pixiv的「2020年はこんな年だった」!作品の流行とともに1年間を振り返る
構成/原田イチボ@HEW
pixivでデータに基づきトレンドやユーザー分析を行なっている“多田”と、小説チームの“kuro”を招き、pixiv目線で1年間を振り返りました。
新型コロナウイルスの感染拡大
── 2020年を語る上でコロナは外せない話題ですが、pixiv的に影響はあったんでしょうか?
多田:アクティブユーザー(一定期間内にサービスを1回以上利用したユーザーのこと)の数も上がりました。
kuro:10月頃から、みんな出かけるようになったのか落ち着いてきましたけどね。
── やっぱり世の中の動きと連動しているんだなぁ……。
多田:言語別のアクティブユーザーを出してみましょうか。

1月:百合小説の投稿数が1.5倍に増える

── 百合小説が1.5倍も! どういうことですか!?
多田:とはいえ、この伸び率はすごいですよね。
── ちょうど今、「第3回百合文芸小説コンテスト」の応募期間ですよね。現時点での盛り上がりはどんなものですか?
上半期は『地縛少年花子くん』『ヒーリングっど♥プリキュア!』『かぐや様は告らせたい』の投稿・閲覧が増える
── 上半期のこのあたりはアニメの影響ですかね。『地縛少年花子くん』はアニメ放送中にどんどん注目度が高まっていた記憶があります。
多田:そうですね。アニメ化で広く世間に知られて、アニメの3話以降くらいから投稿数が増えていった印象です。
── 逆に『ヒーリングっど♥プリキュア!』や『かぐや様は告らせたい』は、もともとシリーズを好きな人が「放送スタートしたね!」的に描くイメージというか。
多田:特にプリキュアって、放送開始前にアニメ雑誌とかにメインビジュアル等がまず出るじゃないですか。そこでコアなファンが「これが次のプリキュア!」と第一陣的に盛り上がって、放送スタートで第二陣の波が来る。
── それで言うと、7月からの『Re:ゼロから始める異世界生活』はどうでしょう? 2010年代を代表するヒットタイトルの第2期でしたが
多田:リゼロはジャンルとして確立されているので、もともと安定して投稿数が多いんです。だから第2期が始まったからといって、急激に伸びた!というわけではないんですが……。あっ、でも第2期が始まって、魔女のエキドナがすごく投稿されるようになりました。新シーズン開始でも、新キャラがいるとさらに伸びますね。
2月中旬:『ポケットモンスター』関連の投稿・閲覧が小説で増える
多田:2019年11月に『ポケットモンスター ソード・シールド』が発売されて以来、テレビアニメなどの供給もあってポケモンは常に強いです。
── とはいえ、なぜゲーム発売から3カ月も経ったタイミングで……?
多田:発売直後は、男性ユーザーが女性トレーナーやポケモンのイラストを描いていました。しかし実際にプレイしている女性ユーザーたちが「男性トレーナーもかっこいい!」と盛り上がった。それで女性ユーザーの参入が徐々に増えたところで、アニメが追い風になって……という流れだと思います。小説は、イラストに比べて盛り上がりが少しズレるんですよ。
── ズレの結果、2月に小説の盛り上がりが来た。
多田:小説は、キャラの性格とか口調とか関係性がわかってからでないと書くのが難しい。だからイラストに比べると、若干遅くなるんです。しかもポケモンはゲームだからプレイする必要がありますしね。
2月中旬:『五等分の花嫁』最終回に向け投稿・閲覧が増える
多田:これは春場ねぎ先生がpixivアカウントを持っていらっしゃって、最終回に向けてカウントダウン的に連日投稿してくださったんですよ。それが作品全体の投稿・閲覧の伸びにも繋がりました。
── 今年は『ハイキュー!!』や『約束のネバーランド』、『チェンソーマン』と『週刊少年ジャンプ』でも最終回を迎える作品が多かったですよね。
多田: 7月下旬はpixivでも『ハイキュー!!』がかなり盛り上がりました。キャラクターが大勢いて、しかも学校とかのコミュニティごとに散らばっている……という構造はファンアート的に盛り上がりやすいのかなと。逆に言うと、劇中のコミュニティもキャラクターも限られていると、作品的には人気でもファンアート的な熱気には繋がりづらいのかなと考えています。あと『ハイキュー!!』は、昔読んでいたファンが最終回に向けてまた戻ってきた印象でした。
── 同窓会的な?
多田:そうですね。投稿よりも閲覧数の方が伸びました。最終回の頃は、毎日のように『ハイキュー!!』まわりが検索ランキングに入ってきました
5月下旬の原作漫画の最終回、10月中旬の劇場版公開、12月上旬のコミックス最終巻発売で『鬼滅の刃』の投稿・閲覧が増える
── 最終回といえば、『鬼滅の刃』です!
── 劇場版で煉󠄁獄さんのファンも増えましたし、「劇場版を観た記念に煉󠄁獄さんのイラストを投稿しよう」というイベントっぽい流れが存在しますよね。
多田:最終回効果で5月も伸びたんですが、イラストの投稿件数が一番伸びたのは今年の11月でした。
── 鬼滅作品を投稿するユーザーの性別比ってどうなっているんでしょう?
多田:イラストは男性と女性で1対3なので、男性ユーザーも結構多めです。胡蝶しのぶをはじめ、男性ユーザーにも女性キャラクターが人気でした。
3月下旬:『ディズニー ツイステッドワンダーランド』が大流行

上段がツイステ関連のタグがついたイラストの投稿件数、下段は小説の投稿件数
多田:ツイステはすごかった……。
多田:4月頭にpixiv小説に単語変換機能が試験導入されたじゃないですか。それは小説の盛り上がりに関わっていたりしないのかな?
多田:イラストだと、ツイステ関連の投稿をしている人が1ヵ月で1万人を超えている。しかも、ほぼ女性ユーザーです。
── 女性ユーザーの何人にひとりがツイステ、みたいなレベルじゃないですか!
多田:本当にそうなんですよ! しかもユーザーひとりあたりのイラストの投稿件数って大体が月に1.5枚いくかいかない程度なのに、ツイステの人は2枚くらい描いていて熱量の高さを感じます。つまり、ツイステでは単純計算で1ヵ月で2万枚くらいのイラストの投稿があったってことなんですよ。
kuro:“監督生”という概念が人々に刺さったのかなぁ、という感覚がなんとなくあります。
── たしかにツイステ以外では聞かない概念ですね。ありそうでなかったポジションだ。
多田:『刀剣乱舞』の審神者とか、『Fate/Grand Order』のマスターとか。ユニークなポジションの概念が、ファンの想像をふくらませたのかもしれませんね。
5月中旬:sailormoonredrawの流行、5月末~6月:ポーランドのパズルゲーム『Helltaker』関連イラストの投稿・閲覧が増える
多田:この辺りは海外ユーザーの盛り上がりも活発でした。
── セーラームーンを自分の絵柄でリメイクする「sailormoonredraw」は連日イラストを目にしました。
多田:「sailormoonredraw」は、投稿ユーザーの6割以上が海外勢で、その内訳の半分以上が英語圏だったので、英語圏でのセーラームーン人気を実感しました。pixiv全体で去年くらいから英語圏のユーザーが増えている影響を感じます。
── 英語圏のユーザーが増えているのは、なぜ?
多田:昨年から行なっている施策の効果が出たのだと思います。
── 海外ユーザーと日本語ユーザーの盛り上がりでギャップが大きかったものはありますか?
多田:『Helltaker』のピーク時に閲覧数が一番多かったのは、実は韓国語圏のユーザーでした。
── 意外! 韓国のオタクに会ったときは『Helltaker』の話をします(笑)。
9月上旬:英語圏向けVTuberグループ「ホロライブEnglish」がデビュー
── 英語圏のユーザーが増えたということは、「ホロライブEnglish」のデビューも影響があったのでは?
多田:日本語ユーザーは変わらずなんですが、「ホロライブEnglish」からの英語圏の閲覧数の伸びがすごい! サメをモチーフにした“サメちゃん”ことGawr Gura(がうる・ぐら)さんが特に人気です。みんなサメ好きですよね(笑)。
kuro:がうるさんは、Twitterでファンアートを頻繁にリツイートするので、それも影響がありそう。VTuber本人が反応してくれるかどうかって、ファンアートの盛り上がりに結構関わってくる気がします。あと小説で言うと、VTuber本人が「pixivに小説を投稿してね」とファンを誘導する動きがあるんですよ。
── VTuberの小説?
8月下旬:2025年大阪・関西万博の公式ロゴマーク“いのちの輝き”、 10月上旬:「I字バランス部」タグの流行
── このブームあった~!
多田:数字的には、一瞬のきらめきではありましたが……。
── 試しに「アマビエ」で検索してみたんですが、アマビエは今もコンスタントに投稿されていますね。
── 自ジャンルよりアマビエの供給の方が多いのかもしれない……。
9月末:オープンワールドRPG『原神』のリリース
── 中国のゲーム会社miHoYoが開発元なので、pixivでの盛り上がりも簡体字圏ユーザー発だったのでしょうか?
多田:いえ、9月28日の正式リリース以降に日本語ユーザーが大量に流れて一気に盛り上がった印象です。でも流行り始めてからは英語圏のユーザーが多いですね。ユーザーの数的には英語圏が一番多くて、ちょっと落ちて日本、その半分くらいの数で簡体字圏ユーザーですね。投稿に関しては、今年は英語圏のユーザーが活発でした。
── あれっ? 「原神」ほどではありませんが、何かが10月くらいに他より頭ひとつ、ふたつくらい抜けていますね。
── 「I字バランス部」すごいな!
9月末:『本好きの下剋上』の投稿数が小説で増える
── 「小説家になろう」で連載されていた香月美夜さんの小説ですね。4月~6月にアニメ第2期が放送され、第3期の制作も決定したほどの人気作ではありますが、二次創作的にも盛り上がっていたというのは少々意外です。
── 異世界転生もののファンは年齢が高いと聞いたことがあります。
多田:たしかにpixivコミックでも異世界系の読者は若干年齢層が高めなんですが、ここまで高い層に寄っているのはpixivというSNSの特性上かなり珍しいです。
kuro:このユーザーさんたちは、ニュアンス的には、たぶんアニメ版の二次創作をしているわけではなくて、原作小説の二次創作をしているんですよ。
多田:「小説家になろう」は二次創作の投稿は原則禁止されていますよね。
── じゃあ「小説家になろう」で原作を読んで、その後pixivに移動して二次創作を投稿する……みたいな動きが存在する。
多田:原作小説の二次創作がここまで人気になるのはめずらしい……と思ったけど、『魔術士オーフェン』とか『スレイヤーズ』とか昔からあるか。
── その世代を生きた人々が『本好きの下剋上』に流れているのかも?
10月上旬:『呪術廻戦』が大ブレイク

上段が「呪術廻戦」関連のタグがついたイラストの投稿件数、下段は小説の投稿件数
── 10月にアニメがスタートしてから『呪術廻戦』が大人気ですよね。
多田:五条先生が顔出しした回じゃないですか?
── それはアニメ第7話だから、11月13日深夜ですね。
多田:本当だ。その直後もそれまでと比較し伸びています。じゃあ12月7日は何……?
── ちょっと検索してみますね。12月7日……五条悟バースデー……。
多田:ということは、五条先生だけの伸びなんだ。凄まじいですね。こういうイベントのときは、キャラの人気で作品タグが伸びるんですよね。
── イラストは「お祝いだから1枚描こう」ができますけど、小説だと「お祝いに数千字書こう」はハードル上がりますもんね。『呪術廻戦』の勢いは、まだまだ続きそうですか?
多田:アニメの放送はまだ折り返し地点ですし、まだ上級生たちも本格登場していませんからね。未知数だ……!
2021年はどうなる?
── 2021年に流行りそうな作品、キャラクターはありますか?
多田:『TIGER & BUNNY』の動向が気になります。
── 2022年に11年ぶりの新シリーズが放送予定ですね。
多田:それに向けて情報解禁とか、いろいろ供給がありそうですからね。どこかのタイミングで一気に爆発しそう……。今後ジャンルとして新たに定着しそうなのは『原神』ですかね。
多田:あとは『名探偵コナン』ですね。2020年はコロナの影響で劇場版が公開延期になってしまったのですが、2021年4月についに新作が公開されます。以前、過去2年くらいのコナンの盛り上がりをチェックしてみたら、毎年3月末から5月にかけてワッと伸びるんですよ。つまり劇場版シーズンになると検索やブクマが増える。
多田:あとは来年もしも東京オリンピックが開催されたら、閲覧や投稿の数字に影響がでそうですね。
── オリンピックがですか?
多田:なんだかんだオリンピックの影響って強いんですよ。何年か前のオリンピックのときも、オリンピック関連のイラストが多数投稿されました。特に自国での開催ですし、注目度がどうなるかわかりません。そういう意味で、どういう影響が出るか未知数だと考えています。
── 当たり前ですけど、現実世界あっての創作ですもんね。pixivの流行含め、2021年はどんな年になるのでしょうか? 本日はありがとうございました! 良いお年を!