか「どうせならエロ漫画描け」とか辛辣なこと言ってたんです。だから一緒に漫画をつくらないかと言われたときは、今まで散々言ってたことが自分のところに返ってきたかと(笑)
── そんなにダメ出しするなら一緒につくってくれよって感じだったんですか?
まあ、たしかにダメ出しされてたからってのはあるんですけど(笑) でも最大の理由は、大林さんの話してくれることが純粋におもしろかったってことですね。ふだんから、デザインに関する概念とか哲学的なことについてよく話してくれてたんですけど、それがすごくおもしろくて。
そうですね。それと僕自身もともと学習漫画が好きで。古本屋で昭和の学習漫画をよく買ってたんです。読むと頭がよくなった気がしてうれしくて。もともと同人誌を描くことがあったんですが、どうせなら自分の好きなものをつくってみようと。
── 大林さんはデザインに関する知識が豊富だと思うのですが、アフォーダンスを取り上げようと思ったのはなぜなんですか?
もともとアフォーダンスの概念ってすごくおもしろいなって思っていて。視点をちょっと変えるだけで、世界が違って見えるって、すごくパワフルなことじゃないですか。
コンセプトとしては「子どもでもわかるアフォーダンス」というのがあるんですが、メインのターゲットはデザインの仕事を志している若者ですね。僕はデザイン学校の講師として、授業でアフォーダンスの話をすることがあるんですが、あまり食いつきがよくないんですよ。たしかにとっつきにくいとは思うんですが、それがもったいないなと思っていて。でも、言葉で説明するとわかりにくいことも、漫画ならもしかしてすっと頭に入るんじゃないかと。
── 入門書のような感じで読んでほしいということですね。
はい。こういのって理屈じゃなくて、ふとしたきっかけで好きになるものだと思うんです。最終的には『学習まんが アフォーダンス』を読んで、アフォーダンス自体に興味をもってもらえたらいいですね。
いくつかの書店に置いてもらっていたんですが、作中に参考書籍として挙げていた本を合わせて買っていく人が増えたそうなんです。そういう影響を与えられたのはすごくうれしかったです。
制作は「漫画ってどう読むの?」からはじまった
実は僕、漫画ってほとんど読まなくて(笑) はじめは漫画の読み方を教えてもらうところから初めました。
── え!? 読み方がわからないって……どういうことなんですか?
昔から活字の本は好きでよく読んでいたんですけど、漫画になるとなぜか作品に入り込めないんですよ。
たとえば、小声で言うセリフはフキダシを破線にして表現しますよね。大林さんはそれがなぜだかわからないんだそうです。
── なるほど。漫画を読むうえでの暗黙のルールが通用しないというか。
そうなんです。そこから説明しなきゃいけないの?って驚くこともあったんですが、大林さんの指摘は"気付き"をくれるものばかりで。たとえば、漫画ってページが変わったり、景観のシーンをはさんだりしたら場面が変わる、っていう手法を使うことが多いと思うんですが、大林さんは「それって読者に伝わってるの?」と。たしかに、当たり前のように使っている手法が、読者にとってわかりやすいかどうかわからないですよね。そういう視点を忘れちゃダメだなと思いました。
── 大林さんは、漫画を読んだことがないのに漫画をつくるということに抵抗はなかったんですか?
はじめは漫画でどんな表現ができるのか想像がつかなかったんですが、コルシカさんが学習漫画の参考として見せてくれた、高野文子さんの『ドミトリーともきんす』に衝撃を受けて。漫画でこんなにすごいことができるなら挑戦してみたいと思ったんです。
高野文子さんの作品と僕たちの漫画を並べて語ることすらおこがましいのですが、こんな風にワクワクする漫画を描けたらなという目標として、大林さんに見せました。
僕ひとりでは、学習漫画っていう表現手段はぜったいに思いつかなかったと思うんです。でもそのフォーマットを採用したからこそ、コンセプトの斬新さがウケていろいろなところで話題にしてもらえた。若い子たちにデザインの思想的な部分にも興味を持ってもらいたいっていうのはずっと思ってたことだったので、自分の思いをコルシカさんの手を借りて実現できたという感じです。
待望の2作目は『学習まんが 記号とアブダクション』!
アフォーダンスのほかに大切なこと、と考えて最初に思いついたのがアブダクションでした。アブダクションとは、経験を前提にした推論のことです。ただ、なかなか話が思いつかず……。それで記号論も交えて表現したらどうだろうと思って。実はアブダクションも記号論もパースっていう哲学者が提唱したものなんですよ。僕の解釈では、パースのなかでアブダクションと記号論はつながってるんです。
記号とアブダクションは理解するのがなかなか難しかったですね。描きながらなんとかつかめた……かな?という感じで。アフォーダンスのときはわかりやすい参考文献がたくさんあったんですけど、記号とアブダクションに関しては書籍も少ないし、あっても難解で……。
パースの記号論やアブダクションについては、わかりやすく読めるものがまったくないと言っても過言ではなくて。そういう意味では、今回の『学習まんが 記号とアブダクション』はかなり稀有な存在になるんじゃないかと。ここまでかみくだいたものは世界初かもしれません(笑)
はじめの一歩として読んでもらえたらうれしいですね。デザインの哲学について触れることで、ものの見方ががらっと変わることがあると思うので、その経験を自分の創作に役立ててもらえたらうれしいです。
『記号とアブダクション』冊子版はオンラインショップで発売中!
概念や哲学、と聞くとなんだかとっつきにくくて、つい敬遠してしまいがち。でも、すこし知識を得るだけで、ものの見方が変わったり、思いもしなかった発見ができたり、きっと創作にもいい影響を与えてくれるはずです。
理解するのが難しいという記号論とアブダクションについて噛み砕いて説明した世界初(たぶん)の学習漫画『学習まんが 記号とアブダクション』は、大林さんが運営しているWebメディア「ÉKRITS」で閲覧することができます。冊子版はオンラインショップ「ÉKRITS STORE」と取り扱い店舗で発売中です。
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