最近、公式と解釈違い。そんなときは「わからない」とやりすごす/カレー沢薫の創作相談

最近、公式と解釈違いです
「 LOVE PHANTOM」という「 B'z」の往年の名曲があります。
あなたが令和を生きる創作者だった場合、以下何を言っているのかさっぱりになると思うので5分ほど米津玄師かあいみょんでも聞いてから戻ってきてください。
私にはもう、若者が聞いてそうな歌手の例がこれであっているのかどうかさえわかりません。
その中に「少しのズレも許せないせこい人間になっていた」「自分の中に万能の君の幻を作っていた」という歌詞があります。
これはおそらく、三次元の恋人などに対する想いを描いたラブソングだと思うのですが、見ようによっては、自分の中の推し像がガチガチになりすぎて、他全てが解釈違い、何だったら公式すら許せなくなってきた限界オタクの苦悩を表している、と言えなくもありません。
私事ですが、最近「Uさん」という方が作成されているホラー系ミステリ動画にはまりまして、その中に出てくる「Kさん」という声だけで登場してくるキャラクターに対し妄想が捗っていたのですが、先日作者からKさんの公式イメージと設定が発表されてしまいました。
それが私の想像とは違っていたため「私が思っていたのと違う、Kさんは肩幅が3メートルぐらいあるべきだ」と悲しみのお気持ちを吐露したところ、同情はしてもらえましたが、「公式が解釈違い(笑)の人だ」というようなことも言われてしまいました。
そう言われて「確かにそうだ、どう考えても公式の方が正しい」とハッとする一方で、「それでもKさんには肩幅が3メートルであってほしい」という悲しみも消えることはありませんでした。
二次創作である以上、正解は公式であり「間違っているのは自分の方」「勝手に夢を見て裏切られた気持ちになっているだけ」という「自責の念」に苦しみますし、その苦悩を吐露したところで客観的に見れば「出~! 公式解釈違奴~ww」でしかないないため、一人で抱え込むしかないのが辛いところです。
ですが解釈違いとまでいかなくても「推しに対する違和感」というのは誰もがブチあたる壁であり、四半世紀安定して推し続けた推しにすら「新しい髪型がどうしても許容できない、ラーメンマンかよ」といウォールマリアが突然立ちはだかってくるのが推し活という魔境です。
「好きじゃない」ではなく「わからない」
しかし、そんな違和感をやりすごし同じ推しを何十年と推し続けている人はたくさんいます。
あなたも「一生推す」という腹が決まっているなら、離婚する気はないくせに旦那の悪口をドリンクバー12杯分語る他人の時間強盗のように、最近の推しの気に入らないところばかりではなく、好きな部分に目を向けるようにしましょう。
とは言っても、ゼロ距離にいる推しの今日かけてきたグラサンがダサいことを気にするなと言っても無理があり、どうしても「それ外してくれねえかな」と考えてしまうものです。
よって、推しに感じている違和感に対し、まず「言い方」を変えて見ましょう。
現在あなたは最近の推しに対し「今の推しは何か『違う』」「この推しの言動は『好きじゃない』」などネガティブな言葉を使ってしまっていないでしょうか。
それらの言葉を「わからない」に置き換えましょう。
「わからない」というのは悪いことでもないし、否定の言葉でもありません。
推しに対してはもちろん、それを出して来た公式や、現在の推しが好きな人を否定していることにもなりません。そして当然、最近の推しの言動が理解できないあなたが悪いわけでもないのです。
文系の人間が量子力学について長考することがあまりないように、一度「わからない」と諦めてしまえば、それに対して思考する時間は減っていきます。
そして「わからないことに対しては黙っておくのが最善」なので、理解できない推しの一面についていちいち言及する気もなくなっていくのではないでしょうか。
長く付き合うなら「やりすごす」
しかし、推しについて考えないのも語らないのも苦痛でしょうから、ここはひとつ得意分野である「自分の推しの好きなところ」について、熟考し、創作という形で饒舌に語ってみてはいかがでしょうか。
ついでに「三章からの推しは解釈違い」というのではなく「二章の第3節突然服がはじけ飛んだ時の推しが一番好き」など、できるだけ「好き」の方に目が行く表現を心がけましょう。
現実の交際でも、相手の良いところだけ見えている確変期を過ぎ、相手の変化や予期せぬ一面を見てしまい「こいつ何か違うんじゃねえか」という違和感の方にばかり気を取られ、好きだったところまで霞んでしまう時期があります。
その難所をどう乗り越えるかというと、正直にその旨を伝え「改善してもらう」という手もあるにはありますが、推しに対して「改善してもらう」のは、公式のビルに籠城して自分の解釈通りに描かせるというミザリーのババアムーブをするしかないので現実的ではありません。
おそらく「そういう面も受け入れる」というのがベストなのでしょうが、現実では相手の許容しがたい面への対処は「諦める」「目をつぶる」という「なあなあの着地」がほとんどであり、そのまま完全決着することなく数十年の時が経ち、どっちかが死にます。
しかし「こいつの全裸放屁癖は死ぬまで好きになれなかったが、トータルでやっぱ好きだった」という四捨五入勝利ができていれば、それは良い関係だったと言えるでしょう。
あなたもたまに推しの好きと思えない一面が出てきても、否定も受け入れもせず「諦める」、または「でも顔が死ぬほどいいしな」と好きな部分で相殺するなど「トータルでプラスなら良い」という精神でいきましょう。
夢女子として推しと死ぬまで添い遂げるのですから、イチイチ壁を乗り越えていたら身が持ちません。
長く付き合うなら「やりすごす」という方法を体得しましょう。
公式ストーリーを追うのもおっくうになってきているということなので、あえて今はスキップして読む気になったときに読むのでも良いと思います。
腹が減ってないときに「出されたからには食わねば」という義務感だけで食う義実家のおはぎが美味いわけはなく高確率で胃もたれするように、今の荒れた胃で見てもさらに腹を壊すだけのような気がします。
「公式の供給」というのは良くも悪くも「重い」ので、ラップに包んで冷凍し「今の推しへの気持ちを消化し終わってから食べる」ぐらいで良いのではないでしょうか。
今は胃を回復させるため、アーカイブで「安心して見れるかつての推し」というおかゆを食べて安静にしてください。

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私は1年前からとあるアプリゲームにハマり、以降そのジャンルで夢創作をしている字書きです。
しかし、メインストやイベストを読むにつれて推しの言動に違和感を抱くようになりました。いわゆる公式と解釈違いになってしまっています。
当然ゲーム世界でも時間は進んでいますし、ストーリーを重ねるごとに関係性が変わっていくことは仕方ありません。ただ、最近は私の推しの距離が近すぎて、推しが明らかに匂わせな台詞を言うと「初期のツンツンな感じがよかったな」とか「この子とこういう関係になりたいわけじゃないな」という思いが日に日に強くなり、筆が進まなくなることがあります。
近頃は公式ストを見ることもおっくうになってきました。
私は推しには一生かけて推したいですし、「推しは幸せになってほしい、いやむしろ私が幸せにしてあげたい」と思って創作を続けてきました。そして、これからも続けていきたいと思っています。しかし、原作との解釈違いに頭が痛いです。このような場合、どうやったらモチベーションを保ちながら、臨めばよいのでしょうか?