よくぞこんなエロいことを思いついた!「オメガバース」/カレー沢薫のpixivタグ検隊

文/カレー沢薫
「今回はいよいよ…“オメガバース”でお願いします」
担当からの依頼メールに書かれていた文言である。一体何がいよいよなのか。
しかし、わざわざ三点リーダを入れるあたり、相当いよいよに違いない。
おそらくBLに造詣が深い方には「いよいよかよ……」なのだろう。
だが、BL弱者な私にとっては「名前程度は知っている」ぐらいのジャンルである。
以前、腐の者である友人に「最近“オメガバース”なるものがあってね」という説明は受けたことがある。
しかし、私の主戦場はBLではない。私にとって男女カプが米なら、BLはマティーニについてるオリーブみたいなものである。
よって、そのときも「海外で生まれた文化」「男が子どもを産める」ぐらいの認識に留まった。
男が子どもを産める時点で多少一大事な気もするが、BLにおいて男の出産は「よくある」とは言わないが「ありかなしかで言えば、ある」の部類である。
「オメガバース」は、ただ男が妊娠出産をするだけでなく、もっと細かい設定があるようだ。
友人に聞いたときは「知ったところで、俺あんまりマティーニ飲まねえしな」と聞き流していたが、これを機に改めてオメガバースについて学んでみよう。
第二の性であるアルファ、ベータ、オメガ
ピクシブ百科事典によると「オメガバース」は簡単に言うと「狼の群れの階級社会 + 両性具有の要素が合わさった設定 」だそうだ。
オタク以外には全く簡単じゃない説明な気がするが、これで「『言葉』でなく『心』で何となく理解できた!」とペッシ顔になってしまうのが俺たちである。
まず「オメガバース」の世界には男と女以外に「アルファ(α)」「ベータ(β)」「オメガ(Ω)」という第二の性がある。
「アルファ」は、身体能力や知力が高いエリート体質の支配者階級、簡単に言うと「攻め様」だ。
対して「オメガ」は、弱くてバカというわけではないが、まずオメガは性別を問わずに子どもが産める身体であり、さらに定期的に「発情期(ヒート)」という現象が起こるという。
発情期になるとオメガは強い脱力感と性欲に襲われる上、アルファやベータを惹きつけ発情させるフェロモンをまき散らす。
つまりドスケベなドスケベホイホイになってしまうのだ。
このフェロモンの前では、主食がiPadというようなクールなアルファでも、トイレットペーパーを渡された3歳児のように、欲求を抑えられないらしい。
つまり、オメガはサークルクラッシャーなうえ、発情中はまともに働くこともできないので、社会から冷遇されている場合が多い。
最後のベータだが、最も数が多く、アルファみたいな能力があったり、オメガのように発情期や繁殖機能があるわけでもない、その他大勢、つまり俺たちだ。
よって、主なオメガバース創作では「アルファ」と「オメガ」を軸に話は進む。
「ベータしか出ない」となったら、もはやオメガバースですらない。
氷帝の応援団しか出ないテニスの王子様のようなものだ。
BLだけではなく百合、異性愛にも
また「アルファ」と「オメガ」には「番(つがい)」というシステムがある。
「番」になると「オメガ」はフェロモンを発さなくなったり、発情期そのものがなくなったりするそうだ。
特に番の契約があるわけではなく、本能的に番は成立し、基本的にどちらかが死ぬまで解除されないという、婚姻よりもさらに強くロマンチックな関係となっている。
他にもいろいろ設定はあるようだが、大体これが「オメガバース」の概要である。
よくぞこんなエロいことを思いついた。
BLに関しては日本ほどの先進国はないと思ったが、オメガバースについては「遅れをとった」としか言いようがない。
だが、オメガバースはBLだけのための世界観というわけではない。
「アルファ女性」「オメガ女性」というのも存在するのだ。
この場合「アルファ女性」は、「オメガ男性」が「孕む男」なのに対し「孕ませる女」という能力を持っている。
つまり百合展開も大いにあり得るし、アルファ女がオメガ男を孕ませるという、女攻め好きとしては思わず「ガタッ」となることも可能だ。
しかし、現在オメガバースを扱った創作はBLが多いようだ。
オメガバースの利点
オメガバースの良いところは、同性カップリングでも「家族もの」が出来るという点だろうか。
結婚して子供を産み育てるのが人間の幸せ、などと言ったら大炎上待ったなしな世の中だが、それでも幸せの形の一つであることは否めない。
「じゃあ何か、俺様の推しカプが、そういう幸せ手に入れちゃダメってか? 二人とも男ってだけで!?」という憤りを感じている人にとっては「同性同士で結婚出産が当たり前」なオメガバースの世界観はありがたいものなのかもしれない。
しかし「オメガバース」で検索してみると「5872件」と、そこまで件数は多くない。
BL好きの中でも男が妊娠するというのはさすがに好みが別れるところなのかもしれない。
それに「オメガバース」は、カースト社会、発情期に苦しめられるオメガや、豹変するアルファなど、割とシリアス向きな設定のため「ほのぼの家族BL」とは逆に相性が悪い感じもする。
よって、わざわざ「オメガバース」という難しい設定を使わずに「俺は何の断りもなしに、攻めと受けに子供を作って、幸せに暮らさせるぜ!」と、いう人もいると思う。
確かに二次創作というのは「○○しないと出られない部屋」や「ここがセックスランドか……」の一言で説明を終えることが珍しくない世界である。
オメガバースというのは、ただ同性推しカプに子供を産ませたいというだけでなく、その世界観ゆえのストーリーを作りたい、見たいというタイプ向けかもしれない。


- カレー沢 薫
- 1982年生まれ。無職。著作は『クレムリン』(講談社)、『負ける技術』(講談社)、『ブスの本懐』(太田出版)など多数。趣味はエゴサーチ。