「作風を変えることに葛藤はない」イラストレーターBerryVerrineの絵柄が変化するタイミングとは
インタビュー/原田イチボ
イラストレーターのBerryVerrineさんの個展「U.V.W.」が、東京・表参道にある「pixiv WAEN GALLERY」にて2022年1月29日(日)まで開催中です。オリジナルイラストを中心に、過去に手掛けた商業イラストも含めて90点が展示されています。
パワフルな画面構成や色使いが人気を集め、2022年12月には初画集『SPECTRUM ‐スペクトル‐』を刊行したBerryVerrineさん。現在のスタイルに至るまでには、大幅な作風の変化を重ねてきました。絵柄が変わるのはどんなときか、そこに抵抗はないのか、お話を伺いました。

兼業イラストレーターだからこそ意識していること
── 商業イラストレーターとしてデビューした経緯を教えてください。

初めて有償の依頼を受けたのは2017年頃だったと思います。当時は海外を意識した画風だったこともあり、外国の方からのご相談でした。やがて企業からも依頼が来るようになり、これまでアパレルデザインやCDジャケットのイラスト、公式ファンアートといったお仕事を担当してきました。
── 昔からイラストレーター志望だったのでしょうか?

── それで、企業イラストレーターとして就職されたのですか?

企業や事務所所属のイラストレーターになろうとポートフォリオ片手に就活はしましたが、残念ながら力及ばず……。ただ、ある企業で「イラストレーターとして採用するのは厳しいけど、描かれたイラストを使って別の業務を行うセクションで働いてみないか」とお声がけいただき、今も同じ業界で働いています。だから実は兼業イラストレーターなんです。
── そうなのですね! 専業イラストレーターになることは視野に入れていますか?

仕事量としては両立ができているので、今のところはあまり考えていません。ですが、フリーになると仕事量が一定でなくなる前提を踏まえても、フリーの収入の期待値が本職の収入を大きく上回るなら専業も視野に入ってはきますね。
── イラストに隣接した仕事に就いているからこそ、イラストレーターの仕事のときに意識していることはありますか?

「データの構成をあまり複雑にしないこと」でしょうか。本職のほうで他のスタッフのイラストデータをチェックする場面があるんですが、レイヤーの構成などを読み解くだけで一苦労なんですよね。そういった手間はなるべく減らしてあげたいので、レイヤー名を分かりやすくつけるなど、読み取りやすいデータづくりを心がけています。
当初はカートゥーン風イラストを描いていた
── pixivの投稿を振り返ると、昔はカートゥーン風のイラストを描いていましたね。

デフォルメ系のイラストを描いていたのは、そのようなテイストが好きだったのも当然ありますが、「それしか描けない」というのが一番大きい理由でした。まだ描けるものが少ない中でも、デフォルメ系のイラストは比較的納得できるものが描けたんです。その絵柄が一番活かせる場所を分析した結果、まずは海外を主戦場にしようと、そこでウケそうなタッチや色使いに寄せていきました。ただ、もう少し違う絵柄も描けるようになりたくて、キャラクターの頭身を上げ、日本のマンガやアニメっぽいテイストにしていきました。
── その後もネオンっぽい色調の80年代風、ビビッドな色使いのもの、黒や白を背景色として色数を絞った現在の作風と、イラストのテイストが何度か大きく変わっています。

自分の技術不足を感じているタイミングで衝撃を受けるような作品が飛び込んでくると、絵柄を切り替えます。ある時期から80年代風の絵をタイムラインで見かける機会が多くなり、影響を受けましたね。ただ、最近はあまり特定の作家さんの絵柄や色使いに影響されることはないかもしれません。「この角度だったら、鼻の立体感はこうなるんだな」というように、人体の造形については参考にすることもありますね。
── 他の作家からの影響を受けづらくなったのは、ご自身の作風を確立できたからでしょうか?

私がいま一番関心があるのは、キャラクターよりむしろエフェクトやアブストラクトアート※です。それらを纏う対象としてキャラクターを配置しているのが現在のテイストなのですが、同じようなテイストの方を見かける機会がそう多くなく、結果的に影響されていないことになっている、といった状態です。
※(編集部注)線、面、色などで抽象的に構成した芸術
── なるほど。美少女イラストを描く作家さんだと、ひと目で「かわいい!」と思わせることを意識する方が多い印象ですが、それで言うとBerryVerrineさんは「ひと目見たとき、こう思わせたい」というのはありますか?

見た人がそれぞれ自由に感想を持っていただけるのが一番ですが、知り合いからは「『よくわからんが、なんかすごい』みたいな感じ」と言われます(笑)。
── 昨年開催された初個展「X」に「『自分は何を描きたいのか』ということに幾度も迷い、それは現在も続いております」というコメントを寄せていました。当時の心境がどのようなものだったのか聞かせてください。

前回の個展は、「このような絵柄の変遷をたどり、今がある」という内容でした。自分は作風の変化を何度も経たイラストレーターで、今後もまた何か変わるかもしれない。だからこそ「今のこれが自分の作家性だ」と断言できない部分があり、そのようなコメントに繋がりました。ただ、これまで辿ってきた作風の中で、今のスタイルが一番長く向き合ってきたものになりました。当分は何かをガラッと変化させるのでなく、今の形を成熟させていきたいと思っています。
ラフは全体の説得力を理論的に決める設計図
── ラフや線画、着色、加工など、イラストの工程でどこに一番時間をかけますか?

ラフですね。全体の説得力を理論的に決める設計図なのでこだわります。ラフの後の作業のなかで、ラフと一部を変えて調整することもありますが、ラフと清書で全く変わらない場合もあります。
ただ、イラストの「流れ」はラフで決めますが、流れに何を配置するかまでは明確に決めない場合が多いです。その流れさえ満たしていれば、モノはなんでも良いですからね。
── 流れとは?

「放射状の線が見えるような絵」や「うずまき状の流れが見えるような絵」といった、モノの配置による視線誘導のことです。鑑賞する方の視線を意図した通りに動かせるなら、なんの物体を描くかはあとから決めてもいいわけです。
── 先ほど「ラフは全体の説得力を理論的に決める設計図」」とおっしゃっていましたが、ラフはどの部分のアイデアからスタートすることが多いのでしょうか? 色使い、それとも構図ですか?

普段は技術的、課題的な要因から決めていくことが多いですね。例えば特定の色を使う、特定のパーツをこの角度で、といった所から始まり、それに合った流れをつけていく、というパターンが主です。ただ特定のシンボルを使うために、それに合った流れと構図を考えていく場合もあります。
── 作品のどれかを例に解説していただけますか。

では、画集の表紙イラストを例にしますね。今回は同人誌でなく商業画集ですので、分かりやすい構図と流れで、と考えました。そのため、バストアップに放射状の流れを採用しています。ただし完全な正面向きだとポーズが硬くなってしまいそうですので、体にひねりを入れ、放射の中心部をずらしています。そこに黒いキューブを置き、キューブを起点に放射状のエフェクトを広げました。
── キャラの周辺の描写に関心があるとのことですが、依頼案件では、キャラをメインで見せることが求められそうです。周辺を描き込んだ上でキャラを目立たせるためには、どうしたらいいでしょうか?

オブジェクトの流れやライティングによって、どこが顔なのか明確にします。顔に光を当てるなどして、自然とそこに視線が向くように保証しています。
色選びでいったんふざける
── 使用ソフトを教えてください。

CLIP STUDIO PAINTで大まかな作業を終えた後にAdobe Photoshopで加工しています。
── 彩度が高い色を使ったとき、イラストがゴチャゴチャして見えたり、幼稚な印象になってしまったりします。そうならないためのコツはありますか?

近年、背景を黒にすることが多いのは、「彩度の高い色を使っても高級感を出しやすい」という理由があります。黒プラス主張の強い色ひとつ、ふたつで絵を成立させています。白背景や黒背景だと、コントラストがはっきりして迫力のある仕上がりになります。
── たしかに近年は黒背景、白背景の作品が多いですね。

想像力を喚起する効果を狙い、近年は線画という境界を作らず、背景にモチーフがナチュラルに溶け込んでいるような描き方をしています。
── Berryさんのイラストは色使いも印象的ですが、どのようなところからアイデアを得ているのでしょうか?

色選びの段階でいったんふざけてみることが大切なんじゃないかと思います。彩度が一番高い色を塗ってみたり、むちゃくちゃな色調補正をかけてみると、「これはこれで良いんじゃないか」という意外な発見があったりします。あえて当初の計画からズレたことをやると、その作品で採用するかどうかは別にして、自分の引き出しがひとつ増える結果に繋がるかもしれません。
個展では、アクリルや金属素材を使った展示も
── 開催中の個展「U.V.W.」について教えてください。

タイトルの「U.V.W.」とは、「Ultra Violet World」の略称です。Ultra Violetとは紫外線のこと。肉眼ではとらえられない光線です。画集のタイトルである「スペクトル(光を分解したときに得られる、波長ごとの強度分布)」のさらに先をイメージして、今回の個展を名づけました。
── メインビジュアルのキャラクターは、画集の表紙の少女と少し似ていますね。

画集は章ごとに扉絵があって、共通したキャラクターが描かれています。今回のメインビジュアルで描いたのも同じキャラですね。Violetというタイトルなので紫っぽいカラーに寄せたほうがわかりやすいかなとは思いつつ、こちらのほうがシックな雰囲気に仕上がるんじゃないかと考え、白を基調に青っぽくまとめました。
── 特殊加工を加えた展示もあるそうですね。

はい、アクリルや金属素材を使った展示があります。同じイラストでも素材によって全然違って、打ち合わせをしながら「こういうアウトプットになるのか!」と自分自身とても勉強になりました。

── イラストレーターとして今後の目標を教えてください。

── 本日はありがとうございました!
1月29日(日)まで開催中!BerryVerrine個展「U.V.W.」
pixivとツインプラネットが共同運営するギャラリー「pixiv WAEN GALLERY by TWINPLANET × pixiv」にて、BerryVerrineさんの個展「U.V.W.」が1月29日(日)まで開催中です。

アクリルや金属などの素材を使って、BerryVerrineさんが自らディレクションしたこだわりの展示品もございます。BerryVerrineさんの鮮やかな色彩が際立つ展示空間にぜひ足を運んでみてください。
開催期間:2023年1月11日(火)〜1月29日(日)
定休日:なし
入場無料
所在地:東京都渋谷区神宮前5-46-1 TWIN PLANET South BLDG. 1F
営業時間:12:00~19:00
※混雑時は整理券対応をさせていただく可能性がございます。あらかじめご了承ください。
※新型コロナウイルスへの対策について
BerryVerrine個展「U.V.W.」について、現時点では1月29日(日)までの開催を予定しております。今後も状況を注視しながら対応を進めてまいりますが、新型コロナウイルスの感染状況などにより、開催期間に変更が生じる場合がございます。販売商品や来店方法等を含め、運営状況については、随時pixiv WAEN GALLERY公式HP、公式Twitterにてお知らせさせて頂きます。何卒ご理解賜りますよう、重ねてお願い申し上げます。