WEBTOONの未来は「リッチ化・IPの参入・ニッチ化」? WEBTOON制作会社 LOCKER ROOMインタビュー【ウェブトゥーン入門】

ライター/直江あき

WEBTOONには新たな表現技法を開拓できる余地がある
── LOCKER ROOMさんが通常のマンガ制作ではなく、WEBTOON制作を選んだのはなぜですか?
朝岡:WEBTOONは発展途上のマーケットだからこそ、若くて熱意がある少数のメンバーで、ヒットコンテンツが作れるかもしれないと思ったからです。日本には『週刊少年ジャンプ』など、マンガ界のメジャーリーグといえる最高峰のものがすでにあるわけです。僕らみたいな小さい会社が参入しても、世界を取れる望みはあまりありません。けれどもWEBTOONなら世界を目指せる可能性があると思いました。
『SPY×FAMILY』のように、海外ではアニメから大ヒットになるケースが非常に多いです。アニメと同様に、WEBTOONも全編デジタルでフルカラーという特徴を持っているので、海外に受け入れられやすいと思っています。
── 制作者として、WEBTOONにどんな魅力を感じていますか?
朝岡:まだ開拓されていない表現があることが、制作側としての一番の魅力ですね。見開きはマンガにおける発明で、手塚治虫先生をはじめとする先駆者がいろいろな発明や技を重ねてきて、今のマンガがあります。
タテに読んでいくWEBTOONでは、コマとコマの間が離れてスクロールする距離が長くなると、それだけ時間が経ったことを表します。今までの見開きマンガには存在しなかった表現です。これから、まだ誰も使っていないWEBTOONならではの表現技法を発明できると思うと楽しみですね。
コマを割るのではなく、縦にスクロールすることで、場面が切り替わる
(『逆行令嬢の復讐計画』©︎沢野いずみ / SORAJIMA)
── 新たな表現を開拓できるのは、作り手としてはワクワクしますね。
── 夢が膨らみますね。WEBTOONで試してみたい表現はありますか?
WEBTOONと相性が悪いのはグルメマンガ⁉︎
── WEBTOONの縦にスクロールして読む形式と、相性のいい題材もあれば、悪い題材もありそうですね。
朝岡:そうですね。一般的にスポーツものは横の動きが多いので、縦読みとは相性が悪いと言われています。WEBTOONは上から下にスワイプしていくので、たとえばサッカーマンガだったら、足元にあるボールよりも顔が先に見えてしまうため、読みにくくなってしまいます。
他には、グルメマンガもWEBTOONにしづらいと言われていますね。美味しそうな食べ物が大事なのに、顔が先に来て、次に湯気が来て、最後に食べ物という順番になってしまう。ただこれから、新たな表現が発明されれば、ヒットするグルメマンガも出てくるかもしれませんね。
── 逆に、縦読みと相性がいいジャンルはありますか?
朝岡:ホラーは相性がよさそうです。スワイプすると恐ろしい展開が待っているホラーは、お化け屋敷を進むようなドキドキが味わえると思います。また、ファンタジー系も相性がいいですね。魔法を縦からバーッと落としたり、剣を振り下ろしたりする演出は、横よりも縦の方が描きやすいですから。
赤い糸にそって台詞を読みながらスクロールしていくと、糸の先は左手の薬指に絡み付いている。作中での婚約の恐ろしさを表現。
(『逆行令嬢の復讐計画』©︎沢野いずみ / SORAJIMA)
── WEBTOONはフルカラーのものが多いので、ファンタジーは映えそうですね。
朝岡:稲妻がバチバチと光るようなエフェクトや効果もカラーだと映えますね。一方で、僕は最近、WEBTOONは白黒でもいいんじゃないかなと思っています。白黒には白黒のよさがあるんですよ。たしかにファンタジー系のようにビジュアルが重要な作品はカラーの方がいいと思うんです。でも、知能戦や復讐ものなど、人のおどろおどろしい暗い感じを出すには、白黒の方が雰囲気が出るんじゃないかと思っています。Netflixドラマ『地獄が呼んでいる』の原作である韓国のWEBTOON作品『地獄』は白黒ですが、映像化もされています。

白黒のWEBTOONの例(©LOCKER ROOM)
朝岡:また、カラーはとてもコストがかかるので、コンテンツ量が増えないんですよね。着色に1週間ぐらいかかってしまうんです。白黒の方が、作品を出すペースも早くなるので、読者のもっと読みたいという期待に応えられるんじゃないかと。WEBTOON作品は今はカラーが多いですが、色をどうするかもまだ未知なる世界なので、いろいろ試してみたいですね。
業界の願いは「日本発のヒット作品を!」
── 大手出版社の参入など、外側から見ると活況なWEBTOONの世界ですが、実際に制作されている方々から、業界はどんな風に見えているのでしょうか?
朝岡:今は市場の黎明期で、いろんな人が参入してきているというのが率直な印象です。
業界の人は仲がいいですね。同業のソラジマさん、taskeyさん、コピンコミュニケーションズジャパンさん、フーモアさんなど、みんな歳も近いですし、お互い「今何作ってるの?」「どういうふうにやってるの?」と情報交換し合っています。
── 互いにバチバチっていうわけじゃなく、みんなで業界を盛り上げていく姿勢なんですね。
朝岡:みんなで仲良くっていうより、「誰か当ててくれ!」って感じですね。日本発のヒット作品が生まれた方が業界としても盛り上がるので、他社のことも応援しています。このまま日本の企業が成功しなければ、クリエイターが韓国など世界の企業に取られてしまうという危機感はありますね。
原稿料や印税、WEBTOON業界のお金の話
── WEBTOON業界は出版社と違い、原稿料を公開しているところが多いですよね。
朝岡:僕たちWEBTOON制作会社は選ぶ側ではなく、クリエイターさんに選ばれる側だと思っています。だからできるだけフェアにしたくて、原稿料も公開しています。
── すごくいいことだなと感じます。原稿料も会社によって結構違いがあるんですね。LOCKER ROOMさんは少し高めの設定ですよね。
朝岡:たくさんの作品を抱えている会社さんもありますが、弊社は気合を入れた数本だけを作るやり方なので、その分原稿料を少し高めに設定しています。
── マンガだと、原稿料のほかにコミックス化したときの印税がありますが、WEBTOONにも印税はあるのでしょうか?
朝岡:印税は、アプリプラットフォームの売上から計上しています。ただ、印税率も会社やアプリのプラットフォームによって違いますし、印税を払っていない会社も中にはあるので、一概には言えません。印税を払わない代わりに原稿料を高くしているケースもあります。
── 業界全体として統一していく動きはありますか?
朝岡:今はまだないですね。成熟産業になったら、統一基準が生まれてくるんだと思います。
例えば、ソーシャルゲームのガチャは、なぜか3000円と決まっていますよね。このように、10年くらい経てばベースとなるものが出来上がっていくと思います。「一定以上の金額を払わないと採用できない」とか「印税条件を書いていないと採用できない」みたいなルールもできるかもしれません。基準値からずらすことで差別化を図る動きも出てきそうですね。
── LOCKER ROOMさんは印税を払っているんですね。
朝岡:払いますね。僕は会社として成功するのと同じぐらいクリエイターさんの市場価値を高めることも大切にしたいと思っています。
── クリエイターさんの市場価値を高めるために、ほかにはどのようなことをされているのでしょうか?
朝岡:クリエイターさんの名前をクレジットに載せることを積極的にやっていきたいと思っています。企業側からすると、名前を出すことで他社に引き抜かれてしまうかもしれないので痛い部分もあるのですが、クリエイターさんにとっては次の仕事に繋がる方がいいですからね。そこはクリエイターさんが気持ちよく働けることを重視していきたいと思っています。

── 名前が出るのはクリエイターさんにとって大事なことですよね。
朝岡:たとえばコンシューマーゲームだと、映画と同じようにエンドロールでスタッフの名前が出ますが、スマホゲームは関わってくれた人の名前があまり出ないんですよ。権利関係で言えないときもありますが、弊社の作品に携わってくれている人の名前は全て出していきたいですし、LOCKER ROOMで仕事をしたことを、経歴にも書いていただきたいと思っています。それでクリエイターさんの次の仕事に繋がったらいいなと。
僕らの会社ではなく、別の会社からお声がかかって、そちらで仕事をするといったケースもあるかもしれませんが、その時は会社の魅力不足だったり、僕らの努力不足だったりなので、仕方ないかなと思っています。
リッチ化、IPの参入、ニッチ化……スマホゲームで起きた進化がWEBTOONにも?
── 今後、WEBTOON業界はどのようになると思いますか?
朝岡:「リッチ化」「IPの参入」「ニッチ化」が今後のWEBTOON業界の流れとして発生すると思います。
僕はゲーム業界にいたので、ゲームを例に挙げると、スマホゲームでは「怪盗ロワイヤル」が大ヒットした後、似たゲームがたくさん作られました。それから「神撃のバハムート」という、イラストにお金をかけたゲームが出たんですよ。当時は「美麗イラスト」と言われていました。これが「リッチ化」ですね。
それに対して、既存のゲームとシステムは近いけれど、ガンダムやジャニーズなど、すでに人気のあるIPで作られたゲームが出てきました。「IPの参入」です。
そして最後に生まれたのが、サイバードさんやボルテージさんの女性向け恋愛ノベルゲームです。「ニッチ化」の流れとして捉えられると思います。
WEBTOONも、基本的にはリッチ化、IPの参入、ニッチ化という流れになると思います。WEBTOONに音をつけたいという話をしましたが、それもリッチ化ですね。
── WEBTOONにおけるIPの参入とは、具体的にはどんなことでしょうか。
朝岡:既存の人気コンテンツが、WEBTOON業界に参入するということですね。
韓国でBTSがWEBTOON化されているように、有名人を起用するようになると思います。また、『ドラゴンボール』のような有名作品がWEBTOON化したら良いですね。なろう系で有名な小説も、これからはマンガ化ではなく先にWEBTOON化する流れもあるかなと思っています。弊社も作っていますが、人気ゲームタイトルのWEBTOON化も主流になると思っています。書店でのマーケティングだけではなく、アプリ経由でマーケティングできるなどの利点も大きいです。── LOCKER ROOMさんは、これからどんな展望を持っていますか。
朝岡:熱量のある若い仲間たちを集めて、一部にはめちゃくちゃハマる、ニッチな作品を作り、グローバルヒットを目指しています。1〜2年で短期的に勝負しようと思っているわけではなく、WEBTOONの世界で、5年後、10年後を見据えて、制作を続けていければと思っています。

── ニッチジャンルでグローバルヒットを狙うのは、難しそうにも感じますが……。
朝岡:今人気のジャンルには、異世界転生もの、ダンジョン・レベルアップもの、悪役令嬢ものがあります。またジャンルとは別に、「成り上がり」や「復讐」といったコンテンツの要素があると、読者に気持ちのよいマンガ体験を届けられます。
ジャンルとしては王道でなくても、コンテンツの要素として今の読者が求めているものを提供できれば、ヒットに繋がるのではないかと思っています。
僕が作っている不良ヤンキーマンガもWEBTOONとしてはニッチ寄りといえそうですが、ヤンキーマンガで有名な『週刊少年チャンピオン』も20万部発行されてます。僕はヤンキーや裏社会などのジャンルに、刺さるコンテンツ要素を組み合わせて、ヒットを狙いたいと思っています。
今はまだ国内向けにしか展開できていませんが、これからは東アジアを中心に海外展開をしていくつもりです。まずは来年、中国や韓国で作品公開をしていく予定です。
── 朝岡さん、ありがとうございました!
クリエイター大募集中!
現在LOCKER ROOMさんでは、一緒にWEBTOONを作成してくれるクリエイターを募集しています。
【募集職種】
・イラストレーター(線画)
・ウェブトゥーンデザイナー(ネーム)
・ペインター(着彩)
・バックオフィス(採用メイン)
特にアートディレクター、イラストレーター(線画)、ペインター(着彩)は採用を拡大中だそう。興味を持たれた方はぜひHPをご覧ください。
LOCKER ROOMの情報をもっと知りたい人は?
代表の朝岡さんのTwitter、LOCKER ROOMのnoteでも情報を発信しています。あわせてご覧ください。
記事中で紹介した作品はこちら
『逆行令嬢の復讐計画』©︎沢野いずみ/SORAJIMAは、comicoにて連載中です。
ソラジマのHPはこちら。
投票で人気だった作品は連載化!? THE NEXT WEBTOON PROJECT Vol. 1 結果発表
2022年7月の「THE NEXT WEBTOON PROJECT Vol. 1 」では、ピクシブと株式会社LOCKER ROOMが共同制作した9作品のオリジナルWEBTOONをpixivコミック上で公開し、「続きが気になる」作品へ投票をしていただきました。
集計の結果、上位3作品は以下の結果となりました。
1位『欺きの王』
見事に1位を獲得した「欺きの王」は、pixivコミックにてフルカラー3話掲載予定です! たくさんのご投票ありがとうございました。
※投票は終了していますが、作品は引き続き読めますので、ぜひサイトをご覧ください。