中の人などいないスタイルとは限らない「バーチャルYouTuber」/カレー沢薫のpixivタグ検隊

文/カレー沢 薫
今回のpixivタグ検隊のテーマは「バーチャルYouTuber」である。
すでに「Vチューバ―」の名称で多くの人間に親しまれており、pixivでも男性向け検索ランキングに毎日「にじさんじ」がランクインしてくるという。
「にじさんじ」が一体何なのか把握していないが、ピクシブ百科事典に自分のマイナー推しカプの項目がないことをわざわざ確認しに来たときなどに「にじさんじ」の文字をよく見かけていたので、今相当アツいコンテンツである、ということはわかる。
その前にまず「バーチャルYouTuber」についてだが、その名の通りバーチャル(架空)のYouTuberである。
逆にバーチャルじゃないリアルYouTuber、と言えば、日本で1番有名なのはHIKAKINさんだろうか。
彼は見ての通り、人間であり、実在の人物である。
「え? そうなの!?」という段階の人は、まずYouTubeでヒカキンさんが人間であることを確かめて来てほしい。
どうしても人間に見えない、という人は残念ながらここでお別れだ。
HIKAKINさんのように、実在のYouTube配信者のことを「YouTuber」という。
犬でもカナブンでも実在していてYouTube配信をしているなら「YouTuber」だ。
対して「バーチャルYouTuber」は「YouTube配信を行う架空のキャラクター」のことを指す。
もちろん架空のキャラクターが意志を持ち、自らYouTube配信をしたり、人間を粛清したりするというSFじみた話ではなく、当然2Dイラストや3Dモデルを使ってYouTube配信をしている。
「中の人」はいるわけだが、もちろん「中の人などいない」のである。
「中の人がいる」バーチャルYouTuber
このように「キャラクターがYouTube活動をしている、という設定」で中の人などいないバーチャルYouTuberもいるが、一方で、キャラクターが中の人のアバター(分身)的役割をしているタイプのバーチャルYouTuberもいる。
例えば、このコラムにも出てくる私の自画像は顔面が陰毛なのだが、実際の私は意外なことに顔面が陰毛ではない。頭髪のみが陰毛だ。
ついでに全裸でもない。
しかし、己のリアル自画像をキャラとして世に出すのは「何かイヤ」なのだ。よって「陰毛」の姿を借り、陰毛になりきって活動しているというわけだ。
それと同じように、配信者がキャラクターの姿を借り、そのキャラになりきって配信しているというタイプのバーチャルYouTuberも存在する。
その中でも、美少女キャラのアバターを使うことを「バ美肉」と呼ぶ。
「バーチャル美少女受肉」の略であり「美少女の肉体(アバター)を手に入れた」という意味だ。
ちなみに、中の人が成人男性の場合は「バ美肉おじさん」呼ばれる。
現代の「ネカマ」かというと、それとはかなり異なる。
「ネカマ」は、ネット上でおっさんが、あたかも「エッチなことに興味があるJK」であるかのように偽っていたのに対し「バ美肉おじさん」は「胸が大きなことを気にしている中身が物理的におっさんの女子中学生です」という風に、魂(中身)が男であることを明かしている場合も多い。
そういった「バ美肉おじさん」が扮するバーチャルYouTuberの中には、アバターは美少女だが、声は完全におっさんのままという者もおり、そのギャップを楽しむコンテンツにもなっている。
おっさんが美少女を演じるなんて、と思うかもしれないが、少なくとも「なりきりチャット」という、古代文明を通って来た者には文句を言う権利はない。
跡部様や珍妙な関西弁で忍足を演じるのが楽しかったように、自分ではない、キャラクターになりきる、というのは誰でも楽しいことなのだ。
100人近く所属する大手事務所も
こういったバーチャルYouTuberが全員個人で活動しているのかというと、そうでもない。
「バーチャルYouTuberたちの芸能事務所」みたいなものもあり、これが冒頭に出てきた「にじさんじ」だ。100人近くが在籍しており、美少女だけではなく、イケメンや人外キャラクターなどもいる。
憧れの職業とされつつあるので、もしかしたら将来の夢に「にじさんじからバーチャルYouTuberデビューするのが夢」と答える小学生がすでにいるのかもしれない。
しかしバーチャルYouTuberの数自体はすでに1万人を越えているようで、YouTuberと同じくかなり飽和状態である。
抜きんでるためには、カワイイだけではなく、相当な個性が必要となってくるだろう。
ちなみに私の推しバーチャルYouTuberはドヤ街に暮らしているという設定の「日雇礼子」さんである。
キャラとその関係も楽しい
このように、バーチャルYouTuberもメントスコーラをやったりと、YouTuberがやりつくしたことをただ2Dイラストや3Dモデルにやらせているだけ、というわけではなく、バーチャルYouTuberごとに設定があり、配信内容にも個性があるのだ。
またバーチャルYouTuber人気は単純に「キャラ単体萌え」というのもあるが、オタクの大好物、むしろ主食である「キャラ同士の絡み」を積極的にやっている点も大きいのではないだろうか。
他のバーチャルYouTuberがゲスト出演したり、バーチャルYouTuber同士のコラボ動画も多く投稿されているのだ。
オタクには、推しキャラ同士が絡んでいるとニコニコしたり、泣いたりしてしまうという習性がある。また「同じ画面にいる……これはもはやセクロスでは?」という妄想も当然できる。
それに自分がバーチャルYouTuberデビューして有名になれば、自分の推しバーチャルYouTuberと絡めることだってワンチャンあるのだ。
そんな全夢女の妄想を実現できるかもしれないという点でもバーチャルYouTuber業界は可能性が広い。
このように、いかに、想像と妄想を掻き立てるか、薄い本を厚くするか、というのはキャラクターコンテンツにとって非常に重要な点である。
そう言った意味でもバーチャルYouTuberはかなり「厚い」業界である。
ちなみに、バーチャルYouTuber界で有名になるのは大変だが、デビュー自体は現在割と簡単にできるようになっている。
バーチャルYouTuber制作アプリも多数あるので、スマホさえあれば、パーツを組み合わせて自分好みのバーチャルYouTuberを作成することが出来るのだ。
実は私もバーチャルYouTuberデビューしたことがある。
アプリの既存パーツを使って作れば良い物を「それじゃ面白くない」と、ブスが個性的なファッションで勝負しようとするように、パーツから全部手作りして一日がかりで「陰毛バーチャルYouTuber」を作った。受肉ではなく受毛である。
つまり私は「バ美毛おばさん」というわけだ。
さっそく「Vチューバ―沢薫」としてデビューさせたところ「怖い」「夢に出そう」「呪われた」と大変好評であった。
興味がある人は見てほしい、と言いたいところだが、全然投稿していないので見なくて良い。
YouTuberもバーチャルYouTuberも、大成するにはまず「飽きずに投稿を続けること」が不可欠である。
>>pixivで「バーチャルYouTuber」のイラストを見る<<


- カレー沢 薫
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1982年生まれ。無職。著作は『クレムリン』(講談社)、『負ける技術』(講談社)、『ブスの本懐』(太田出版)など多数。
趣味はエゴサーチ。