アニメ本編だけでは語りきれない! 『Re:CREATORS』の奥深さを知る

衝撃的な展開が続くアニメ『Re:CREATORS(以下:レクリエイターズ)』。この作品中に登場する数々のロゴや企業名、広告物は、有馬トモユキさんをはじめとするアートディレクションチームが制作を担っています。
その担当範囲は、なんと魔法陣のデザインから鹿屋瑠偉君が搭乗しているロボット、ギガスマキナのインターフェイスデザインまで。
前回のインタビューではアートディレクションとは何ぞやという部分を掘り下げましたが、今回は作中に登場するロゴの作り方や、魔法陣の制作を担当されたグラフィッカーの宮﨑真一朗さんによるIllustratorのアセットを使ったテクニックといった、実践的な部分のノウハウをうかがいました。
文/ヤマダユウス型 編集/長谷憲 写真/あべし
■深く考えられたものは、一瞬しか映らなくても説得力がある
─早速なんですが、作中に登場するロゴはどうやって作っているんですか?
宮﨑真一朗さん(以下:宮﨑):ロゴに関してはデザインチーム全体で作っているもので、作り方は個々で異なると思います。
有馬トモユキさん(以下:有馬):架空ロゴに関してはステレオタイプを強調するというのを大事にしていて、脚本とコンテを見て「こういう看板があるならこういう要素が必要だろうな」というのをチーム全体で考えています。
宮﨑:どんなことをやっているのかと、例えば私の場合2、3行くらいの補足説明を各ロゴに付けています。「これはこういう企業でこうした活動をやっている、という設定です」みたいな感じです。あとは個々のデザイナーがかたちに落とし込んでいきます。

▲様々な架空の企業ロゴたち。実在しないはずなのに、なんとなく見覚えを感じるのでは?
─脚本の段階では、例えば「○○の看板が映され○○なロゴが~」みたいなところまでは書かれていないですよね?
有馬:そこは想像力ですね。ソーシャルゲームの広告ならまず「好評配信中!!」と表記があって、アプリストアのバナー、著作権表記、そして最後に「○○で検索!」みたいなものが基本的には揃ってますよね。という想像を働かせます。
─ロゴのアイディア出しなどはブレインストーミングなどで出し合って、それから担当者それぞれがかたちに落とし込むという感じですか?
有馬:そうですね。Skypeで夜な夜な「これが足りないからこういうものを作ろう」という風に話しています。深く考えられたモノは、一瞬しか映らなくても説得力があると思うので。
─ロゴ制作の時に気をつけていることなどはありますか?
有馬:ステレオタイプを強調はするんですけど、何をもってそれをアイデンティティとするのかという部分には気を遣っています。
見た目だけを模倣するのは意味がないことで、仮に表皮だけ変えていったとしてもお題は達成できると思うんです。ただ、この『レクリエイターズ』に関してはもう少し深く掘り下げた方がいいなという確信があります。
宮﨑:造形に入る前にこういう話は必ずしますね。
─ちなみに、ロゴは何個くらい制作されましたか?
有馬:企業やサービスのロゴだと約30個ほどですね。アイコン類まで含めるとその3-4倍程度だと思います
─ロゴを作っていて、やりすぎないようにしている点はありますか? 実在するものに近づきすぎないようにその距離感を測る、みたいな。
有馬:まぁ、名前が違っていたら大丈夫だろうという気はしています(笑)。とはいえ僕らが作っているのはあくまで素材なので、最終的にその距離感を決めるのはアニメーションとしての画ですね。
レイアウトに落とし込まれ、キャストさんの演技が乗った時にどう見えるのかをあおきえい監督とも話したことがあります。
最終的に監督のジャッジで画が決まった時に、ロゴがたくさん出ている方が良いのか、少しだけエッセンスとして見えている方が良いのか。あるいは現実とリアリティを強調するためのカットで用いるのか。
そういう用いられ方をされた時に、嘘っぽくなるのは避けたいというのが僕の考えです。
─11話で水篠颯太君が駅でシマザキさんと待ち合わせをするカットなどは、かなり現実感としての密度が高いカットですね。

▲架空のイベント「ハコニワ大会議」のパンフレット画像。一部だけでなく細かい設定も練り込んである。
宮﨑:あれは情報量の多いカットでしたね。
有馬:イベントの協賛として重工業があったり航空宇宙団体があったり出版社があったり、あと何かの党派もいたりします(笑)。こういうものも賑やかしと言ってしまえばそれまでなんですが、そこにリソースを割いて良いだろうなという判断は明確にあります。
■魔法陣作りのアプローチはキャラクター性から
─宮﨑さんは作中の魔法陣のデザインを手がけているそうですね。どうやって作っているのですか? Illustrator? それともPhotoshop?
宮﨑:主にIllustratorのブラシで作っています。アセットも管理しやすいですし、解像度に依存しないので。

▲軍服の姫君・アルタイルの魔法陣

▲拡大図
─すごいですね……。このオーナメントは素材集からのものですか?
宮﨑:一部素材集を使っているんですけど、そのまま使うとどうしても自分が持っている図形のイメージを切り出せなかったりするので、一部だけ取り出して自分で調整しながら使っています。あとはほぼ自分で作ったオリジナルの素材がメインですね。
─例えばこういう魔法陣を作ろうとなったときには、どういうアプローチで制作を進めていくのでしょうか?
宮﨑:○○のキャラクターの魔法陣を作ろうとなったとき、まずそのキャラクターがどういうバックボーンを背負っているかを考えます。
─メテオラの魔法陣に関してはわかりやすそうですね。
宮﨑:そうですね。メテオラに関しては王道的な感じで作っていきました。

▲メテオラの魔法陣
有馬:これ、本体周辺の小さな陣は本気を出すぞってなったときにパパパって出てくるんですよ。
宮﨑:いわゆるファンネルみたいなものです(笑)。
─エネルギーが漲っている的な表現ですね、すごく好きです。
宮﨑:その想定からの延長でアルタイルの魔法陣についてお話すると、彼女の場合は特殊な出自なんですよ。彼女は元々存在するキャラクターの二次創作として生まれたキャラクターで、つまり不特定多数の作り手が彼女の人物像をどんどん脚注していくんです。
なので整然とした見た目よりかはカオスな見た目が欲しいなと思って。性格的や衣装デザインからは鋭利な印象も取り入れました。でも、二次創作、三次創作される上でもキャラクターの特徴として守られている基本部分は変わらないと思うんですよ。
その表現として中心核にはアルタイルの元ネタとなったソーシャルゲーム『悠久大戦メガロスフィア』の要素を組み込んでいます。

▲悠久対戦メガロスフィアのロゴ
─中心にメガロスフィアがあって、その周囲を継ぎ接ぎの設定が覆っている、というデザインなんですね。
宮﨑:そうですね。そこから意味をどんどん付けていって、最終的にこの魔法陣に定着させました。
有馬:アルタイルの魔法陣に関してはあるパーツの複製を繰り返して拡張していった、年輪のような構造になっています。で……、それについてはこんな素材もありまして。

▲一見、よくありそうな魔法系のフォントに見えますが……?
─この文字は魔法陣の周囲に環状で描かれているものですよね。魔導書なんかでもありそうな感じの。
有馬:この文字、実はフォントファイルとして魔法陣のために新しく作ったものなんです。
─ま、まじですか……! 魔法陣に文字を組み込むというのはよくありますが、まさか書体を1から作っていたとは……。
有馬:フォント名は「ダーク・マジック・サークル・レギュラー」です(笑)。
宮﨑:作品内世界のキャラクターは現実とは生きてる世界も違いますし、使っている言語体系も違うので、言葉も作ってあげた方が良いなというところからきています。あとは単純に、こういう文字列が並んでいると、魔法陣の形としてすごく説得力も出ます。
─確かに、とてもそれっぽいです。でも既存フォントを使うとどうしても既視感があったり未知感が薄かったりするというのがクリエイターの悩みでして……。
有馬:デザイナーとしての強みは、そういうものを素材レベルから作れるところです。僕らはリソースを作るのが常なので。日本語と比べると英字はまだ作りやすいですよ。
■実際に魔法陣作りを実践!
─いざ魔法陣を作る時の作業工程はどのようなものなんでしょうか?
宮﨑:まずはいろんなアセットをたくさん作って、それをブラシパレットに登録します。あとは円のパスにそのブラシを適用してあげることで図形が描かれるので、線幅を変更して見た目に変化をもたせたり、複製したものの線幅をさらに変更してパスファインダーで切り抜いたりして調整を繰り返します。

▲魔法陣のアセット
─アセット作りのアイディアやパターンはどうされているんでしょう?
宮﨑:アセットのパターン作りは、トライアンドエラーを繰り返すしかないなと思っていて、例えば一番左の列にある爪っぽいようなパターンを作るとどうなるのかなというのは、実際に試してみないとわからないです。ブラシ化とパーツ調整を何往復かして、使いやすいラインに落ち着くところを探します。
その後は、例えば斜めの線が入っていると綺麗になりにくかったり、縦線が入ってると等間隔の放射状になったりというのが見えてくるので、あとはそれらを踏まえた実験の繰り返しです。
─メテオラの魔法陣の方はどうやって作っていたんでしょうか?
宮﨑:メテオラの魔法陣を作る時は古典をしっかりと見た上で、王道感のある造形に落とし込みたいと思いました。古典には伝統的な魔法陣は魔法円、儀式円からマントラや風水などさまざまありますが、王道感を感じる魔法陣にはそれらの要素がミックスされていて、今の複雑なかたちになっています。
情報量がかなり多い物ですが、基本的な構成をきっちり抑えていれば後の装飾は独自的な解釈をしてもいいだろうと思っているんですよね。丸や三角、放射線のような図形の組み合わせで構成していきながら、その間をどんどん緻密に埋めていくという感じです。

▲拡大したメテオラの魔法陣
─こうして拡大してみるとすごく細かく作られているんですね……。劇中ではここまで細かくは見られないと思いますが。
宮﨑:劇中ではグロー(光の効果)がかかってますからね。映像上でここまでアウトラインがハッキリわかることはないと思います。
─ちなみに、そうした魔法陣のデザインの引き出しのようなものはどこから吸収されていますか?
宮﨑:私も最初は何も分からず手探りするしかなかったので、PinterestやTumblrなどで特定のワードで検索をしてみて、何が魔法陣っぽいかたちに見えるのかというのは細かく分析したりしますね。そこから造形としてこのキャラクターには何が必要かというのを組み合わせていって、あとはディテールで間を埋めていくというかたちです。
そんな宮﨑さんに、実際に魔法陣を作る工程を披露していただきました。シンプルな円が瞬く間に複雑な幾何模様になっていく様は圧巻です!
■語られない裏設定が山ほど!
─ギガスマキナのインターフェイスも制作されたんですよね。かなり先進的なデザインだと感じましたが、どのようなオーダーを受けたのでしょうか?
有馬:あの360度コックピットについてはBlu-ray/DVD1巻の中に設定画を少し公開しています。TROYCAさんとの打ち合わせでは全天球モニターの中に人がいて、周囲にウィンドウが散らばっているような状況を作りたいと言われました。

▲ギガスマキナのコックピットデザイン
有馬:ウィンドウについては最初にいくつか指示をいただいたんです。「このボタンを押すとオートドライブになります」などの細かい指示です。そこからは僕のアイディアで、例えばそれをキャンセルするためにはホールドもしくはスワイプのような、別の操作が必要じゃないのかといった、フェイルセーフのようなエッセンスを取り入れました。
─確かにそうした細かい部分にも注力していくと作品と現実が近づきますね。ウィンドウが手に吸い付いて移動できるのも「おっ」と思いました。
有馬:あれもお任せしてはいたんですけど、コンセプトとして手に吸い付くインターフェイスがあって、それを同一座標にロックすることもできるというのはありました。背格好が鹿屋くんに近いオフィスの女子に協力してもらってそのサイズ感も調整しています。

▲実際に手を当てている様子
─おお、かなりそれっぽいですね。
有馬:他にもこういったものも作っています。

▲どうやらロボットを動かすウィンドウのようにみえますが……。
─反応リミッター?
有馬:本来ロボットが人間の可動範囲でしか動けないところを、これを使うとその限界を超えた動きができるようになる。ただし、その場合は鹿屋くんがすごく筋肉痛になるっていう(笑)。
有馬:出ません出ません、僕の妄想です(笑)。

▲ギガスマキナのインタフェース画像
有馬:ロボットって大体「動力」、「反応」、「制御」の3つがインターフェースや画面として表出することが多く、それら3つでウィンドウの色を分けています。これについては『レクリエイターズ』のWebのデベロッピングをやってくれている仲間と話しながら、テキスト原稿レベルでデザインを整える上での機体仕様を用意しています。
例えば画像処理をする時には露出処理と上限下限の設定できて、多分高フレームで撮影してるから特定範囲のスロー処理とかも可能なんだろうな、とか。
─裏設定がすごいですね……。インターフェイスといえば、作中のWebサイト画面のようなものも作られているんですか?
有馬:コレですね。

▲作中に登場するTwitter的なサービス「songbird」
─位置情報とか話題の部分とか、ほぼほぼソレですね。
有馬:この辺は演技の通りストレートに作りました。松原が使っているパソコンという想定で、「Cerone」っていうWebブラウザがあって、「Screen」というWindowsのようなメジャーOSを使っています。颯太くんと同じOSだけど彼はライターなのでメニューバーに入っているアプリも違うんです。
─めちゃくちゃ凝っていますね……。
有馬:このシーンは、被造物が承認力を増すことで力を得るという重要な部分なので、かなり迫っていますね。とはいえ要素は本来のサービスに比べてかなり少なくしました。広告も無いですし。
■パッケージにも一工夫
─宮﨑さんはアニメ本編だけでなくBlu-rayなどのパッケージ制作にも関わっていらっしゃるとうかがいましたが、具体的にはどのようなことをされているのでしょうか?
宮﨑:各巻ごとにキャラクター構図の提案を、原作者の広江礼威さんにさせていただいています。キャラクターの立ち姿や配置を3DCGで組んで、状況説明などの補足を加えながらその構図を下敷きにイラストの描き下ろしをお願いするという流れですね。
─パッケージで一工夫いれた部分などはありますか?
有馬:劇中に出てくるAnitypeが本当に売られているというところです。
有馬:40Pのブックレットなんですけど、ブックレットというよりかは雑誌のレベルを狙ってみようという考えでした。劇中作のアートワークや魔法陣も収録していて、セレジア・ユピティリアの原作『精霊機想曲フォーゲルシュバリエ』のライトノベルは、劇中では見えないカバー裏やオビの折り返しまでしっかり作っているんだよというのがわかってもらえると思います。
宮﨑:あと、Webに載せているパッケージ類の画像は写真じゃなくてCGです。
─え、写真じゃないんですか!?
宮﨑:こんな風に、トレイまでCGで作っています。写真ではなくCGにすることで巻が進んでも1ピクセルも乱れずに掲載できますし、ライティングなどのルックがコントロールしやすくなります。

─パッケージ自体についてだけではなく、その見せ方まで注力されているというのがよくわかりました。
宮﨑:主にサムネイルで判断される情報ではあるのですが、中身がどんなものか知ってもらう為の努力をしたいのと、あとは、やっぱり綺麗な状態で知って欲しいですからね。
有馬:ナチュラルトーンな写真じゃないなというところは狙っていて、実際家に届いたらまんまのものが来るっていう。それは良いなと思います。
─届いたところが想像できるというのは良いですね。本日はありがとうございました!
TVアニメ「Re:CREATORS」好評放送中
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テレビ愛知:毎週火曜 26:05―
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© 2017 広江礼威/小学館・アニプレックス