はあちゅうさん直伝!小説を「読まれるチャットストーリー」にリライトする5つのポイント

取材・文/近藤世菜 編集/佐久間仁美
小説でもブログでもない、新たな表現方法としてじわじわ人気を集めている「チャットストーリー」。LINEやメッセンジャーのように、スマホ画面の左右から吹き出しが飛び出すスタイルで、セリフだけで物語が展開していきます。
創作好きのpixivユーザーや、普段から小説を投稿している人なら、画期的なスタイルの表現方法に一度は挑戦してみるのも面白そうですよね! まずは、すでに書き上がっている作品をリライトしてみるのがよさそうですが、書き慣れていない分、何から始めていいかわからない……という方も多いそうです。
そこで、Twitterのフォロワー数16万人以上を誇る はあちゅうさんが、チャットストーリーの執筆に初挑戦! 短編集『通りすがりのあなた』に収録されている『六本木のネバーランド』をリライトしてくれたんです。
そしてさらに、はあちゅうさんが実際に書いてみてわかった、小説を「読まれるチャットストーリー」にリライトするためのポイントを教えてもらうことができました! これからチャットストーリーの執筆に挑戦してみたい人は、ぜひ参考にしてくださいね。
1. 数分で読み終わる長さにする
これまで、チャットストーリー自体、あまり読んだことがなかったというはあちゅうさん。執筆にあたって、まずは「pixiv chatstory」で公開されている作品に目を通したそうです。

執筆の前に、いくつか人気のチャットストーリーを読んでみたんです。そうしたら数分で読み終わるものばかりで。だから、私の作品を最後まで読み切ってもらうには、大幅にカットする必要があるなと考えました。だからもとの小説にあった心理描写や情景描写はほとんどカットしています。会話も物語の進展に関係のない部分は削るようにしました。
小説版『六本木のネバーランド』は30ページほどのボリュームがありますが、チャットストーリー版は約6分で読み切れる15ページのみ。読み比べてみると、かなり大胆にカットしているのがわかります。
実際「pixiv chatstory」の人気作品のなかには数十秒で読み切れるような作品も多いので、小説からリライトする際には大幅にカットするつもりでいた方がよさそうです。
2. 登場人物は5人以内に絞る
大幅なカットを前提にチャットストーリーの執筆に取り掛かった、はあちゅうさん。最初に行ったのは登場人物のあぶり出しだったと言います。

チャットストーリーでは登場人物が多すぎると、どれが誰の発言かわからなくなって、サクサク読み進めることができなくなってしまうんです。普段、グループラインやグループチャットをしている感覚だと、5人が限界なんじゃないかと思います。

はじめ、登場人物は主人公のみゆきと、みゆきに部屋を貸す森さんのふたりだけにしようと考えました。でもそうすると、セリフがどうしても説明的になってしまって、不自然だったんです。そこで、みゆきの友だちである美咲は、そのまま登場させることにしました。


▲ チャットストーリー版『六本木のネバーランド』の一部。登場するのはここに表示されているみゆきと美咲、そして森さんだけにしぼられています。
たしかに、ドラマやマンガでも、あまりに説明的なセリフが出てくると、少し白けてしまうことがあります。リライトをするときは、話が混乱せず、かつ説明的にならないよう、最適な人数を探るのが重要なポイントになりそうです。
3. タップのリズムを崩さない
そして実際に執筆を進めていくとき、はあちゅうさんがもっとも意識したのは「タップのリズムを崩さない」ことだったと言います。

ペラペラとページをめくっていく代わりに、チャットストーリーではタップをすることで話が進んでいきます。そしてこの指の動きが物語への没入感につながると思ったんです。だから指を動かすリズムを崩さないよう、細かく改行するよう意識しました。

▲ 実際にタップしながら読み進めてみると、心地よいテンポを刻んでいました。
はあちゅうさんによると、少しでも長い文章が入ってくると、それだけでリズムが崩れて没入感が薄れてしまうとか。小説を書くときよりも、ラインやチャットで友だちにメッセージを送る感覚の方が近いのかもしれません。
4. 人物の設定はシンプルに
はあちゅうさんは作品のなかで「人は環境によって作られる」という自身の考えを表現することが多いと言います。というのも、自分がどんな人間に見えるかは、場所や環境、相手によってまったく異なるということを実感してきたから。ただ、チャットストーリーには登場人物の人間性を深掘りするのは向かない、と感じたそうです。

小説は登場人物の心情や関係性の描写を細かく行うことで、物語がより深みを増しますが、チャットストーリーの特性にはあまりマッチしないよう。リライトするときには、小説ならではの”うまみ”は潔く捨て、チャットストーリーならではのリズムのよさやサクサク感を重視するのがよさそうです。
5. 機能を活用して展開を作る
小説とはまったく異なる表現方法が求められるチャットストーリー。さまざまな制限があるなかでも、読者を惹きつけるためにはどんな工夫ができるのでしょうか。

場面転換や背景色の変化など、機能に助けられている部分が少なからずありました。『六本木のネバーランド』では、メールのやりとりの画面で背景の色を変えています。今後、背景に画像を入れられる機能が実装されたりしたら、また表現の幅が広がるんじゃないかと思います。


▲ メールのやりとりは、普段の会話のシーンより暗い背景色になっています。
今後、機能が拡充されるたびに、また違った表現方法が確立されるかもしれません。とはいえ、はあちゅうさんは「チャットストーリーの魅力であるシンプルさを維持するために、ただ、やみくもに機能を増やせばいいわけではない」とも語っていました。今後「pixiv chatstory」のなかでどんな表現方法が確立されていくのか、期待が高まります!
リライトは自分の作品を見つめ直すきっかけになる
ここで、はあちゅうさんに実際にチャットストーリーを執筆してみた感想を聞いてみました!


心理描写や情景描写をごっそりカットしたので、物語の余韻をどう残すかというところに苦労しました。会話を工夫してリズムよく進めていくことで、短いなかにも余韻を感じられる書き方ができたんじゃないなかな、と思います。小説のリライトではなく、一からチャットストーリーを創作するなら、ひとりの登場人物の独白という形で書いてみたいです。
── はあちゅうさんの創作のアイデアはどんなところから生まれているんですか?

日々起こることをメモとして残しています。未来のために素材集めをしている感覚です。今は自分の料理の腕が追いつかなくても、いつか形にすることができるかもしれないので。実は『六本木のネバーランド』も、私の大学時代の経験がもとになっているんですよ。

── ありがとうございました!
はあちゅうさん書き下ろし『六本木のネバーランド』が公開中!

はあちゅうさんが書き下ろしてくれたチャットストーリー版『六本木のネバーランド』は「pixiv chatstory」アプリ内で公開中です。 小説のリライトの参考として目を通してみてはいかがでしょうか? 作品を読んで浮かんだイメージをイラストとしてpixivに投稿してみるのも楽しそうですね。
チャットストーリーを読んで興味がわいたら、小説版が収録されている『通りすがりのあなた』もぜひチェックしてみてくださいね!