フルカラーWEBTOONを個人で週刊連載!? 『恋癖』の緒之さんに、WEBTOONを選んだ理由や制作テクニックを聞いた!【ウェブトゥーン入門】
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スマートフォンに最適化した縦読み&フルカラーのマンガ「WEBTOON」は、アニメ制作のように分業で作りあげるイメージが強いですが、個人で活躍されているWEBTOON作家さんもいます。
世界累計ダウンロード数3,900万を突破したマンガサービスcomico(コミコ)で、『around1/4』(アラウンドクォーター)や『恋癖』(こいへき)を連載してきた人気作家・緒之さんにインタビュー。WEBTOONを描き始めたきっかけや、フルカラーマンガを1週間で描きあげるための時短テクニックなどをお聞きしました!

- 緒之(おの)
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WEBTOON作家。作品に、25歳周辺の男女のリアルな恋愛を描いた『around1/4』、恋愛のクセが強めな大学生たちの(カオス)ラブコメディ『恋癖』がある。現在は新作の準備中。
子育てしながら、息抜きにマンガを描き始めた
── 連載を開始するまでは、どんなお仕事をされていたのでしょうか?
── 専門学校で3DCGの勉強をされていたんですね。
緒之:昔から趣味でイラストは描いていたんですが、仕事に結びつくとはまったく思っていなくて。なので、ゲームに興味もないのに、「3DCGとか最先端で就職先が多いのでは」と進路を決めてしまったんです。だから、全然馴染めなかったです(笑)。
── 学生時代からマンガは描いていたのでしょうか。
緒之:いえ、マンガを描き始めたのは結婚をして子どもが生まれてからですね。ちょうどその頃、「チャレンジ作品」として、誰でも作品を投稿でき、人気が出ればデビューできる企画が始まったところだったため、comicoさんに作品を投稿してみることにしました。
── マンガを描き始めてみて、どうでしたか?
緒之:ストーリーを考えることは初めてでしたが、子どもが寝た後にちまちまと、ちょっと違う世界を描くことが楽しくて、現実逃避的にハマった趣味でしたね。最初に描いたのが、『まるまるさんかく』という、中学生のほのぼのギャグコメディーです。その後に連載獲得の賞レースみたいなのがあって、『around1/4』(アラウンドクォーター)で連載が決まりました。
WEBTOONを選んだのは描きやすいから
── WEBTOONはその頃、今ほどメジャーではないですよね。緒之さんはどうしてWEBTOON作品を描こうと思ったのでしょうか。
緒之:気軽に始めやすかったのが最大の要因ですね。WEBTOONは、コマ割りなどのノウハウを知らなくても、とりあえずコマを縦に並べていけば作品になるので、ハードルが低かったんです。「マンガを描くのは大変」と、たくさんのプロのマンガ家さんたちが言っていて、見開きのマンガは自分には難しそうとも感じていました。一方、縦読みマンガは、まだ出てきたばかりで、情報もあまりなかったため、抵抗感なく始められたんです。自分のやり方でできるんじゃないかなと思いました。
── WEBTOONはフルカラーで大変なイメージがあったので、意外でした。
── モノクロだからこその難しさもあるんですね。
── 他にも見開きマンガの方との違いはどんな点がありますか?
中西:見開きマンガでは、コマ割りをどうするかをすごく考えて工夫する必要があります。視線誘導とか、めくりのところにどういうコマを持ってくるかなど、テクニックがいっぱいあるんです。
一方、WEBTOONの視線誘導は、シンプルに上から下に見せていきます。横への移動をたくさん使わないことだけに気を付ければいい。そういう意味では、週単位で作品を描き、色を塗るのがやっていければ、実はWEBTOONの方がデビューはしやすいかもしれません。スピード感は必要になりますが。
── その週単位で色を塗るというのがすごく難しそうです。
週刊でフルカラーを描くための時短&集中術
── 週刊連載でフルカラーマンガを描くのは相当大変だと思うんですけれども、1週間のスケジュールを教えていただけますか。
緒之:子どもがいて、土日に作業することが難しいので、週に5日間作業しています。朝の9時から夕方の5時までが仕事ですね。調子がいいときは、1週間のうち、ネームに2日、線画に2日かけて、色塗りをアシスタントさんに任せている間に次のネームを進めておいて、あと1日で仕上げみたいな感じで5日間におさまるようにしています。
── アシスタントさんは、いつから一緒にやってもらっているのでしょうか。
── 仕上げはどのような作業でしょうか?
── 連載当初は全ておひとりで描かれていたとのことですが、やはり大変でしたか?
── お子さんが寝た後に……。大変でしたね。
── 背景素材を使うこと以外に、時短テクニックとして行っていることはありますか。
緒之:絵柄をシンプルにすることですかね。「恋愛ものでキャラクターに主張がありすぎると共感しづらいのでは」という意図からなんですが、作業効率にも効いてきます。髪の毛を1本1本描き込んだり、洋服を細かく書き込んだりする方もいると思いますが、私はパッと認識しやすいように、あまり情報は入れずに形で捉えて描いてます。
緒之:また、専門学校時代にショートカットキーが体に染み付いていて、すごく作業短縮に役に立っています。学校で学んだことで一番活きているのは間違いなくショートカットキーですね(笑)。
── 保育園のお迎えのため、作業時間は午後の5時までと決まっているなかで、それにペースを合わせるのは大変そうです。
緒之:まさにそうなんです! 映画や音楽を流して、「これが終わるまでにこの作業は終わらせる」と、限られた時間で集中を切らさないようにしていますね。子どもが寝た後の夜中に作業をしていた時期もありましたが、そうすると結局、翌日の午前中のパフォーマンスがすごく悪くなるので、なるべく朝型の生活でいられるよう心がけています。
ネームができたらスマホで確認してみる
── 縦にスクロールして読んでいくのがWEBTOONの最大の特徴ですが、コマやセリフの並べ方で意識していることはありますか。
── 完成前のどこかの段階で、実際にスマホでスクロールして確認するんですか?
── 編集の方もそうやって確認されるんでしょうか?
── 見開きマンガだとページ数が作品の長さの基準になると思うのですが、WEBTOONはそういった基準はあるんですか?
ジャンルものが強いなかで作家性を出していくには
── WEBTOONは異世界転生ジャンルの人気が目立ちますね。
── 打ち合わせのときに、編集さんから「こういう展開を入れてほしい」という要望はあったのでしょうか?
緒之:恋愛ものというテーマは決まっており、そのまま連載になったので、事前に「こういう展開を入れてほしい」といった打ち合わせはなく、とても自由に描かせてもらえました。今はきっと「こういうWEBTOON作品が売れる」といったデータが前よりもあると思うので、葛藤はありそうですね。
── ストーリーを考えるときに、流行っているものや、他のWEBTOON作品を参考にすることはありますか。
── 人気のジャンルがあるなかで、作家さん独自の部分や作家性をどう出していくか、編集者も悩みそうですね。
── 読者が求めるものは、どうしたら分析できるのでしょうか?
共感はできなくても、「理解」はできるようにしたい
── 緒之さんの作品についてお話を聞かせてください。『恋癖』は一癖ふたくせあるキャラクターたちの群像恋愛物語でした。展開が進むにつれて、バラバラだった登場人物たちの関係が複雑に絡み、物語もシリアスになっていきます。連載当初から最後まで構想があったのでしょうか?
── 読者のコメントを作品に反映するんですね。
── 両思いになった途端に冷めてしまう女の子や、過去の恋人との比較に怯えて恋愛に萎縮してしまう男の子など、様々なキャラクターが出てきます。どのキャラクターも内面描写がすごくリアルなんですが、どう考えられているんでしょうか?
── 共感はできなくても、理解はしてほしい?
── さりげない大学生活の描写にもとてもリアリティがありました。
緒之:私自身は大学には通っていませんが、バイト先に大学生の友達がたくさんいたので、大学が終わった後に遊びに行く流れなどは、なんとなく掴めてはいたんです。ただ、大学の中で何が行われてるかは全然わからなかったので、ネットでいろんな大学の講義の時間割やカリキュラムを調べまくりましたね(笑)。講義要項を見て、「この時期にこれがあるのか」「春休みはこんなに休んで何するんだろう?」などと思いながら、キャラクターたちのスケジュールを立てていました。
── 情報収集能力がすごい(笑)。マッチングアプリやギャラ飲みなど、現代的なトピックも作中に出てきますよね。
── ネットで調べたことを作品にうまく落とし込んでいるんですね。
── 印象的なコメントはありますか?
緒之:成瀬という女性キャラクターが真央というどこか怪しい男に惹かれていき、最終的に彼のことしか考えられない沼落ちのような状態になるシーンについて、読者さんから「自分もこういう経験あります」みたいなコメントをいただいたのは印象的でした。最後は真央へのバッシングが溢れて終わるのかなと予想していたので、彼のことをちょっと擁護したくなっちゃう人がけっこういるのは意外でしたね。
スタミナをもって描き続けてほしい
── 緒之さんが、今後挑戦してみたいことはありますか。
── サスペンスやホラーも、縦読みと相性がよさそうですね。
── おふたりから、これからWEBTOONを描いてみようという人に対して、何かアドバイスをお願いします。
中西:プロを目指すなら、最終的には長く描き続けられるようになってほしいですが、まずは短くてもいいから作品を完成させてみてください。
── 緒之さんの新作も楽しみにしています。どうもありがとうございました!
緒之さんの作品はこちらから!
(あらすじ)
ちょっと厄介な恋愛癖をもつ里帆はいつも彼氏と長く続かない。そんな時偶然中学の時の初恋の相手・間宮と再会する。純粋に再会を喜ぶ里帆とは対照的に間宮の様子がおかしくて…? 共感できる? できない? 恋愛のクセが強めな大学生たちの(カオス)ラブコメディ。
ウェブトゥーン入門の過去の記事
ウェブトゥーンに関する情報をお届けする連載「ウェブトゥーン入門」。WEBTOONのルーツや、制作スタジオから見た業界のリアル、クリエイターの声など、様々な角度の記事をお届けしています。
どの記事から読み始めるか悩む人は、まずは「WEBTOONとは?」に迫った第一弾記事からご覧ください。