今年のテーマをプロならどう描く? イラストレーター審査員によるpixiv高校生イラコン2023振り返り会レポート
テキスト・構成/ナカニシキュウ
過去最多1,310点の応募があり、大盛況で幕を閉じたpixiv高校生イラコン2023。
今年審査員を務めたのは、シルバーさん(審査員長)、さいとう なおきさん、荻poteさん、はなぶしさん、藤ちょこさん、以上5名の人気クリエイターです。

審査会にはじまり、授賞式や講評を終えた5名に、今年のイラコンを振り返ってもらいました。
自分が高校生ならどんなイラストを描く? 受賞には至らなかったけれど気になった作品は? イラコン応募者もそうでない人も気になる話が満載です!
結果発表&講評はこちらの記事をご覧ください。
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今年のテーマ、プロならどうアプローチする?
シルバー:まずは今年のテーマ「結(むすぶ)/connect」について振り返っていきたいんですが、皆さんだったらこのテーマでどういうふうに描きます?
藤ちょこ:そうですね……「自分が高校生のときにこのテーマを与えられたら」という仮定で考えると、当時の私は昭和レトロなど昔の文化にすごく惹かれていたので、その時代と現代をつなぐような感じですかね。たとえば時代の違う2人の女の子がいて、歴史とか時の流れが結ばれていくような感じの絵を描きそうだなと思います。
さいとう:やっぱり藤ちょこ先生は人物ありきじゃなくて、「こういう風景を描きたい」みたいなところから発想が始まるんですね。僕だったらどうだろうなあ……高校時代ではなく今の僕がこのテーマで描くとしたら、デジタル空間の自分と生身の自分との関係を結ぶようなイメージで描きたいかもしれない。最近けっこうYouTubeとかで発言する機会も増えてきて、リアルの自分よりもデジタル上の自分のほうが現実を生きているような感覚があるんですよ。リアルにいるときはそんなにリアルな感じがしなくて……そういうクリエイターの人、けっこう多いんじゃないかと思うんですけど。
シルバー:応募作の中にもそういうイラストありましたよね。今はそれに近い感覚の人は多いかもしれない。現実とデジタルの境目が曖昧になってきているというか……なるほどなぁ。荻pote先生はどうですか?
荻pote:もう「ホント荻poteだな」って感じで申し訳ないんですけど(笑)、なんか“女の子とバチッと目が合う”みたいなのを描いちゃうかもしれないですね。やっぱり描きたいものありきでモチーフを決めちゃう気がします。与えられたテーマから着想するというよりは、まず描きたいものがあって、それをテーマにどうつなげていくかみたいなプロセスを踏むことが僕は多いです。
シルバー:僕もそうかもしれない。自分のやりたいこととリンクする部分を探す感じですよね。
荻pote:そうしないとモチベーションも上がらないんで。
藤ちょこ:たしかに、自分の得意なフィールドにどう持っていくかは大事ですよね。
荻pote:そうそう。カッコよく言ってもらってありがとうございます(笑)。
さいとう:クリエイターって、どこまで行ってもそういうものですよね。“自分の描きたいもの”と“描かなければいけないもの”の2つの円があったとして、描きたいもののほうに引き寄せながら、なんとかギリギリ重なったところを描くみたいな。描きたくないものって、そもそも描くエネルギーが湧いてこないですから。
藤ちょこ:めっちゃわかります……!
シルバー:はなぶし先生はいかがですか? 僕ら4人とはけっこう毛色の違う作品を審査員賞に挙げていらしたので、はなぶし先生だったらどう描くのかなっていうのはすごく興味があるんですよね。
はなぶし:正直に白状しちゃうと、マジでなんにも出てこない(笑)。僕、手を動かさないと本当にわからないタイプなんですよ。
藤ちょこ:あー、作りながら考えていくみたいな。
はなぶし:そう。とりあえずは「女の子にしとくか」くらいのところから始めて、手を動かしながら形にしていって……「結ぶ」みたいなテーマに関してはあとからこじつけちゃいますね。そのこじつけ度合いをどれだけ納得感のあるものにできるかが勝負、みたいな。僕はたぶんそういう作り方をしちゃうと思います。
さいとう:逆に、テーマから考えていくとありきたりな絵に行き着きがちでもありますからね。たとえば、「結ぶ」だったら「まあ手をつなぐよね」みたいに。そういう言語化可能なところから始めちゃうと、ビジュアルも言語化可能なものになってしまいやすい。それよりは、なんとなく描きたいモヤモヤみたいなものをこねくり回してテーマとの接点を探っていくほうが、作り方としては全然キツいんだけど、結果的に面白いものになるような気がします。
はなぶし:絵には理屈というものが必要ではあるんですけど、それは最終的に「これでいいんだ」と自分を納得させるためのものに過ぎないと思うんですよね。結局、“それがいい絵であるかどうか”と“理屈が通っているかどうか”は別の話なんじゃないかなと。
さいとう:そうですよね。たとえどれだけテーマに沿っていたとしても……。
シルバー:まず「あ、この絵いいな」と感じさせないと、注目には至らないですもんね。
絵に“言葉”は必要なのか
さいとう:今回もめちゃくちゃうまい絵がいっぱいあったけど、その中で何かしら“その人ならではの視点”があるものが受賞に至っている印象があります。そういう独自性、作家性みたいなものの価値がどんどん上がっている感じがしますね。
はなぶし:やっぱり、明確にスタイルを持っている人は個人的にも好きですね。たぶん、僕らは描かれている絵の向こう側にいる“人”を見てるんですよ。勝手に想像して。
藤ちょこ:だからこそ、これからイラストレーターを目指す人にとっては難しい時代なのかもしれませんね。画力の磨き方はわかっても、スタイルとかセンスとかをどうすれば磨けるのかと悩んでいる人もけっこう多いんじゃないかな。
シルバー:結局のところ、画力ってその絵を構成する要素のひとつでしかないんですよね。
さいとう:僕らの時代は画力だけに頼ることもできたけど、これからはそうはいかなくなってくるというか。
シルバー:いろんな経験をする必要があるのかもしれないですね。
荻pote:絵を描くこと以外の経験は大事ですよね。
藤ちょこ:そうですね。絵の発想って、むしろ絵とは関係ないところから出てくるものですから。あと、審査の中で「キャプションを読んだら絵のよさがより高まった」みたいな話も何回か出てましたよね。
シルバー:ありましたありました。
さいとう:文脈というか、作者がそこに込めた思いがキャプションに漏れ出ていて。
はなぶし:その人の考えていることが見えますからね。やっぱり“人”が見えると「いいな」と思うんだろうなと。
藤ちょこ:SNSとかでも、「キャプションをどう付けるかで反応の数が全然違ってくる」みたいな検証を見た覚えがあります。
シルバー:それも、べつに気の利いたキャプションに限らないんですよね。単に注目を浴びる単語でもいいっていう。
荻pote:たぶん短いほうがいいですよね。あまり説明的になるよりも、キラーワードが1個あるほうが効果的というか。
シルバー:ワードセンスも重要な時代かあ。「イラストは本来、絵だけで表現するものだ」という考え方もありますが、伝統的な絵画の世界でも説明文が大事だったりするシーンはけっこうありますしね。
藤ちょこ:ただ私は……とくに学生時代は作品を言葉で説明することに対する反発心がけっこう強かったんですよ(笑)。なんか、絵が言葉に負けているような感じがしちゃって。
さいとう:絵描きとしてはそれが自然ですよね。「言葉をつけるのなんて蛇足だよね」「ダサいよね」みたいな。イラスト界隈ではとくにその考え方が主流だと思うんだけど、それだけだと惹き付けられない時代になってきている気はしています。
藤ちょこ:今はとにかく作品の数が膨大ですしね。その中でいかに差別化するかってなると、絵の力だけでは限界があるというのが事実ではあると思います。
シルバー:だから言葉であったり、絵だけではない打ち出し方が要求されますよね。イラストレーターさん自身がタレント化するパターンとかもありますし……ただ個人的には、絵だけで勝負する人も残ってほしいなという気持ちはすごくあるんですけど。
藤ちょこ:わかります。マルチにいろいろできる方が強い時代に確実になってきてはいますけど、愚直に絵だけを描くスタイルの人に生き残ってほしい気持ちは強くありますね。私もそれで生き残りたい(笑)。
賞をあげられない僕らに問題があるんじゃないか
シルバー:応募作品の傾向については、どんなふうに感じました?
藤ちょこ:授賞式のときにも言いましたけど本当に絵柄が多様で、見ていて面白かったなというのが第一にありますね。もっと流行りの感じが多くなるのかなと思ってたんですけど、全然そんなことなくて。
シルバー:めっちゃわかります。いい意味でガラパゴス化しているというか、みんながそれぞれ独自の進化を遂げている感じですよね。
さいとう:個人的に問題として考えているのは、高校生がこれだけクオリティを上げてきているのに対して、審査する側である僕らのクオリティが足りていないんじゃないかということ。賞から漏れた作品の中に「これに賞をあげられない僕らのほうに問題があるのでは?」と感じるものもあったりして。
はなぶし:僕らはまだ技術に縛られちゃっている、ということですよね。
藤ちょこ:コンテストというものの枠に囚われちゃっている感じは、たしかにあるかもしれません。
さいとう:やっぱりコンテストとなると、どうしても技術力のほうに評価の基準が偏ってしまう傾向があると思うんですよね。それは仕方のないことではあるんですけど。
はなぶし:複数の評価軸を用意するべきなのかもしれませんね。たとえば「アイデア賞」みたいなものとか……もちろん技術力は技術力で評価されるべきものではあるんですけど、ほかにも発想力とか独自性とか、いろんな観点で贈られる賞があってもいいのかもなあと。
荻pote:基本的にはそのために審査員賞があるんだとは思いますけど、それが1人1枠だけだと限界があるっていうことですよね。
シルバー:「最優秀賞」や「審査員賞」という名目の賞だけじゃなくて、はなぶし先生のおっしゃった「アイデア賞」みたいな感じで、どういうところが賞に値するポイントなのかをアピールしてあげると受け入れやすいというか、選びやすいかもしれないですね。
さいとう:審査会ですごく話が盛り上がったのに、賞には選ばれなかった作品もいくつかあるじゃないですか。それがちょっと口惜しいというか……。
藤ちょこ:ありましたね。企業賞や審査員賞とかには入ってないけど心に残ってる1枚みたいなの、私もあります。
さいとう:コンテスト受けする感じの絵でもないから賞には選びづらかったんだけど、なんかやたら心に残ってるんですよね。実はこういう作品のほうが、これからは大事になっていくんじゃないかと思っている自分もいて。
シルバー:たしかにこれ、審査会のときにけっこう盛り上がりましたもんね。「この蝶はお盆で帰ってきたおじいちゃんを表してるんじゃないか」とか。
さいとう:こういう作品に賞をあげられなかった自分に、なんかちょっと口惜しさみたいなものがあるんです。「賞はあげられないけど気になるで賞」みたいな枠が欲しい(笑)。
荻pote:審査が盛り上がった作品でいうと、あの屛風のやつもそうですよね。
はなぶし:これは面白かったな。構図もいいんですよね。このままうまくなった先が想像できる絵というか。
さいとう:これ、コンテンツとしてはすごく優れてるんですよ。だけど、絵として見たときにどうしても技術的に稚拙なところが目についてしまって、評価しづらい。
シルバー:この発想自体は素晴らしいので、たとえばこれを目を見張るようなクオリティで描かれたら間違いなく賞に入るでしょうね。
藤ちょこ:力作なのは間違いないですしね。あと私は、縁側かなんかに座って手鏡に顔が映ってるみたいな作品も記憶に残ってます。
シルバー:これ、今拡大して見て初めて気づいたんですけど、うしろにも人がいたんですね。
藤ちょこ:そうなんですよ。髪を結んでくれてるっていう。
さいとう:これは多分おじいちゃんとおばあちゃんの手で、「この世ではもうそんなに一緒にいられないのかな?」とか、そういうところまで考えたらグッとくるというか。それは画面の中にはとくに描かれていないんですけど。
はなぶし:前後の広がりがある絵ってのはいいですよね。描かれていないものまで描かれているということですから。
さいとう:この作品は切り取り方がちょっとシブすぎて、よさが十分に伝わっていない気がするんですよね。
まずは完成させることを目標に
さいとう:見てきたように、うまいのに賞に選ばれなかった人がけっこういるんですけど、あまり傷つかないでほしいなということは言いたいですね。ここで賞を獲れなかったからといって、その作品に価値がないというふうには考えてほしくない。たまたま今回のコンテストではまだ評価できなかったというだけの話なので。
藤ちょこ:そうですよね。場所が変わればまた評価軸も全然違ってきますし。
はなぶし:僕もこういう賞とかを絶対に獲れなかったタイプの高校生だったんで。もし当時この「pixiv高校生イラコン」があったとして、応募しても自分は引っかからなかっただろうなと思いますね。
荻pote:昔コンテストで選外になって落ち込んでいた自分にも、「何も落ち込む必要はないよ」と言い聞かせたいです(笑)。就活みたいなもので、コンテストとの相性とかもあったりしますからね。
藤ちょこ:来年以降に「pixiv高校生イラコン」に応募しようと思っている方は、変にコンテストの傾向を分析して寄せすぎたりしないで、自分の世界観を貫いて高めていってほしいです。
シルバー:そうですね、せっかく多様性が出てきたところでもありますし。より多様な作風が出てくるようになれば僕ら審査する側としても楽しい会になるので、好きなものをいっぱい見つけてほしいですね。
一同:うんうん。
シルバー:絵を完成させるだけでも素晴らしいことなので、まずは完成させることを目標に描いていただいて。その中でもし「いいものができたな」と思ったら、「pixiv高校生イラコン」でもいいですし、それ以外の場でも構いませんのでどんどん投稿して、楽しいお絵描きライフを送っていただきたいです。