『けものフレンズ』などのデザインワークを手がけてきた株式会社Y'sの考えるデザインとは

プロジェクトの世界観とマッチした『けものフレンズ』のロゴはどういうアプローチから生まれたのか。株式会社Y'sが考えるデザインとはどういうものなのか。コンテンツに寄り添うデザインとそれを生みだせるようになる教育について、代表の米田龍平さんに前後編にわたりお話を伺いました。
後編では、デザインに対する指導方法や、同社に所属する若手デザイナーの方々にお話をお伺いいたしました。
■デザイナーには、誰でもなれる
─社内のデザインの指導はどのように行っているのでしょうか?

米田龍平(以下、米田さん):まず前提として、誰でもデザイナーになれると僕は思っています。なぜなら僕のような美大でもない、絵も描けない、特別知識が多いわけでもない平凡な人間でもデザイナーで食べていけるからです。
だからこそ、好きなジャンルのデザイナーになってご飯が食べれるようになるための方法は説明できる気がしたんです。
─具体的にはどのようにして教えているのでしょうか?
米田:まず社内でデザインの授業をしっかりと行います。僕が大切にしているのは「デザインに対するアプローチの徹底」で「どういう考え方でこういうデザインになった」ということを徹底的に考えさせています。
例えば、デザインを作る上で一番言ってはいけない言葉というのも決めてあるんですよ。
米田:正解は、「なんとなく」です。
「『なんとなく』こうしてみました」とか「『なんとなく』この色にしてみました」など、僕に対するプレゼンでその回答があった時にはやり直しをさせています。
僕も嫌われたくはないですからね(笑)。
─そうすることで「自分がどうして怒られているのかわからない」という状況を避けることができますね。学ぶ側としてこれはありがたい。
米田:そうすると、自分自身がどの段階にいて、何ができていないかを理解することができ、自分の頭で理解し、行動できるようになるんです。おそらく、僕自身が10年かかって学んだことを今の子たちは3年間でできるようになっていると思います。
そうなればあとは放っておいてもレベルアップしますし、どんどんいろんなタイトルを経験して場数を踏んでいくだけです。
■イメージを抽出するためには、コンテンツになりきる

米田:そのコンテンツになりきる感覚というか、コンテンツに入り込むという方法があると思います。
例えば『けものフレンズ』を例にすると、はじめにサーバルのイラストがあって、これは「サーバルという動物が女の子に擬人化している」と認識できます。
そこに設定やアニメーションがついてきたときに、サーバルの気持ちになり、この子ならどんなものが好きなんだろうとか、どんな世界が成立するかを考えながらデザインを組んでいくんです。
『けものフレンズ』はカラフルな色づかいというものを見たときに、楽しそう、賑やか、キャラクターがたくさんいるというイメージなので、輝度や彩度の低い色は使わないようになります。
米田:前編の繰り返しになってしまうんですけど、そのデザイン対象を見た人が、ちゃんと感情移入できるのかどうかが一番重要だと思っているので、デザインを考えているというよりかは感情移入させるためには何を用いるべきかを考えていると言った方が正しいかもしれません。
米田:僕がデザインをやり始めた頃は、なにもわからなかったので、結局は「自分がもしそこにいたら」って考えるしかないんですよね。
自分のフィールドに持ってきてデザインしたものにユーザーが反応してくれたほうが気持ち良いんじゃないのかという意識はあったんですけど、僕たちよりも先人のデザイナーがやっているような、コンテンツを引っぱり寄せて、コンテンツの魅力も自分たちのワザも出し切るみたいな偉業は無理だなって思ったんです。
なのでデザインの参考資料を見つける時も、自分たちからいろいろと提案するのではなくて、クライアントさんが導き出した言葉や感情に対して、ヒントという名の資料をそこに寄せられるかを考えています。言い換えると、クライアントさんや企画した人が持ち合わせているものを、どれだけ引っ張ってこれるかということですね。
─自身の好みと求められている需要を切り離して考えることができるかが、デザインとアートの違いであるとも感じました。
■好きな作品の制作に関われるたのしさ

中村葵(以下、中村):よろしくお願いします。
大澤力也(以下、大澤):お願いします。
─入社してからの年数と、今までに担当してきた作品とを教えて下さい。
中村:入社は4年目です。一番最近アートディレクションを担当した作品は『天使の3P!』で、作品のロゴデザインからパッケージデザインをトータルで担当させていただきました。
他には『チア男子!!』のロゴ、パッケージ、ポスターデザイン、webサイト、コミックスの表紙を、『ライルと槍』や『キョウト彩奪ギャングスタア』のアートディレクションを担当しました。『チア男子!!』の最初だけは米田もロゴデザインを担当していたんですけど、パッケージ周りやコミックスは私がほぼ1人でやっています。
大澤:僕は入社して3年目になります。『僕の彼女がマジメ過ぎるしょびっちな件』のwebサイトの制作を担当させていただいて、宣伝物やパッケージも引き続き制作する予定です。コミックスの方では『ガーリッシュナンバー修羅』や『アイドル事変』の装丁を担当しています。
─デザインする上で心がけていることはありますか?
中村:弊社はエンタメ系のデザインが多いので、広告物でも元々ファンがいるものを扱うことが多いんです。なので私は「この作品はファンにとってどういうものが求められていて、どういうデザインをすることでファンに響くデザインになるのか」という気持ちでユーザー目線を大事にしたデザインを心がけています。
大澤:やはりターゲットがいるものなので、僕も中村と同じような考えをしています。ありがたいことにこういった作品は自分もターゲット層であることも多いので、自分が欲しいモノという考え方でデザインができる面もあります。
─なるほど、自分だったらこういうデザインや雰囲気のモノが欲しいなという捉え方ですね。
大澤:今回紹介させてもらっている作品に関してはそうですね。もちろん自分がターゲットではない作品もあるので、そういった場合にはユーザーの気持ちに立ってどういうデザインが求められているのかを中心に考えています。
─お二人とも入社する前からデザインには触れていたんでしょうか?
中村:もうほとんどわかってなかったですね(笑)。専門学校ではものづくりの基礎などを学んでいたんですけど、入社して始めてデザインをロジカルに考える方法に触れて、作品を通して勉強させていただきました。
大澤:僕は専門学校でデザインをやっていたんですけど、デザインに対する考え方はほとんど触れていなくて。イラストレーターやフォトショップといったツールの使い方を学んだだけです。なので、入社した当時はデザインに関する知識というものはほとんどなかったと思います。
─となるとお二人ともデザインに関してはほぼまっさらな状態から、5年も経たずにこうしたデザインを担当できるまでになったんですね。
大澤:やっぱり初期の頃と見比べると自分でも多いに成長できたなと思いますね。
中村:私の場合はイラスト作画の前の段階から自分でイラストラフを描いて発注を提案させていただいてるんですけど、たとえば『チア男子!!』は2巻で完結なのでそれぞれの表紙を並べると拳がくっつくようにしてみたりと、仕掛けから考えることがあります。
パッケージデザインについても構図の手描きラフイラストを企画書にしてクライアントに提案することがあります。自分が考えた“キャラクターの魅力”がファンに届いた時に「やっぱりこのキャラはこうだよね」みたいな気持ちになってもらえるのが嬉しいです。SNSなどで評価されているものを目にすると特に嬉しいですね。
大澤:僕は細かいところにこだわるのが好きで、たとえば原作ファンなどが「これってあの時のあれじゃない?」というような気付きを入れられるといいなと思っています。

大澤:『僕の彼女がマジメ過ぎるしょびっちな件』のwebサイトでは、細かいパーツを原作から引いてたものがあるんです。パッと見はなんだかわからなくても、原作を知っているとそこに気付いて、ニヤリとできるようなものがあれば面白いかなと思っています。

中村:ロゴとパッケージだとキーワード選定が私の中では少し違うので、パッケージの方をお話させていただきます。パッケージはてぃんくる先生のイラストを使うのが決定した時点で、淡くて可愛らしいキラキラしたイラストが上がってくることを想定しました。
なので「ふわふわ」、「キラキラ」といった抽象的なキーワードを出しておいて、そこにてぃんくる先生が描く小学生の可愛らしさが引き立つように構想を練りました。

中村:そうですね……。すごく現実的なところでいうと「社内コンペで社長に勝つ」ですね(笑)。まだコンペで社長に勝ったことがないので、ここ一年以内には勝てるように成長したいなと思います。
大澤:僕は中村よりも一年後に入ったのでまだ経験している作品の数が圧倒的に少ないんですね。なので今後はアートディレクションで入れるような作品を増やしていって、『天使の3P!』のようにロゴや世界観づくりから入れるような案件に関われるといいなと思います。
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