「作風は決めたほうがいい?」それは“あなたのファン”ができてから/カレー沢薫の創作相談

読者のために作風を決めたほうがいい?
最近はプロだけではなく、アマチュア、さらに二次創作者でも自分の武器とか、マーケティングを考えているから恐れ入ります。
趣味なんだから好きなもん書きゃいいじゃねえかよと思わなくもないですが、例え金は発生しなくても、創作物を世に出すというのは、読んだり褒めたりしてくれる読者の取り合いに参戦するということです。
ある意味金よりも大事な、承認欲求と自己肯定感の奪い合いであり、そこにプロもアマありません。
つまり、ここに相談してくる奴も全員俺の敵です。今後はどんな相談にも「まず両腕の腱を切れ」しか言いません。
「反応とか気にせず好きな物描けばいいじゃん」などとヌルいことを言って、戦場にお気にのジェラピケで参戦するような奴ほど「書いても反応もらえなくてしんどい……」などとつぶやいて戦線を離脱していくものです。
もちろんそのつぶやきすら「2いいね」であり、引き留める者などいません。
書きたいものを書くのが一番ですが、創作者にとって作品を読んでもらえない反応がもらえないというのは、善意で炊き出しに持って行った豚汁がフルシカトされるぐらい辛く、豚汁がトラウマになりかねません。
逆に豚汁を巡って流血沙汰、機動隊出動ともなれば「今度はもっとたくさん作ろう!」という気になるでしょう。
つまり、好きなものを嫌いにならず、より楽しく長く書くためにも反応は必要であり、反応を奪い合う戦場で戦える「自分の武器」を見つけることは大事です。
創作をする以上、作風は一生迷う
しかし、私も作家になってから十数年、今まで様々なものを書いてきましたが未だに自分が何を書いたら良いのかわかりませんし「これや」と掴んだ武器が馬糞なことも日常茶飯事です。
つまり、この相談自体、十年以上樹海で迷っている奴に「出口どこっすか?」と聞いているようなものです。
ですが正直この樹海から脱出できた者の方が少数派なのではないでしょうか。
るろうに剣心の大ヒットの後、和月先生がまた同じような剣客ものを描いたかというとそう
ではありませんし、「次はあの蝶の仮面のやつ」とか言う奴はこの世界の厳しさをわかっていません。
自分の武器を見つけて無双した作家ですら、ある程度したらまた新しい武器を求めて樹海をさまよい、時に馬糞を掴むのが創作界というものであり「犬」というエクスカリバーで樹海を両断できる高橋よしひろ先生みたいな人の方がレアなのです。
よって、まず「創作という樹海に入ったのが運の尽き」と諦めてください、創作をする以上一生迷うと思った方がいいです。
もしあなたが、ハマる作風を見つけて、その方向で人気を得たとしても、書き続けるうちにいつか下降が来ます。
さらに二次創作は原作に人気が左右されやすく、原作の終了で読者が減ることもありますし、自分がそのジャンルを離れたくなるときもあるでしょう。
そのときはまた違う樹海で新しい武器探しです。せっかくなら寄り道してもいい
しかし、そうやって武器を求めてさまよい歩くのも創作の楽しみの一つと言えなくもないです。
安定感のある武器で書けばそこそこ数字はでるでしょうが、思いがけずバズるということも少なくなり、逆に「いつもよりいいねが少ない気がする」のような、小さな錆が気になりだしてくるものです。
対していろんな武器に挑戦しているときは常に「もしかしたらこれがクリティカルヒットするかもしれない」という期待感や「いつも日常モノを書いている僕がR18Gを出したらあの子どんな顔をするだろう」ドキドキ感が楽しめます。
あなたの場合、まだ突出した作風が見つかっていないということなので、もう少し武器探しの冒険を楽しんでみてはどうでしょうか。
むしろ、もっと合う武器があるのに「とりあえず読者に解釈を任せる系メリバでいくか」と妥協してしまうとまだ見ぬ聖剣との出会いを逃す危険さえあります。
そもそも「オールラウンダー」というのも立派な武器ですし、特に現代は「玉数が多い」というのはかなり強い武器であり、一発バズった後に音沙汰がないアカウントよりも、ひとつひとつはそんなにバズってなくても、いろんな作品を高頻度で投下しているアカウントの方がフォロワー数は多かったりするものです。
せっかく色んな作風で書けるなら、方向性を定めて的を狭くするより「5発撃てば1発は当たる」という今流行りのグランドクソエイムの方が、読者が増えるのではないかと思いますし、数を撃っている内に「これや」というキメ球が見つかるかもしれません。
「こっちでいいのか?」と疑いながら歩くのは心もとないので、方向を決めて直進したいというのもわかりますが、せっかく創作という一生遊べるドン!な脱出ゲームに入場したのですから、いろいろ寄り道してみても良いのではないでしょうか。
読者は天下の回りもの
作風がコロコロ変わることに読者が戸惑うことを心配しているようですが、確かに今の作風に5億人読者がついているなら現在の読者を大切にした方がいいと思います。しかしそうでもないうちに作風を固定してしまうと先細りになる可能性の方が高いです。
それに、既存読者のために同じ作風で書き続けても、いつか「いつも同じで飽きた」と言って離脱する読者が現れるものです。
作風を大胆チェンジしたら文句を言うし、同じ物を書き続けても苦言を呈す、読者というのは人間の分際でおキャット様のように気まぐれですが、読者も作者が気まぐれでつけた推しキャラの設定に情緒を破壊されたりするのでお互い様と言えるでしょう。
それに、方向性が定まらないのも極めれば「作風ヤリマン」として界隈に名が轟くかもしれませんし、あらゆるジャンルと作風で作品を量産しているのにどれも大してバズらず、よく見たら全然上達もしていないのに全く心折れずに書き続けているという「姿勢」にファンがつくこともありますので、今はいろいろたくさん、そして「継続」して書き続けることをお勧めします。
しかしそれで人気が出たら今度は「あいつは人気が出てから日和りだした」と言って去る読者が出てくるでしょう。
このように、何をしても離れるときは離れるのが読者です。
よって「こんなの出したら読者が離れるかも」と考えること自体無駄だったりします。
それに「日常ほのぼの書きがお出しする突然のリョナ」に去る読者はいるでしょうが、逆に「おっやってんね!」と暖簾をくぐってくる新規客も現れるものです。
読者は天下の回りものであり、書き続けさえすれば、去る読者がいても新しく来る読者はいますので、今はいろんなものをたくさん書いていきましょう。
そして回転させているうちに、何を書き、どんな逆流を起こしても岩にこびりついて離れないフジツボみたいな読者が現れるかもしれません。
それが「あなたのファン」です。
「方向性を定めて今いる読者を大切にする」のはそういうフジツボが現れてからでも良いのではないでしょうか。

私の創作の悩みは「方向性が定まらないこと」です。
私は字書きなのですが、何か1つの主義主張やこだわりのあるタイプではなく、わりとギャグでもラブコメでもシリアスでも死ネタでも、「自分が読めるネタなら書ける」タイプです。
私自身は「書きたいものを書く」というスタイルで一貫しているつもりなのですが、私の作品のどれかを気に入ってフォローしてくださった方の側からすると、「前回と全然雰囲気違う!」と戸惑われるのではないか、という不安は常にあります。
書いた作品のいいね数にもかなりバラつきがあるのですが、正直各作品の反応を見比べても、一体何が私の得意分野なのかわかりません。
何か1つに方向性を絞ったほうが、安定的に反応をもらえるのではないかと思うのですが、カレー沢さんのご意見を伺いたいです。