手描き原稿を間近で!『絶チル』椎名高志先生の原画展は見どころいっぱい!
インタビュー・文:関口敬文(ヴィ)
週刊少年サンデーで1991年から8年間に渡り連載されていた『GS美神 極楽大作戦!!』。その作者である椎名高志先生の原画展が、中野ブロードウェイ内のpixiv Zingaroにて8月23日(火)まで開催されています。
「GS美神25周年記念 椎名高志原画展」と名付けられたこの展示イベントには、『GS美神 極楽大作戦!!』の手描き原稿(モノクロ、カラー)を中心に、現在週刊少年サンデー(小学館)で連載中の『絶対可憐チルドレン』の原稿まで、椎名先生の貴重な原画の数々が展示されています。
「GS美神25周年記念 椎名高志原画展」と名付けられたこの展示イベントには、『GS美神 極楽大作戦!!』の手描き原稿(モノクロ、カラー)を中心に、現在週刊少年サンデー(小学館)で連載中の『絶対可憐チルドレン』の原稿まで、椎名先生の貴重な原画の数々が展示されています。
pixivision読者のみなさんの中には、もしかすると原稿用紙やインクを手にしたことのない人もいるかもしれません。この原画展は、椎名高志先生が手がけた名作の「生原稿」を間近で目にすることができる、またとないチャンスです! 展示されている生原稿には、単行本やデジタル原稿では見ることのできない筆の跡やスクリーントーンの貼り跡、手書きの文字跡などがそのまま残されています。
今回は原画展の開催を記念して、展示のためにお貸しいただいた椎名先生の生原稿の一部を、特別にご紹介します。
さらに、記事の後半では椎名先生ご本人へのインタビューも公開! アナログ・デジタルの両方の環境を長くご経験された椎名先生から、若い描き手へのメッセージもいただきました。最後までお見逃しなく!
今回は原画展の開催を記念して、展示のためにお貸しいただいた椎名先生の生原稿の一部を、特別にご紹介します。
さらに、記事の後半では椎名先生ご本人へのインタビューも公開! アナログ・デジタルの両方の環境を長くご経験された椎名先生から、若い描き手へのメッセージもいただきました。最後までお見逃しなく!
カラー原稿をキレイに仕上げるための、画材に合わせた工夫とは?
こちらは「GS美神 極楽大作戦!!」が連載スタートしてかなり初期のカラー原稿です。椎名先生のお話によると、この原稿は漫画原稿用紙にペン入れして、それを画用紙にコピーしたものに着彩するという手法が取られているそうです。
通常の墨汁やインクで描いた線は、その上から水彩絵の具で着色すると、水で流れてにじんでしまいます。耐水性の黒インクもありますが、描き損じたときにホワイト修正すると、今度はその部分に絵の具が乗りません。
またペン入れでは、ケント紙のような滑らかな紙のほうがきれいな線が描けますが、ケント紙は吸水性がよくないため、水彩やカラーインクを使うとムラが出てうまく色が塗れません。一方、着彩に適した画用紙では、ペンのインクがにじんで描きづらいというデメリットが…。
そのため、先述のように原稿をいったん画用紙にコピーすると、主線だけがカーボンに置き換わって水の影響を受けず、しかも絵の具をはじくようになります。そして、画用紙なので色も塗りやすくなるのだそうです。
画材の特徴をふまえた工夫が凝らされているんですね。
またペン入れでは、ケント紙のような滑らかな紙のほうがきれいな線が描けますが、ケント紙は吸水性がよくないため、水彩やカラーインクを使うとムラが出てうまく色が塗れません。一方、着彩に適した画用紙では、ペンのインクがにじんで描きづらいというデメリットが…。
そのため、先述のように原稿をいったん画用紙にコピーすると、主線だけがカーボンに置き換わって水の影響を受けず、しかも絵の具をはじくようになります。そして、画用紙なので色も塗りやすくなるのだそうです。
画材の特徴をふまえた工夫が凝らされているんですね。
スクリーントーンの裁ち切りを利用して作業の手間を簡略化
ふたたび『GS美神』から、迫力あるワンシーンの原画です。
このような見開きページ(左右で2ページ分になっている)の場合、スクリーントーンの使用量もかなり多くなります。
このような見開きページ(左右で2ページ分になっている)の場合、スクリーントーンの使用量もかなり多くなります。
この原稿の左隅をよく見ると、左のキャラクター(横島)の左足の上部にスクリーントーンブランドのロゴ(テクノスクリーンだと思われます)が残っています。
これはトーンを正確にカットする手間を省くために、トーン自体の裁ち切りをそのまま原稿に使ったためなのだそうです。雑誌や単行本用に印刷される際には、この裁ち切り部分がカットされるので、ロゴは印刷されません。
こうした、限られた時間の中での原稿制作のための工夫を見ることが出来るのも、今回の原画展の見どころのひとつですね。
これはトーンを正確にカットする手間を省くために、トーン自体の裁ち切りをそのまま原稿に使ったためなのだそうです。雑誌や単行本用に印刷される際には、この裁ち切り部分がカットされるので、ロゴは印刷されません。
こうした、限られた時間の中での原稿制作のための工夫を見ることが出来るのも、今回の原画展の見どころのひとつですね。
タイトル文字は原稿の上から「トレーシングペーパー」で載せられていた
話数タイトルなどを入れる場合、文字は直接原稿に書き込まず、「写植」という方法で文字だけは別に扱います。そのため原稿のどの位置にどのような文字が入るのかを指定する必要があるのです。
漫画原稿にはイラストが描かれており、文字を乗せようとするとイラストにかぶってしまいます。そういった場合は、原稿の上にトレーシングペーパーを貼り付け、その上に文字を貼り付けて、写植で入れ込む文字の場所を指定します。
原稿に重ねられたトレーシングペーパーの上から、赤鉛筆で指示が入っています。この原稿の場合は、黒フチの文字をキレイに見せるためと、キャラクターに文字が被る部分を際立たせるため、白フチを入れる指示が書かれているのですね。
原稿に重ねられたトレーシングペーパーの上から、赤鉛筆で指示が入っています。この原稿の場合は、黒フチの文字をキレイに見せるためと、キャラクターに文字が被る部分を際立たせるため、白フチを入れる指示が書かれているのですね。
「二色刷り」みなさんは知っていますか?
カラー原稿は通常4色で表現されます。現在ではあまり見られなくなりましたが、週刊漫画誌には2色のカラーページ、通称「二色刷り」がありました。
二色刷りでは赤色と黒色の2色を使っていることが多く、4色のカラーページより印刷コストを下げられるという利点があります。現在では4色とのコスト差があまりなくなったため、使われることは少なくなりました。
この原稿では、集中線の色づけに朱色と黒色を少し混ぜて表現したり、爆発の煙に濃い朱色と薄い朱色を使うことで立体感を表現するなど、色づけの工夫が見られます。
二色刷りでは赤色と黒色の2色を使っていることが多く、4色のカラーページより印刷コストを下げられるという利点があります。現在では4色とのコスト差があまりなくなったため、使われることは少なくなりました。
この原稿では、集中線の色づけに朱色と黒色を少し混ぜて表現したり、爆発の煙に濃い朱色と薄い朱色を使うことで立体感を表現するなど、色づけの工夫が見られます。
今回のイベント用に、写植版「絶対可憐チルドレン」の漫画原稿も展示!
なんと今回、「絶対可憐チルドレン」の写植版が制作されたとのこと。本来は会場でしか見れらないその原稿を、1ページだけ特別に公開します。
印刷環境のデジタル化に伴い、写植もDTPで処理されるようになりましたが、今回の原画展では昔ながらのやり方を再現した展示が行われているのだとか。
これ以外のページは、ぜひ会場でご確認ください!
特別企画! 椎名高志先生に突撃インタビュー!
──手描き原稿には、デジタル原稿と違った特徴が多々あるかと思います。
今の若い世代のクリエイターさんが知らない、手描き原稿ならではのテクニックを教えてください。
手描きの鉄則は「原稿を、利き手と反対側の上方から、利き手側の下に向かって描いていく」です。このルールを守ることで、すでに描いた線が「ペンを持った手によって、こすられて汚してしまう」といったことを避けられます。これは乾燥や修正といった時間の節約になります。
また、つけペンで定規を使って直線を引くときには、インクが表面張力で紙と定規の隙間に染みこまないよう、定規の下側にコインを貼り付けて、少し浮いた状態になるようにしておきます。均一な直線ならピグマやボールペンで描けばいいのですが、集中線などのように線の「ヌキ」が必要な場合は、この定規が必須です。
太い線は表面が乾燥していても中がまだ生乾きであることがありますので、次の作業にかかる前に念のためドライヤーをかけたりもします。
あと作業中はこまめに手を洗います。
また、つけペンで定規を使って直線を引くときには、インクが表面張力で紙と定規の隙間に染みこまないよう、定規の下側にコインを貼り付けて、少し浮いた状態になるようにしておきます。均一な直線ならピグマやボールペンで描けばいいのですが、集中線などのように線の「ヌキ」が必要な場合は、この定規が必須です。
太い線は表面が乾燥していても中がまだ生乾きであることがありますので、次の作業にかかる前に念のためドライヤーをかけたりもします。
あと作業中はこまめに手を洗います。
──手描き原稿制作で「ほかの漫画家さんは多分しないだろう」という、椎名先生ならではのテクニックなどはありますか?
とくに変わったことはしていないと思います。「GS美神」は若くて未熟で、でも熱意だけはむやみにある新人漫画家が、一人前になるために必死になって全力で描いた作品ですので、技術的にはたいへんショボいシロモノなのですが、描く熱量はかなり高かったように思います。
とくに初期の原稿にはそういう青臭い荒々しさがわかりやすくあるんじゃないかなーと思いますので、そこらへんを生原稿から感じ取って楽しんでいただけると幸いです。
とくに初期の原稿にはそういう青臭い荒々しさがわかりやすくあるんじゃないかなーと思いますので、そこらへんを生原稿から感じ取って楽しんでいただけると幸いです。
──手描き原稿制作の際に一番苦手な作業はなんでしたか? 反対に手描き原稿で一番好きな作業はなんでしたか?
ネーム(セリフ)を入れるのが嫌いでした。作画で力尽きたあとに字を書くのが面倒で、でもできるだけキレイに書かないと誤植の元になるし、スタッフに頼むのも他人の字が入るのがイヤで……。デジタルだと出版社に正規の写植を入れてもらう前からフォントのテキストが入るので、写植が入ったときのイメージがわかるので便利です。
デジタルデータは描いたものがすべて均一にモニター上のピクセルとして表示されますが、アナログだとペンや筆を使ったインクの質感があるのが楽しいです。絵を描くというのは平らな物体に色の付いた物質を固着させる作業で、そういう原始的なおもしろさがあると思います。とくにペン入れは毎回楽しんでいます。
デジタルデータは描いたものがすべて均一にモニター上のピクセルとして表示されますが、アナログだとペンや筆を使ったインクの質感があるのが楽しいです。絵を描くというのは平らな物体に色の付いた物質を固着させる作業で、そういう原始的なおもしろさがあると思います。とくにペン入れは毎回楽しんでいます。
──現在の制作環境を教えてください。
下描き・ペン入れ・消しゴム・ベタ・トーン貼りなど、ほとんどの作業は今もアナログです。市販の漫画原稿用紙に、昔ながらのカブラペンや丸ペン、そして墨汁で描き込みます。
漫画家に人気のGペンは、『GS美神』の頃は愛用してましたが、最近は使ってません。柔らかく強弱がつけられる分コントロールが難しいですし、長年使ってみて、自分の絵にはそれほど柔らかいペン先はとくに必要ないという結論です。それをスキャンして、最終的な仕上げ・合成処理・着彩にだけデジタルを使用してます。ソフトは「Photoshop」と「CLIP STUDIO PAINT」。たまに「SAI」も使います。
漫画家に人気のGペンは、『GS美神』の頃は愛用してましたが、最近は使ってません。柔らかく強弱がつけられる分コントロールが難しいですし、長年使ってみて、自分の絵にはそれほど柔らかいペン先はとくに必要ないという結論です。それをスキャンして、最終的な仕上げ・合成処理・着彩にだけデジタルを使用してます。ソフトは「Photoshop」と「CLIP STUDIO PAINT」。たまに「SAI」も使います。
──デジタル環境に変わったことで、描き方や作品のつくり方に変化はありましたか?
修正やトリミングが簡単になったので、作業のプレッシャーが軽くなりました。
他人に見せる原稿を修正の面倒なペンとインクで描くというのは緊張する仕事ですし、以前は狙った画面にならなかった場合はリテイクするしかなかったのですが、デジタルなら後からでもある程度の調整で臨機応変に対応しやすいです。作画ミスの修正、色の調節や変更もかなり簡単になりました。
他人に見せる原稿を修正の面倒なペンとインクで描くというのは緊張する仕事ですし、以前は狙った画面にならなかった場合はリテイクするしかなかったのですが、デジタルなら後からでもある程度の調整で臨機応変に対応しやすいです。作画ミスの修正、色の調節や変更もかなり簡単になりました。
──椎名先生にとっての、手描き原稿のよさ、デジタル原稿のよさを教えてください。
どっちも単なる画材に過ぎないので、好みで使えばいいと思います。絵は道具よりも腕よりも、描き手の目や脳みその方が重要です。
表現したいことを画面に定着させることが我々の目的ですので、道具も技術もそのための手段でしかありません。
それと、うまく描けるならそれにこしたことはないのですが、技術的に未熟で描けない場合も、どうやってそれを補うのか考えることが大事だと思います。絵の上手な人の漫画が必ずしも読者の心に刺さるわけではないですし、下手な人間が必死になにかを伝えようとした画面がかえって迫力を生むこともよくあります。
自分が楽しく作業できる道具や手法を見つけてください。
表現したいことを画面に定着させることが我々の目的ですので、道具も技術もそのための手段でしかありません。
それと、うまく描けるならそれにこしたことはないのですが、技術的に未熟で描けない場合も、どうやってそれを補うのか考えることが大事だと思います。絵の上手な人の漫画が必ずしも読者の心に刺さるわけではないですし、下手な人間が必死になにかを伝えようとした画面がかえって迫力を生むこともよくあります。
自分が楽しく作業できる道具や手法を見つけてください。
──椎名先生、熱いメッセージをありがとうございました!
いかがでしたか?
手描き原稿のよさ、デジタル原稿のよさを熟知している先生だからこそのお言葉でしたね。
今回紹介させていただいた手描き原稿は、一部を除いてpixiv Zingaroで直接閲覧できます。
本物の生原稿を目の当たりにすると、驚くことがたくさんあるはずです。ぜひ、会場に足を運んでご覧になってみてください! 会場限定の複製原画販売や、オリジナル缶バッジなどの物販コーナーもありますよ。さらに椎名高志先生の私物が当たるチャンスもあるので、こちらもぜひチェックしてみてくださいね!
手描き原稿のよさ、デジタル原稿のよさを熟知している先生だからこそのお言葉でしたね。
今回紹介させていただいた手描き原稿は、一部を除いてpixiv Zingaroで直接閲覧できます。
本物の生原稿を目の当たりにすると、驚くことがたくさんあるはずです。ぜひ、会場に足を運んでご覧になってみてください! 会場限定の複製原画販売や、オリジナル缶バッジなどの物販コーナーもありますよ。さらに椎名高志先生の私物が当たるチャンスもあるので、こちらもぜひチェックしてみてくださいね!
■GS美神25周年記念 椎名高志原画展開催概要
日程:2016年8月11日(木)~8月23日(火)
※水曜定休日
会場:pixiv Zingaro
入場:無料
企画:小学館・pixiv
運営:Kaikai Kiki
■pixiv Zingaro
東京都中野区中野5-52-15中野ブロードウェイ 2F
12:00-19:00
※イベントによって異なります(水曜定休)
JR中野駅北口よりサンモール商店街を経由して徒歩3分。
03-5345-7313
>>pixiv Zingaro
>>「GS美神25周年記念 椎名高志原画展」特設ページ
日程:2016年8月11日(木)~8月23日(火)
※水曜定休日
会場:pixiv Zingaro
入場:無料
企画:小学館・pixiv
運営:Kaikai Kiki
■pixiv Zingaro
東京都中野区中野5-52-15中野ブロードウェイ 2F
12:00-19:00
※イベントによって異なります(水曜定休)
JR中野駅北口よりサンモール商店街を経由して徒歩3分。
03-5345-7313
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>>「GS美神25周年記念 椎名高志原画展」特設ページ