「同じカプの描き手を増やすには?」創作を求めるならギブが必要/カレー沢薫の創作相談

文/カレー沢 薫
同じカプの描き手を増やすにはどうしたらいい?
何年か前、マイナーCP唯一の描き手として活動していた頃、投稿作品に必ず反応してくれるロム専の方がおられました。
「描きたいものはすべて描いた」という気持ちになるとともに勢いも落ち着き、そのCPからは足を洗ったのですが、最近になって、そのロム専の方が描く側に転向していたことを知りました。私以降二次創作者が現れなかったために、自給自足を決意されたようでした。
仲間(何かを作る側)が増えていたことに何となく嬉しくなりましたが、当時の心細さや「あの人はどんなハロウインを見せてくれるだろうか」とかワクワクしてみたかった……というような思いも共に湧いて来て中々複雑な気持ちになりました。
今回のような兵糧攻め以外だと、人はどんなきっかけで二次創作を始めるのでしょうか。
クリスマスやバレンタイン、あの人もきっも頑張って作業しているのだから……と思える相手を増やすために何ができるかを一緒に考えていただけないでしょうか。よろしくお願いいたします。
自分の力のみで創れる「魔法」
自給自足の生活、と言ってもラーメンを原料から全て自分で賄えるのはTOKIOぐらいなもので、世の自給自足を謳う人たちも、野菜や家畜を売ったお金でamazonするなどどこかで外注を挟んでいるものです。
口から完成形のラーメンを吐ける、100歩譲ってもケツからラーメンをヒリ出せない限りは真の自給自足とは言えないでしょう。
しかし、魔法でも使えない限りはそんなこと無理ですし、仮に使えたとしてももっとマシな魔法を使いたい、トラックに轢かれた先によくいる女神にこのスキルを授けられたら別スキルを与えられるまで持久戦もやむなしです。
ですが「創作」というのはそんな魔法に近いような気がします。
何せ頭さえあれば、何の道具もなく自分が見たい物語を最初から最後まで自分の力のみで作り出すことができるのです。
そして紙とペン、ちょっと小金があればiPadひとつでそれを形にして人に見せることも可能なのですから、人間ができる行為の中で最も魔法に近いのではないかと思います。
さらに現在ではそれを家族やクラスメートだけではなく、全世界の人に見せることも可能なのです。
そんなわけで私含む現中年創作オタたちは「中学生の頃ネットがなくて本当によかった」と心の底から胸をなで下ろしております。
進化した文明が人間を滅ぼすというのは決してSFの世界の話ではありません。
自我を持ったAIが人間を殺しに来るのはもう少し先かもしれませんが、中学生の時ネットに載せたまま忘れていた夢小説に成人後殺されるという未来は既に現実になってきています。
pixiv投稿にしろSNSでの発言にしろ、ネットに何かを発信するという行為がカジュアルになりすぎていますが、それは未来の自分を殺しに来る可能性があるのでもっと慎重になるべきでしょう。
他人が描いた推しからしか摂れない栄養素がある
話はそれましたが、創作とは真の意味での自給自足であり、元手もほぼいらず、自分の力だけで自分の見たかったものが見れるかもしれないという、魔法かつ夢のような話なのです。
しかしどれだけ素晴らしい作品を生み出したとしても、自分はそれが己の口やケツから出てきたものであると知っているのです。
食おうと思えば食えますが、できることなら他人が皿に載せて運んできてくれる料理を食いたいと思うのが人情でしょう。
また自給自足作品では、とりあえず腹は膨れ餓死は免れますが「栄養」が圧倒的に足りていないのです。
「他人が描いた推しからしか摂れない栄養素がある」
という名言があるように、創作における自給自足の食べ物にはビタミンとか重要な栄養素が全く含まれておらず、何だったら炭水化物100%なので食えば食うほど色も体型も餓鬼みたいになってきます。
やはり健康な創作活動には他人の作品は不可欠であり、そのためには拉致監禁や恐喝以外の方法で他人に描いてもらうしかありません。
自分と同じ沼に沈める「布教」も簡単なことではありませんが、創作までさせるとなるとさらにハードルが高いです。
また前回の回答でも書きましたが、創作というのはリビドーの現れでもあるので、自分の推し作品や推しキャラを見た相手がモナリザに出会ったときの吉良吉影状態になることを祈るしかなかったりもします。
しかし前回の相談でこの世には「特定の誰かを喜ばすために作品を描く人がいる」とわかったのも大きな収穫でありヒントです。
つまり自分が「この人を喜ばせたい」と思われる人間になれば、相手は自分の推しジャンルや推しキャラの創作を始め、それがきっかけでそのジャンルの創作クラスタになるという可能性はあります。
他人に自分の推しを描いてもらう方法
ではどうすればそういう人間になれるかというと、人に喜ばせられたいならまず人を喜ばせる必要があるのではないでしょうか。
そもそも、他人に自分の推しを描いてほしいというのは、ギブアンドテイクのテイクであり、テイクだけしようとする人間はテイカーと呼ばれ、嫌われます。
創作をする人間ならわかると思いますが、創作というのは無から有を生み出す魔法ではありますが、技術や時間、何より労力がかかる、端的に言うとクソ面倒くさい行為なのです。
テイカーのためにそんなクソ面倒くさいことをする気になるわけがありませんし、何だったらそいつが薦めるものすら敬遠してしまいます。
相手に創作というクソだる行為をテイクするなら先にそれに見合うギブを与える必要があります。
創作者がなぜそんなクソ面倒なことを自発的にしているかというと、そういう面倒なことが好きというただのマゾも多いのですが、創作することは苦しいが完成したときのカタルシス、何よりそれを他人に褒められるのが嬉しいという人も多いです。
自分の推しを描いてほしいと思ったらその「褒め」を前払いしましょう。
創作をやっている人なら、その人の描いているものをまず褒める、知らないジャンルの作品を描いていたらその作品のことを調べてでも褒めましょう。
自分の推しジャンルに興味を持って欲しければ、相手の推しにも興味を持つのが礼儀でしょう。
もし書いてない人であれば「あなたはキャラのことをよく理解しているから、創作をしたらすごく良いものが書けそう」とか、最悪「オーラがハンパない」など岡田あーみん方式でいいのでとにかくまずは相手を良い気分にさせましょう。
そうすれば、相手は「いつも褒めてくれるこの人が喜んでくれるものを描きたい」もしくは「あの娘ぼくが推しを描いたらどんな顔をするだろう(多分死ぬ)」という岡村ちゃん的猫を殺すタイプの好奇心が芽生えてくれる可能性があります。
もちろんおキャット様を殺してはダメですが、人間ならOKです。
ともかく「描いてほしい」と思うなら、まず相手にそれに見合う何かを与えることが大事なのではないでしょうか。
逆に無邪気にタダでいきなり「FF外から失礼します。○○さんの描く××見たいです!」と言ってくる人間ほど創作者に嫌われるものはないので気をつけましょう。

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