「流行りの絵を描くのが楽しくない」のは好みじゃないから/カレー沢薫の創作相談

流行りの絵柄を描けるようになりたいが、楽しくない
どうせ絵を描くならたくさんの人に見てもらいたいし、あわよくば褒められたい。
手取り早く人の注目を集めるには流行りのジャンルで今風の絵を描く、もしくは今すぐトラックに轢かれて神絵師に転生するのが一番の近道。
しかし、流行りが秒速で入れ替わり、昨日タピオカを静脈に打ってた奴が今日はヤクルト1000を動脈に打ち、昨日の敵が今日は隣で寝ているし何故か俺のケツが痛い。
その目まぐるしさは絵柄も例外ではなく、マスターした頃には既に時代遅れになっている上に癖がなかなか抜けず、永遠に元デュエルマスターであることがバレる絵を描き続けることになりかねない。
そもそも流行り以前に何かを模倣しようとするのはどうなのか、もっとオリジナリティを追求した、ナンバーワンかつオンリーワンな自分だけの絵柄を確立すべきなのではないか。
このように「描きだす前の御託が異常に長くなかなか手を動かさない」というのが、典型的絵が上手くならないやつの特徴なので気をつけましょう。
特にあなたは「絵を描かずに私にメールを送る」という、もはや「何としてでも絵を描きたくない」としか思えない行動をとっているので、まずは本当に絵を描きたいのか、本当はクラブで踊ったりする方が好きなのではないか、自問するところから始めましょう。
実際絵を描くのが面倒になってきているようですが、絵を描くというのはSMみたいなもので、鞭でしばかれば痛いし、蝋燭を垂らされれば熱い、だがそれを超える快感を感じる、という人が愛好者になるのです。
絵を描くという行為も、線一本から人物はもちろん背景まで全部手で描け、という冷静に考えればただの拷問、控えめに言っても面倒臭く、その面倒臭さを超える楽しさがなければわざわざそんな特殊プレイをする必要はないのです。
現在、絵を描く楽しさや意欲より面倒臭さの方が先に立っているのなら、無理に描かなくても良いような気がします。
絵だけでなく「気乗りしないときはやらない」というのは、趣味を長く楽しく続けるコツだと思います。
おそらくSMの人だって「今日はボールギャグの気分じゃない」という時にはプレイしていないと思います、と言いたいところですが「気分じゃない時に咬まされるボールギャグこそが至高」という考え方かもしれないので、あの業界は奥が深いです。
流行りを追うより上達を目指す
絵のアップデートと楽しさの追求に関してですが、俺たちが人生を「クソゲー」と評するように、人は自分が上手くできないことを「つまらない」と感じる傾向があります。
絵もいつまでたっても下手くそのままでは楽しくなく、下手だとお母さんとか以外には褒められず、ますます楽しくなくなってきます。
逆に上手く描ければ出来栄えに満足できるし、さらに他人からも褒められ、絵を描くのがますます楽しくなっていくはずです。
よって、むしろ楽しさを追求するために絵のアップデート、つまり上達を考えて描いた方が良いということです。
上達するにはとにかく描き続けることです。
そう言いたいところですが、私は漫画家としてデビューしてから10年以上毎日絵を描いているはずなのですが、大して上手くなってません。
「描けば上達する」という神話を自らぶっ壊してしまい悲しい気持ちでいっぱいです。
ただ、全く上手くなってないかというと、編集を唸らせる下手からどこにでもいる下手ぐらいにはなっていると思うので、今の絵だったら逆にデビューできなかった気もします。
つまり、描き続けることで上手くなる、というのも嘘ではないのですが、10年以上描いているにしてはあんまり上達していないのです。
スポーツだって、ただがむしゃらに練習し道具にはこだわらない、スポ根弘法大師の時代は終わり、いかに効率の良い練習をし、いかに最先端の道具を使うかが重要になってきています。
絵も同様であり、正しい練習をしなければどれだけ描いてもそれほど上達しないのです。
私があまり上達しなかったのは、まず才能という如何ともし難いやつがあるのですが、それに加えて、目標が常に「締め切りに間に合わせること」であり「上手くなろう」という向上心が全くなかったせいだと思います。
これでは「今の自分に描ける絵」しか描かないので、どれだけ描いても大して上手くなりません。
上手くなろうと思ったら「こういう感じの絵が描けるようになりたい」という目標を持つことが大事です。
そういう意味では「流行りの絵を描けるようにする」という目標を持つことは良いことなのですが、そのせいで「絵を描くのすら面倒臭い」という、最も上達しない状態に陥ってしまっています。
楽しくないと描き続けられない
何故そうなるかというと、おそらくその流行りの絵とやらがあなたの「好みじゃない」せいではないでしょうか。
本当に絵が上手くなりたければ、石膏デッサンとかから始めた方が良いのでしょうが、それだと「楽しくない」ので「描き続けられない」という、これまた絵が上達しない典型状態になってしまいます。
趣味で絵を描く場合「楽しさ」というのは最重要であり、練習するにも推しの絵、もしくはブルータスを推しにした方が、描き続けることができ、結果的に基礎からやるより上手くなる場合もあります。
おそらくあなたは、その流行りの絵がそこまで好きではないので練習しててもそんなに楽しくなく、何より「その絵を描けるようになった自分」にワクワクしていないので「描けるようになったところで流行りが終わっているし」という、「痩せてもヤセギスブスになるだけ」とダイエットを始めないデブマインドになってしまっているのではないでしょうか。
よって、流行りの絵ではなく、一旦pixivを巡回して自分好みの絵、そして「こういう絵を描ける自分、推せる」と思える絵を練習してみてはどうでしょうか。
例えその絵が古臭い絵柄で、タイトルが「鳥獣戯画」だったとしても、自分がその絵に魅力を感じたなら「絵の魅力は絵柄の新旧に比例しない」という証明にもなります。
私も子供のときから、流行りではなく「こういう絵を描けるようになりたい」という動機で様々な作家の絵を真似てきましたが、現在「あの先生の影響受けてるよね」と言われたことは一度もありません。
絵柄を真似てマスターできるというのは大きな才能です。
ぜひその才能を活かし、流行りの絵が描ける自分ではなく「推せる自分」になっていただきたいと思います。

いつも楽しく拝読させていただいています。自分はしがない底辺絵描きです。底辺なりに成長しようと、流行りの絵柄・描き方をチェックしているのですが、練習してその絵柄・描き方を自分の絵に落とし込めるようになった時にはもう既に別の絵柄・描き方が流行っていたりします。流行りの絵柄はやっぱり魅力的だし古臭い絵になりたくないので追いかけたいのですが、趣味だし自分の描きたいように楽しく描くべきでは……? という考えも時折頭をかすめます。絵のアップデートと楽しさの追求、どうバランスをとったらいいのかわからず絵を描くこと自体面倒になってしまうこともあります。この本末転倒、どうしたらいいのかお答え聞かせていただけたら嬉しいです