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イラストレーターとして生き残る秘訣とは?クリエイター前田浩孝さんロングインタビュー
イラストの制作環境やおすすめのテクニック
──前田さんは完全にデジタル環境ですか?
そうです。パソコンで絵を描き始めたのは20歳ごろですが、フィニッシュまで完全にデジタルでやるようになったのは、先ほど話したエニックスの仕事をやるようになった24歳のときでした。それまでは下絵をスキャンして、描いたものをケント紙にプリントアウトし、パステルとかで色をつけたり、テクスチャを乗っけたりしてから、またスキャンしてデータにするっていうスタイルでしたね。当時のソフトウェアはPainterを使ってました。今はSAIが多いです。
──液晶ペンタブレットを使ってらっしゃいますが、導入したきっかけは?
もともとアナログ絵描きだったので、ずっと直に描きたいと思っていたときに、ちょうど液晶ペンタブレット(Cintiq 21UX)が発売されたんです。これ! って、深く考えずに買いました。『VitaminX』の初めからもう使っていたと思います。
前田さんの作業環境



──すぐに使いこなせました?
ペン先とガラスの厚みとの差など最初は慣れなかったですが、やりづらいと感じたことはなかったと思います。あと液晶ペンタブレットにしたもう一つの理由に、自分は腕が長いんで、大きく描きたかったというのがありました。昔、抽象画を描いていたころは、でかいキャンバスの横にバケツを置いて、筆も使わずナイフや手でそのまま描いていたんですよ。細かい作業が嫌!っていう。今、CGでは細かい作業ばかりですけど(笑)。
──絵を描くときは、どこから描きますか?
僕は『VitaminX』をやるまで、CGでは「線画」の概念がなかったんです。まず色を置いていって、色彩設計とかシルエットなどを決めて、かなり描き進んでから必要ならば線を入れる、という形でやっていました。だから『VitaminX』も最初はそのやり方だったんですが、これだと物量をこなせないって話になって、線画をある程度作成してから塗るやり方を身につけました。
──絵を描く上で苦手なことはありますか?
特にないかなと思います。ただ3Dにずっと関わっていたので、パースがきっちりしたイラストを描くのはなるべく避けたいと思っていました。曖昧さを入れておきたいというか……。
でも、アニメの仕事をやっていると、アニメはパースの概念が非常に大事な業界だなと気付かされるんですよね。地面を歩かさなきゃいけないし、背景もパースがかっちりとしているので、そこにキャラを乗せようと思うと基本概念みたいな話なんでしょうけど。僕はアニメ絵のディレクションもやっているので、ラフ状態から見ているのですが、やはりその辺りめちゃくちゃ上手いんですよね。正直、そういう絵を描きたくはなってきています。同じイラストカテゴリーではありますが、制作される過程も、必要とされるスキルも違いますし、自分の絵の考え方とは別物だなと思わされることがよくあります。
でも、アニメの仕事をやっていると、アニメはパースの概念が非常に大事な業界だなと気付かされるんですよね。地面を歩かさなきゃいけないし、背景もパースがかっちりとしているので、そこにキャラを乗せようと思うと基本概念みたいな話なんでしょうけど。僕はアニメ絵のディレクションもやっているので、ラフ状態から見ているのですが、やはりその辺りめちゃくちゃ上手いんですよね。正直、そういう絵を描きたくはなってきています。同じイラストカテゴリーではありますが、制作される過程も、必要とされるスキルも違いますし、自分の絵の考え方とは別物だなと思わされることがよくあります。
──オススメのテクニックなどはありますか?
没入して描くのも大事ですが、自分の絵を効果的に客観視できる方法をいくつか持っておいたほうがいいかなと思います。
たとえば、自分が目指したい方向性を扱っている雑誌に、自分の絵をはさんで見てみるとか。僕は『VitaminX』のときにやっていました。今の時代なら、ホームページをキャプチャして自分の絵を貼ってみて、そこに並んでいるプロの絵と比べてみるとか。
それと、目の前の仕事に集中して熱くなりすぎているときに携帯電話をカメラモードにして、カメラ越しに絵を見るってことをやっています。本当に客観性が欲しいときはそれを見ながら絵を描いたりします。左右反転とか、上下反転で見るとか、そういうのに近いんですけど、色々試してケータイのカメラにたどり着きました。小さく絵を見るというのも、また別の見え方になるかなと。ここ1年半くらいやっていますが、今のところ自分では一番有効ですね。
たとえば、自分が目指したい方向性を扱っている雑誌に、自分の絵をはさんで見てみるとか。僕は『VitaminX』のときにやっていました。今の時代なら、ホームページをキャプチャして自分の絵を貼ってみて、そこに並んでいるプロの絵と比べてみるとか。
それと、目の前の仕事に集中して熱くなりすぎているときに携帯電話をカメラモードにして、カメラ越しに絵を見るってことをやっています。本当に客観性が欲しいときはそれを見ながら絵を描いたりします。左右反転とか、上下反転で見るとか、そういうのに近いんですけど、色々試してケータイのカメラにたどり着きました。小さく絵を見るというのも、また別の見え方になるかなと。ここ1年半くらいやっていますが、今のところ自分では一番有効ですね。
男が考えるオトコのカッコよさを本気で描いたキャラクターデザイン

──『VitaminX』で初めて乙女ゲームのイラストを担当したとき、どんなことを考えましたか?
オーダーが「今までにない乙女ゲームを作りたい」だったので、乙女ゲームにハイファッションの世界を持ち込んだらどうなるのかなって考えました。自分はずっとファッションの世界が好きだったのもあって。
当時は、若い子もがんばってエディ・スリマンのDior hommeとかを買っていた時代だったのですが、そういう文化のテイストを入れたのが結果的に目立てたのかなぁと。「男が考えるオトコのカッコよさ」を本気で描いていました。
当時は、若い子もがんばってエディ・スリマンのDior hommeとかを買っていた時代だったのですが、そういう文化のテイストを入れたのが結果的に目立てたのかなぁと。「男が考えるオトコのカッコよさ」を本気で描いていました。
──現在放映中のアニメ『Dance with Devils』のキャラクター原案を前田さんが手がけてますが、苦労したことはありますか?
僕は、イラストに関しては「他の人に真似できないものを描きたい」という思いが強かったんです。つまり、量産性とは対極的で、アニメには向かない考え方。それをアニメ向けの絵に直しながら、絵力は以前と同等にしないといけないのが苦労した点ですね。
顔の描き方や等身の面ではスーパーモデルを普通寄りの体型にするけど、オーラは負けないように、どうにかするみたいな。その準備を他の仕事をやりながら4年位前からやっていました。こうした描き方を自分の中で当たり前にするのはきつかったですが、自分の絵の選択肢が増えてよかったです。
顔の描き方や等身の面ではスーパーモデルを普通寄りの体型にするけど、オーラは負けないように、どうにかするみたいな。その準備を他の仕事をやりながら4年位前からやっていました。こうした描き方を自分の中で当たり前にするのはきつかったですが、自分の絵の選択肢が増えてよかったです。

──2014年にサテライトさんと『ZEPHYR』ってアニメを作ってますね。
原画と彩色の工程をいくつか担当させていただいたのですが、彩色時の原画はアンチエイリアス(※1)なしの、二値(※2)の線画になっているんですね。
そこで生まれて初めて、アンチエイリアスなし、塗りもグラデーションなどに頼らない状態で自分の絵を考える、という経験をしました。絵を描くときに必要だったはずの要素をそぎ落として、自分の絵やデザインを意識することができ、これも本当に勉強になりました。少しですがアニメ現場の作業を経験できたのも、今のアニメ仕事で役に立っています。
そこで生まれて初めて、アンチエイリアスなし、塗りもグラデーションなどに頼らない状態で自分の絵を考える、という経験をしました。絵を描くときに必要だったはずの要素をそぎ落として、自分の絵やデザインを意識することができ、これも本当に勉強になりました。少しですがアニメ現場の作業を経験できたのも、今のアニメ仕事で役に立っています。
※1 アンチエイリアスとは……デジタル画像において、境界線をぼかし滑らかにすること。輪郭に発生するジャギー(ギザギザ)がなくなり、きれいな曲線になる。
※2 二値とは……2色のみのこと。また2色のみで表現された画像。多くの場合、白と黒を指す。
※2 二値とは……2色のみのこと。また2色のみで表現された画像。多くの場合、白と黒を指す。
──ゲームのキャラデザとアニメのキャラデザの違いやポイントはどこでしょう?
アニメだと、ゲームとは違い量産性や動画であるという大前提があるので、人によってはまったく別物だろうなと思います。
また、アニメでは原案絵をアニメ用に設計するキャラクターデザイン(今回で言うと高品さん)というパートがありますので、イラストレーター側の正解はどこかというのはありますが、大元である自分の絵があまりにアニメ向きじゃないとキャラ原案の意味がなくなるので、その辺りの落とし所をどう考えるかですね。
また、アニメでは原案絵をアニメ用に設計するキャラクターデザイン(今回で言うと高品さん)というパートがありますので、イラストレーター側の正解はどこかというのはありますが、大元である自分の絵があまりにアニメ向きじゃないとキャラ原案の意味がなくなるので、その辺りの落とし所をどう考えるかですね。