リッチな画作りで生み出す「シネマティックなイラスト」とは? イラストレーターSWAVインタビュー
構成/原田イチボ@HEW
国内外で人気を集めるイラストレーター・SWAVさんの初個展「ReSURGUM(リサーガム)」が、東京・表参道にある「pixiv WAEN GALLERY」にて3月30日(水)まで開催中。「ReSURGUM」とは、《公安魔女と原始魔女の戦い》を描く、SWAVさんオリジナルのSFシリーズで、本展では描き下ろしのオリジナルイラスト12点などが展示されます。

SWAVさんは、映像や音楽、ファッションなど幅広いジャンルから刺激を受けて、「シネマティックなイラスト」を追求しています。映画的にイラストを描く、とはどういうことなのでしょうか? SWAVさんのこだわりについて教えてもらいました。
キャラには人間性が宿ってほしい
── 絵を描き始めたのはいつ頃ですか?

小学生の頃から、ミリタリー系のイラストを好きで描いていました。ですが、人間を描いた経験は全然なかったので、「人間を上手く描きたい」と思うようになり、大学に入学してからデッサンなどを独学で勉強し始めました。なので、本格的に絵を描き始めたのは2017年頃ですね。
── 2013年の初投稿以来、美少女系のイラストをずっとpixivに公開していたので、もともと美少女キャラが描きたい作家さんなんだと思っていました!

2013年に投稿したイラストは、「人間を描いたのはこれが初めて」レベルですね。昔の作品は、むしろ人間を描く練習に近かったです。描いていくうちに、兵器やメカと同じく、美少女というのも自分の創作のキーワードとなっていきました。
── 商業デビューは、どんなお仕事でしたか?

2018年頃、バンダイナムコエンターテインメントさんのスマホアプリ『レイヤードストーリーズ ゼロ』のキャラクターデザインでした。

── 人気タイトルのキャラデザとは、デビューにしては、けっこうな大仕事ですね……!

そうですよね。しかも重要なキャラクターだったので驚きましたが、それ以上にうれしかったです。大学に向かう電車の中でご依頼のメールをいただいて、講義中ずっと仕様書を見ていたのを覚えています。
── SWAVさんのイラストは、世界の広がりや物語を感じさせるところが魅力です。イラストを描くにあたり、最初に設定を考えるのでしょうか? それとも、まず描いてみますか?

案件によってアプローチは変わりますが、例えば「雨上がりの空間で、強そうな女の子がこんなポーズを取っている」など、大まかなコンセプトを決めてからラフを描き始め、加筆修正を重ねていきます。
キャラには魂といいますか人間性が宿ってほしいので、「取り出しやすい位置にポーチをつけよう」や「右手で銃を撃つなら、どこにホルスターを着けるといい?」など、身につけるものを通してキャラクターの人格を感じられるかなども意識してデザインします。描きながら考えるタイプなので途中で迷走することもありますが、悩んだ分最終形も良くなるので、迷った道筋も大事だと感じています。
映画、音楽、ファッション……全てを絵に還元
── イラストにおいてストーリーや設定を重視しているのであれば、マンガ制作にご興味はないのでしょうか?

僕の創作のコンセプトとして、「シネマティック(映画的)なイラスト」というのがあります。映像だと何フレームもかけて伝えるものを1枚のイラストにまとめるのは、マンガ制作とはまた違った良さがあることだと感じています。自分は海外の映像作品に強く影響を受けており、それらのようなリッチな画作りをイラストで表現してみたいんです。
── リッチな画作りとは、どのようなことでしょうか?

── 影響を受けた作品には、どんなものがありますか?

海外の現代SFが好きで、世界的に著名な方ですとクリストファー・ノーラン監督ですね。チャド・スタエルスキ監督の「ジョン・ウィック」シリーズにも影響を受けました。音楽を聴きながら作業することも多く、ハンス・ジマーの楽曲などから作品のアトモスフィア(空気感)を構成しています。
ファッションの流行も注視していて、特に「ACRONYM(アクロニウム)」というブランドを立ち上げたエロルソン・ヒューは、日常における機能性を追求するデザイナーで、キャラデザにおいて影響を受けています。「ALYX(アリクス)」のマシュー・ウィリアムズが生み出すバックルを駆使したデザインなどもかっこいいですよね。
ほかには二次元の文脈だと、押井守監督や虚淵玄さんなどですね。こういった作品に対する僕の解釈を絵として出力しています。
── 創作においてインプットは重視していますか?

そうですね。「映画が好きだから映画ばかり観よう」ではなく、さまざまなジャンルやテイストのものに触れることを意識しています。ですが、その行為がインプットというつもりはなくとも、身の回りにあるもの全てが絵に還元されている感覚はあります。スニーカーなどもキャラクターをデザインするという視点で見てしまうし、気分転換のドライブもゲームも結局は絵のアイデアに繋がっていく。これはもう呪いみたいなものだと思っています。
「偶然の発見」を得るために3Dを活用する
── SWAVさんのイラストは構図も印象的ですが、どのように構図を決めているのでしょうか?

まずキャラの配置を考えた後、特に見せたいキャラを中心にライティングやレイアウトを決めます。それから3Dでモックアップ(模型)をラフモデリングとして制作し、ぐるぐる回してみたりして、「こっちの画角のほうがいいな」や「引きで映したほうが遠近感が際立つな」のように模索していきます。

3Dで制作された背景要素
── 3Dでいろいろ試しながら画角を決めていくんですね。

偶然おもしろいものができたらうれしいですよね。僕はカメラも好きですが、デジカメよりも、編集がほとんどできないフィルムカメラに惹かれるんです。あとになって「こんな写真が撮れていたんだ!」と初めて気づく感動がありますから。そういう偶然の発見を得るために、イラストにおいて3Dを活用しています。
── 偶然を重視するやり方というのは、やはり映画的なものを感じますね。3Dも含めて、イラスト制作に使用しているソフトはなんですか?

イラストは基本的に「SAI2」で制作し、色調補正など最後の仕上げに「Photoshop」を使っています。3Dは「ZBrush」というソフトが、個人的に使いやすいです。彫刻をするような感覚で使えて、レゴブロックを縮小させたり、柱を生やすといった動作が素早いので、脳内のイメージを即出力できます。あとはレンダリング(編集部注:3Dオブジェクトの表面の色や質感、光の反射などを3Dソフト上で表現する工程)には「KeyShot」を使っています。
全て独学。どのように絵の練習をしてきた?
── イラストの描き方やCGの使い方は、どのように学んだんですか?

自分は趣味で絵を描いていた延長で商業デビューを果たすことができました。なので専門的に絵の勉強をした経験はなく、全くの独学です。3Dに関しては商業デビューをしてから学んだ部分がほとんどですね。
── あくまで趣味で絵を描いていたのだったら、本業イラストレーターになる決断は重いものだったのでは?

大学の研究よりも絵のほうが楽しかったので、「どうせ苦労するなら、自分の好きなことで苦労したほうがいい」と絵の道に進むことを決めました。
── 本格的に絵を描き始めた頃、どんなふうに練習をしていましたか?

絵を描いた後は毎回きっちり反省会をして、たとえば「首が不自然だ」と感じたら、ひたすら首だけ、「腰が変にねじれている」と感じたら、ひたすら腰だけを練習していました。一度に多くのことを改善しようとするのは大変なので、ひとつずつ課題を潰していくやり方です。
── 初心者に向けて、「こうすれば絵がひとつレベルアップする」というアドバイスはありますか?

ライティングですね。イラストにおいて目を引くのは人間そのもの、とりわけ顔です。なので、顔をきっちり見せるようにライティングを工夫すると良いのではないでしょうか。情報量の多いイラストだとしても、鼻の上や額などに光を入れてあげると、人間がきっちり目立ちます。
── SWAVさんのイラストは、彩度の高い色をたくさん使っているわけではないのに目を引きます。それもライティングの力でしょうか?

そうですね。ただライティングに依存しすぎるのも危険だと感じています。正しすぎる光は平べったく見えてしまいますし、やたら明るくすると逆にぼやけてしまう。イラストはあくまでフィクションなので、「この絵はこれを見せたい」という点をしっかり把握し、そのために必要なライトを差すのがいいと思います。
海外企業とのやり取りで、価値観の違いを楽しむ
── 海外のゲーム会社とのお仕事も多いですが、海外の企業と仕事をするときに意識していることはありますか?

地域や文化によって色の感じ方が異なる場合があるので、相手が求めている色と、こちらが想像する色にズレが生じる可能性があります。なので、先方の意図をしっかりヒアリングしてから制作に移るようにしています。
── 言語の違いはどのように解決していますか?

翻訳サービスを利用することが多いですね。また、ありがたいことにクライアントさんが日本語で対応してくださることもあるので、そのときはお言葉に甘えて日本語を使っています。
── イラスト制作は微妙なニュアンスが関わってくるので、言語やカルチャーの違う方とお仕事するのは大変そうですね。

僕自身はむしろ価値観の違いを楽しんでいます。世界は日本よりもそれ以外のほうが広いじゃないですか。さまざまな価値観に触れることは、絵の幅が広がるきっかけにもなりますし、お仕事しながら勉強させていただいている感覚です。
── カルチャーの違いという点で興味深く感じたことはありますか?

僕がよく使うジェードグリーン(編集部注:ひすいのような青みのある緑)は、日本ですとメインの色調になりにくいのですが、海外ではとても好まれます。
── ジェードグリーンは、『マトリックス』などSF映画のポスターでよく使われている色という印象です。

そうですね。僕のイラストは海外の映画から影響を受けているからこそ、日本以外の国で暮らす方々にも感じるところがあるのかなと思っています。
アニメスタジオに所属し、映像にも意欲
── 個展のタイトルにもなっている「ReSURGUM(リサーガム)」シリーズについて聞かせてください。こちらは、どんな物語でしょうか?

1997年前後を舞台に、原始魔女と呼ばれる未知の生命体と、それに対抗する組織として作られた公安11課が戦うストーリーです。物語が進むにつれて、タイトルにもなっている「ReSURGUM」の意味が明らかになっていきます。ぜひ今後の展開も楽しみにしていてください。
── すべて描き下ろしでオリジナルイラスト12点が展示されるそうですね。個展の見どころを教えてください。

雨上がりにビルの合間を散歩していたら、雨のフォグ(もや)で太陽光が乱反射して緑に見えたことがありました。そのときのアトモスフィアを「ReSURGUM」シリーズに落とし込んでいます。少しノスタルジックな、あったかもしれない世界のようなものを感じていただけたらうれしいです。個展のレイアウト、ライティング、絵の順番全てに意図が込められています。会場自体が展示物のひとつと言っても過言ではありません。
── 今後、イラスト以外の形式でも「ReSURGUM」シリーズを展開していく可能性はありますか?

あると思います。まずはイラスト、という感じですね。このシリーズは、僕のこれまでの人生でもっとも力を注いで展開する作品群です。
── 先ほどマンガ制作に興味があるか伺いましたが、映像作品への意欲はありますか?

フリーのイラストレーターとして変わらず活動しつつ、実は今春からアニメーションスタジオ「FLAT STUDIO」にも参加します。僕のアニメーションに対する意欲、これからの未来を想定した上での判断です。
── なるほど。さらなるご活躍を楽しみにしています! 最後にイラストレーターとして今後の展望を教えてください。

ビッグタイトルのゲームなど、いろいろ大きなお仕事をいただく機会も増えています。そういった案件をこれまで通り続けていく一方で、「シネマティックなイラスト」というコンセプトをアニメーションなどに生かせる機会があると、とてもうれしく感じます。
SWAV初個展「ReSURGUM」開催中!
pixivとツインプラネットが共同運営するギャラリー「pixiv WAEN GALLERY by TWINPLANET × pixiv」にて、SWAVさんの初個展「ReSURGUM」が開催中です。
SWAVさんオリジナルのSFシリーズ「ReSURGUM」から12点の描き下ろしイラストを展示します。照明など空間づくりにもこだわり、SWAVさんの作品の世界観を空間ごと体感いただける特別な展示となっています。ぜひ会場にてお楽しみください。
開催期間:3月11日(金)~3月30日(水)
定休日:なし
入場無料
所在地:東京都渋谷区神宮前5-46-1 TWIN PLANET South BLDG. 1F
営業時間:12:00~19:00
※混雑時は整理券対応をさせていただく可能性がございます。あらかじめご了承ください。
※新型コロナウイルスへの対策について
SWAV個展「ReSURGUM」について、現時点では3月30日(水)までの開催を予定しております。今後も状況を注視しながら対応を進めてまいりますが、新型コロナウイルスの感染状況により、開催期間に変更が生じる場合がございます。販売商品や来店方法等を含め、運営状況については、随時pixiv WAEN GALLERY公式HP、公式Twitterにてお知らせさせて頂きます。何卒ご理解賜りますよう、重ねてお願い申し上げます。