デザインで絵を殺せるか? 2人のクリエイターが対峙した、LAM初個展「目と雷」
絵の価値は、かけた時間でなく衝動
── LAMさんがイラストレーターを目指したきっかけは

大学ではグラフィックデザインを専攻していたので、広告代理店に入社してデザイナーになろうと考えていたんです。でも、やっぱイラストを描きたいって思い出したんですよね。だから大好きなイラストレーターさんの経歴をまねて、まずはゲーム会社に就職しました。とはいえ、イラストレーターとしてではなくUIデザイナー、グラフィックデザイナーとしての入社です。
── イラストレーターとしてじゃなかったんですね。

── 働きながらって難しくないですか。

週5日は仕事をしていたので、イラストに割ける時間というのは、平日の朝と夜、土日だけ。けど、フリーの方たちって、週7日仕事として絵を描かれているので同じスピードで創作をしていたら絶対に追い付けない。だから、その人たちよりも1秒でも多く描いて、1秒でも遅い時間に寝ようと描き続けました。1年間365日、24時間、絵のことしか考えなかったですね。前だけ見よう、上だけ見ようと思って。
── その1年間が描き方が変わりましたか?

変わりましたね! それまで、絵は1枚1週間かかるものだって思い込んでいました。だから、1日で絵をアップする人が信じられなかったんです。
僕は、線画を描いて、レイヤーを分けて、色を塗って、きれいに影を入れて、効果を入れて完成、という絵のフローを組むのが個性だ、僕のいいところだ、みんなが評価してくださるところだって思っていました。だけどあるとき、その過程が「もうやだ〜!」とめんどくさくなって(笑)、全部レイヤーを統合して描いたんです。それが今回展示している「ジャンヌ・オルタ」のイラストです。

油絵みたいにベタベタと1枚で描いてみたら、それが性に合ってたのか描きやすくて楽しくて。作品としては粗いし汚い部分もたくさんあるけど、まぁでもいいやと思ってアップしたんです。そしたらすごい反響いただけて「これでいいんだ?」みたいな。その瞬間にカチッと歯車が変わって、考え方がリセットされたんですよね。絵は時間じゃないんだ、「衝動」だなって。
僕は時間がかかるほどダメになっていくタイプなんですよ。時間がかかってる時点で、たぶんギアが入ってないというか、ノれてない。気づいたら描きあがっている、みたいな状況じゃないとダメなんです。よくクリエイターは「降りてくるのを待つ」って話がありますけど、僕はそうですね。
── でもそれってコントロール難しくないですか?

もちろん、根は合理的なタイプですし、クライアントワークだと締め切りがあるのでスケジュールを考えて描きます。でも、降りてくればすぐ描けるし、降りてこないと1週間くらい描けないこともありますね。
展示している『東京クロノス』PS4版のパッケージは“降りてきた”ので、2日で描けました。

この展示はLAMそのもの
── これから挑戦したいことがあれば教えてください。

アニメ、ゲーム、フィギュアとか、まだやったことないジャンルに挑戦したいですね。あとはアパレルとか。
── 素敵ですね!

僕はイラストレーターですけど、カトウをはじめ雷雷公社という素晴らしいスタッフに恵まれています。LAMだけでできることはもちろん、LAMだけじゃできないこともやっていきたいです。今回のバイクも、自分だけだったら絶対に出てこなかったアイデアですしね。
雷雷公社としておもしろいモノ作りをしていけるなら、結果的にどんなクリエイティブでも良いと思ってます。


── 開催から1週間ほど経ちましたが感想はいかがでしょうか。


僕の個展は今までの作家の中でも、100倍くらいめんどくさかったと思うんです。でも、スタッフのみなさんがやりがいを感じてやってくださっていると伝わってきました。いい個展にしたいと全員で取り組めたので、まず感じたのは感謝や達成感ですね。
今回は(時勢の影響により)ギリギリまでやるのかやらないのかを悩みました。でも、ギャラリー側が最善の対策をしてくださったおかげで、発表の場だけは設けることができました。
結局サイン会は中止になっちゃったんですけど、たくさんの方が来てくださいましたし、来れない方に向けて写真で拡散してくださる方も多くて。
反響を目の当たりにしてほっと胸をなでおろしたというか、「いいでしょ?」って気持ちです。
── しっかり伝わってるなと。

そうですね。今回の個展は、ただ絵がある箱ではなく「目と雷」という空間作品を目指しました。来たことに意味がある空間にしたかったんです。同人誌をつくるとき、タダでイラストがたくさん見られる時代に、会場に足を運んで、本を手に取って、高いお金を払ってご購入いただくってすごいことだなって思っています。だから本としての価値をしっかり生み出したい。それと同様、今回の個展も、会場に足を運んでくださったみなさんに、来てよかったと思ってもらえる感動体験を提供しようと考えていました。この空間のなかでイラストを味わってもらえるとうれしいです。
── 本日はありがとうございました。