月ノ美兎に聞いた、創作意欲を駆り立てるマンガ作品。たっぷり10作品以上をご紹介!

取材・文:たまごまご
8月22日(日)に、中高生向けのオンラインマンガイベント「pixiv学生マンガデイ」が開催されます。プロの編集者に作品を見てもらえるオンライン出張編集部や、豪華景品が当たる抽選会など、イベント盛りだくさんの一日となります。
当日の生放送でメインパーソナリティを担当いただくのは、人気VTuberの月ノ美兎さん。マンガ投稿をサポートする学生マンガ部の公式マネージャーであり、マンガ好きでもある月ノ美兎さんに、マンガ創作に役立ちそうな作品を教えていただきました!
博打気分で父親の本棚のマンガを読んでいた
── 幼い頃にはどんな作品を読んでいましたか?

『ちゃお』を買って読んでいました。それ以外だと、自分の父親がたくさん持っていたマンガを盗み読みしていました。衝撃的だったのが、岩明均さんの『ヒストリエ』です。序盤にかなりえぐい描写があって、トラウマになったんです。どのマンガにどういう爆弾的なグロ描写があるのかわからないのも含めて、博打みたいに探して読むのが楽しみでしたね。あとは『寄生獣』や『ブラック・ジャック』、『さよなら絶望先生』、『かってに改蔵』、高橋葉介さんの『学校怪談』などを読んでいました。
── マンガ家になりたかった時期もあると聞きました。

小学校3年くらいの一瞬だけですが。『ちゃお』にマンガ家の一日のスケジュールみたいなものが載っていて、ほぼ机に向かって作業と書いてあったので、やだなあと思ってやめました。……でも結局、今は机に向かってばかりですね。
── マンガを描く上で「これは読んでほしい」「参考になるかも」と思う作品についてお聞きしていきます。まず、キャラクターの描写が素晴らしいと思ったマンガはありますか?

最近読んだ、星来さんの『ガチ恋粘着獣』で、花織琴乃(はなおりことの)というキャラクターがよかったです。男性配信者にのめり込んだ女性たちのマンガで、彼女はとある男性配信者を推しているんですけど、「自分はガチ恋じゃない」って言ってるんですよ。ただ、推しに迷惑をかける人が許せない。ある時、配信者が色んな人に投げ銭をされて、彼は「いらないですこういうの俺は!」って言うんですけど止まらないので、花織さんはブチ切れちゃって、「困ってるじゃない! やめなさいよ……‼︎」みたいにコメントを書き込んじゃうんです。

── 以前月ノさんは『チェンソーマン』の東山コベニちゃんが好きだとおっしゃってましたね。

コベニちゃんはツボでしたね。理想の性格をしています。ああいう、卑屈に見えて図々しいキャラクターがすごく好きです。あと『メイドインアビス』のリコも大好きでした。人として尊敬します。ただ私、成長するにつれて、好きなキャラって少なくなっている気がするんです。幼い頃って「ぼくは○○ちゃん推し!」みたいに、無理やり誰かを好きになろうとしていた気がします。
── 先に好きなキャラクターを作ってから、マンガを読んだりしますね。

ですよね。今は「好きなキャラは誰もいないけど、このマンガが好き」っていうのがたくさんあるんです。
読者を裏切る構成が気持ちいい
── これを読んだらマンガを描きたくなるかも、という作品を教えて下さい。

── 子供の頃マンガを描いたことがあるそうですが、きっかけになった作品はありましたか?

高橋葉介さんの『学校怪談』ですね。『XXXHOLiC』も読んでたので、そのあたりの「悪霊退散!」みたいなマンガに惹かれたんだと思います。読み切りくらいの枚数で、ノートに鉛筆描きでしたが、ちゃんと完結させましたね。
── 物語を作る上で、これを読むといい刺激になる、という作品はありますか?

そういう意味では、最近、荒川弘さんの『鋼の錬金術師』を読み直していて、こんなに隙のない話があるんだ、と思いました。ちょっとネタバレになってしまうのですが、1巻の最初で、本当は錬金術を使っているのに「神の力」と偽っている教祖の悪事を、主人公の兄弟ふたりが街中にばらしてから他の街に行くんです。その後の描かれていない間に、悪事をばらしたことで街に暴動が起きて、人がすごい死にまくっていて。そのことを兄弟が知るのは、ずっと後なんですよ。最初は水戸黄門みたいな勧善懲悪のノリだったのに、そのせいで大暴動が起きていて、最後の最後に巨大な話につながっていく。
(©Hiromu Arakawa/SQUARE ENIX)
── まさか伏線とは思わないですね……。

作者の感性に触れている感じが肝
── 絵がいいなと思う作家さんを教えてください。

貞本義行さん。私のCDアルバムのジャケットの絵、誰がいいですかと聞かれて、真っ先に貞本さんの名前をあげたくらい好きです。
それと、リスナーさんにおすすめしてもらった、原百合子さんの『繭、纏う』はすごいと思いましたね。自分の髪の毛を伸ばして制服を作る女子校の話で、髪の毛の描きこみのディティールがすごいんですよ。
(©原百合子/KADOKAWA)
── これからエッセイ漫画を描いてみたい人に、おすすめしたい作品はありますか?

清野とおるさんの『東京都北区赤羽』が大好きです。ちょっと磁場が狂っている飲み屋街を中心に、清野とおるさんが実際にそこに住んでいたときの体験記です。ペイティさんっていうホームレスのおばさんが出てきて、清野とおるさんに自分の皮膚をプレゼントとして渡したりする。どう見てもヤバイ人なのに、マンガという媒体と組み合わさると、愛されキャラになっちゃう。
清野さんは今、赤羽のスナックのマンガ『さよならキャンドル』を描いていて、酔ったお客さんがおしっこひっかけちゃって、カラオケの機械が壊れて、1から99番以外の曲が歌えなくなるエピソードとか、「そんなことあるの!?(笑)」ってなりました。
清野とおる『さよならキャンドル』第1話
── 引いちゃうような出来事も、マンガだとちょうどよくなるんですね。

いい具合に調理してくれますよね。もともと清野さんは挿絵をはさみながらブログを書いていて、私はすごく好きなんですけど、アングラすぎて飲み込みづらいんです。でもそれが全編マンガになって描き起こされて、そこに実写の写真がたまにはさまれると説得力が出て、この人達は生きてるんだってなりますし、バランスが絶妙だなと思います。私がやるレポ体験配信は、すごく影響を受けています。
針でぶっ刺されたら不眠症は治るのか?【体験系雑談】 - YouTube
月ノ美兎さん自作のイラスト入りの体験レポート配信

まんしゅうきつこ(注・改名して現在のペンネームは「まんきつ」。以後はまんきつと表記)さんの作品も読んでいます。清野とおるさんに「面白いんで体験レポマンガ描いた方がいいですよ」って言われて始めたらしいんです。まんきつさんもめっちゃ面白いですね。ブログがすごく好きでした。まんきつさんはアル中で、全部を忘れたい気持ちでお酒にのめり込んでいたのが、とっても熱い部屋に入ってから冷たい水に入ると脳内麻薬が出ることに気づいてから、お酒を控えられるようになったと、サウナのマンガ『湯遊ワンダーランド』で言っていました。なら私もやるしかない!って思いましたね。

福満しげゆきさんの『妻と僕の小規模な育児』もすごく好きです。お子さんが2人いらっしゃって、どちらもぽーっとしていて、他の人の動きについていけないんです。私と弟もそうだったから、ものすごい共感しました。集団行動が全然できないんですよ。弟が習い事で格闘技をやっていたので見に行ったら、ひとりだけ動きをわかってなくて、明らかに遅れてるんです。私もみんなが気をつけしているのに、ひとりだけ何にもわかってないって感じの小学生だったので、『妻と僕の小規模な育児』には親近感がありました。
── 周りの人とテンポ感があっていないのは、自分でも感じていたんですか?

感じていました。弟の柔道の先生が、母親に「どうしてなんでしょうかねえ?」みたいに言うんですよ。母親は「血筋ですかねえ……」って言うんで、ああやっぱりそうなんだーと思いましたね。
── エッセイマンガはそういう親近感やリアルさで選んでいますか? それとも面白さですか?

コマ割りで挑戦するマンガの可能性
── マンガを描く際、コマ割りやページの使い方が勉強になりそうな作品はありますか?
まがりひろあき『まがりひろあきのじゆうちょう』(講談社)

まがりひろあきさんのマンガですね。『まがりひろあきのじゆうちょう』という短編集のマンガの構成が、攻めに攻めているんです。例えばある話では、男が投身自殺をして一話まるまるずっと落下していて、窓にその人の回想が走馬灯みたいに映って変化していくんですよ。
── 窓がコマになっているんですか?

(©まがりひろあき/講談社)
意図的に生み出された不快感や笑い
── 鬱っぽい空気を表現する際、参考になるマンガはありますか?

押切蓮介さんの『ミスミソウ』ですね。押切さんの他のマンガは『でろでろ』とかのように、ハイテンションでちょっとブラックでユーモアもある作風なんですけど、『ミスミソウ』はただただ女の子がいじめられて家を焼かれて復讐する。ひとりの男の子を追い詰めているときに、「ちょっとタイム‼︎ ちょっとタイムっていってんだろーーが!!」って言いながら殺されるシーンは、「ここでそんな言葉遣いしてくる?」とちょっと笑っちゃうくらい生々しくて。ほかには、いじめっ子の女の子が紙でピッと手を切っちゃって絆創膏を貼るんですけど、そのあといじめられていたヒロインがバーサーカーモードで、その子の指を全然違う角度から切断する描写があるんです。切断されたところの上に、ただの切り傷で貼った絆創膏がある。もう本当に、いやな描写を突き詰めてやっているんだなって思いました。どのくらい意図的に不快感を与えるのか、競っているみたいな。
── それはすごい描写ですね……。逆に、こういうギャグ漫画描いてみたい、という作品はありますか?

ギャグ漫画ではないんですけど、鈴木おさむさん原作で桜倉メグさんが描いた『秘密のチャイハロ』が面白いです。すごい貧乏な女の子が、子どもだけど働いてお金がもらえる場所に行く話で、そこが「チャイルドハローワーク」っていう闇の組織みたいな所なんですよ。小学生の女の子が犬を飼いたいんだけど、お父さんが犬嫌いだから、誰にも見られずにあの犬を殺せ、みたいな。
鈴木おさむ, 桜倉メグ『秘密のチャイハロ(1)』(講談社)
── 小学生のする仕事じゃないですね。

やばいんですよ! 意図的だと思うんですけど、かなりツッコミどころの多いマンガです。いじめっ子たちが、貧乏な主人公のファッション雑誌をわざわざ作るんですよ。「6着の服を着まわしてるなんてすごーい!」とか、クリエイティビティの高いいじめをするんです。昼ドラで『牡丹と薔薇』とか、突っ込みどころが多い作品ってあったと思うんですが、それを多分わざとやっていますね。
── 月ノさんが、もしマンガを描くとしたら、挑戦してみたいジャンルはありますか?

いい意味で低いハードルで参加してほしい
── 8月22日(日)には学生マンガデイのイベントがありますが、月ノさんが楽しみにしているプログラムはなんでしょうか?

出張編集部でのアドバイスは気になりますね。自分がVTuberをやる前は、映像業界の泥臭い感じの大人を多く見ていたので、40代くらいの男の人といったら「『SLAM DUNK』とか『ドカベン』しか知りません」という人が多いと思っていたんです。けれど、pixivの社員さんと話したときに、40代くらいの男の人が、ちょうど今流行っているマンガの話をしていて衝撃的でしたね。自分の知らない連載中のマンガを「今はこれですよ」としゃべっているのを見ると、文化人だなって思いました。だから、現役のマンガの編集者さんと話せるプログラムは、参加者の人にとっても発見があって楽しいと思います。
── 最後になりますが、学生マンガ部は現在も部員募集中ですか?

もちろん! タグをつけてマンガをpixivに投稿していただいたり、当日のイベントに参加してもらったり、いい意味でハードルを低くして参加してくれたら嬉しいです!
8月22日(日)pixiv学生マンガデイ プログラム公開!
学生マンガデイは中高生限定のマンガのオンラインイベント。
特別生放送を見て楽しむ、マンガを描いて投稿して楽しむ、マンガを支える裏側を知って楽しむなど、参加者それぞれのスタイルに合わせて楽しむことができます。
おすすめは、イベント当日に「#pixiv学生マンガデイ」のタグをつけてのマンガを投稿すること。マンガは過去に一度発表したものでも、描きかけのものでもOKです! 投稿者全員に、特別参加賞のプレゼントがあるほか、豪華商品があたる抽選会などに参加できます。
月ノ美兎さんがメインパーソナリティをつとめる特別生放送もYouTubeにて配信予定です! ゲストとして、漫画家・TNSKさん(『うちの師匠はしっぽがない』作者)、声優・前田佳織里さん(『ウマ娘 プリティダービー』ナイスネイチャ役)にもご参加いただきます。
盛りだくさんでお送りする、夏のマンガのお祭りをぜひお楽しみください!