『みいつけた!』のコッシ―の生みの親・大塚いちおさんに聞いた「子どもから大人まで愛されるデザインを生み出す力」

インタビュー/直江あき 撮影/RYO
NHK Eテレの子ども向け番組『みいつけた!』のアートディレクターで、番組の大人気キャラクター・椅子のコッシーの生みの親である大塚いちおさんにお話を聞きました。
子どもに愛されるデザインの秘訣はあるのでしょうか? 『みいつけた!』の誕生秘話から裏話をうかがいながら、子どもから大人まで愛されるデザインについて探っていきます。
『みいつけた!』がはじまるまで

──『みいつけた!』の仕事に携わることになったきっかけを教えてください。
『みいつけた!』が始まる前のNHKでは、0~2歳向けの『いないいないばぁ!』や、2~4歳向けの『おかあさんといっしょ』などの番組はありましたが、4~6歳向けに様々なことを伝える総合番組がなかったんです。
そこで、4~6歳向けの新しい番組の企画が立ち上がり、専門家をまじえたブレストに私も参加することになりました。他のメンバーは発達心理学や脳科学の専門家といった方々で、なぜ僕が呼ばれたのかわかりませんでしたが、その頃ちょうど子ども向けのワークショップを行っていましたし、また全然違うジャンルの人の話もできるいい機会だなと思いました。
その1年間にわたったブレストでは、「4~6歳の子どもってなんだろうね」といったことを毎回話し合いました。
──ワークショップを通して、お子さんたちと触れ合っているんですね。実際に触れ合ってみて、どうでしたか?
事前にあれこれ決めすぎると、裏切られるというか、思ったとおりにならないのが子どもですよね。
大人向けのワークショップもやっているんですが、エラーが起こるとしても、想像できる範囲のエラーしか起きないんですよね。表と裏を間違って色を塗っちゃうとか。でも、子どもはそこを超えてくるんですよ。だから、子ども向けのワークショップでは、大人があらかじめ完成をイメージするのは意味がないと思っています。もちろんある程度決まりごとは作って、多少はみ出ても対応できるよう予測はしておくんですけれども、たいていそこを超えてきたり、裏切られたりするものなので、そこも楽しんでいますね。
──そもそも、子ども向けワークショップを始めたきっかけはなんだったのでしょうか。
自分がなにか面白い絵を作りたいなと思ったとき、そういえば子どもの頃はどういう風に描いていたんだろう、子どもは絵に対してどう反応するんだろうと興味が湧いたのが、始めるきっかけの一つでした。
原始時代でも、人はボールを見れば蹴りたくなっただろうし、走れば競走したくなったと思うんです。たぶんそれと同じように、棒を持てば手でなにか描きたくなるというのが、絵の始まりですよね。そういうプリミティブな感覚を子どもは持っていると思います。
『みいつけた!』のコッシー誕生
──椅子に着目した経緯を教えてください。
予定調和的なものがあまり好きじゃないので、今までキャラクターになったことがないものをモチーフにしたいと思いました。とっさに浮かんだのは、「部屋のように大きな存在のキャラクター」でした。女の子がその中にいて、どこに話しかけても答えてくれるけど、大きすぎるからキャラクター自体は映らないという……(笑)。番組開発チームとブレストを重ねる中で、「椅子のキャラクター」というアイデアが出ました。
小さい頃、親とバスに乗った時に窓からバス停に置かれている椅子をよく見ていたことを思い出したんです。誰かが勝手にバス停に置いていった椅子って、ありますよね。種類もバラバラで、雨ざらしになったりして。

椅子のキャラクターがいれば、かつての僕と同じように、子どもたちが椅子を見て「あの椅子、大変だね」「あの椅子も頑張ってるね」「捨てられていて、かわいそうだね」と思ってくれるようになるんじゃないかと思いました。
椅子は誰の家にもあります。保育園や幼稚園にも自分の椅子があるだろうし、大人でも会社には椅子がありますよね。そう考えると、世の中には人間よりも椅子のほうが数が多いはずです。なのに、今まで誰もキャラクターにしていなかったのも不思議です。
こうして、ボールペンの輪郭に色鉛筆で軽く着色した椅子のキャラクターを十数個描きました。そのうちのひとつに「これが主人公だったりして」みたいなメモも書いていて、それがコッシーとなりました。
──サボさんはどのように生まれたんですか。
椅子と一緒に部屋にありそうな物として、サボテンが候補にあがりました。最初は、植木鉢の中のサボテンが、用があると急に立ち上がってしゃべり出すなんていうのも考えていたんですが。その名残で、サボさんは「サボバッグ」という植木鉢のような形のバッグを持っていて、よく座っています。
キャラクターだけでなく、衣装など関われるものにはなるべく関わろうと思っています。MCの女の子、スイちゃんの衣装も、最初はボーイッシュなデザインにしていましたが、最近では着る本人の雰囲気に合わせたデザインにしています。

──いろいろなキャラクターがいるなかで統一感を出すのは大変だと思います。どのように考えられているのですか?
ガチガチに決めすぎず、みんなで楽しもうよというコンセプトだけを設定しています。
セットの背景は、手で描いたものをそのままデータ化して出力したものなんです。そうすると、アップになった時に手描きならではのムラが見えたりして、温かさが出るかなと思って。僕が体を動かして描いたものだということがダイレクトに出るようにすると、ひとつのまとまりができるのかなとは思っています。
子どもに愛されるデザインとは
──『みいつけた!』は放送が始まって10年になります。10年間で、子どもの好みに変化はありましたか?
子どもたちも変わってきてはいると思いますが、子どもたちに媚びたり歩み寄ったりすることを方針にすると、常に追いかけ続ける必要が出て、無理が生じます。それよりも、少し予想を裏切ったりするようなものであったほうがいいんじゃないかと思います。
こうじゃなきゃ駄目っていうルールを作るんじゃなくて、どこか少しふわふわした方針の中で、時々そこからはみ出すというか、何か刺激的なことが起こるくらいの隙を作っておくと予定調和的にならずに面白いことになるんじゃないかと思いながらやっています。
──逆に、これだけはしないでおこうというような、NGはありますか。
不快に思われるようなことや、怖がらせるようなものは避けるという、当たり前のことくらいですかね。また、僕のデザインには、くねくね、にょろにょろしたものが多いんですが、『みいつけた!』でも意識的に鋭角的なデザインはしないようにしています。
黒色もあまり使わないですね。黒は目立つし強いので、使うとバランスが難しくなるんです。絶対使わないというわけでもないんですが、いろいろなことを考えると、グレーや茶色のほうがいいなと思うことが多いですね。単純に、テレビの画面が暗いと子どもが怖がってしまうというのもあります。
世界観=ストーリーがどう広がるか

──大塚さんは独特の世界観をお持ちだと思います。大塚さんの世界観とは、どのようなものですか。
「大塚さんの世界観が好きです」と言われることがありますが、何をもってそう思っているのか、お互いの頭の中を見せ合わない限りわからないじゃないですか。じゃあ僕の中で「世界観」って何か、これはストーリーがどう広がるかということに繋がるのかなと思います。
たとえば、『みいつけた!』の世界観は、ピンクや水色で、ふにゃふにゃ、ほにゃほにゃした感じ……という表面的な色や雰囲気だけではなくて、そこから生まれる楽しい感じや情けない感じの内面を含めていうのだと思います。作り手としては、それも含めて作っていかなくてはいけません。デザインとそこから広がる内容が合っていないと、意味も全然なくなっちゃうので。
僕が作った物の中では、たぶん今は『みいつけた!』がいちばん大きい番組なので、「あの世界を作った大塚さん」と思われがちだし、実際僕の考えた世界ではあります。
けれど、もしどこかから別な依頼があって、『みいつけた!』とは全然違う世界を作ったとしたら、たぶんまた「大塚さんといえばあの世界」みたいにまたイメージが変わると思うんですね。
確かに、優しい色使いや雰囲気など自分の得意な分野で、仕事としては多くやっています。でも、常にいろいろなイメージを持ちながら、どんなことをやったら面白いかを考えていくのがクリエイティブ稼業です。常にそれを意識しながら仕事をしたいなと思っています。
「僕こういうのが得意なんで、いい仕事があったら呼んでください」「はい、いつものあれですね」っていうのは、作業としてはいいのかもしれないですけど、創造的な仕事とは言えないじゃないですか。
「世界観」ありきではなく、「こんな世界を作る」というテーマに合わせて、変なキャラクターやストーリーがあったら面白いよなあとか、イメージを膨らませていく。自分が今まで触れてきた映画や小説、音楽、蓄積た経験の中から面白い世界が出来あがっていく。それが楽しいですよね。
──たしかに、『みいつけた!』以外にもいろいろなお仕事をされていますよね。
僕は新潟出身なんですが、北陸新幹線の上越妙高駅ができるとき、上越市からデザインを依頼され、せっかくだからキャラクターを作ってはどうかと提案しました。上越は桜や雪が有名で、これらを使ったデザインを考えるのは難しくありませんが、それだと他の誰がやっても同じようなものになってしまいます。だったら、北陸新幹線の長いトンネルをモチーフにモグラのキャラクターを作って、ちょっとしたストーリーも考えたら絶対面白いだろうなと思ったんです。

地下で友達のモグラとトンネルを掘る競争をしていたけど、上がドンドンうるさいぞ、何だろう……と地上に出てみたら、新しいコンクリート建ての駅ができていた。振り返ると、自分と似た姿の新幹線がすごい速さで通過していく。自分は足が速いと思っていたけど、地上にはこんなに速いものがあったのかと驚いて土から出てきて、地上のものをいろいろ観察しているというキャラクターなんです。「ウェルモ」という名前です。
本来は駅が開業した日の横断幕で役目が終わるはずだったんですが、せっかくだからと市内で継続して使ってもらうことになりました。

このごろは特に、知らない人から急に依頼をいただいたという仕事よりは、むしろ仕事相手ではなかった人との雑談などが仕事のきっかけになることが多いですね。
最近では、徳島にあるコーヒー焙煎所「アアルトコーヒー」店主の庄野さんとトークイベントを行っているんですが、これはお互い子どものころから甲斐バンドが好きだったという話で盛り上がったことがきっかけなんです。
実は先日、新潟の古民家で僕がオーナーとして自家焙煎のコーヒーショップをオープンしたのですが、これも庄野さんと出会ったことから始まりました。雪国の町家は、雪の中を歩く人のために、軒先を伸ばして連なっています。この雁木通りを残すために、気軽に楽しめるコーヒーのお店をオープンしたらいいんじゃないかと思ったんです。上越は雪国なので、お茶を飲む文化があり、受け入れられやすいんじゃないかとも思いました。この店の店主はさっきお話ししたモグラのウェルモにやってもらうことにしました。
──最後に、pixivのユーザーに向けて、メッセージをお願いします。
イラストレーターは資格のいらない仕事で、仕事がもらえればもうプロなので、デザイナーや編集者のほうが偉いと考えて、その人たちに気を遣って「言う通りのものを作らなきゃ」「変なことを言うと切られる」という気持ちになってしまいがちです。これはpixivのユーザーにも共通する話だと思います。
でも、僕自身たくさんの仕事をしてあらためて、絵を描くことって本当に大変なことなんだと実感しています。0から1を生み出すクリエイターはすごい存在です。だからこそ、創作物を生み出す人には、あんまり他人に媚びて欲しくないと思います。「本当はこういう物を作りたいけど、この人に仕事で使ってもらいたいから、こう作ろう」と媚びてしまうと、それはクリエイティビティとは違ってしまいます。
「仕事をもらえるようにこういうのを描いてたらいいよね」と考える経験は、意外と僕にはそんなになかったんです。仮にpixivのように自分の作品を公開する場で、仕事を得るために10個作品を作るとして、5つは使ってもらえそうなもの、5つは自分の好きなものを作ってみると、意外に自分が好きで描いたものの方が評価を受けたり、仕事につながったりすることもあると思います。
仕事先の人との立場はあくまで対等でいいし、一緒に作品を作る仲間だと考えて、クリエイティブな立場から見て自分がいいと思ったことを言った方がいい。新しいものを作り出す時には、常に対等にという意識をその場のみんなが持ってくれた方が、クリエイティブで面白いものが生まれると思います。
──ありがとうございました!