「特定の人に嫉妬してしまう」なら自分が手塚タイプか陰毛タイプか見極めよう/カレー沢薫の創作相談

特定の人にだけ嫉妬をしてしまう
私も非常に嫉妬心が強く、同業者のサクセスが大嫌いなので、売れているマンガは軒並み読みませんし、ツイッターでフォローしている作家も売れた奴から順次ミュートです。
しかしよく考えて見ると、同じ売れているマンガでもそこまでムカつかないものと、猛烈にムカつくマンガとに分かれている気がします。
ここで猛烈にムカついている作品の具体名を挙げても、ますますこの業界に居づらくなるだけなので控えますが、正直『鬼滅の刃』とかにはムカついていません。
逆に「読む」こともありえるなと思っています。
なぜそう思えるかというと、鬼滅が自分に比べて桁違いに売れているからです。
二次創作でも「神絵師」とか「神字書き」とか他人のことを素直に崇められるのは、自分が全く創作をしないか、するけどジャンルや推しが微妙に違う、もしくは完全に太刀打ちできないほど相手の方が優れているときです
自分より上だからといって日常で「石原さとみムカつく」などと言っている人にはあまり出会ったことがないでしょう。
それよりもクラスや会社にいる「大して可愛くもないのにチヤホヤされている女」の方がよほど悪口を言われていると思います。
おそらくさとみの悪口を言っているのは、同じ芸能界の人か、さとみと同じぐらいの美貌を持っている人、もしくは持ってないけど俺はさとみに一歩も引けとってねえという自信がある人です。
つまり嫉妬心というのは自分と共通点が多く、遥か上の人ではなく「ちょっと上」の人に起こりやすいのです。
あなたがAさんに強い嫉妬心を抱くのはまず同じ絵描きで、ジャンルも描くキャラかぶっているという共通点が多いせい。そしてAさんのことを「絵が上手い」と認めつつも、心のどこかで「実力はそこまで変わらない」「自分でもがんばればそのぐらい描ける」と思っているからではないでしょうか。
嫉妬心というのは「自分でもなれそうなポジションにいる奴」にも起こりやすいとも言います。
つまりAさんの絵への称賛もフォロワーも、自分の作品がもうちょっと拡散などの機会に恵まれてさえいれば自分の物だったのではないかと考えるから、悔しくて辛いのではないでしょうか。
しかし、嫉妬心や「自分でもそのぐらい描ける」という気持ちが決して醜いというわけではありません。
逆に、他人を「神」と崇めるのは、他人の良さを認める素直さはありますが、創作者としては完全に敗北を認めており、その人に勝つために努力しようという気さえ失っている状態です。
問題はその嫉妬心が「良いパワー」になっているかどうかです。
あなたは手塚タイプ? 陰毛タイプ?
手塚治虫先生も、才能ある新人が現れるたびに「このぐらい自分でも描ける」と言っていたといいます。
本当かどうかはわかりませんがそういう逸話が数多く残っているにもかかわらず、手塚先生が嫉妬深い「私にもこれぐらい描けるんだからね!」というツンデレおじさんではなく、マンガの神として名を残しているのは「描けるんだからね!」と言った後に本当に描いていたからです。
よって、Aさんへの嫉妬心との折り合いは、Aさんの作品を見て嫉妬を感じたあとの行動によって決めましょう。
もし、Aさんの作品を見て嫉妬を感じた後、「このぐらい描けらあ!」とクリスタとかを猛烈起動しているなら、その嫉妬心はプラスの嫉妬心であり、創作者としてAさんに勝つことを諦めてないから苦しいのだと思いましょう。
ただAさんの作品を見て「上手い」と思った次の瞬間から「粗」を探しているなら、Aさんの作品もAさんのことも極力視界に入れない方が良いです。
これは嫉妬心から生まれたパワーを自分の向上ではなく、相手の粗を探して自分より下に引きずり下ろすことに使っている状態です。
もちろん自分は創作者として1ミリも成長しませんし、良い作品の粗探しなどという美味い料理に一生懸命ゴミや陰毛が混入してないか探す作業が、メンタルに良いわけがありません。
私が売れている作品を読まないのも陰毛探しタイプだとわかり切っており、作家としてプラスにならないばかりか読者としても楽しめないからです。
よってあなたもまず、自分が手塚タイプか陰毛タイプか見極めて、手塚なら辛いかもしれませんが、たまにAさんの作品を見て闘争心を得てもいいと思います。
逆に陰毛タイプなら、もっとAさんとAさんの作品を視界に入れず、Aさんのことを忘れる努力をしましょう。
ちなみに「嫉妬」というのは人間の感情の中でも特に手強いもので、修行を積んだ僧でさえ、前で座禅組んでいる僧の袈裟から「GUCCI」のタグが見えたらイラっとくるそうです。
マンガの神や僧でさえ、消せないものを一介のオタクが消せるわけがないですし、嫉妬心を持たないようにするというのも多分無理です。
それより凡人は、いかに嫉妬心が起こる状態を避けるかを考えた方がいいと思います。

私は現在、某ゲームのキャラの二次創作のイラストを描いてツイッターやpixiv等にupしたり、同人誌を頒布したりもしています。
私の絵にいつもいいねやRT、コメントを下さるツイッターやpixivのフォロワー様も多く、その方々には本当に感謝しています。
ただ、同じゲームの絵描き界隈にAさんという方がいまして、この方に対する嫉妬のような感情が今回の私の悩みです。
Aさんはとても絵が上手で、フォロワーさんも私より沢山いらっしゃいます。
ツイッターやpixivでも私より沢山の評価を貰っています。
絵柄や塗り方、一枚絵であること、描いている好きなキャラが被ること等、絵で私と似てたり共通したりするところもとても多く、どうしても自分と比べてしまい、「やっぱりみんな自分よりAさんの絵の方が好きなのかな…」と考えモヤモヤとしてしまいます。
最近は流れてくるAさんの絵を見るのも辛くてミュートにしているくらいです。比べたくなくても心が勝手に比べてしまうんです。
因みにこのモヤモヤした感じ、嫉妬のような感情はAさんに対してだけ湧き上がるもので、他の絵描き様に対しては特に起こりません。
Aさんが絵を描く限り自分が辛くなるので、この感情と何とか折り合いを付けたい、純粋に絵を楽しめるようになりたいと思う次第です。