できうる限りロジカルに。『けものフレンズ』などのデザインワークを手がけてきた株式会社Y'sの考えるデザインとは


例を挙げると、『けものフレンズ』のロゴデザインやアイコンとしても使用されている「の」のマーク、アイドルユニット「PPP(ペパプ)」のロゴなどもデザインの成果のひとつ。
そうした重要なデザインを一手に引き受けているのが、株式会社Y's(ワイズ)です。同社は『天使の3P!』のタイトルロゴやパッケージ、映画『劇場版 黒子のバスケ LAST GAME』のポスターやグッズ、また最近では『銀河英雄伝説 Die Neue These』の新ロゴおよびビジュアルワークなど担当しています。
プロジェクト世界観とマッチした『けものフレンズ』のロゴはどういうアプローチから生まれたのか、そもそも同社が考えるデザインとはどういうものなのか、コンテンツとそれを生みだせるようになる教育について、代表の米田龍平さんに前後編にわたりお話を伺いました。
文/ヤマダユウス型 編集/長谷憲
■ユーザーの感情を作品イメージに近づけるロゴデザイン

▲株式会社Y's代表 米田龍平さま
米田龍平(以下:米田):株式会社Y’sは今年で7期目を迎えます。社員は契約も入れると70名以上で、そのうち僕のようなクリエイターは10名ほど在籍しています。
設立の経緯は、元々僕は違うデザイン事務所でアニメや映画の案件をデザインしていたんですが、そこで3年ほど勉強して、失敗するなら若いうちだなと思い、独立を決心したのが設立のきっかけです。
───では早速『けものフレンズ』のデザインについてお伺いさせてください。

米田:実は『けものフレンズ』のオフィシャルガイドブックの5巻で私のインタビューが掲載されているのですが、そこでは完成までの経緯や流れなどをお話させていただいたんです。ただデザイナーやクリエイター目線の話はあまりしていなかったので、そのあたりのお話ができればと。
───ぜひお願いします!
米田:『けものフレンズ』に関しては企画の前段階、プロジェクトのデザインに関わるメンバーが数人しかいない時期からチームに入れていただきました。それこそ吉崎観音先生から上がってきたイラストと世界観しか素材がない状況で、ロゴを作りはじめることになりました。
このサーバルちゃんのかわいさを表現するにはどんなロゴがいいかをじっくり考えて、プロジェクト展開の一番はじめにゲームが制作されることが決まっていたので、ゲーム寄せなロゴを意識しつつ、後々いろんなものにも使えそうなものを作っていこうと思いました。
米田:ロゴやビジュアルもそうなんですけど、デザインをやるときの手順は大体同じだと思っていて、まずはキーワードをいくつか作るんです。これはキャラクター設定のようなもので、「いろんな動物がいる世界」、「長く愛されるシンプルなイメージ」、「あたたかい気持ちになれる」、「かわいいキャラクター」のようにして構成要素をいったん切り分けます。

米田:そしてユーザーがロゴを見た時に、そのキーワードに挙げた感情が浮かべば正解ということをゴール地点にしています。僕のデザインから生まれる感情とユーザーの感情ができるだけ近づくように寄せていくイメージで作るんです。
なので僕が感じた作りたいものを作るのではなく、吉崎先生やプロジェクト全体もこのゴールに向かっていくイメージを基にデザインを構築していきます。
───ラフ段階では丸みを帯びていたり角度がついていたりエッジーだったり、いろいろなパターンがありますね。
米田:既存のフォントやタイポから起こすロゴと、ゼロから起こすロゴにはもちろん違いがあります。この『けものフレンズ』はゼロベースで行こうと思いました。
その後、手描きラフのうち、比較的ゴールのイメージに近いなと思ったものをパソコンに落とし込んでいきます。これも最初は色を付けずに「形」だけのものを作るようにしています。
色の情報が増えることで複雑になってしまうので、最初は「形」としてイメージに近いものを探していきます。慣れてくるとはじめから色も付けることもできるんですが、「形」でダメなものは色でごまかせてしまうので。若手には「始めはモノクロでデザインしろ!」とよく言ってしまいます。
米田:『けものフレンズ』に関しては僕一人でやっていたので、そこはわりと普通に厳選をしていきます。切り口をいくつも考えているので、その切り口でひとつずつ案を残していきました。
ちなみに初めてご一緒するクライアントの時はいっぱい案を出しちゃいますね(笑)。「もしかしたらココかも、いやもしかしたら…」というのがあるので、狙い撃ちはあんまりしないようにしています。
米田:そうですね。『けものフレンズ』の場合は最終的に9案まで絞り込みました。ちなみにデザイン会社によっては、ロゴの提案で最初に3案出すところもあれば、50案出すところもあるんです。でもこれもデザインのコツの一つで、選択肢にはとても意味があると思うんです。もちろん自分が「絶対にコレだろう」と思ったら1案でも本当はいいんですよ。
でも人間そのものの性質として選択肢があると選んでくれやすくなると思うんです。実際に1案だけしか見せなかったときには、他の案を求められることが多々あります。
2案でもまだ物足りなくて、それが3案、5案くらいあるとどれかを選ぶ心理になるのではないかと思っていて、かと言ってありすぎるのもダメです。選択肢があるということは、結果的に出し戻しが減り、制作時間短縮にも繋がると思います。
米田:僕はこの段階になったら一度クライアントに見せて選んでもらいます。今回は吉崎先生が3案を選んでくれたので、それらに色付けをしていきました。その時に先生が小さい子供たちに親しまれるものを前提として、「油断しているロゴ」がいいと仰ってたんです。
ロゴに油断っていうワードがもう天才的だなと(笑)。
───となるとフォントベースのロゴでなくて正解でしたね。カッチリした明朝体やゴシック体だと、崩してもなかなか油断という域には至らなかった気がします。
米田:そこは勘が当たったなと思いましたね。色に関しては実は企画書の段階でいくつかイメージをしていて、黒一色だとはじめにキーワードで挙げた「いろんな動物」というイメージが伝わらないんです。その部分は色のカラフルさで表現するところだなと思っていました。
でもいざデザインをしてみるとどの色がどの動物かと明確にわかってしまう問題に突き当たったんです。それだと考えが限定されてしまうのがよくないなと。
───縞々がシマウマだったり、豹柄があったりというところですね。確かにそうなると直接的です。
米田:それは避けたいなと思ったので、生息地域で分けたんです。そうすると直接的な表現は避けられるし、ユーザーが想像できる幅も残せるなと思って。しかも調べてみると動物の生息地域って大きく分けて7つに区分けできる図鑑もあったんですよ。
───ちょうど『けものフレンズ』も7文字!
米田:そうなんです。でも厳密に7つの生息地域にしてしまうとこの色はこの場所にないっていうことになってしまうので、最後は日本の桜だったり、沼地の紫は『ドラゴンクエスト』の毒沼をイメージしたりして、うまく配色を合わせました。どうしてもロジカルにいかないときは調整が必要ですし、最後は感覚を信じて見た目とのバランスを重視します。

米田:そうです。『けものフレンズ』は様々に展開するプロジェクトと聞いていたので、ゲームは最初のきっかけに過ぎないと思っていたんです。この企画において吉崎先生の最終ゴールは「多くの人に動物園へ足を運んでもらいたい」だったので、そこに向かっていろいろな企画が進むし、おそらくアニメ化もするし、そうした際に今回作ったロゴが中心に展開していくのはイメージできていました。
米田:吉崎先生の考えてらっしゃることと僕の目指したゴール地点が近かったのも大きくて、いろんな人たちが関わってくると進行が遅くなってしまうこともあるんです。
このプロジェクトのロゴに関しては少人数での意思疎通ができていたので、なんの隔たりもなく辿り着けたのは運というか、好みが似ていたのもあったと思います。
───ユーザーにもそれが伝わっているのは大事なところだなと思います。実際に動物園に足を運んでいる人もいますし、動物園側からもアクションがあったりしますし。
米田:「ありそうでなかった」のも大きいかなとも思っています。カラフルなロゴって今までそんなになかった気がしていて、そこにはカラフルなものはシンプルにならないし作りにくいという固定観念のようなものがあったからなのかなぁと。
───ロゴがカラフルだとパッケージなどになったときにキャラクターイラストと干渉しかねないですし、やはりロゴといわれて連想するのは単色だったりグラデーションだったりといったものかなとは思います。『けものフレンズ』最終話だと、ロゴの白バージョンも登場していましたね、めちゃカッコいい演出で。
米田:単色バージョンも納品しているんですけど、まさかあんな使い方があったとはと僕も驚きましたね。
さて、ここで12月13日(水)に発売予定の「フレ!フレ!ベストフレンズ」のロゴの原型が出来上がるまでの制作風景の様子をお届けいたします。
動画の冒頭にあるように、コンセプトは文字で書いて、手描きのイメージを頭の中に作った後に、実際に画面に向かっているそうです。これによりかなり短い時間で制作することが可能となっているようです。
またインタビューでも語られているように、ロゴ制作においてまずしっかりとフォルムを制作し、後に着色、加工をしているのがわかると思います。オリジナルロゴの特徴を生かして、それ単体を見ても「けものフレンズのシリーズかなと」わかるように制作しているそうなので、動画にてその様子をご確認下さい。