VTuberの印象は配色で決まる!? 現役高校生&鴨見カモミが描いてみた

文/小川洋平
「VTuberって、動いてなくても個性的」って感じたことはありませんか?
それもそのはず、身の回りに溢れているキャラクターの色のほとんどは「その色をまとっている理由」があるから。
それを勉強する特別学習が、クラーク記念国際高等学校・秋葉原ITキャンパスにて2019年6月に開催されました。お題は、ピクシブが提供する3Dキャラメイカー「VRoid Studio」のプリセットキャラクター「千駄ヶ谷篠」(せんだがや・しの)の配色だけを変えて、オリジナルのVTuber用3Dキャラを作るというもの。

シンプルな見た目や色調でデザインされた彼女をベースに、生徒のみなさんに「ダイナミック」「シック」「ロマンティック」の3つのイメージに合わせた配色を施してもらい、オリジナルVTuberキャラ作りをしてもらいました。
単に色を変えるのではなく、どんな性格なのか? 好きなこと、ハマっていること、生い立ちなどの設定を考えた上で、自分が考えるオリジナルキャラの性格や印象は見た目にどう反映したら良いかを一緒に考えてみましょう!
● 講師紹介

今回の特別講義の講師役は、バーチャルアーティストとして活躍中の鴨見カモミさん。
pixivでの作品の発表はもちろん、VTuberとして動画配信も精力的に行っている彼女が、生徒のみなさんがVRoid Studioで作ったキャラクターをバーチャル空間から添削するという、エッジの効いた授業となりました。

そしてカモミさんと共に色彩について教えてくださるのは、色彩検定協会認定 色彩講師の佐藤万葉(さとう・かずは)先生。色彩についての論理的な考察を丁寧に教えてくださいました。
本稿では、バーチャル空間とリアルな教室をつなげた、ちょっと変わった授業の模様をご紹介します!

● 講義の目的
今回の授業は、「ダイナミック」「シック」「ロマンティック」のどれかのイメージで配色するというのが課題。それぞれのイメージをつくるための配色の考え方は、色彩検定の公式テキストに記載されているものを使用します。配色の考え方が決まっているとはいえ、どの色を選ぶのか、どのトーンにするのか、そしてそのバランスは……? 個人のセンスが問われます。
ダイナミック

シック


▲ 色彩検定1級テキストより、3つの配色パターンを抜粋
● VTuberでのキャラづくり
みなさんのキャラクター添削をする前に、一例として鴨見カモミさんが、まずは自身の配色について説明をしてくれました。
たくさんのVTuberのなかでも、鴨見カモミさんの色合いは独特。これは「ウォームナチュラル」という組み合わせで、穏やか・素朴・ぬくもり・親しみやすさといったイメージを伝える配色なんだとか。

この配色にした理由についてカモミさんは、「VTuber四天王と呼ばれる、他の有名なVTuberに緑の人がいなかったからで偶然」と笑って説明していましたが、結果としてパッと見で誰かわかるので、その戦略はバッチリだったと言えそうです。
ちなみに、カモミさんを例にして配色のバランスについてここで軽く触れておきたいと思います。
カモミさんの配色は上記の通り。佐藤先生曰く「衣装のバランスは解説画像の通りですが、動画の場合は髪の毛が揺れる分面積が大きく感じるので、ベースカラーとアクセントカラーの役割が逆転しそうですね。ただ、ベースカラーとアソートカラーは同じようなトーンとなっているので、カモミさんの場合には問題ない」とのことでした。
では、各配色テーマから選ばれた作品の添削を見ていきましょう!
● 添削:ダイナミック
ダイナミックとは?
強い・はっきりした・派手といったイメージを与える色彩。高彩度の組み合わせにより色相対比が起きる配色がダイナミックなイメージを生み出します。色相としては心理四原色に加え、オレンジ系、そして高彩色とのコントラストを生む黒などがあげられます。
ダイナミックな配色をした学生の作品はこちら!

●キャラ名:れい
●顔のイメージ:表情はクールなのに、めちゃくちゃな感じ
●どんな事をするVTuberになってほしいか
輝夜月ちゃんが好きなので、歌ったりライブをしたりしてほしい
カモミ:ピンクと水色の2色を使った髪の毛の色合いが絶妙。胸元のリボンが目をひくね。あと、瞳の中まで丁寧に手がはいっていて、とても綺麗だと思う!
佐藤:「ダイナミック」では、黒、赤、青、緑、黄色といった色が主に使われるので、水色を使うのは珍しいですね。色相的には大丈夫ですので、こういう使い方は十分アリだと思います。黒が入っているので、すごく映えますね。

瞳も万華鏡のように繊細に仕上げられており、ダイナミックとしては十分なインパクトがあるキャラクターに仕上がっていますが、カモミさんと佐藤先生からは、十分に作り込まれている顔や上半身に比べて下半身はシンプルで、全体でみると少しさびしいかも……という声が。
そこに注意して、カモミさんが手を加えたVRoidがこちら!

カモミ:スカートや靴下、下半身に色を加えて全身を見たときも「ダイナミック」に感じられるように手を加えてみたよ。黒の色を活かして、コントラストを出すように、足元にもピンクを入れてみた。上半身のよさを活かしつつ、そのイメージを下半身に広げていくイメージだね。
佐藤:スカートだけでなく、靴のソールまでピンクが使われてますね。きちんとしたキャラクターの設定があるので「顔だけでなく、キャラクター全体で元気なイメージを表現するにはどうしたらよいか?」も考えて表現してみると、もっとよくなると思いますよ。
ここがポイント!
高彩度の有彩色と黒を使ってコントラストを出すのがポイント!
思い切った配色にしてガンガン主張するくらいのつもりで! とにかく高彩度が命!
● 添削:シック
シックとは?
渋い・洗練された・大人っぽい、といったイメージを与える配色。知覚的にインパクトのある強い色は含まず、やや色味を感じさせる無彩色系の色を組み合わせた配色です。茶系は「クラシック」、青系は「モダン」という別の配色イメージと重なりますので、注意が必要です。
シックな配色をした学生の作品はこちら!

●キャラ名:赤い子(あかいこ)
●性格:暗めだが、心開くと笑ったりするわりと普通な感じ。
●どんな事をするVTuberになってほしいか
絵を描いてみた、赤や黒を使ったかっこいい系の服のコーディネート動画をあげる
カモミ:すごく格好よくまとまっているね! ただ、「シック」という点ではスカートの赤が強い印象を与えてしまっている。赤を使いながらシックに見えるにはどうしたらいいかを一緒に考えてみよう!
佐藤:そうですね。落ち着いた色の組み合わせですが「シック」で使われる配色とは少しずれているので、(シックに)寄せるには無彩色(グレー)の色を増やしていく必要があります。ただ、色相の選択は間違っておらず統一感もあって素晴らしい。スカートのグラデーションもいいのでここは活かしましょう。
シックで用いられる色合いとは少しずれているけど、元の配色は活かしたい! 全体のバランスを考えながらカモミさんがシックに寄せていった添削結果がこちら!

カモミ:スカートの彩度が高いので、ギリギリまで赤を残しつつ無彩色のグレーをのせてシックに近づけてみたよ。落ち着いた印象になったよね。全体的にグレーの配分を多くしたけど、“赤が好き”っていうこの子の性格を感じてもらえるかは難しいポイントだよね。だからベストも明度を落として少し落ち着いた色相にしたので、リボンも含めて完全にシックの色にはしなかった。
佐藤:このテクニックはうまいですよね、リボンの色は絶妙だと思います。キャラクターのコンセプトがはっきりしているので、それを「シック」という課題の方法論でどう表現するかですよね。特に茶色系が多いと「シック」ではなく「クラシック」に寄っていってしまうので注意が必要です。また、配色とは別に、明度が低めな髪の毛とベストも調整されているのがポイントで、落ち着いた印象に変わりましたよね。
ここがポイント!
色合いを統一しすぎる場合があるので気をつけよう!
面積が大きいと色相・彩度が少しズレるだけで大きく印象が変わってしまうよ。
赤系が多いと「シック」ではなく「クラシック」に、明度彩度が高いと「エレガント」に寄ってしまうので注意!
地味とシックは違うぞ! ワンポイントの一手間でキャラがぐっと引き立つので、どんなVTuberキャラクターかを考えて、アクセントカラーを決めるとキャラ立ちしそう。● 添削:ロマンティック
ロマンティックとは?
かわいい・可憐な・愛らしい、などのイメージ。ペールトーン(=淡く透明感のあるイメージをもった色)やライトトーン(=明るく軽やかな印象を与える色)の、赤紫~赤みの黄までが選択範囲。特にピンク(赤系のペールトーン・ライトトーン)を使用するとロマンティックさがアップ!
ロマンティックな配色をした学生の作品はこちら!

●キャラ名:遊間リオナ(あそま・りおな)
●性格:自称20才のJK。不登校で単位がもらえず留年。よくやむ。バイトの時は17才と偽っている。20才で制服はイタイと自覚しているが、23才まで制服を着たいと思っている。クズだけど憎めない子。
●どんな事をするVTuberになってほしいか
・メイク動画や安いコスメ、スイーツのレビュー
・常にやってるダイエットの配信
カモミ:パッと見て、原宿にいそうな「夢カワ系ファッション」だって思ったよ。瞳やネイル、靴下まで、まるでお化粧をするかのように丁寧に描かれている、手の込んだデザインが素敵。これはどうみても、ロマンティック!
佐藤:細かな設定にも驚きましたが、キャラクターそのものも細かな部分まで丁寧に加工してあるのがいいですね。色彩検定の定義では紫は入らないのですが、多くの人がイメージする“ロマンティック”になっていると思います。
作者は「瞳の色や、髪の毛の色を決めていくうちにキャラクターのイメージがついてきて、スカートを銀河にしてみたり、キャラクター像を考えていった」というこちらのキャラ。髪の毛からつま先まで丁寧に色が入っていて十分ロマンティックな仕上がりになっているのですが、紫がちょっと強いのでエレガントな印象になっているという指摘も。もっとロマンティックに寄せていくどうなるのか? その結果がこちら!

カモミ:髪の毛の色が、毛先に行くほど濃くなっていくグラデーションが個性的だったから、そのままで色合いを残して明るめにしてみたよ。明度をあげて、フワフワと綿菓子のような印象にしたから、より夢カワ感が出た気がするよね。
佐藤:後はベストが少し緑よりの黄色だったので、オレンジ寄りの明るい黄色にして可愛らしさを残して、さらに紫の部分をピンクに寄せてもらいました。全体の境界線がなくなるようなイメージで明るさで全体のトーンを揃えると、よりロマンティックなイメージに近づきますよ。
ここがポイント!
(左が添削前、右が添削後)
いわゆる分かりやすい「パステルカラー」がロマンティックの基本。かわいい、やわらかい、ふわふわなイメージを大切に!
紫が入ると「ロマンティック」より大人びた「エレガント」によってしまうから気をつけて!
● カモミさんも挑戦!
カモミさんも課題をやってみた
選ばれた3作品の添削と解説が終わったところで、カモミさんから発表が。なんと、カモミさんも今回の課題にチャレンジしてみたそうです。
落ち着いたイメージの「ウォームナチュラル」で配色されているカモミさんですが、今回はその真逆のイメージ、ダイナミックな配色に挑戦! 明るくポジティブで快活なキャラクターをイメージして作ったのがこちら!

カモミ:ポジティブで明るく快活なキャラを表現するために、パッションなオレンジをたくさん取り入れました! 青で色相の広がりを見せて大胆な配色に! ゲーム実況に合うように、ゲーマーらしく十字ボタンをイメージしたほっぺのプラス模様のメイクがチャームポイントだよ。
さすがのクオリティに、教室からは感嘆の声があがります。でも、佐藤先生からは、「オレンジと黒の印象が強すぎて、ダイナミックというよりハロウィーンのイメージが強いかも……」という指摘があったそうです。そこで、さらに手を加えたものがこちら!

佐藤:黄色をどこかに入れたことで、ダイナミックのお手本のような配色になりました。黄色がアクセントとなりオレンジに目線が集中しなくなる効果が生まれます。また、黄色と逆の色相である青の面積を増やすことでバランスがよくなりました。

▲ 少しの違いで、元気で快活な動画が似合いそうなVTuber感がアップ
大きくデザインを変えずに色のバランスを変化させるだけで印象が大きく変わったことに、学生のみなさんも驚いている様子。そしてなにより、一番驚いているのがカモミさん自身。
カモミ:普段は鴨見はここまで思い切った色を使うことって、なかなかないんだ。VTuberでこういう色を使っている人は少ないので、これからキャラクター作りをするのなら、ダイナミックな配色で挑戦しても面白そうだね! 佐藤先生、メチャクチャためになりました! ありがとうございます。
● 講義を終えて
佐藤:色彩検定で扱う配色イメージは、20代~50代の人に「あなたはどう感じますか?(=○○というイメージにあてはまると思う配色はどれですか)」とアンケートを取るなど、さまざまな調査をした上で導き出されたものなんですね。「こんなイメージを与えたい」とデザインをする場合にはとても有用です。ただ、あくまでも統計なので、クリエイティブな仕事をする場合には柔軟に調整を加えて、枠にとらわれない作品を創ってください。そのための基礎として、色彩検定を学ぶというのはとても有効だと思います。まだまだ感性が若い皆さんなら、基礎があるからこそ想像以上の応用ができるようになるはず。「自分らしさ」を出せるクリエイターを目指してください!
カモミ:キャラクター作りは、パッと見で伝わることが何より大切。「いろんな人に見られる状況」と「キャラ自身の性格や個性」の両方を意識して、コンセプトに合った配色でコーディネートできるといいね。そのシチュエーションを理解するのに、色彩検定での配色の知識はとても役立つと思うぞ。
今日のみんなの作品はキャラクターのコンセプトがしっかりあるので、そのキャラを見ただけでどんなキャラかイメージできる配色になれば、もっとよくなるはず。アイデアをよりよく見せるための手段の一つとして、色彩の勉強をしてキャラクター制作に活かしてほしい。なにより、イラストやアニメを見るときにも役に立って楽しいぞ(笑)。
クリエイティブの楽しい世界を、もっともっと広げていってくださいね!

こうして特別講義は終了。色を変えただけで、キャラクターのイメージがこんなにも大きく変わることに、驚いた人も多いのではないでしょうか。コンセプトを元に、どの色を選ぶのか。その選択によって、伝えたいこと・伝える強さが変わることに、授業に参加した生徒さんたち全員が実感している様子でした。色の持つ力ってすごいですね!
● 色のすごさを実感したら、色彩検定にチャレンジ!
色についてもっと知りたい、学びたいという人は、ぜひ色彩検定協会のサイトを訪れてみてください。色の持つ力の理由、学ぶための方法など情報が満載です。
そして、2019年11月に実施される2019年度冬期検定はただいま申込み受付中! 申込みはインターネットから可能で試験会場は全国約400カ所。イラストはもちろん、映像製作、3Dモデリング、ゲーム製作などなどクリエイティブな活動に役立つ知識を自分の物にするまたとない機会。まずは11月を目標に、ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。
申し込み期間
日程:2019年8月1日(木)~10月3日(木)
※WEBでの申し込みは10月10日(木)まで
試験日
【3級・2級・1級・UC級】2019年11月10日(日)
【1級2次】2019年12月15日(日)
試験時間
【3級】9:50~11:00(70分)
【2級】11:50~13:10(80分)
【UC級】13:50~14:50(60分)
【1級】15:20~16:50(90分)
【1級2次】13:00~14:30(90分)
・ベースカラー
ベースカラーはその名の通り基本となる一番大きい面積の色で、全体のイメージを決定します。全体の70%ぐらいが適切といわれています。
・アソートカラー
アソートカラーはベースカラーに次ぐ面積を持つ色。統一感を出す、変化を出すなど、全体の方向性を決める色で、全体の25%ぐらいが適切といわれています。
・アクセントカラー
最後の5%に置かれるのが、アクセントカラー。見る人の注意を引き、全体を引き締める効果があります。