いいものだけでも、ウケるものだけでもダメ。ポケモンのおもしろさの本質に迫る『ポケモンストーリー』 〜レジェンド本を学ぶ〜
メディア展開とあくなきマーケティング調査
次に、ゲームとして世に出たポケモンが、カードゲームやテレビアニメ、映画による海外進出など発展していくなかで、マーケティング調査をいかに重視してきたかを見ていきましょう。
先述の通り、ポケモンが発売された1996年の時点では、ゲームボーイはゲーム機としてはすでに時代遅れのものになってしまっていました。ハード自体の人気がないと、当然ソフトも売れません。
そんななか、児童誌『コロコロコミック』(以下、『コロコロ』)はかなり早い段階でポケモンの存在に注目し、特集を組んで取り上げていました。
先述の通り、ポケモンが発売された1996年の時点では、ゲームボーイはゲーム機としてはすでに時代遅れのものになってしまっていました。ハード自体の人気がないと、当然ソフトも売れません。
そんななか、児童誌『コロコロコミック』(以下、『コロコロ』)はかなり早い段階でポケモンの存在に注目し、特集を組んで取り上げていました。

▲ 畠山けんじ・久保雅一『ポケモンストーリー』(日経BP社、2000年)p.176
なぜ落ち目のハードの新作ソフトに着目したのか?
そこにはコロコロでのアンケートの結果が影響していました。
コロコロの読者である子どもたちへのアンケート調査によって、彼らが手にすることができるお年玉の平均金額をコロコロ編集部は知っていました。そして実は、その金額では、当時流行していた次世代ゲーム機とソフトを同時に買うことはできなかったのです。
一方、ゲームボーイとソフト1本は、お年玉で十分買える値段に収まります。ここから、コロコロ編集部はポケモンがヒットすることを予測し、紙面で大々的に取り上げたわけです。慧眼と言わざるを得ないですね。
そこにはコロコロでのアンケートの結果が影響していました。
コロコロの読者である子どもたちへのアンケート調査によって、彼らが手にすることができるお年玉の平均金額をコロコロ編集部は知っていました。そして実は、その金額では、当時流行していた次世代ゲーム機とソフトを同時に買うことはできなかったのです。
一方、ゲームボーイとソフト1本は、お年玉で十分買える値段に収まります。ここから、コロコロ編集部はポケモンがヒットすることを予測し、紙面で大々的に取り上げたわけです。慧眼と言わざるを得ないですね。
幻のポケモンが新作展開にもたらした影響
ファンの間では有名な話ですが、初代ポケモンには本来実装されていなかった幻のポケモン「ミュウ」がいます。

▲ 畠山けんじ・久保雅一『ポケモンストーリー』(日経BP社、2000年)p.197
ミュウはプログラマーがお遊びで入れた隠しキャラクターで、通常ゲームをプレイする上では出てくることのないポケモンでした。
ところが開発者も予想し得なかった操作を行った際、まれにミュウが表示されてしまうことがあったのです。そして子どもたちの間で「ミュウってなんだ?」「どうやったら会えるんだ?」と、まさに幻の存在として噂されていました。
任天堂も知らなかったキャラクターが実装されているということで普通なら問題になるところを、田尻氏の発案で「ミュウを子供たちにプレゼントしてみよう」ということになったのです。
そこで応募はがきの抽選により、20名限定でミュウをプレゼントするという旨をコロコロ誌上で告知しました。
当初、雑誌の発行部数から5000通くらいの応募を想定していたそうですが、実際には予想をはるかに上回る7万8000通の応募があったとか。このときコロコロ編集部はポケモン人気のすさまじさを感じたそうです
ミュウの一件はコロコロ編集部にとっても予想外の出来事でしたが、このことからポケモンのプレイヤーとコロコロの読者層が重複していることがわかりました。そこで今度は編集部の提案で初代ポケモン3つ目のカートリッジになる『ポケットモンスター 青』を、コロコロ関連雑誌の通販限定で発売することにしました。
ところが開発者も予想し得なかった操作を行った際、まれにミュウが表示されてしまうことがあったのです。そして子どもたちの間で「ミュウってなんだ?」「どうやったら会えるんだ?」と、まさに幻の存在として噂されていました。
任天堂も知らなかったキャラクターが実装されているということで普通なら問題になるところを、田尻氏の発案で「ミュウを子供たちにプレゼントしてみよう」ということになったのです。
そこで応募はがきの抽選により、20名限定でミュウをプレゼントするという旨をコロコロ誌上で告知しました。
当初、雑誌の発行部数から5000通くらいの応募を想定していたそうですが、実際には予想をはるかに上回る7万8000通の応募があったとか。このときコロコロ編集部はポケモン人気のすさまじさを感じたそうです
ミュウの一件はコロコロ編集部にとっても予想外の出来事でしたが、このことからポケモンのプレイヤーとコロコロの読者層が重複していることがわかりました。そこで今度は編集部の提案で初代ポケモン3つ目のカートリッジになる『ポケットモンスター 青』を、コロコロ関連雑誌の通販限定で発売することにしました。

▲ 『ポケットモンスター 青』(任天堂、1999年)
こちらも「よくて30万本」という予想を大きく上回り、なんと60万本も売れたんだとか。
これらの成功は、コロコロ編集部がアンケートや誌上企画によってポケモンユーザーと向き合ったことで生まれたもの。これも広い意味でのマーケティング調査の成果と言えるでしょう。
これらの成功は、コロコロ編集部がアンケートや誌上企画によってポケモンユーザーと向き合ったことで生まれたもの。これも広い意味でのマーケティング調査の成果と言えるでしょう。
メディア展開にどのポケモンを選ぶか
1996年10月に発売になったトレーディングカードゲーム『ポケットモンスターカードゲーム』。そのヒットの背景にも、コロコロ編集部のアンケート調査がありました。

▲ 畠山けんじ・久保雅一『ポケモンストーリー』(日経BP社、2000年)p.239
ポケモンカードの認知が広まったのは、コロコロに「プリン」「ピカチュウ」の2枚のカードを付録にしたことがきっかけ。そして、この2匹は誌上アンケートでの人気のトップ2だったことから選ばれました。
当時、ゲームボーイの画面はモノクロだったので、鮮やかな色のついたポケモンカードは子どもたちにとって、とても価値のあるものだったはずです。その証拠に、発売後3年半で累計出荷数42億5500万枚(日米合算)を記録するヒット商品になりました。
2016年現在も好評放送中のテレビアニメ版も、コロコロ編集部の主導で任天堂に提案されたものでした。
テレビアニメ版で主人公サトシのパートナーとして絶大な人気を誇っているピカチュウですが、なぜゲーム版の最初のパートナー、ゼニガメ・ヒトカゲ・フシギダネの3匹を差し置いて抜擢されたのかというと、先述の通り誌上の人気投票で1位だったからという理由です。
また、ゼニガメ・ヒトカゲ・フシギダネの3匹のうちのどれかにすると他の2匹を選んだ子がかわいそうだから、という理由もあったとか。
当時、ゲームボーイの画面はモノクロだったので、鮮やかな色のついたポケモンカードは子どもたちにとって、とても価値のあるものだったはずです。その証拠に、発売後3年半で累計出荷数42億5500万枚(日米合算)を記録するヒット商品になりました。
2016年現在も好評放送中のテレビアニメ版も、コロコロ編集部の主導で任天堂に提案されたものでした。
テレビアニメ版で主人公サトシのパートナーとして絶大な人気を誇っているピカチュウですが、なぜゲーム版の最初のパートナー、ゼニガメ・ヒトカゲ・フシギダネの3匹を差し置いて抜擢されたのかというと、先述の通り誌上の人気投票で1位だったからという理由です。
また、ゼニガメ・ヒトカゲ・フシギダネの3匹のうちのどれかにすると他の2匹を選んだ子がかわいそうだから、という理由もあったとか。

▲ 畠山けんじ・久保雅一『ポケモンストーリー』(日経BP社、2000年)p.332
また、アニメやゲームを海外展開する際も、日本の子供がポケモンの人物やキャラの名前から受けた印象を、海外の子どもたちにも同じように楽しんでもらえるよう、ピカチュウを除くかなりのキャラクターの名前をローカライズしたそうです。英語だけでなく中国語やドイツ語など、5000種類にも及ぶ名前を日本のスタッフによって改めて設定したんだとか。
以上のように、ポケモンのさまざまなメディアへの展開は、アンケートや人気投票によって「ユーザーがよろこぶのはどんなものなのか」をその都度調べ、それを反映しながら進めていったことが分かります。
単にキャラクターのビジュアルや雰囲気をそのまま流用すればいい、というものではないのです。
ポケモンの世界がゲームの枠を飛び越えさまざまなメディアに広がっていった背景には、徹底的なマーケティング調査の力がありました。
以上のように、ポケモンのさまざまなメディアへの展開は、アンケートや人気投票によって「ユーザーがよろこぶのはどんなものなのか」をその都度調べ、それを反映しながら進めていったことが分かります。
単にキャラクターのビジュアルや雰囲気をそのまま流用すればいい、というものではないのです。
ポケモンの世界がゲームの枠を飛び越えさまざまなメディアに広がっていった背景には、徹底的なマーケティング調査の力がありました。
「いいものを作る」だけでも「ウケるものを作る」だけでもダメ
▲「ピカチュウ公式Instagram」より。今や世界中の誰もが知っている4匹のポケモンたち
以上のように、ポケモンヒットの秘訣は「基本コンセプトを貫いたこと」「マーケティング調査をもとに次の展開の施策を行ったこと」の2点だったと言えます。
言い換えれば、前者は「いいものを作るためのコツ」、後者は「ウケるものを作るためのコツ」。ポケモンはそのどちらかではなく、両方に尽力したからこそ、20年間愛され続けるタイトルになったのではないでしょうか。どちらか一方でも今のような世界を股にかけるポケモン人気は実現しなかったはずです。
このマインドはイラストや漫画など他のクリエイティブにも通じるものなので、創作の際にぜひ参考にしてみてください。
また、今回は上記2点に注目して紹介しましたが、本書では他にもゲームの歴史や任天堂の歴史、ポケモンショックにどう対応しどう切り抜けたか、ライツ管理や海外展開の際の工夫など、さまざまな側面に言及した興味深い読み物になっています。
ポケモンが好きな人はもちろん、クリエイティブの成功例を知りたい人、コンテンツビジネスを学びたい人も、ぜひ手に取ってみてください。
言い換えれば、前者は「いいものを作るためのコツ」、後者は「ウケるものを作るためのコツ」。ポケモンはそのどちらかではなく、両方に尽力したからこそ、20年間愛され続けるタイトルになったのではないでしょうか。どちらか一方でも今のような世界を股にかけるポケモン人気は実現しなかったはずです。
このマインドはイラストや漫画など他のクリエイティブにも通じるものなので、創作の際にぜひ参考にしてみてください。
また、今回は上記2点に注目して紹介しましたが、本書では他にもゲームの歴史や任天堂の歴史、ポケモンショックにどう対応しどう切り抜けたか、ライツ管理や海外展開の際の工夫など、さまざまな側面に言及した興味深い読み物になっています。
ポケモンが好きな人はもちろん、クリエイティブの成功例を知りたい人、コンテンツビジネスを学びたい人も、ぜひ手に取ってみてください。