"好き"って気持ちの熱量がすべて。アニメ業界を支える背景美術の仕事とは?
文:近藤世菜
ピクシブエッセイで人気連載中の漫画『おつかれ背景さん』。
アニメ業界で背景美術として働く"背景さん"を主人公に、背景美術の仕事やアニメ業界の裏側について描いたエッセイ漫画です。
作者は『やおよろっ!』『本屋のほんネ!』といった作品で知られる漫画家、なつみんさん。実は、『おつかれ背景さん』で描かれている話はすべて、実際に背景美術として働いている友人(=背景さん)の実体験なんだとか!
かなり多忙だというアニメ業界。もちろん漫画のなかでも触れられていますが、実際のところどれくらい忙しいのか、そして背景美術の仕事ってどんなことをやっているのか、もっと知りたい……!
そこで、なつみんさんと背景さんご本人のおふたりをpixivにお招きしてインタビューを実施! アニメ業界の裏話と背景美術の仕事について語っていただきました。
アニメ業界で背景美術として働く"背景さん"を主人公に、背景美術の仕事やアニメ業界の裏側について描いたエッセイ漫画です。
作者は『やおよろっ!』『本屋のほんネ!』といった作品で知られる漫画家、なつみんさん。実は、『おつかれ背景さん』で描かれている話はすべて、実際に背景美術として働いている友人(=背景さん)の実体験なんだとか!
かなり多忙だというアニメ業界。もちろん漫画のなかでも触れられていますが、実際のところどれくらい忙しいのか、そして背景美術の仕事ってどんなことをやっているのか、もっと知りたい……!
そこで、なつみんさんと背景さんご本人のおふたりをpixivにお招きしてインタビューを実施! アニメ業界の裏話と背景美術の仕事について語っていただきました。
背景美術は応用がきく技術? "絵描きさん"におすすめの仕事かも
▲ 『おつかれ背景さん』第1話より
── 今回はインタビューにご協力いただいてありがとうございます! さっそくですが、背景美術の仕事について教えてください。
ひと言で言うと、アニメーションの背景を描く専門の仕事です。アニメ作品を作るには、監督や声優、原画マンなど、本当にたくさんの職種の人が関わっているんですよ!
▲ 『おつかれ背景さん』第1話より
ちなみに背景美術の仕事は、作品に携わるさまざまな職種を取りまとめる監督さんから、背景スタッフ全体を管理する美術監督に依頼がくる、という流れ。そして各々の背景スタッフが割り振られた原図にどんどん背景を描いていきます。
── 1作品あたり、だいたいどれくらいの人が関わってるんですか?
うーん、体感的には300人くらいですかね。打ち上げのとき、それくらいの人が集まることがあるので……。
── そういえば、漫画のなかでも打ち上げパーティの様子に触れられていましたね。
第4話ですね。漫画には「おめかしして出かける」って書いたんですが、実はそうでもないらしいんですよ。
前日まで徹夜で仕事をしていることもあるので……。そうすると、適当な格好に、メイクをする時間もなく人前に出ることになるので、気が引けます……。
── やっぱりお忙しいんですね……!
忙しいですね。とくに背景美術は慢性的な人手不足で……。もちろんその分お仕事をいただけるのはありがたいんですけどね。
あんまり背景描きたいって人いないからね。
── そうなんですか?
やっぱり、キャラクターを描きたいって人が多いんですよね。でも、アニメ業界を志す人にとっては、背景美術はけっこうおいしい職種だと思います。
── というと?
忙しくて大変なんですが、だからこそ力がつくというか……。先輩や監督が自分の絵を細かくチェックしてアドバイスしてくれるし、急ぎの仕事が多いぶん、スピード感が鍛えられます。
それに実は収入も安定してるんですよ(笑) もちろんその分たくさん働かなきゃですが……。ただ、会社によっては残業もそんなになくて、規則正しく働けるところも"結構"あります。
それに実は収入も安定してるんですよ(笑) もちろんその分たくさん働かなきゃですが……。ただ、会社によっては残業もそんなになくて、規則正しく働けるところも"結構"あります。
── 背景美術専門の会社があるんですね!
そうなんです。『おつかれ背景さん』に出てくる「スタジオ出雲」も背景美術専門の会社です。
背景美術になりたい人はまず、専門の会社に入るところから始めるのが一般的ですね。そこで力をつけた人は、独立してフリーになったり、起業したりすることもあります。
背景美術になりたい人はまず、専門の会社に入るところから始めるのが一般的ですね。そこで力をつけた人は、独立してフリーになったり、起業したりすることもあります。
── 独立してからも基本的には背景の仕事をされるんですか?
はい。極めていく感じです。でも、背景美術の仕事って実はすごく応用がきく技術なんですよ。たとえば、ゲームキャラクターの立ち絵のバックとか、漫画のアシスタントの仕事とか。しかも、アニメーションの現場で鍛えられてるから苦にならない。細かい描きこみも、何百枚も同じ背景を描くのも、どんと来い!って感じです(笑)
── 背景さんが思う背景美術に向いている人ってどんな人ですか?
風景を描くのが好きな人ですね。それからイラストレーターになりたいって人も、背景業界に入ると"描く技術"が鍛えられると思います。
それから背景って、そのまま美術作品として成立するものなので、絵を描くのが大好きって人におすすめです。
それから背景って、そのまま美術作品として成立するものなので、絵を描くのが大好きって人におすすめです。
── 背景さんご自身もそういったきっかけで背景業界に入られたんですか?
実はちょっと変わった経緯があって……。大学生のとき、水墨画のを勉強しようと中国に留学していたんですが、留学3か月目に40度の高熱を出して寝込んでしまったんです。
そのころちょうどSARS(※)が大流行していて。検査のために、しばらく隔離病棟に入ることになったんですが……それがもう、暇で暇で! 手元にゲームも漫画もなかったので、暇つぶしのために絵を描き始めたんです。
そのころちょうどSARS(※)が大流行していて。検査のために、しばらく隔離病棟に入ることになったんですが……それがもう、暇で暇で! 手元にゲームも漫画もなかったので、暇つぶしのために絵を描き始めたんです。
でも、キャラクターの絵はすぐ描き終わっちゃって……。それで、とにかく時間がかかって、ゆっくり描けるものは何か考えたときに「背景だ!」と思いつきました。
もともと見るのが好きだった廃墟を中心に、鉄骨とか草とかコンクリートとか、いろいろな背景を描いているうちに、なんだか楽しくなってきて……。それからのめり込むように背景ばかり描き続けたのがきっかけです。
もともと見るのが好きだった廃墟を中心に、鉄骨とか草とかコンクリートとか、いろいろな背景を描いているうちに、なんだか楽しくなってきて……。それからのめり込むように背景ばかり描き続けたのがきっかけです。
※ SARS:重症急性呼吸器症候群。2002年から2003年にかけて中国で流行した感染症
実は、詳しいエピソードはpixivで公開しています。ぜひ読んでみてください!
── そこから帰国されて、背景美術の道に進んでいくんですね。実際にこの業界に入ってみてどうでした?
憧れのアニメ業界に入れて本当にうれしかったですね。ただ、あまりの忙しさには驚きましたね。多忙な生活のなかでストレスがたまって、体調を崩すこともあって……。
── そんなに大変な思いをしても、仕事を続けている理由は何なんですか?
やっぱり絵を描くのが大好きなんですよ。それに、大変なぶん、達成感もひとしおで……。自分が携わったアニメを見て、自分が描いた背景と、キャラの動きや音がぴったり合ったときの感動は言葉では言い表せません。
── なるほど……。背景さんがとくに描いていて楽しい背景ってなんなんですか?
とくに好きなのは部屋ですね。そこに暮らしている人の性格やライフスタイルを考えて色を決めたり、雰囲気を考えたりするのが楽しいので。
── 美術監督からの指示はどれくらい細かく決められているんですか?
うーん、作品とシーンによりますね。ただ、美術ボードっていう全体の背景の指針になるようなものを描く作業のときは、あまり細かい指示はないので、自分で作品の設定やキャラクターの性格について思い巡らせながら描けるんです。
すでに美術ボードがあるときは、絵コンテを読み込んだうえで、時間帯やドアが開いてるかどうかなどを考えて色や影を調整します。
すでに美術ボードがあるときは、絵コンテを読み込んだうえで、時間帯やドアが開いてるかどうかなどを考えて色や影を調整します。
こうやって聞くと、背景とひと口に言ってもなかなか奥が深いんだなって思いますよね。
── その通りですね。背景さんは仕事をするうえで、なにかこだわりや気をつけていることはありますか?
とにかくクオリティ重視です。〆切いっぱいギリギリまで試行錯誤します。それから、どんなに大変でも逃げないことと最後まで仕事を投げないことは心に決めていますね。