「身バレはしない?」「他人に見せるのが怖い」マンガにまつわる悩みをつづ井さん&月ノ美兎さんがズバッと(!?)解決

構成/原田イチボ@HEW
技術面でもメンタル面でも、マンガを描くのに悩みはつきもの。あれこれ考えてしまって、なかなか1歩を踏み出せない人も多いことでしょう。8月22日開催の中高生限定のマンガのお祭り「pixiv学生マンガデイ」でメインパーソナリティを務めるVTuberの月ノ美兎さんが、Twitterで集めた創作にまつわる悩みを皆さんに代わってマンガ家のつづ井さんに相談しました。
練習も兼ねて、まずは身近なところからネタ探しをする人も多いことでしょう。つづ井さんは、いかにして「日常」を「面白いマンガ」に仕上げているのでしょうか? また、実は月ノさんもかつてマンガ家にあこがれ、同人誌を出した経験の持ち主です。マンガ執筆をめぐるアレコレについて、ふたりが語り合ってくれました。
お悩み:人に見せる勇気がない
── マンガを描き始めたばかりの頃は、誰もが身に覚えのある悩みですね。


自分の作品を身内に見せるのと、インターネットで公開するのって、必要な勇気の種類が全然違いますよね。
── 勇気の種類、たしかにその通りですね。つづ井さんが絵日記を描き始めたころは、何をモチベーションにしていたのでしょうか?

最初はTwitterに絵日記をただ載せていただけなので、多くの方の目に止まることは全然意識していませんでした。あと実は最近、ファンアート用のアカウントを新たにこっそり作ったんです。絵とかをアップしても反応は全然ないんですが、淡々と楽しくやれています。相談者さんは、自分が創作するときに何をモチベーションにするタイプか分析してみたらいいかもしれませんね。他人の評価で頑張れるタイプなのか、逆に他人の評価を意識しすぎちゃうタイプなのか、自分が楽しく描ければ十分なのか。自分がどういうタイプかわかれば、割り切って最初の1歩を踏み出せるんじゃないかな。
── 月ノさんはVTuberとして活動をスタートしたとき、「みんな私の話に興味を持ってくれるだろうか?」のような不安はなかったのでしょうか?

自分はもともとファンアートを描くくらいVTuberが好きでしたし、やっぱり多少なりとも自己顕示欲がないと動画配信はできませんからね。意外とそこに迷いはなかったかもしれません。

すごい! 前に友人のオカザキさんと音声配信をしたとき、たった10分程度なのに全然言葉が出てこなかったんですよ。委員長(月ノさんの愛称)のすごさをあらためて感じました……って、ただのいちファンとしての感想ですが(笑)。

でもつづ井さんは、おもしろい出来事をマンガに昇華できるじゃないですか!

すらすら言葉が出てこない自分がもどかしくて、エピソードを補足するような形で絵を描いたのが、現在の絵日記に繋がっていったんだと思います。
お悩み:身バレ防止はどうすればいい?
私はいつかつづ井さんのように自分の実体験を漫画にしたいのですが、個人情報を守るためにはどのくらいフェイクを入れるべきなのか教えていただきたいです。
── 身バレ防止という点では、月ノさんも普段のトークでいろいろ意識されていそうですね。

たとえば「こういう場所に行った」みたいな話をするとき、時期をずらして出すようにはしています。最近あった出来事のような口ぶりでも、実際は数カ月前のエピソードという場合があります。

私も時期はよくずらしています。本筋の面白さに関わらない部分はフェイクを入れて構わないと思うんですよね。ただ気をつけているのが、「盛らないようにする」ということです。なので、フェイクを入れるときは、むしろ面白さが現実より控えめになるような方向を選んでいるかもしれません。「もし自分が読者だったら、ここがフェイクだと話が違ってくるな」と感じるところはなるべく変えず、それ以外のところは多少フェイクを入れるようにしています。

あの、身バレしたことはないんでしょうか……?

同窓会に行ったとき、トイレで手を洗っていたら、鏡越しに同級生から「あのさ、つづ井さんだよね?」と声をかけられたことがあります(笑)。

怖い!

「知らん知らん、Twitterしてない!」と言い張りました。まぁ私の演技が完璧だったのでごまかせたと思いますが……(笑)。私自身はそれくらいですが、橘はちょっと身バレしているみたいです。「友達とこういう遊びをした」っていう世間話から、もしかして……となったらしくて。

たしかに、あまり他にない遊びをしていますもんね。ご家族は絵日記について知らないんですか?

むしろ家族に一番隠しています。「絵とか字を描く仕事をしてる」みたいなふわっとした説明のまま5年以上経ちました。月ノさんは周囲の人に活動を知られているんですか?

全然知られています。おばあちゃんと一緒に暮らしていた時期があるんですが、ゲーム実況をする予定だったのに通信が繋がらず、急きょ『羅生門』を朗読したときは、おばあちゃんから「羅生門よかったよ」と褒められました(笑)。つづ井さんは、自分の好きなコンテンツがバレないようにも気をつけていますよね。

初期はちょっと詰めが甘い部分もあって反省しているんですが、自分のジャンルや推しがわからないように注意しています。推しと自分の世界線を1ミリも交えたくないオタクなので、何かの間違いで推しが特定されて、本意でない見られ方をされてしまったら悲しいんです……。
── 控えめなオタクだ……! マンガに登場するご友人には、どのように許可を取っているのでしょうか?

基本的に「この間のあれ、絵日記にしてもいい?」とLINEで聞いたら、二つ返事でOKしてくれるんですよ。「別に聞かなくてもいいよ」とみんな言ってくれますが、そのつど確認は取るようにしています。
── 身近な人々を登場人物にすることへの注意はありますか?

当たり前のことですが、「読んだ人がどう感じるか」は特に意識しています。実際の発言そのままだとしても、文章にしたら少しキツく見えたりすることってあるじゃないですか。セリフ自体を正確に再現するというより、その場のニュアンスが歪まず伝わるように、担当さんに相談しながら調整しています。
お悩み:計画的に進めるには?
いつも〆切2カ月前にはマンガを描き始めているのですが、なぜか毎回ギリギリになり、やりきれずに悔いが残ってしまいます。どうやったら計画的に作業を進められますか?

私からアドバイスできることは特にありません(笑)! つづ井さんはいかがでしょう……?

私も〆切を守るのはすごく苦手です……。でも担当編集さんが同席している場でこれを言うのは本当に申し訳ないんですが、私はたぶん追い詰められたほうが輝くタイプなんですよ……!

この相談者さんは、どういうペースで作業しているんですかね? スタートは2カ月前に切っているけど、キュッとまとめたら実質1週間だったりしないんでしょうか。私はそういうことがよくあるので、同じタイプなのかもしれません。

私もそういうことあります~! いや、これは相談する相手が悪すぎたかもしれませんよ(笑)。
── おふたりとも本気でヤバい場面でやることはありますか?

私はいったん全てを投げ出してシャイニングニキなどをやります。

本気でヤバいときこそゾーンに入って、4ページのネームでいいところを結局16ページ完成したみたいなことが起こります。でも結局はその時の波によりますね。すみません、本当に言えることがない! 自分、だらしねぇな~!(ため息)
── 相談者さんも実は追い詰められたほうがゾーンに入るタイプかもしれませんし、とにかく前倒しで進めるよりも自分に合ったスタート地点があるのかもしれませんね。

まとめていただいて、ありがとうございます……!
お悩み:絵の練習はどうしたら?
キャラ作画の本を買ったのですが、見本で出てくる絵がすでにきれいなので、模写しようにも上手く描けません。何をどこから絵の練習をすればいいでしょうか?

絵日記の絵があんなポンチな感じなので、たまに違う創作をやると、すごくガタイがよくなっちゃうんですよね(笑)。それでも「これは上手く描けたんじゃないか」と納得できたのは、ちょっとエッチなマンガを描いたときです。さんざん言われていることではありますが、上達のためには自分の好きなものを素直に描いてみるのが大事なんだと実感しました。
── 月ノさんはマンガを描いていたとき、どんなふうに練習していましたか?

最近はあまり描けていないので偉そうなことは言えないんですが、完成した絵を模写するよりもメイキングを真似するほうがいいんじゃないかなと思います。あと美術系の勉強をすると、「これが正解」というより、「こういうのはダメなんだな」というのが理解できるようになりました。

さっき「人に見せる勇気を出すには」の相談で答えたことと似ていますが、相談者さんは、自分にとっての創作の原動力は何か考えてみるといいかもしれませんね。「こんなに下手じゃダメだ」みたいなハングリー精神が大事なタイプなのか、「まぐれかもしれないけど、ちょっと上手くできたな」という小さな積み重ねで前向きになれるタイプなのか。そこがわかると、自分に合った頑張り方もわかりそうです。
── 創作をする上でも自己分析は大事ですね。
お悩み:自分の作品がおもしろいか不安
マンガを描いていると、最初は楽しいんですが、だんだん自分の描いているものが面白くない気がしてきて不安になります。不安になったときはどうしたらいいでしょうか?

動画は編集で面白くなる余地がありますが、マンガの場合、「ペン入れの段階で劇的に面白くなる」ということは、ほとんどありませんよね。しかも公開まで時間がかかるものですし、マンガ執筆はどうしても不安が強くなりそう……。

ネームとか下書きとか工程が多いぶん、冷静になるタイミングも多くなってしまうんですよね。不安なときは担当さんに確認してもらっています。すごく褒めて伸ばしてくださる方なのですが、上手く伝わっていない場合はしっかり指摘してくださるので。

他人の意見を聞くことは大事ですよね。
── 月ノさんは、「これって面白いか?」と不安になったとき、どうしていますか?


── いったん誰かに見せたら、不安のループからは抜け出せそうですよね。
お悩み:ネタづくりってどうしてますか?
自分の日常をネタにするにあたって、普段から意識していることはありますか? 生活全部を「ネタにならないか?」という目線で見るのは、ちょっと大変そうな気もします。

むしろなんでも貪欲にネタにしすぎないように気をつけています。「ちょっと味付けすればネタにできるな」みたいな体験自体はあるんですよ。でも「自分が楽しかったなら、それでいいじゃん」と考えて、あえて出さないときもあります。

「委員長」じゃない日常も大切にするってことですね。

そうですね。そうじゃないと、なんかダメな気がする。
── 生活の全部を「ネタになるか、ならないか」で捉えるようになると、あえて落とし穴のある方向に進んでいくような人生になっていって、あまり健やかではないように感じます。


面白い!

つづ井さんは、マンガのネタにするために自分から何か行動を起こすことはありますか?

まず楽しかった出来事ありきの絵日記なので、絵日記にするために何かを始めたことは意外とないかもしれません。あくまで「面白かったから、絵日記にしーよぴ!」っていう順番なんです。私が「つづ井さん」であることを知っている友達は、マンガに出てくる子たち含めて7人くらいいるんですが、その子たちに「小学校のときからずっと同じことをやっているね」と言われたことがあります。
── 「同じこと」というのは絵日記ですか? オリジナルの遊びのことですか?

絵日記もオリジナルの遊びも子どもの頃からやっていることです。逆に言うと、子どもの頃からずっと同じことをやらせてくれる友人たちがすごいと思うんですよ。私に付き合って、私以上に楽しんでくれますから。

つづ井さんと、そのご友人の関係をうらやましく感じている人たちって、すごくたくさんいらっしゃると思います。

歳を取るごとに人間関係が凝縮されるというか、私に引かない子たちが最後まで立ち続けてくれているんです(笑)。本当に周囲の人々には恵まれていると思います。私って本当にラッキーなんですよ!
── 作品のネタ云々を抜きにしても充実した人生を過ごすことが大切なようですね。つづ井さん、月ノさん、本日はありがとうございました!
「学生マンガデイ」の生配信!8月22日(日)10時よりスタート!

マンガを描いているのですが、人に見せることができません。いずれはpixivにも投稿してみたいのですが、「自分のマンガはきっと評価なんかされない。絵もストーリーも演出も全然ダメだ」と尻込みしてしまいます。どうしたら人に見せる勇気が出ますか?